bZ4Xとソルテラ 試乗記 220㎞を走破して感じたこと…安東弘樹連載コラム

  • 新型BEV スバル ソルテラ

先日、TOYOTAとSUBARUの共同開発による初めての本格的BEV、bZ4Xとソルテラを公道試乗してきました。

  • トヨタ bZ4X

静岡から浜名湖までの約100kmをソルテラで、浜名湖から名古屋までの約120㎞をbZ4Xで走破するという、高速道路も含めた様々な走行シチュエーションでの検証ができ、有意義な試乗会でした。

以前はサーキットで試乗したbZ4X についてお伝えしたので、今回はソルテラを中心に私の“素直“な印象をお伝えします。

もしかすると他のジャーナリストの皆さんやテスターの方々とかなり違う目線になるかもしれませんので、そこはご了承下さい(笑)。

外観と内装

今回試乗したのはソルテラのET-HS・4WDという最上位グレードで価格は682万円です。
まずはデザインから。ソルテラの実物を見るのは初めてでしたが、サイズよりも存在感が有るのは、その全体のシルエットやボディを構成するシャープなラインの成せる技でしょう。

同じBEVの日産アリアは全体的にシンプルでクリーンなデザインのせいか、コンパクトに見えるのとは対照的であり興味深いところです。これは、はっきりと好みが分かれるのではないでしょうか。

そして内装ですが、一言で申し上げれば、私には全体的にゴチャゴチャしているように感じられました。

  • 新型BEV スバルソルテラ
  • 新型BEV スバルソルテラ 運転席

bZ4Xの時にも指摘しましたが、目の前のメーターの意匠とナビゲーションやオーディオ情報を表示するセンターモニターの距離が離れているため、そのデザインに統一感や一貫性が感じられず、目線の移動も含めて何か「忙しい」という印象を私は受けてしまったのです。

更に気になったのが、メーター中央はデジタルディスプレイですが、両脇には大量の警告ランプが並んでおり、この色付きのマークを後ろからランプで光らせる、という古式ゆかしい方式なのです。特に不便はありませんが、“先進的“というイメージのBEVには似つかわしくないというのが私の感想です。

アリアとの比較ばかりで恐縮ですが、あちらは全ての情報がデジタルディスプレイで、運転情報は目の前のメーターに表示され、連続したメインモニターにはナビゲーションや他の情報が表示されるので、視線移動も少なく非常に落ち着いた空間が演出されていました。

ちなみにシートは秀逸。まず見た目から厚みがあり、形状も立体的なお陰でホールド感も申し分なく、これまでのSUBARUのクルマの中でも最上級と言えるでしょう。ちなみに両社の試乗車のシート表皮が、ソルテラが本革でbZ4Xは合成皮革なのですが、個人的にはソルテラの本革シートの方が運転していても滑りにくい上に、肌ざわりも良かったです。

しかもシートヒーター、フロントシートベンチレーションも装備されていて、暑がりの私はこのベンチレーションの恩恵にあずかり、終始快適にドライブ出来ました。これもこのクルマの美点と言えるでしょう。

しかし、ここでまたアリアとの比較になりますが、ステアリングコラムの調整がアリアは電動であるのに対して、こちらは両車共に手動。そして私にとっては必須のパノラマルーフもアリアは電動チルト・スライド付きですが、こちらは開閉不可(だから名前はムーンルーフ)、という様に、同じ価格帯という事を考えると若干見劣りしてしまうのが残念ではありました。

  • 新型BEV スバルソルテラ 後席席
  • 新型BEV スバルソルテラ ムーンルーフ

また、ドアを開ける時に毎回手で触れるインナーハンドルの、プラスチック感、後席エアコン吹き出し口周辺のプラスチック面積が大きい部分は、700万円近いクルマには見えないのが本当に悔しい?ところです。
アリアを運転したときにプラスチック感を感じた記憶が無いので、これもbZ4X、ソルテラ共に将来的に改善されれば…と思ってしまいました。

走行性能はいかに

それでは肝心の「走り」について、お伝えしましょう。

まずソルテラのパワーユニットは、71.4kwhという総電力量の駆動用バッテリーにモーター出力は前後共に80kwの計160kw。勿論、電力量が大きく航続距離が長いということに越したことはありませんが、そこはコストや重量などのバランスが重要になってきます。

それで言うと、日本の道路環境では「ちょうど良い塩梅」という印象でした。暴力的な加速感は無いものの十分気持ち良く加速してくれますし、BEVを運転するのが初めて、という方であれば、停止状態から発進する加速感に思わず声が出てしまうほどの動力性能は担保されています。

高速道路での追い越しの際にも、アクセルを踏んだ瞬間に十分なトルクが発生するので、疲労も少なくて済むでしょう。

しかしBEVはエンジンが発生する音が無い為、高速道路走行時には風切り音の大小が、車内の静粛性を大きく左右します。今回、かなり風切り音が耳障りだったのは、一応お伝えしておきます。ちなみに以前、一週間程借りたメルセデスベンツのEQCというBEVではそれほど風切り音が気にならなかったので、BEVは、ボディやガラス部分の静音をこれまで以上のものにしなければならないかもしれません。日本メーカーでは、これまでフロントガラスだけに合わせガラスを採用している事が多かったのですが、今後は、ある程度以上の価格のBEVには、サイドも合わせガラスにしていく事が求められると思います。

