“つなぎ”のつもりで手に入れたスターレット(KP61)が『羊の皮を被った狼』仕様になった理由
700kg台の軽量ボディとFR駆動の軽快なドライビング性能を武器に、ラリーやレースで活躍した2代目スターレット(KP61型)。当時は中古車市場でも比較的安価に手に入れることが可能で、入門レースから峠の走り屋にまで人気を博した車種だっただけに「ケーピーでウデを磨いた」という元オーナーも少なくないのではないだろうか。
群馬県在住の松本隆人さん(43才)も、そんなスターレットの魅力にハマり、約20年に渡って乗り続けてきたオーナーの1人だ。
「スターレットは部品取り車も含めると現在の愛車が6台目になるかな。これにチャイルドシートを付けて、家族と一緒にイベントやドライブにも行きますよ」という松本さん。
外見はオーバーフェンダーやスポイラーが装着されていないノーマル然とした印象なので、イベント会場では素通りする人も少なくないそうだけれど、クルマ好きならそのエンジンサウンドを聴いた途端に思わず振り返ること必至だ。
それもそのはず、このスターレットのエンジンルームに収まっているのは、インテーク/エキゾーストともに320度というレーシーなプロフィールのカムシャフトが組み込まれ、ウェーバー製キャブレターなどが奢られたチューンド4K-Uエンジンなのだ。
しかも、ここまで手を加えているにもかかわらず『メインの愛車をリニューアルしている間のつなぎ』だというから驚きだ。「ここまでの事情を話すと、少し長くなるけど…」という松本さんの話を伺った。
「18才で免許を取得したものの、当時は特にクルマ好きというわけではなかったんです。でも、20才の時にお世話になっていた方がジムカーナをやっていて、その助手席で異次元の体験をしてから、人生が変わりましたね」と松本さん。
そこから一気にクルマの楽しさにハマり、AE86を手に入れると毎晩のようにガソリンがなくなるまで走りまわり、ガソリンとタイヤとオイルに全財産をつぎ込む生活を送っていたという。
しかし、1年ほどその生活を続けた結果、壊れた愛車を修理することができない状態となってしまい、泣く泣く手放すことに。
それから数年はアメ車やSUVなどを乗り継いでいた松本さんだったが、サニトラに乗っている時に友人から誘いを受けたことで転機が訪れる。
「AE86を降りてからも、まわりの友だちはクルマ好きばかりだったんですが、その頃はみんながKP61に乗っていて『おなじクルマなら部品の融通も効くし、お前も買い替えて一緒に遊ぼうぜ』と誘われたんです。自分だけサニトラでイジるのに苦戦しているよりも、そのほうが楽しいかなと思って乗り換えました」という松本さん。
後期型のスターレットを手に入れたことを機に、クルマいじりや走りへの気持ちが再燃! さらに、このクルマでサーキットを走るようになったのをキッカケに、自分でメンテナンスをしていることに不安を感じるようになり「プロに作業をお願いしよう」と決意するに至ったという。
そこで、新たに中期型(当時はひとケタ万円!)を入手。プロショップの手によってボディ補強やエンジンチューンまでイチから仕上げた1台を完成させた。光の当たり具合によって色が変化する特殊塗料を使った明るいグリーンのボディカラーが特徴で、愛称は『カエル号』だ。
このカエル号でサーキット走行やイベント参加を楽しんでいた松本さんだったが、数年後にまたまた転機が訪れる。「交通事故にあって収入が途絶えてしまった時期があって、なんとか車体だけは手元に残したものの、搭載していたフルチューンのエンジンを手放してしまったんです」
心臓を失ってしまったカエル号は、知り合いのショップに預かってもらい、各部のリメイクもおこないながら、ゆっくり時間をかけて復活させることにしたという。
しかし、クルマを預けてから3年ほどが経過し、カエル号の無い生活に我慢できなくなった松本さんは「カエル号が戻ってくるまで」と、1982年式(中期型)のスターレットDXを購入してしまう。そう、これが現在の愛車である。
もともと前オーナーによってある程度まで仕上げられたクルマだったこともあり、自分では手を加えたりせず、そのまま乗るつもりだったのだが…。
「オイルシールが劣化してオイル漏れがヒドかったのをキッカケにエンジンをオーバーホールすることにしたんですが、どうせならとストックしていたピストンやハイカムを組み込むことにしました。それから、もともと装着されていたソレックス製キャブレターも調子が悪かったけれど修理部品がなかったので、新品のウェーバー製に交換しました。メーターも、DXグレードはタコメーターがないのでSグレードのものに取り替えています。こんな具合に『修理のついで』がどんどんエスカレートしてしまったんですよね(笑)。ちなみにパワーは120psくらいですが、ボディが軽いので気持ちよく走ってくれますよ」
『メインの愛車は長い間冬眠したまま』『我慢できずにサブマシンを入手』『修理のついでがエスカレート』という、クルマ好きの“あるある”を積み重ねた結果が、この愛車というわけだ。
もともと“当時モノ”にはこだわりがなく、交換するなら新しくて性能の良いものに、というのが松本さんの考え方。
エンジンパワーの向上にともなって、カエル号に装着していたビルズ製の別タンク式サスペンションを仕様変更して組み込み、追加メーターやバケットシートなども装備した。さらに、街乗り用とは別にクロスミッションも所有していて、自分で交換してサーキットに走りにいくこともあるという。
「おなじ年代のサニーなんかはパーツがたくさんあるけど、スターレットは純正パーツが手に入らないので維持するのが大変だし、レースでも台数が少なくて悔しいんですよね。ミッションのギヤは社外品があるけど、純正シンクロが手に入らなくて組めない、みたいな。最近、復刻版ヘリテージパーツが話題になっていたりするので、ぜひスターレットの部品もお願いしたいです!」と松本さん。
「中期型のリヤハッチの形状が好きなんです。後期型は少し形状が違うんですよ。それから、普通っぽさを出すために作ったトヨタオート郡馬のステッカーも、地味だけどこだわりのポイントかな」とのこと。
そんな松本さんのクルマ好きっぷりは、クルマいじりの環境にも現れている。自宅の敷地内に建てられたガレージには溶接機やエアコンプレッサーなども装備され、クルマ仲間の憩いの場となっている。また、譲り受けたプレハブを自分で改装したという趣味部屋も大のお気に入りだ。
ちなみに電気工事が本職なので、ガレージやプレハブの工事は自分で行ったそうだ。
もちろんカエル号の方も、搭載予定の4A-Gエンジンパーツやブレーキキャリパーなど、復活に向けた作業も少しずつ前進している。
さらに「尊敬する知り合いから、所有していたストックパーツごとパブリカを譲り受けたんです。もともと直立仕様のエンジンを搭載した有名なゼロヨンマシンなので、カエル号が仕上がったら、次はこっちも走らせられるようにレストアしていきたいなと思っています。型式はおなじ『KP』だし、エンジンをはじめ共通部品も多いですからね」と今後のカーライフの妄想は膨らむばかりのようす。
「イベントに行くときは家族を連れて行くことが多いんですけど、小学校3年生になった娘がいつまで付き合ってくれるか…。一緒に乗ってくれるうちに、なんとかメイン機の方を仕上げたいですね」と松本さん。
リニューアルが完成した愛車に愛娘を乗せて、このガレージからイベント会場に向かう日が、無事に訪れることを願うばかりだ。
この愛車のエンジン音を動画でチェック!
(撮影: 平野 陽)
[ガズー編集部]
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