愛娘が18年所有する愛車は父親も魅了した。1991年式ダイハツ リーザスパイダー(L111SK型)
女性がオープンカーに乗り、髪をなびかせながら颯爽と街中を走り去る…。
男性はもちろんのこと、女性でも思わず振り返ってしまうに違いない。
ストレートに表現すると「女性がオープンカーに乗る姿は理屈抜きにカッコイイ」と思っているのは筆者だけだろうか?
今回、取材させていただいた女性オーナーがまさにそうだ。一応、伏せておくが、もしかしたら、この個体を見るだけでオーナーが誰なのか?すぐに想像がつく方もいるかもしれない。実は、それくらいちょっと知られた方、でもある。それはさておき「いつの時代も、女性とオープンカーの組み合わせは本当に素敵だ」と心から感じた取材の模様をお届けしたい。
「このクルマは、1991年式ダイハツ リーザスパイダー(L111SK型、以下、リーザスパイダー)です。所有歴はおよそ18年です。現在のオドメーターの走行距離は約25万キロ、手に入れてから20万キロほど走りました。運転免許を取得後、母からスズキ セルボモードを譲ってもらったことはありましたが、自分の名義で購入したクルマはこのリーザスパイダーのみです」
リーザスパイダーは、リーザをベースにオープンモデルとして1991年に追加販売されたモデルだ。オープン化に伴い2シーター化され、リアシートの部分はラゲッジスペースとなる(メーカーオプションで専用のボックスを選択することができた。オーナーの個体は貴重なボックス付きのモデルとなる)。
ボディサイズは全長×全幅×全高3295×1395×1345mm。「EF-JL型」と呼ばれる、排気量659cc、直列3気筒SOHCエンジンが搭載され、最大出力は64馬力を誇る。生産期間は約2 年。その間の生産台数はわずか380台という説が有力で、数ある日本車のなかでもレアな存在のクルマといえる。ちなみに、車名の「リーザ」は、多くの人々に愛されるモナリザのような、魅力的なクルマに、との願いがこめられたものだという。
では、なぜオーナーがリーザスパイダーの存在を知り、そして購入にいたったのか?誰もが気になるところだろう。
「このクルマを選んだきっかけのひとつは、私の父の影響が大きいと思います。父はクルマとバイクが好きで、MGB(イギリス製のオープンカー)に乗っていたこともあるそうです。ただ、私はまだ幼かったので、このクルマの記憶はありません。自分のクルマを買おうと決めたとき、オープンカーを探していたことは事実です。当初はスマート カブリオかプジョー205CCが候補だったんです。私のなかではほぼスマート カブリオに決めていました」
スマート カブリオからリーザスパイダー…。同じオープンカーのカテゴリーとはいえ、輸入車から日本車、そして生産時期など、思い切った方向転換に思えるが…。
「当時、私は“VOUGE”という名のモペッド(ヨーロッパではポピュラーなペダル付きバイク)を所有していました。馴染みのバイク屋の社長さんが『こんなクルマがあるよ』と教えてくださったのがリーザスパイダーだったんです。ちょっと変わった乗り物が好きな私は、リーザスパイダーに一目惚れしてしまいました」
総生産台数が400台にも満たないクルマであり、購入時ですでに生産終了から年月が経っているクルマだ。コンディションが良い個体を探し出すのは苦労したのではないかと察するが…。
「そうですね。半年くらい探しました。私が希望していたリーザスパイダーの条件は『ボディカラーはジュリアンレッド』、『MT』、『あまり改造されていない』仕様でした。リーザスパイダーのボディカラーはジュリアンレッドとブラックメタリックの2色のみで、人気があったのは後者のようです。私の希望の組み合わせは、詳しい方にお聞きしたところによると21台しか生産されていないそうで、売り物を見つけたときは、すぐさま現金を持って住まいから遠く離れた京都まで父に連れて行ってもらいました。このときは父にも現車をチェックしてもらい、即決しました。希望の条件をクリアしつつ、ほぼフルノーマルの状態で、さらにオプション装備が満載の仕様だったんです。これは私の推測ですが、生産番号も若い方でしたし、ディーラー向けの展示車だったのかもしれません」
ついに念願叶って手に入れたリーザスパイダー、所有してみてどのような変化が起こったのだろうか?
