WRC(世界ラリー選手権)とは? レースの流れやポイントシステム、Rally1車両などを解説
日本国内で開催されるモータースポーツ競技はさまざまなカテゴリーがあり、国内でシリーズが組まれる全日本選手権の他にも、年に一度だけ開催される世界選手権もあり人気が高い。
国際自動車連盟(FIA)が主催する世界選手権は現在7競技が設定されているが、ラリー競技による世界選手権が世界ラリー選手権(WRC)。2022年には12年ぶりに日本で最終戦が「ラリージャパン」として開催、多くのファンを集めた。
WRCの2023年レーススケジュール
2023年のWRCは、ヨーロッパを中心に中南米、アフリカ、そして日本を転戦する全13戦で行われる。
Rd. | 日程 | 開催地 |
---|---|---|
第1戦 | 1/19 - 1/22 | モンテカルロ |
第2戦 | 2/9 - 2/12 | スウェーデン |
第3戦 | 3/16 - 3/19 | メキシコ |
第4戦 | 4/20 - 4/23 | クロアチア |
第5戦 | 5/11 - 5/14 | ポルトガル |
第6戦 | 6/1 - 6/4 | イタリア |
第7戦 | 6/22 - 6/25 | ケニア |
第8戦 | 7/20 - 7/23 | エストニア |
第9戦 | 8/3 - 8/6 | フィンランド |
第10戦 | 9/7 - 9/10 | ギリシャ |
第11戦 | 9/28 - 10/1 | チリ |
第12戦 | 10/26 - 10/29 | セントラル・ヨーロッパ |
第13戦 | 11/16 - 11/19 | ジャパン |
WRCとはどんなレース?
レッキ、シェイクダウン、セレモニアルスタート
WRCの多くは4日にわたり開催されるが、その前に一般車両を使用したレッキと呼ばれる下見走行が行われ、ここでコドライバーが路面状況やカーブなどを記すペースノートを作成する。
レッキの後には、競技車両を用いたシェイクダウンが行われ準備が整えられる。そして木曜日の夕刻には、大勢のファンが集まるポディウムからのセレモニアルスタートを皮切りに、お祭りモードが一気に高まる。
サービスパーク
各車両はチームの本部やマシンを整備するテントが置かれるサービスパークから、決められたスケジュールでSSに向かう。また1日に数回サービスパークに戻り車両の整備点検を行うとともに、ここでメディアの取材やファンサービスなども行われる。
リエゾン
競技は基本的に一般公道を用いた移動区間(リエゾン)とスペシャルステージ(SS)で行われる。サービスパークからSSのスタート地点ヘ移動するのがリエゾンで、これはその国の交通ルールを守っての走行となる。
ただし、アイテナリーと呼ばれるスケジュールで移動する時間が定めてあり、これを超過するとその時間はペナルティとして競技タイムに加算される仕組みになっている。
スペシャルステージ(SS)
SSは閉鎖された一般公道や人工的に設定されたコースを使用して行われる1台ずつのタイムアタック(特設会場で2台が同時に走行するスーパースペシャルステージというものもある)。このSSはひとつの大会で15〜25箇所程度設定されており、基本的にこのタイム合算で順位が付けられる。
主なコース路面はグラベル、ターマック
路面に関しては各大会で設定が異なり、グラベル(=グラベルベッド、非舗装路)かターマック(舗装路)がメインであるが、ラリー・モンテカルロはそのミックスなど大会で特色を出している。真冬に北欧で開催されるラリー・スウェーデンは雪上ラリーとなる。
ラリー競技の歴史は100年以上!
