トヨタ通のオーナーが選んだ“最後の愛車”は、幼い頃の祖父との思い出が蘇る2代目クラウン

会社経営者や官公庁などの公用車として多く使用され、昭和30年からトヨタの最上級車種として憧れの存在であり続けたクラウン。残念ながら2020年11月についにその生産終了が報じられたものの、それぞれの世代で多くのオーナーやファンに愛されてきた。
その中でも2代目クラウンに格別のこだわりを持っていらっしゃるのが、神奈川県在住の大塚宏さん(55才)だ。

大塚さんが所有するのは1963年式トヨペットクラウンデラックスの初期型(RS41)で、希少な涙目テール&トヨグライド付モデル。
「そもそも僕がこのクラウンを好きになったのは、祖父がこのクラウンに乗っていて、よく乗せてもらっていたからです。5才にならない頃の記憶なのに『すごくカッコいい!』と鮮明に思い出に残っていて、いつかは乗りたいとずっと思っていました。だから僕にとってのクラウンは40系の涙目と丸テールだけなんですよね。19才で免許を取った時にはまずこのクラウンを探したんですが、全然出回っていなくて当時は一旦諦めたんです」

こうしてクラウンは諦めたものの、小さい頃から家族や親戚など周りのクルマがトヨタ車オンリーだったこともあり、トヨタに特化した愛車を乗り継ぐようになったという。

「2010年頃にパブリカを3台持っていたんですけど、ずっと欲しかった2代目クラウンを最後の1台にしようと決意し、3台すべて手放してこのクルマを手に入れました。自分にとっては40代半ばでの大決断でしたね(笑)。ちなみに最初は祖父が乗っていた丸テール2型を探していたんですけど内装がダメなクルマが多くて、なかなか決めきれずにいたんです。そんな時に内装含め全体の状態がかなり良い涙目テールの初期型が出てきて、これに決めました。今となると初期型は1年だけしか発売されていなくて非常に希少価値が高かったので、結果的には良かったと思っています」

そんな大塚さんは「工場から出てきた状態のフルオリジナルで乗るのが僕のこだわり」と力強く語るだけあって、たくさんの苦労や努力を積み重ねながら今の美しい状態を維持されている。

外装は購入前に一度純正カラーにオールペン済みで、購入後に装着したという新品エンブレムもとてもキレイな状態だ。
そして購入時には14インチのホイールとキャップが装着されていたが、純正の13インチ5穴ホイールとホイールキャップに戻している。

また、外装で特にこだわったのが純正の“短足ミラー”。
「クルマを買った時には足の部分が長いミラーが装着されていたんですけど、これは63年6月くらいからの純正仕様なんです。でもこのクルマはそれより前のおそらく4月登録なので、純正はこの短足ミラーのはずで。それでイベントで偶然見つけた時には興奮して即購入しました!」と、フルオリジナルへのこだわりと、そのための知識や情報量も並大抵ではないのだ。

一方、趣のある西陣織の純正シートカバーが目を惹く内装も、インパネ周りや珍しい曇り止めのデミスターなども含めてフルオリジナル状態。しかし購入時は運転席の背面シートが切れていて、そこだけは「どうしても直したいが綺麗な生地など残ってないから無理だろう…」と諦めていたそうだ。

ところが、大塚さんの願いが通じる奇跡は起こった。
「過去に別の愛車でお世話になったことのあった内装専門業者の須藤さんが、雑誌でこの西陣織の生地をたまたま広げて持って写っている記事を見つけたんです。ビックリしてすぐに電話し実物を確認。グリーン系とグレー系という違いはあったものの、そんなに気にならないレベルだったので張り替えをお願いしました。生地自体もギリギリ張り替えられる分しか手元になく失敗は許されない状況で、一発で仕上げていただきました。張り替えた新品特有の硬めでザラザラとした手触りの背面生地は『ああ、なつかしいなぁ』と5才の頃の記憶と同じで感激しましたね」

そんな経緯もあって、この張りなおしたシートは大塚さんにとって1番のお気に入り箇所になっている。

トランクは当時の内装がそのまま残っているだけでなく、スペアタイヤも当時のモノがそのまま収まっているのもポイントだ。

このクラウンは新車で栃木県にある会社の公用車として約3年使用された後、その運転手だった方が引き継いで亡くなるまで大事に乗られていたという。その後は当時からメンテナンスを担当していた整備工場の方がしばらく所有した後にショップで販売されていたのを大塚さんが購入したそうで、その間にエンジンはいちど載せ換えられているそうだ。

「乗り心地も良いですし、フルフレームでボディ自体はとてもしっかりしているのでこの年式にも関わらず曲がる時にも軋む音はほとんどしないんですよ。ただ、トヨグライドは半自動オートマティックで2速発進ベースになるのですが、緩い坂道ではL発進じゃないと厳しいんです(苦笑)」とのこと。

ちなみに「十中八九、壊れると思っていた」というトヨグライドも、実は2度もオーバーホール済みだったことを後で知ったものの「今壊れたら直せるお店が見つからないので、壊れないことを祈るしかないですね」と、不安材料であることに変わりはないようだ。

「僕のクラウンのイメージは、祖父が乗っていた中期型の丸テールだったんですが、マイナーチェンジごとのコストダウンなどの影響もあって僕が持っている初期型が一番よくできているし、希少価値も高いと思います。そんなすごいクルマだからこそ、小さなパーツであっても元にもどしてフルオリジナルにして大切に保有することが僕のこだわりなんです。それに小さな頃からの憧れだったクルマに乗れたので、悔いなく自分の好きなクルマに乗れて、ほんとうによかった」

そんな大塚さん、実はこの涙目クラウン以外にも現在はTE27とAE86レビンと、旧車を3台所有している。「AE86は6年落ちで購入してからフルオリジナルのまま28年間大事に乗っています。TE27は2台目なんですが、このクラウンを買った後に出てきて買わずにはいられませんでした」
これらはすべてナンバー付きで、大塚さんはメンテナンスの一環として休みの日には毎週2台ずつ街乗りをして調子を見るようにしているというから、その愛情の深さが感じられる。

ちなみに保有しているTE27は息子さん、AE86は娘さんに譲りたいと考えているそうだが、クラウンについてはちょっと違う。
「僕の想いが強すぎるこのクラウンは、維持やメンテナンスなどまで考えると乗り続けていくのは大変だと思います。このクルマはあくまでも僕だけの思い出なんです。だから子供たちに引き継ぐとかは考えていません。ただ、いつか手放すときは、買ってくださった方がフルオリジナルの状態を保って大事に乗ってもらえればいいなと思っています。それがこのクラウンにとっても幸せだと思いますから」

数々のトヨタの旧車を乗り継いできた大塚さんにとって最も特別な一台 “40系の涙目と丸テールのクラウン”。フルオリジナル状態へとさらに近づけつつ、快調さを保って乗り続けていくために、大塚さんのこだわりはまだまだ続く。

エンジン音を動画でチェック!

(⽂: ⻄本尚恵 / 撮影: 平野 陽)

[ガズー編集部]

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