好きすぎて手放せない アンフィニRX-7/マツダRX-7・・・懐かしの名車をプレイバック

20年以上にわたり、3代目「RX-7」の最終型とともにカーライフを送っている、自動車ライターの渡辺敏史さん。どこにほれ込み、何が夢中にさせるのか。所有しているからこそわかるRX-7の魅力を語ってもらった。

激化する性能競争のなかで誕生

  • 3代目RX-7

1978年〜2002年とほぼ四半世紀にわたるRX-7の歴史。そのちょうど半分の期間を占めたのが3代目のFD3S型です。登場は1991年10月……ということは、ロータリー悲願のル・マン24時間総合優勝の直後ということになります。タイミング的にはもうこれ以上はない最高のスタートとなったわけですね。

バブルの残り香漂うこの時期は、国内各社が威信をかけたスポーツカーを市場展開していました。R32こと「日産スカイラインGT-R」やNA1型「ホンダNSX」は言うにおよばず、三菱が「GTO」を発売したのもこの年です。トヨタは80系「スープラ」の登場前夜ですが、70系スープラはJZ系のツインターボで280PSを獲得と、性能も価格も過激化が進んでいました。

FD3Sも世の流れを受けて、前型のFC3Sに対して一気に50PSアップのハイパワー化を果たしたわけですが、一方で、全長とホイールベースは短くなっています。そのぶん全幅が広がってはいますが、重量は前型同等と実質的にはダウンサイジングと言っても過言ではありません。ちなみに当時の70系スープラのサイズや重量と比べればふた回りは小さく、21世紀的比較対象を探してみると全高以外は最終型の「オーリス」がほぼ同じくらいのようです。

ロータリー同士で比較すると

  • 3代目RX-7

ちょっと前のCセグメントハッチバックくらいのマス感で、直6ターボにも比する動力性能のFRスポーツが成立する。それこそがまさしくロータリーのなせるマジックということになるでしょう。2つのローターの回転運動で紡ぎ出すパワーは、完全バランスといわれる直6の往復運動と同等・同質。そのぶん、車体を小さく軽くできる。それがロータリーの利だとされてきました。

が、それは昔の話。現在は小さな4気筒エンジンでもバランサー等で振動要素はしっかり抑えることができますし、ロータリーの質量的な利は以前ほど圧倒的ではありません。

エンジン本体はトランスミッションハウジングと一対にみえるほど低い位置に置かれる一方で、あらかたの補機類がその上にどっさり盛られれば、低重心という評価もこれまたレシプロ比でちょっとはマシというくらいでしょうか。ちなみにロータリー同士で比較しても、設計年次が新しい自然吸気の「RX-8」のほうが迫真のパッケージとなっています。このエンジンの特徴を最大限に生かしたパッケージングとしては、むしろこちらのほうが見どころは多いです。

軽さの裏にある危うさ

  • 3代目RX-7 運転席

それはあくまで技術的視点での現在地ということ。FD3Sが一部であがめられている理由は、スポーツカーとしてあらゆる項目を求道的に突き詰めたがゆえの、鋭敏さ著しい運動性能にあると思います。リフトアップして車体の裏側を眺めれば、専用設計シャシーならではの無駄のない構成と各部品の駄肉のなさはある種の緊迫感を覚えるほどです。腹底を肴(さかな)に呑(の)めるのがスポーツカーだとすれば、FD3Sは間違いなく3杯はいけます。

ボンネットやドアなどの蓋(ふた)物はアルミ材と、今的な感覚ではあんまり驚きはありませんが、まぁ実重がとにかく軽い。ドアは指先の動きだけでひらひらと開閉できます。パネルの置換というだけでなく、ボンネットフレームのような骨格やウィンドウレギュレーターのような内包物にまで軽量化が行き届いていることがポイントです。

この絞りに絞った軽さがもたらす繊細なドライバビリティーと、2ストロークエンジンの2段加速を思い起こさせる13Bシーケンシャルツインターボのフィーリングが相まった、そんなFD3Sは、速さの質がどこか儚(はかな)げです。同時期のR32 GT-Rのような路面をむしり取るが如きゴリゴリのコンタクト感に比べれば、コーナーでの身のこなしはほれぼれするほど軽やかな一方、くしゃみした手のひらの動きでも車線を外してしまいそうなほどの危うさも秘めています。そういう薄幸感がこのクルマのミステリアスさを引き立てていると思うのは僕だけでしょうか。

ロータリーに求められているもの

現役時代のFD3Sはよく「難しいクルマ」と言われていました。重量配分も適切にすぎて前軸荷重が軽いぶん、限界挙動の抑制が難しいとか、そういう理由で長らくドリフト向きではないとされてきたのも有名な話です。D1シリーズや筑波サーキットのスーパーラップも腕利きが血眼になるほどレベルがあがった揚げ句、扱いにくいけどうまく御せればバカッ速な素性のFD3Sがもてはやされるようになった、それは『頭文字D』の連載開始よりもちょっと後の話ではないでしょうか。

6型まで続いたFD3Sの進化は、持ち前の鋭利さをそのままに、この扱いにくさをいかに整えるかの歴史だったのかもしれません。結果的に性能も大きく向上し、5型以降は当時の自主規制値である280PSに最高出力が達しました。それでも飽き足らない多くのユーザーにとって、このクルマはコーナリングマシンをつくり上げるためのチューニングベースとなった一面もあります。やっぱりロータリーって小さく軽いから曲がってナンボ的なところは宿命的に求められてしまいがちなんですね。

実は拙も6型を20年以上所有しているわけですが、ロータリーの内燃機としてのポテンシャルにほれ込んでいるのかと問われると、実はそんなでもないんです。敬虔(けいけん)な信者ではない。けれど、むしろ前述のとおり、ロータリーだから実現できたサイズ、それに加えてロータリーだから成立したエクステリアが好きになりすぎて、手放せなくなってしまったわけです。たぶんこの腐れ縁は墓場まで続いていくことになるんだろうと思っています。

(文=渡辺敏史)