デートカーブームの終焉 5代目ホンダ・プレリュード・・・懐かしの名車をプレイバック
ストイックに走りをアピールした4代目に代わり1996年に登場した5代目「プレリュード」は、原点に回帰したようなフォルムと快適で広いキャビンが自慢だった。しかし時代はRVブーム。その大きなうねりのなかでデートカーの象徴は静かに姿を消していった。
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ダメ男にとってのリーサルウエポン
「プレリュード」。フランス語でその意は前奏曲とのことです。
でも、1980年代に多感な時を過ごしていた僕にとっては、その名はデートカーの象徴。その存在は下心の前奏曲といった趣でした。現在の若い方々には意味不明かもしれませんが、昔々の日本には、プレリュードに乗ってるというだけで、妙齢の娘さんに一目置かれるというワケのわからない時代があったのです。
日本車カテゴリーの頂点たる「トヨタ・ソアラ」の3分の2くらいのお値段で、ほど近いパフォーマンスを実現するダメ男にとってのリーサルウエポン。それを僕が手にしたのは1991年くらいのことだったと思います。取材で通っていた鈴鹿のバイク屋さんで社長さんに「これ買うてくれる人おらんかな?」と指さされたのが、2代目のBA1型でした。
当時はF1由来の「パワード・バイ・ホンダ」と書かれたただのシールがアホのように売れていた時代です。既にVTECも現れていたものの、丸腰のB20A型にもセナ様の威光は十分に宿っていましたし、なによりプレリュードが最も成功した1980年代後半のムテキングぶりは強く印象に残っていました。かくして25万円のお支払いでいよいよ僕にもモテキがやってきた……かにみえました。
プレリュードらしさへの回帰
が、その頃、浮かれた時代は既に終わりを告げ、実質2人乗りのユルいデートカーというコンセプトは急激に場違いな雰囲気になりつつありました。代わって台頭したのはレジャービークル=RV。頼りのセナ様は4代目プレリュードのCMに登場しストイックに走り自慢をアピールしましたが、「三菱パジェロ」の侵攻をとどめるには至りません。いわんや2世代も型落ちのマイカーに残された戦闘力は、乗り手のヘッポコぶりを補えるものではありませんでした。
そんな4代目も商業的にはうまくいかず、5代目へとスイッチ。ちょっと「ジャガーXJ-S」を思わせるテール周りが印象的だった先代モデルに対して5代目は、ちょっと3代目をほうふつさせるポピュラーなプレリュードルックへの回帰を果たしたようにみえました。しかし当時、試乗取材の会場で行われたプレゼンで、スタイリングのインスパイアとしてハードトップを載せたメルセデスのR129型「SL」がスライドに映し出されたときには「え、そこなの?」と苦笑したのを覚えています。
5代目プレリュードの機能的な成り立ちは、先代モデルでの反省が生きたものとなっていました。アメリカからの要望で一気に広げられた全幅は若干抑えられた一方で、後席居住性に対する不満を解消すべくホイールベースは延長。結果的に、歴代で最もフル4シーターに近い実用性を得るに至っています。
こだわり抜いたメカニズム
そういうオーセンティックな方向で、大人の余裕を感じさせるクーペへとシフトする……と思いきや、5代目は一方で走りに対しても並ならぬこだわりをもっていました。
従来型に対しては前後ハブベアリングやコンプライアンスブッシュの剛性向上、アーム類の取り付け点剛性強化、ピロ支持スタビライザーの採用など、足まわり骨格の剛性強化は「タイプR」を思わせる入念さです。そして一部グレードには3代目以降のお約束装備となった4WSを継続採用。その操舵角は最大8度と、メルセデスの「EQS」に肉薄する切れっぷりで、旋回能力の向上とともに最小回転半径4.7mと軽自動車に迫る小回り性能を実現するなど、ホイールベースの延長を補っていました。
極めつけは「プレリュード タイプS」に設定されたATTSです。これは駆動輪である前側左右輪の作動をコントロールするトルクトランスファー、今で言うトルクベクタリングシステムで、旋回時に内輪を減速させたぶん、外輪を増速させて旋回力を高めるというもの。ゲインを最大化するためにタイプSは、フロントサスをダブルジョイント式に変更。ホイールのオフセットを専用にするほどの大工事を施しています。
20年余におよぶ歴史に幕
このコストバランスの悪さは、当時の社風を表すものでもありました。4WDだ、ターボだと飛び道具がもてはやされるなか、自然吸気+FFでの戦いを余儀なくされたホンダとしては、なんとしてもその優位性を証明しなければと躍起になっていたのがこの頃です。そんななかでのプレリュード タイプSであり、同時期に登場した「インテグラ タイプR」だったことは想像に難くありません。
でも市場には既にプレリュード タイプSのようなどっちつかずのものに票を投じる余裕はなく、安くて速いキレキャラのインテRにそのぶんも補って余りあるほどの人気が集まったのだと思います。
バブルの頃、その無邪気な欲求の実像として市場に熱狂的に受け入れられたスペシャルティーカーというコンセプト。その象徴的な銘柄だったプレリュードは、迷走気味だった5代目をもって、20年余にわたる歴史を封印することになりました。
昔の名前で出してみるのが大好きなホンダですから、そのうちプレリュードという名前も復活するかもしれません。もしそうなるとしたら、そのクルマは内燃機時代の未練など毛ほども感じさせない、レベル4や5のぶっ飛んだ未来を体現するようなものであってほしい。それは熱狂の時代を過ごしてきたオッさんのささやかな願いでもあります。
(文=渡辺敏史)
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