1台目の愛車からパーツを移植してでも乗り続けたい…。1985年式トヨタ・MR2 Gリミテッド改(AW11型)

生産より歳月を経た古いクルマにはトラブルがつきものだ。現代の、しかも最新モデルのようにある面、トラブルフリー・メンテナンスフリーというわけにはいかない。古いクルマを所有し、維持していくにはそれなりの覚悟が必要だ。経験者であれば想像できると思うが「好きだから」ではどうにもならないこともある。

現在49歳という今回のオーナーも、若いときに好きだったクルマ、1台目のトヨタ・MR2 Gリミテッドを手に入れたのが約5年前。相応の苦労を伴いながら蜜月の日々を送っていたが、あるとき致命的なトラブルに見舞われた。迷ったすえに、現在の愛車となる鮮やかなオレンジ色に塗られた個体をボディとして、グレードが同じ2台目を手に入れた。その後、MR2に精通した主治医の作業によって1台目の愛車のパーツを可能な限り2台目に移植することで、姿を変えて甦ることができたのだという。

「このクルマは、1985年式トヨタ・MR2 Gリミテッド(以下、MR2)です。手に入れたのは先月なので、まだ1ヶ月くらいです。実は、前のクルマも同じ型のMR2でして…。こちらは約5年ほど乗りました。致命的なトラブルがあり“箱替え”という形で現在の愛車に乗り換えたんです」

AW11型、いわゆる初代MR2は、1984年に日本初のミッドシップ2シーター車としてデビューを果たし、マイナーチェンジを経て1989年まで生産された。ボディサイズは全長×全幅×全高:3925x1665x1250mm。エンジンは、前期型に1.6リッター直列4気筒DOHCと1.5リッター直列4気筒SOHCがラインナップされた。後期型になると、AE86をはじめとするカローラと同じ4A-G型エンジンにスーパーチャージャーを組み合わせた最高出力145馬力を誇る4A-GZE型エンジンを搭載したモデルなどもラインナップされた。余談だが、ファンの間ではコミック「オーバーレブ!」で、主人公が駆るマシンとしても知られている。8月20日に、10年後を描いた続編となる「クロスオーバーレブ!」のコミック第1巻が発売されたばかりだ。

ところで、“箱替え”とはそれまで所有していたクルマのエンジンや部品などを新しいボディに「載せ替える=移植する」ことを意味する。関係する部品の脱着、ドナーとなるボディの確保。そして、何よりこれら一連の作業を的確に行える主治医の存在がなければ実現しない。当然ながら非常に手間とコストが掛かり、さらにコンディションの良いボディが見つからなければ何年も待ち続けることになる。オーナーの気合いや根性だけではどうにもならない。良いボディを引き寄せる運も必要となってくるのだ。それを充分に承知のうえで、オーナーは1台目のMR2の部品を移植し、維持したかったのだろう。

「私は現在49歳です。MR2の存在を知ったのは高校生のときでした。カッコイイクルマだと思いましたね。しかし、社会人になって手に入れたクルマはトヨタ・スープラツインターボR(A70型)の最終モデルでした。2シーターというのがネックになり、MR2の購入に踏み切れなかったんです。しかし、このスープラは結婚を機に手放しました。その後、ファミリーカーを何台か乗り継いだんですが、どこか満たされないんです。そこで、今から約5年前“ホンの出来心”で、中古車販売店で売られていたMR2を観に行ったんですね。本当に“見に行くだけ”のつもりで(笑)。しかし、ドアノブに触れた瞬間、“欲しい!”という気持ちが再燃してしまいまして…。中古車販売店の方がエンジンを掛けていいと仰るので、始動したら背後からエンジン音が聴こえてくるわけです。ミッドシップだから当然ですよね(笑)。すっかりMR2に魅せられてしまい、その場で購入を決めてしまいました」

オーナーはその場で1台目のMR2の購入を「決めてしまって」いる。既婚者の方は想像できると思うが、奥さまには事後報告ということになる。家族用ならともかく(それでも大変なことになりそうだが)、MR2はセカンドカー。あきらかにオーナーの“趣味車”だ。修羅場になったのではないかと心配になってしまったが…。

「納車したら自宅に乗って帰ってくることになるわけですから、その前に白状しました。妻は、最初のうちは冗談だと思っていたようですが…。案の定、修羅場です(苦笑)。しかし、1台目のMR2を手に入れた数ヶ月後に転勤が決まり、家族とは離れて暮らすことになりました。赴任先ではクルマが必要になります。これでMR2を手放さずに済む口実ができたといいますか…(笑)」