ラリー競技の歴史は古く、20世紀初頭には公道を使用して決められたコースを定められた時間で走るというラリー競技が行われた。これは車両の耐久性や運転の正確性を競うもので、1911年にはモンテカルロラリー(モナコ)が開催されている。
その後もヨーロッパを中心に各地でラリー競技が単発イベントとして行われていた。また日本ではおなじみのサファリラリー(ケニア)での日本車の活躍もあり、注目を集めるモータースポーツとなっていた。
1970年、それまで単独イベントとして開催されていたラリー競技をシリーズ化した国際マニュファクチャラーズ選手権(IMC)が誕生した。そして1973年に世界選手権が懸けられたWRCが誕生した。当初はマニュファクチャラー(メーカー)のみの表彰であったが、77年にはドライバー部門、79年にはコドライバー部門が設けられた。
車両は当初、改造したツーリングカー、改造範囲の広いグランドツーリングカーで争われていたが、四輪駆動(4WD/AWD)が認められるとその車両が主流となり、82年にはさらに改造範囲の広いグループB車両が主流となった。
しかし車両の高性能化に安全面が追いつかず、大きな事故や死亡事故が頻発し、グループBはわずか5年で終了。83年からは市販車改造のグループA規定へ移行した。
90年代に入ると主流は2リッターターボでフルタイム4WD車両が主流となり、トヨタ、三菱、スバルといった国産メーカーの車両が活躍。90年にはトヨタのカルロス・サインツ(ドライバー部門)、ルイス・モヤ(コドライバー部門)がST165型『セリカ』でタイトルを獲得。
トヨタは93年と94年にマニュファクチャー部門のタイトルを獲得し、ついに日本メーカーが頂点に立った。
その後、参戦車両は改造範囲の広いワールドラリーカー(WRカー)へ移行したが、90年代にはスバル、三菱がタイトルを獲得。国内ではラリーブームが起き、2004年には遂に北海道でWRCラリージャパンが初開催される運びとなった。
ラリージャパンは2007年まで十勝地方で開催され、2008年と2010年には道央で開催。しかしその後はWRCカレンダーに載ることもなくなったが、2019年にはトヨタがドライバーとコドライバーのタイトルを獲得したこともあり、2020年にトヨタのお膝元である愛知・岐阜県においてWRCの一戦として復活開催が決まった。
しかしコロナ禍もあり2020年と2021年大会は中止。2022年に12年ぶりに日本でのWRCが復活した。その間、トヨタは2022年まで4年連続でドライバー、コドライバー部門でタイトルを連覇。2021年にはマニュファクチャラー部門も制覇し2022年には連覇を遂げている。
ワークスチームが参戦するRally1はハイブリッドとサスティナブル燃料を使用
Rally1
マニュファクチャラーのワークスチームによるWRCに参戦できる車両は、昨年よりRally 1と呼ばれる規定で、Bセグメントに属するハッチバック車両が主流となっている。
市販車両がベースではあるが、パイプフレームの使用が認められ、エンジンは直列4気筒1.6リッターターボのGRE(グローバル・レース・エンジン)のワンメイク。これにハイブリッドシステムを組み合わせて最高出力は500馬力をオーバーする。
なお、Rally 1車両はサービスパーク内とリエゾンの指定区間(HEVゾーン)では、エンジンの使用は禁止されているため、モーターのみで走行しなければならない。
駆動方式は4WDで、トランスミッションはセミATの5速。パドルシフトが禁止となったためシーケンシャルシフトで操作する。また燃料は合成燃料とバイオ燃料を混合した100%サスティナブルな燃料が用いられる。
タイヤはピレリのワンメイク。グラベルでは15インチ、ターマックでは18インチサイズのタイヤを履く。使用できるタイヤのセット数も決まっており、天候を読むことも重要なファクターとなる。
Rally2とRally3
プライベータークラスとなるWRC2ではRally 2(以前のR5)、WRC3ではRally 3(同R3)規定の車両で争われるが、改造範囲はRally 1より狭くより少ないコストで参戦ができるような工夫がなされている。
なおトヨタは、ヒョンデや欧州の自動車メーカーが投入している人気のカスタマースポーツ向けのRally2車両の開発を進めており、世界各地でデモランやテスト走行が行われている。
世界選手権タイトルは、ドライバー部門、コドライバー部門、マニュファクチャラー部門
