【折原弘之の目】ついに完成を迎えた谷口信輝氏所有トヨタスポーツ800通称ノブハチ
9割完成した通称ノブハチ
まず、所有したいと思ったきっかけについて聞いてみた。
谷口さん
「いつだったか、表参道を246から原宿方面に走ってた時に、駐車スペースに小さい黒いクルマが見えたんです。小さくて可愛いクルマだなって思ったのが、ヨタハチだったんです。その直後に松戸のグッスマカフェに呼ばれて行ったらMIKUラッピングされたヨタハチが飾られてたんです。それを見てオーナーの安藝さんに譲ってくれないかと掛け合ったら、あっさり承諾していただいたのが所有のキッカケですね」
なんとも運命を感じる出会いだったわけだ。
そこからが車業界に身を置く谷口信輝が本領発揮。ヨタハチをすぐにRSファイン(グッドスマイルレーシングのメンテナンスを請け負っているガレージ)に持ち込み、再生作業が始まる。
谷口さん
「持ち込んだ時にRSファインの河野さんと、どう言う完成形にするか相談をしました。僕はキレイにレストアして、いつ止まるかわからないクルマに乗るタイプでもないので普段着で乗れるクルマに仕上げることに決めした。」
「そこで移植用ドナーとして、NBロードスターを貰い受け足回りやエンジンを載せ替えることにしたんです。一度はそれでいいと考えたんですが、トヨタ車だからエンジンもトヨタで行きたいと思ったわけです。そこで浮かんだのが4AGエンジン。」
「僕は元々AE86乗りだったとので、よく知っている4AGエンジンを載せようと思ったんです。 そこで僕のブログで、どなたか4AG譲っていただけませんかと書いたところ長野から返信が来ました。納屋にAE111があるから、持って行ったくださいと言う話になったんです。すぐに長野にある小泉商会さんに連絡を取り、引き上げに行ってもらったんです」
この辺のネットワークは、流石に谷口信輝さんだと思わせるエピソードだ。ドナーとなるロードスターも4AGエンジンも、すぐに手配できてしまうのだから行動力とネットワークには感心させられる。そして手に入れた4AGもとんでもないことになって行く。
谷口さん:
「取りに行ってもらった小泉さんから、中古のエンジンなのでオーバーホールしておきましょうか。と提案されたので、お願いするとオーバーホールどころかハイカム、ハイコンプのフルチューンに仕上がってたんです。そんなエンジンになっていたので、インジェクションかキャブか悩んだ末FCRキャブを買ってきてキャブ仕様にしました。」
「そんなこんなでハイパワーエンジンを手に入れたんですが、そもそもこのエンジンは載るのかと言う話になりました。」
元々のエンジンのハイトが、50cmくらいだったので、乗らないと言うことになりオイルパンを無くしってドライサンプ化することにしたんです」乗らないエンジンを諦めず、更なるハイチューンで乗り切るあたりクルマに対する理解度の深さを感じさせられる。
ハイパワーエンジンに載せ替えたのだから、当然ミッションも強化する必要があるはず。そこに水を向けてみると「ミッションは普通なら、4AGにはT50と言う86のミッションを使うんですが、アルテッツァのレース用6速ドグミッションを譲ってもらったんです。このミッションはクラッチを切らなくてもはいるので、4AGハイチューンのエンジンと相まって気持ちいいんです。
それと忘れちゃいけないのがマフラー。パワークラフトさんにお願いして、ワンオフで作って貰いました。爆音にしたくなかったので、太鼓も2個付けてもらって消音にも気を使いました」とかなりご満悦だ。
エンジン、ミッションの問題は解決したのだが、クルマの状態が思ったより悪く大手術になってしまったようだ。
谷口さん:
「MIKUラッピングを剥がしてみると、フレームや車体が腐っていて穴が空いてたりしたんです。そんな状態だったので、そこからは切った貼ったの大手術です。フレームだけじゃなく、ミッショントンネルも広げないと新しいミッションは入らないので作り直しました。」
「エンジンルームもロードスターのメンバーを寸詰めして流用したり、ロードスターの足回りを移植したり。ある程度下回りを組んだところで、埼玉の板金屋さんビッキーさんに板金に出してボディワークをレストアしてもらいました。オーバーフェンダーをつけるのが嫌だったので、フェンダーも広げてもらったんです。」
フェンダーを広げてトレッドは70mm広がったとのこと。ちゃんと走りたい気持ちと、格好良さを追求した結果の形なのだろう。
板金も終了しRSファインに戻されたヨタハチに、エンジンや保安部品等を組み込んで走れる状態となったのが最近の話し。車重はノーマルが600kg弱だったが800kgに増量、しかしハイチューンが施された4AGは190psを叩き出している。パワーウェイトレシオを考えれば、かなりのハイパワー車になったと言える。
そのパワーを受け止める足回りも、プロジェクトμのブレーキとHKSのサスペンションでチューニング。情動においては、満足の行くレベルになっているとのことだ。
これで完成を見たと思いきや、
谷口さん:
「車検も取って走れる状態になってますが、仕上がりとしては9割くらいですかね。実際に筑波を走らせたりすると、最後の味付けが終わってない感じなんです。例えばブレーキのセッティングだったり、サーキットを走るとロールが大きくてフェンダーが当たるのでスタビが欲しくなったり。まだまだ改良点はあるので、ゆっくり煮詰めていこうと思っています。」
昭和42年生まれのヨタハチが、走りの良いクルマに生まれ変わった。それでもまだ満足する事なく、理想のヨタハチの姿を追い続けて行くとのこと。レーシングドライバー屈指のクルマ好きの谷口信輝さんらしい付き合い方だ。
(文、写真:折原弘之)
折原弘之 プロカメラマン
自転車、バイク、クルマなどレース、ほかにもスポーツに関わるものを対象に撮影活動を行っている。MotoGP、 F1の撮影で活躍し、国内の主なレースも活動の場としており、スーパー耐久も撮影の場として活動している。また、レース記事だけでなく、自ら企画取材して記事を執筆するなどライティングも行っている。
作品は、こちらのウェブで公開中
https://www.hiroyukiorihara.com/
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