「実は、手に入れた当時は日常生活の足のような存在でした。市街地に住んでいたので、買い物も徒歩で済ませられるような生活でしたし、リーザスパイダーで遠出するのは実家に帰省するときくらいでしたね。あるとき、オープンカーの集まりに参加してみたんです。リーザスパイダーに乗っているということで声を掛けていただいたりしているうちに少しずつ知り合いが増えていって、そのうちツーリングやオフ会に参加するようになり、いつの間にかハマっていったんです」
実家に帰省する際はリーザスパイダーに乗っていく…とのことで、クルマ&バイク好きである父親の反応も気になるところだが…?
「リーザスパイダーを見たときの父の反応は『ええなぁ』でした(笑)。以前の父はどちらかというとバイクに傾倒していたので、クルマはトランスポーターの役割だったようです。しかし、私がリーザスパイダーを購入したことで触発されたのか、その後、ダイハツ コペンを経てマツダ ロードスター(ND型)を手に入れてしまいました」
父親に影響を受けた愛娘の愛車を見て、今度は父親が触発されるというほほえましいエピソードに思わず癒された。ところで、一見するとフルオリジナルに見えるリーザスパイダーだが、よく観察するとオーナーがモディファイした箇所もいくつかあるようだ。
「交換したのはパーソナル製のステアリングと、自作のシフトブーツくらいです。パーソナル製のステアリングは40代以上の方から『シブいね』っていわれます(笑)」
早18年の付き合いになるこのリーザスパイダーの気に入っているところは?
「『気軽に屋根を開けて走れるところ』ですね。幌の開閉も簡単ですし、女性でも重さを感じさせない点も気に入っています。ほぼ8割はオープンにして走っていますね。なかでも夕日が沈む時間帯に海沿いを走るのが好きです。あとは峠道も。ただ、サイドウィンドウがすべて下まで降りず、少し出っ張るため、ふとしたときにドアに肘を乗せにくい点はマイナスかな…(笑)」
では、リーザスパイダーを維持するうえでこだわっているところは?
「できるかぎりノーマルで乗っていたいですね。主な整備はダイハツのディーラーさんにお願いしており、必ず半年に1度は点検してもらっています。予防整備についてのアドバイスも的確ですし、とても親身になってくれます。私としては壊れる前に直しておきたいタイプなので、非常にありがたいです」
あまりにコンディションがよいのでにわかには信じがたいが、実は生産されてから30年近く経つクルマだけに、これまで部品を交換したり、トラブルに見舞われたこともあるのではないかと思うが…。
「幌はこれまで2回交換しました。あと、昨年クラッチも交換しました。故障といえば、オルターネーターのトラブルがありましたね。あと、雨漏りもします。10年ほど前、同じボディーカラーにオールペンした際にステッカーをはがしてしまったので、在庫があるものは取り寄せ、生産終了しているものはスキャンして新たに作成してもらいました」
この取材を続けていると、愛車の所有歴が10年、20年、はたまたそれ以上(!)といったオーナーとお会いする機会が多い。
これはあくまでも筆者の感覚値だが、10年がひとつの目安ではないかと思えてきた。
新車で購入して年間1万キロペースなら、ちょうど10万キロに到達するタイミング。トラブルや交換部品が増えてくる時期だ。ここでお金を掛けてきっちり直すか、一区切りだから乗り替えるかは人それぞれ。おそらく、オーナーは前者なのだろう。
最後に、この愛車と今後どのように接していきたいか伺ってみた。
「可能な限り、そしていままでどおり、このクルマでいろいろなところに出掛けたいです。リーザスパイダーの走行距離が年間1万キロペースなので、今度帰省したときにこのクルマを実家に置いて少し休ませつつ、代わりに父がロードスターの他に所有しているマツダ AZ-1に乗って帰ってこようかと密かに考えています(笑)」
愛娘が大人になり、リーザスパイダーを愛車に選んだことは父親の影響が大きいように思う。しかし、今度は愛娘が所有するリーザスパイダーの影響を受けた父親がダイハツ コペンを購入。それを何と30万キロも走破したのち、フルモデルチェンジした現行モデルのマツダ ロードスターに乗り換えたのだという。さらに、オーナーの実家にはAZ-1まであるというではないか!!(さらに、かつて兄弟車のスズキ CARAまで所有していたというから驚くしかない)。
インタビューが終わったあと、オーナーがふとこんなエピソードを話してくれた。
「そうそう、実家に帰省したときは父と一緒にドライブに出掛けます。しかもわざわざ別々のクルマで(笑)」
父親が愛娘の帰省を“まだかまだか”と待ちわびる光景が目に浮かぶようだ。そして、それぞれの愛車を走らせるときは、幌を開け放ち、オープンの状態にしているに違いない。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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