ハイブリッドのRally1車両を使用する最高峰クラスのみに世界選手権タイトルが懸けられ、Rally 2車両を使用するWRC2、Rally 3車両を使用するWRC3は併催イベントという扱いとなる。また各大会で出走が認められた車両によるクラス区分もある。
世界選手権タイトルはドライバー部門、コドライバー部門、マニュファクチャラー(メーカー)部門の3部門からなり、各大会で獲得したポイントの累計でチャンピオンが決まる。
なお今年のマニュファクチャラータイトル対象の車両は、TOYOTA GAZOO Racing WRT(トヨタ)が3台、Hyundai Shell Mobis World Rally Team(ヒョンデ)が3台、M-Sport Ford World Rally Team(フォード)が2台の計8台となっている。
WRCの競技進行やポイントシステム
スペシャルステージ(SS)
SSのスタートはWRCでは最低3分間の間隔。WRC以外の車両は1分間隔でのスタートとなる。SSの停止ラインの約200m手前にフィニッシュラインが設けられ、スタートラインからフィニッシュラインまでのタイムが計測される。
計時はSSでは1/10秒、パワーステージでは1/1000秒まで。そしてストップポイントでフィニッシュタイムを記入してもらう必要がある。
スーパーSS
2台の車両が同時にスタートするスーパーSSは、大きな競技場のような施設内に特設コースを設けて行うが、今年のラリージャパンでは、昨年サービスパークが設置された豊田スタジアム競技場において、スーパーSSが設置される構想だという。
パワーステージ
ラリー大会最後のSSは、トップ5にボーナスポイントが与えられるパワーステージとなり、この終了時点ですべてのSSの合計タイムにより順位が決定する。
ポイントシステム
順位毎にポイントが与えられ、年間を通じて最も多いポイントを獲得したドライバー、コドライバー、マニュファクチャラーがチャンピオンとなる。
なお、WRCでは各マニュファクチャラーが3台の車両を登録できるが、そのうちの上位2台のポイントがマニュファクチャラーのポイントとなる。
シリーズポイント
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | 6位 | 7位 | 8位 | 9位 | 10位 |
25 | 18 | 15 | 12 | 10 | 8 | 6 | 4 | 2 | 1 |
パワーステージのボーナスポイント
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 |
5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
サービスパークのスタッフの人数
車両のメンテナンスや修復作業等を行うサービスパークでは、スタッフの人数も制限される。WRCでは2台の車両の場合は作業のために8名までと医療アシスタント1名、3台の車両の場合には12名までと医療アシスタント2名を有することができる。
主な観戦エリアはサービスパークと指定のギャラリーエリア(有料)とリエゾン
サービスパークはマシンを整備することのほかにも、各種イベントやドライバーからサインをもらったりグッズを購入したりするなど、ラリーの雰囲気を楽しむことができる。
走行する車両については、リエゾン区間は法定速度で一般道路を移動するので、安全な歩道などで車両をチェックするのは可能。
SSの競技区間では指定された場所でのみ可能であり、コースサイドに立ち入ることはできない。かつてはヨーロッパのラリーなどで熱狂的なファンがコースサイドに陣取るようなシーンも見受けられたが、現在は安全な競技運営のためにコースサイドへの立ち入りは禁止されている。
ただし大会によってはSSのコース脇に安全な場所を確保した有料のギャラリーステージ(観戦エリア)が設けられており、そのエリアでの観戦は可能だ。
ラリージャパンは主に山間地にコースが設置されているが、前述のように豐田スタジアム競技場内や岡崎市中央総合公園にSSのコース設置が検討されており、より多くのファンが観戦できるように検討されている。
(文:皆越和也 写真:Red Bull Content Pool)
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