博物館級の美しさで動態保存を続ける2代目プリンス・グロリア(S41D)
「両親が2台のカブで日本中を旅行していたほどのバイク好きでしたから、私もバイクは昔から好きでしたね。はじめての愛車は大学入学時に先輩から4万円で譲りうけたハコスカで、缶スプレーでオールペンして乗っていました」という川越吏さん(60才)。
そんな川越さんが23才の時に2台目の愛車として購入したのが、1964年製で走行距離5万kmのプリンス・グロリアだった。
「ハコスカは乗ったし、フェアレディZもまわりにたくさんいたので、なにか他の車種はないかなぁと探していたときに雑誌の売買コーナーで見つけたんですが、ひと目ボレでしたね。あとから聞いた話ですが『石原裕次郎が購入しようと狙っていた』というほど程度のいい個体で、納車整備と部品取り車が1台付いて90万円。当時は大学を卒業して体育教師をしていたんですが、その頃の月給は13万6000円でしたから、高価な買い物でしたよ。中古車屋さんに直接見に行って購入を決めて手付金を払ってからは、納車されるまで毎週のようにお店に行って洗車していました(笑)」
プリンス自動車工業(当時は富士精密工業)が、スカイラインをベースに内外装を改良し、1900ccエンジンを搭載した戦後初の3ナンバー車として1959年に発売した初代プリンス・グロリア。
日産自動車と合併してからはセドリックと兄弟車となり、トヨタ・クラウンと双璧をなす国産高級セダンとして2004年まで11代にわたって発売されたモデルだ。
そして、そんなグロリアの2代目として1962年に発売されたのが、宮内庁に納入され上皇がみずから運転された愛車としても知られているS40型。
初代のフェンダーやボンネットが隆起したデザインから、ボンネットの低いフラットデッキスタイルへと変貌を遂げたのがいちばんの特徴で、アメ車を彷彿とさせる4灯ヘッドライトやテールフィン、『ハチマキグロリア』と呼ばれる所以にもなったボディ側面をぐるりと囲むモールなど、あらゆる手法を尽くして豪華絢爛な高級車に仕上げられている。
さらに、グレードによっては西陣織の内装やリヤシートから操作できるラジオ、通称『赤デフ』と呼ばれるノンスリップデファレンシャルなどの豪華装備が用意されていて、細かなメーカーオプションやディーラーオプションも多数存在する。
エンジンは先代からの改良型である直列4気筒1900ccのG2型に加え、6気筒2000ccのG7型が追加され、さらに上位モデルのグランドグロリアには2500ccのG11型が搭載された。
『プリンスグロリアS4クラブ』に30年以上所属し、10年以上にわたって会長を務めていらっしゃったという川越さん。
「私のグロリアはスーパー6というグレードで型式はS41D-1ですが、低いグレードのクルマはS41D-2という型式で区別されているんですよ」と、グロリアのモデルやグレードに関する造詣も深い。
また、過去には博物館に展示車両として貸し出したり、「スカイラインの父」と呼ばれた桜井眞一郎氏の葬儀で車両を展示したりと、エピソードにも事欠かない。
ガレージには著名人と一緒に撮影した記念写真やサイン、当時モノのレース用パーツなどさまざまなアイテムが飾られていて、中でも貴重だというのが、プリンス自動車の主力工場が閉鎖される際に譲り受けたというプリンスのロゴが入ったマンホールのフタ!
プリンスR380のエンジン用カムカバーも、簡単には手に入らないお宝パーツだ。
そんな川越さんのグロリアのコンセプトは“ラインオフした時のルックス”をキープすること。
「15年くらい前、オールペンするのを機に、状態のいいパーツを集めておいて一気に交換してリフレッシュしたんです。ボディカラーは『カシミアブルーメタリック』という純正色なんですが、時間帯や光の当たり方によって微妙に色具合が変わるんですよ。このクルマだったらボディを舐めろと言われたらできちゃいますね(笑)」というほど、本当に美しい状態に保たれている。
ちなみにオールペンの際には、オーディオボードの内装を外した部分に残っていた日焼けしていない純正塗装に合わせて調色をおこなったという。
また「フェンダーミラーはリコールによって形状変更されてしまったのですが、変更前の形状を砂型からおこして真鍮で作り直しました。エンブレム類もおなじく砂型から作ったもので、純正部品は大事に保管しています。元のパーツが残っていれば、壊れてもまた作り直せますからね」と、パッと見ではわからない部分にもこだわりが詰まっている。
エクステリアで唯一、純正と異なるのが輸出仕様のテールレンズ。国内仕様はオレンジのウインカー部分も赤色なのだという。
「このグロリアの後ろ姿が好きなんですよ。私がグロリアを買った時にはプリンス自動車はすでに日産自動車と合併していましたが、なんとなく無くなってしまったメーカーの哀愁を感じる気がしてね」と川越さん。
また「オールペンと同時にブッシュ類も交換したのですが、強化品なんか売っていないので、純正よりも硬いトラック用のゴムブッシュを流用して組み込みました。走行時のしっかり感がアップしましたよ」と、性能アップのためのチューニングもほどこされているという。
さらに話を伺ってみると、エンジンもこれまで5回ほど載せ換えていて、その換装作業からオーバーホールまで自らおこなっているというから驚きだ。
川越さんのガレージにはブラストや旋盤なども設置されていて、ホンダのベンリィスーパースポーツ(CB92)とそのレーシング仕様、さらにベンリィCS90レーシングなど、もともと好きだったというバイクのコレクションも並んでいる。
当然こちらもエンジンをはじめ細部に手を加えられていて、「特に見てほしいのがこれ!ダブルパネルドラムブレーキを動作させるためのセパレーターなんですが、博物館のレース仕様を参考に自作したんです。最初はアルミで作って、鉄製で削り出して作りました。本物はチタンですけど色具合だけでも似せられるようにサビ加工までしているんですよ」と、そのこだわり具合は並大抵じゃない。
すでに引退しているものの、プラスチック加工の職人としてモノ作りに携わってきた『職人気質』が感じられる。
実は、職人だった頃の人脈はカーライフにも役立っているそうで「旧車に乗っていると欠品パーツに困ることがありますが、そんなときはモノ作りの人脈を活用して作ってもらえるところを探し出し、オーナーズクラブの仲間たちといっしょにある程度の数をまとめて作ってもらうんです。窓ガラスのゴムモールとか、エンブレムとかね。そういう点においては、おなじ車種に乗っておなじ痛みがわかっている仲間はとても重要ですね」と川越さん。
取材にお邪魔した日も、昔からのバイク仲間や近所のクルマ仲間が、撮影のお手伝いに集まってくれていた。
ちなみにこのグロリアの今後について伺ってみたところ、20代後半の息子さんにいずれ引き継ぐ予定とのこと。
以前に使っていたガレージよりも規模を縮小し、荷物や設備もだいぶ整理したというものの「まだまだやりたいことはたくさんあるんですよ」と語る川越さん。
愛車たちが収まるガレージで、気の合う仲間と愛車談義に花を咲かせるようすは、クルマ好きならだれもが憧れる姿ではないだろうか。
エンジン音を動画でチェック!
(撮影: 市 健治)
[ガズー編集部]
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