当時の最新技術が満載! 日本自動車史に輝くスポーツカー「トヨタ2000GT」を振り返る・・・懐かしの名車をプレイバック
1967年に発売された、トヨタのスポーツカー「2000GT」。半世紀以上の歳月を経た今も多くの人に名車として記憶されるこのクルマは、どのような点で優れ、どんな走りが楽しめたのか。モータージャーナリストが思い出とともに、その魅力を語る。
ブームの影響でなかなか手が出ず……
今にして思えば痛恨の極みであった。20年ほど前に、とあるクラシックカー専門店を取材していた時のこと。ショップのオーナーにこうアドバイスされた。
「これからトシを重ねていくと古いクルマが絶対に欲しくなるよ。今のうちに2000GTか『ミウラ』を買っておきなさい。『ディアブロ』が欲しいなんて言わずに」
40歳になる前でまだまだ血気盛んだった私。結局、ディアブロを買った。そして社長の言うとおりになった。お金の話ではない。ディアブロだって今や高根の花。そうではなくて、還暦を前に今や自分と同年代、1960年代半ばのマシンにばかり目がいって……。
とはいえスーパーカーブームで育った世代にとって、2000GTやミウラ、「ディーノ」といった1960年代半ばの名車は随分と長い間、ただ“古いクルマ”でしかなかった。かの漫画『サーキットの狼』で主人公たちが乗っていた「ロータス・ヨーロッパ」や“ナローポルシェ”だってそうだ。
実のところ子供たちが目を輝かせて追いかけたのは1970年代以降のスーパーカーであって、漫画の主役を張っていたモデルではなかったのだと思う。あの漫画もまたヒットの鉄則である勧善懲悪ストーリーであり、主役(=善)は古いクルマを乗りこなすことで脇役(=悪)の駆る“最新モデル”を打ち破ることに大いなる共感があった。と同時に子供たちは主役よりもむしろ敵方に夢中になった。ウルトラマンより怪獣のほうが得てして話題になるものだ!
もっとも、2000GTの立ち位置はちょっと微妙だった。運転技術はあるけれど根性の曲がったキザで嫌みなヤツ(隼人ピーターソン)が駆っていたから。子供心に2000GTはどうしても好きになれなかった。日本の名車であると心から認識を改めるまで時間がかかった。買えたのに買わなかったのは結局のところ三つ子の魂百まで、小さい頃に憧れたクルマではなかったからに違いない。
もちろん今では日本が世界に誇る名車だと思っている。ああ、だからやっぱりなんだか悔しいんだよなぁ、にっくき隼人ピーターソンのやつめ!
コックピットにいるだけで感動
趣味系メインの自動車ライターなどという仕事をしていると、2000GTを取材する機会も多く、実際にステアリングを握らせていただくことも少なくない。おそらくこれまで10回くらい2000GTと向き合って仕事をした。なかでも印象に残っているのが、群馬県太田市から京都市、さらには静岡市まで、全工程およそ800kmのドライブに2000GTを駆り出した経験だ。
クルマにまつわるナゾを実際に触って乗って解き明かそうという企画だった。お題は「2000GTはその名のとおり本当にグランドツーリングカーなのか?」。実際に長距離テストをして、オーナーでもない限り確かめることのできないナゾを解く、とはいうものの、今や1億円近い価格で取引されている名車をおいそれと貸してくれるオーナーなどいるのだろうか……。
いらっしゃった。2000GT界では有名な、オートロマンのモロイさんだ。2000GT好きが高じて広大なガレージ内に2000GTの再生工場までつくってしまった人で、今やオーナーにとっては困った時の駆け込み寺。世界に誇る名車をランニングコンディションで保てるようになった、現在の状況をつくった立役者のひとりだ。
キャブレター付きのエンジンをかける。最も緊張する瞬間だ。うまくかかれば自信もつく。美しいウッド製インストゥルメントパネルと細くて大きなステアリングホイールに見とれる間もなく、ゆっくりと走りだす。
何しろ着座位置がすさまじく低い。路面の存在を尻の下すぐに感じるほど。街なかの信号待ちでは隣に並んだ軽自動車さえ見上げてしまうほどの車体の低さに感動したことをよく覚えている。
そして目の前に長く伸びたノーズの峰のなんと美しいことか。これぞロングノーズ&ショートデッキ。この光景の美しさは前へ前へと道の伸びた高速道路上で倍増する。
快適なGTにして優秀なスポーツカー
ブレーキが若干弱いことと、想像する以上に車体が小さいこと、そして前方に伸びる美しいノーズを除けば、拍子抜けするほどにフツウの乗用車っぽい。乗り心地も上々で、エンジンに気難しさはなかった。マニュアルトランスミッションのクルマをドライブできる人なら、やや重めのクラッチペダルとそもそも外側を向いているABCペダルの配置にさえ慣れてしまえば難なく動かせるはずだ。
高速道路に入る。高回転域まで回してみる。メカニカルノイズがだんだんと整っていく。4000rpmあたりからのエンジンフィールに胸がすく。5速に入れて3000rpm、ちょうど100km/hだ。なるほど日本の高速道路もまた、2000GTが登場した頃に開通している。
2000GTは驚くほど快適なグランドツーリングカーだった。テスト車はモロイさんが日本全国で開かれるイベントに自走で参加するため手塩にかけてつくり上げた個体で、オリジナルにこだわりつつ安心して運転できるよう仕上げられていたから、ということもある。けれども2000GTの基本設計がグランドツーリングカーとしてよくできていたからこそ、現代でも快適にドライブできたに違いない。
もうひとつ、スポーツカーとしての思い出もよみがえった。別の個体だ。九州は宮崎でディーノ246GTと峠道でバトルした。ワインディングロードを得意とするイタリア製のハンドリングマシンに2000GTで迫ることができた。その時ほんの少しだけ“沖田を追い詰める隼人ピーターソン”の気分になった。
(文=西川 淳)
トヨタ2000GT(1967年~1970年)解説
トヨタ2000GTは、ヤマハの協力を得てトヨタ自動車が開発、1967年に発売したスポーツカー。1970年の生産終了まで、337台が生産された。
リトラクタブルヘッドランプを備えた流麗なクーペボディーが特徴で、2リッターの直列6気筒DOHCエンジンが搭載されたほか、4輪ダブルウイッシュボーンサスペンションや4輪ディスクブレーキ、ラジアルタイヤ、マグネシウムホイールなど、日本の量産車では初採用となる技術・装備が多数盛り込まれていた。
性能面では、220km/hの最高速度を実現するなど、当時の欧州製スポーツカーに並ぶパフォーマンスを発揮。発売前にはスピードトライアルに挑戦し、さまざまな国際記録を樹立したほか、第3回日本グランプリにも参戦している。また、映画『007は二度死ぬ』にも登場するなど、トヨタのみならず日本の自動車界のイメージアップにも貢献した。
トヨタ2000GT 諸元
乗車定員:2人
車両型式:MF10
重量:1120kg
全長:4175mm
全幅:1600mm
全高:1160mm
ホイールベース:2330mm
エンジン型式:3M
エンジン種類:水冷直列6気筒DOHC
排気量:1988cc
最高出力:150PS/6600rpm
最大トルク:8.0kg・m/5000rpm
サスペンション形式:独立:ダブルウィッシュボーンコイル
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