きらびやかで甘く切ない空気感 3代目ホンダ・プレリュード・・・懐かしの名車をプレイバック

  • 3代目プレリュード BA4/5/7型

スタイリッシュなホンダのイメージリーダーとして進化を遂げた3代目「プレリュード」は、デートカーブームに乗ってその人気を不動のものとした。時は1987年。日本中を包み込んだ好景気が、このまま永遠に続くかのように思われていた時代である。

ベルノ店のフラッグシップモデル

  • 3代目プレリュード BA4/5/7型

あらためて考えてみれば、ホンダ車のラインナップから、「プレリュード」の名前が消えて、既に20年以上の時が流れてしまった。ノッチバッククーペ(ホンダは「フィックストクーペ」と呼ぶ)のスタイルを持つプレリュードは、1978年のデビューから2001年の販売終了まで5世代にわたり、常にスタイリッシュなホンダのイメージリーダーとして進化を続けた。

個人的には1982年にデビューした第2世代(AB/BA1型)、その後継車として1987年に誕生した第3世代(BA4/5/7)の両モデルは、さまざまな理由で現在でも特に強く記憶に残るシリーズだ。

当時大学に入学したばかりの自分は、クルマに触れることができる最も手軽なアルバイトとして、ガソリンスタンドで働くことを選んだ。勤務先のスタンドの向かいには当時まだできたばかりのホンダ・ベルノ店のショールームがあり、プレリュードは後に「NSX」が登場するまで、このベルノ店のフラッグシップモデルだったのだ。

まだSN型と呼ばれた初代プレリュードが販売されていた時代だったが、それは確かに魅力的なモデルに見えた。地域性なのか、はたまた人気があったのか、その販売店では新車の販売もそれなりだったのだろう。一日に何台も「磨き」と称して納車前のワックスがけを依頼されたことを覚えている。

愛車でマウンティング

  • 3代目プレリュード BA4/5/7型

これは間違いなく最強のパーソナルクーペになる。その予想が確信に変わったのは、1982年にフルモデルチェンジを受け、さらにスタイリッシュになった2代目プレリュードが誕生したときだった。そして幸運にも自動車メディアの世界に籍を置くことができて以降の、1987年にデビューしたここでのテーマカー、3代目プレリュードはその確信をさらに強いものとしてくれたのだ。

ライバルには1988年に登場した第5世代の「日産シルビア(S13型)」と第2世代「トヨタ・ソアラ(Z20型)」が存在した。シルビアは「アートフォース」なるキャッチフレーズで女性を魅了し、1986年デビューのソアラは日本車離れしたオーラをまとった「スーパーグランツーリスモ」でさらなる高みを築いた。

このプレリュード対シルビア対ソアラの戦いは、今では想像もできないくらいに激しい、デートカーの頂点としての威信をかけたものだったのだ。当時はデートカーに1人で乗る=交際相手がいないことほど残念なことはなかった。

女性は女性の立場で、交際相手が乗るクルマは重要だったようだ。当時はクルマが、友人や仲間に彼氏を自慢する際の重要なツールとなったからである。取られたら取り返す。マウント合戦は、なにも今に始まったものではないのだ。

ホンダ車として初めて4WSを採用

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3代目プレリュードは、先代からボディーデザインはキープコンセプトとしていたものの、メカニズム的にはかなりの進化を遂げたモデルだった。搭載エンジンは2代目プレリュードと同様に2リッター直4(B20A型)のみ。

これにDOHC 16バルブ仕様のPGM-F1と、SOHC 12バルブ仕様のCVデュアルキャブ仕様が用意され、最高出力は前者では145PS(ネット値)と魅力的なスペックを誇っていた。組み合わせられるトランスミッションも5段MTのほかに、ドライバーの好みでノーマルとスポーツの両変速パターンを選択できるフル電子制御2Way 4段ATを採用。このATは燃費性能の向上にも大いに貢献したことでも知られる。

サスペンションが新設計の4輪ダブルウイッシュボーンとなったことも見逃せない。リアサスペンションが先代のストラットからダブルウイッシュボーンに変更されたのは、世界初の舵角反応式のホンダ4輪操舵システム(4WS)採用車が設定されたことが大きな理由。前輪の舵角が小さいときには後輪も同位相に、逆に前輪に大きな舵角が与えられたときには後輪は逆位相に作動し小回り性を高めるというこの4WSシステムは、現在では多くのモデルで採用されている。

こうして先代モデルからメカニズム的に進化を遂げた3代目プレリュードだが、世間の多くはプレリュードをやはりデートカーとしてとらえていた。いま思えば、それはホンダにとっては本意なことだったのだろうか。

不思議な魅力を持つクーペ

  • 3代目プレリュード BA4/5/7型

実際の走りはスポーツカー並みの運動性能と、サルーン並みの快適性能を持つモデルだったと記憶している。エンジンは18度後傾して搭載され、それによってレスポンス向上や吸排気系の抵抗を減少させるなど、さまざまな効果を生み出していた。それはいかにもホンダらしい、高回転型の素晴らしいパワーユニットだったのだ。

その実力を5段MTでフルに引き出し、4WSを含め大きく進化したシャシーとのマッチングを味わったり、あるいはロー&ワイドなスタイリング(それは現代の目で見てもなお魅力的といえる)を都会の景色を背景に眺めたりするのも当時は楽しかった。

なによりも目を引いたのが、3代目プレリュードをデートカーたらしめるラグジュアリーなインテリアである。リアには2人用の後席が備わるが、それはあくまでもラゲッジスペースと考えるべきだろう。キャビンでの2人だけの会話。それがどれだけ楽しい時間であり、さらなる幸せへと2人を導いてくれたのかは、当時のデートカーをドライブした経験者でなければわからないかもしれない。

3代目プレリュードに象徴されるデートカーとは、かくも不思議な魅力を持つクルマにほかならなかった。SUVやミニバン全盛の現在に再び魅力的なデートカーが復活することはないだろうが、当時のきらびやかで甘く切ない空気感をもう一度味わいたいと思っている自分がいる。

(文=山崎元裕)