さて「走り」に戻りますが、一般道でのワインディングロードでも2tを超えるソルテラはフットワークも軽くボディは「ミシリ」とも言いません。その剛性には驚かされました。バッテリー自体が剛性に寄与するのは分かりますが、その特性を生かし切れなければ、このような乗り味にはならないでしょう。これは両社の努力の結実だと思います。

そしてワインディングで、力を発揮するのがソルテラのみに装備される「パワーモード」と「ステアリングパドル」です。
パワーモードは、スポーツ走行時に出力を最大化して加速感も一段と増します。そして、パドルによってエネルギー回生量、すなわち減速度をドライバーが自由自在に調整出来るので、まるでシフトチェンジをしている様に感じられるのです。またBEVの場合はただ減速するだけではなく、そのエネルギーをバッテリーに蓄えられるのですから、こんな嬉しいことはありません(笑)。

ちなみにbZ4Xでワインディングを走った際には、回生を積極的にする「ワンペダル(強回生ブレーキ」ボタンを押して減速、そのボタンをもう一回押し、解除して加速、という運転をしていました(笑)。こんな運転をする人はまず居ないと思いますが、ご参考までに…。

気になるバッテリーは?

ワインディングを走行すると当然、バッテリー残量が一気に減ります。よほど下り坂が続けば別ですが、気持ち良い加速を楽しんでいると、気付くとバッテリーメーターが下がっているのです。そして、こういう時に気になるのが、ソルテラ、bZ4X共にバッテリー残量が「数字」で表示されないという事なんです。

グラフィックと残り航続距離しか情報が無く、ワインディングロードを走る前にはあと270km走行可能、という表示でしたが、走り終えてから表示を見ると、一気に180kmに減っているではないですか!そう、距離の表示だけでは、走り方で頻繁に大きく数字が変わってしまいます。その為、「あと何%の電気がバッテリーに残っているか」を分かった方が、実際にあとどのくらい走れるのか、の目安になり易いのです。

またしてもアリアとの比較ですが、アリアは、グラフィック、バッテリー残量、推定航続距離の3つが表示されるため、バッテリーの状態を把握しやすかったのは確かです。これも是非、改善して頂きましょう!

メーターを見るとバッテリー残量はグラフィック上、半分ほどになってしまいましたので、高速道路に乗り、パーキングエリア(以下PA)で充電する事にしました。

そのPAの充電器は新しく、実際に56kw出力していましたので、30分間で充電器側の表示では60%から84%まで回復。

クルマの方の表示は、ワインディングを過ぎて若干下り勾配だったのが幸いしたのか、少し航続距離が伸びた200kmの状態になっていましたが、充電後は294kmになっていました。ただこの航続距離はこの後の走り方、道によって、大きく変わるでしょう。

油断は出来ませんが目的地までの距離を考えると余裕で着きますので、ひとまず安心です。

ちなみに、で申し上げると、これまで何人かのEV系?YouTuberさんが、日本のEVの充電性能の低さを指摘されているので、その点について試乗後にメーカーの方に伺ってみました。言いにくそうではありましたが、実は日本メーカー全体に言える事として、欧米メーカーと比べるとバッテリー保護のために、かなりマージンを取ってマネジメントをしているそうで、この両車の場合、10年間で70%のバッテリー性能を維持する為に(目標は90%)急速充電器に対しては1日2回までしか充電性能をフルに発揮させないプログラムになっているそうです。
という事は1日で九州まで走る、私のようなドライバーは現状、日本のBEVは選択肢に入れられないという事になります。

その後は良く出来たアダプティブ・クルーズ・コントロールや、ハーマンカードン・サウンドシステムが奏でる心地よい音楽のお陰で快適なドライブになりました。
浜名湖に着いて、私にとっては一瞬でしたが、クルマをよく知る事が出来る距離でソルテラの試乗が終わりとなりました。
残念だったのはSUBARUのお家芸、X-MODEのBEV版を味わう事が出来なかった事ですが、それはまた次の機会に。

  • bZ4XとSOLTERRA(ソルテラ)

そして、ここでbZ4Xに乗り換え名古屋へと向かいます。

基本的には同じクルマなので詳細は割愛しますが、違いを一言で申し上げれば、スポーツに寄ったソルテラに対して、ラグジュアリーに寄せたbZ4X、といったところでしょうか?いや、ラグジュアリーと言うよりも、乗りやすさ、ですかね。

BEVの今後について

ただ、グローバルで考えてもこのクラスのBEVは群雄割拠。既に多くの魅力的なクルマがひしめいています。その中で、デザイン、動力性能、機能、更にBEVならではの個性や遊び心まで訴求している世界中のメーカーに対して、「これが、我がメーカーのBEVだ!」という個性を発揮出来なければ、世界で闘うのは難しいと言わざるを得ません。

更にこの価格帯のクルマ自体が少なく、しかもBEVに対して理解や興味が薄い日本市場で、「どうしても欲しい」と思わせる何かを、どう創出していくかが今後益々問われてくるのは確かです。是非はともかく、グローバル、特に先進国では、EV化の動きは止められません。そんな中、日本メーカーの回答の一つでもある、この2車「ソルテラ」と「bZ4X」に試乗してみて、そんな事を考えました。

安東 弘樹