単身赴任という形で新たな生活をスタートすることとなったオーナー。もちろん1台目のMR2も一緒だ。そして、オーナーが休日のときのドライブのお供に活躍したようだ。しかし、30年以上も前に造られたクルマだけにトラブルにも悩まされたという。

「所有していた約5年半のあいだにあちこち壊れましたね。オーバーヒートが2回、オルタネーター・スターター・ウォーターポンプ・エアコンの故障…などなど。しまいにはエンジンやミッションからオイル漏れが起こるようになり、停めていると地面にオイルが垂れているのが分かるほどでした。1台目はAT車だったので、MR2を専門とするショップの主治医から『エンジンのオイル漏れ修理をすると、オートマオイルも漏れてしまう。もし交換する場合、ATが壊れてしまうリスクがある。これではいつまで乗れるかは保証できない』といわれてしまい…ショックでした。本当に壊れるまでいつまででも乗り続けるつもりでしたから」

このまま応急処置を繰り返して乗り続けても、そう遠くない未来に壊れて動かなくなる可能性がある。そこへ救世主が現れたのだ。

「いつも懇意にしてもらっている主治医のブログを見ていたら、ショップのデモカーとして保管されていたMR2のボディだけが売りに出たんです。しかも、私が所有しているMR2と同じグレード。“箱替えができるかもしれない”と思い、すぐさまショップに連絡して押さえてもらいました。こうして、1台目のMR2からエンジンと内装を移植してもらい、2台目となるMR2を完成させることができたんです。他の仕事もあるにも関わらず、1ヶ月ほどで完成させてくれたことに感謝しています」

こうして「誕生」した2台目のMR2は、ショップのデモカーとして想定されていただけに、あちこちに手が加えられているようだ。ボディ本体には強化ウレタンブッシュが組み込まれている他、あらゆる錆を除去した後、鮮やかなオレンジ色に全塗装されている。イタリアのバイクメーカー「ドゥカティ」のレース専用モデルのボディカラーをイメージして、主治医が何度も塗り替えを依頼するほどこだわった色合いなのだという。

極めつけは、職人の手による前後左右のフェンダーが制作され、3ナンバーのワイドボディ仕様になっている点だ。これだけで印象が激変する。当時は装着率が高かったリアスポイラーがないため、クルマ好きであっても初代MR2とは気がつかないかもしれない。さらに、ショップがデッドストックしていた純正部品が惜しみなく投入されている点にも注目したい。すでに製廃(製造廃止)された貴重な部品も含まれており、かなり手の込んだ仕様となっている。この状態で車検を取得し、オーナーへ引き渡されたという。

辛い別れのあとに訪れた思いがけない幸運。オーナーにとっても新たな発見の機会となったようだ。

「今回のMR2はMT車なんです。AT車とは段違いに面白いですね。MTになると同じエンジンでも、吹けあがりやフィーリングがこれほど変わるものかと初めて知りました。運転していても、楽しくて仕方ありません。古いクルマであることに変わりはないので、エンジンの吹き上がりの良さを味わいつつ、ていねいな運転を心掛けています」

最後に、今後愛車とどう接していきたいかを伺ってみた。

「このMR2のデザインが好きなんです。いつまでも眺めていられます。小学生くらいの子どもたちに抜群のウケを誇るリトラクタブルヘッドライトもお気に入りです。そういえば、実はまだ妻と2人の娘にはこのクルマのことは話していないんです。実用的なクルマではないだけに、なかなか理解してもらえなさそうですね(笑)。でも、安全運転を心掛けつつ、いつまでも楽しく乗り続けたいです」

欲しいクルマはお金を出せば買えるかもしれない。だが、一生モノとなると話は別だ。憧れのクルマに失望することもあるだろうし、飽きることだっていくらでもある。情報が氾濫する現代では、想わぬ誘惑に出くわすことも少なくない。オーナーのような「一途でいられる人」は意外なほど少ないのだ。本気でこのMR2に惚れ込んでいるからこそ、今回のようなスペシャルオファーが舞い込むのかもしれない。今回のできごとも、偶然であって実は偶然ではなく、“嫁ぐべきところに嫁いだ”必然に思えてならないのだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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