30年以上の時を経て26歳のオーナーを魅了する、1992年式マツダ センティア エクスクルーシブ(HDES型)
今回の取材でこのクルマを目の前にした瞬間、心が“あの頃”へタイムスリップした。
筆者が新社会人の頃、入社した職場の先輩がマツダ センティアを所有していた。「リアにかけてのフォルムがたまらない」と、うれしそうに幾度も話すほど自慢の愛車だった。いまでも流麗なフォルムが強く記憶に残っている。
気づけば街で見かける機会もなくなっていた。今回、久々に再会したセンティア。憧れのクラスメイトが昔と変わらず素敵だったような……。まるでときめきに似た感情に包まれた。
このセンティアを所有するのは、26歳の男性オーナーだ。職業はカーラッピングや洗車・ボディコーティングを施工するプロショップに籍を置く。
今回の取材は、オーナーの希望もあって勤務先で行うこととなった。自身の愛車の手入れを後回しにせざるを得ないほど多忙なようで、取材当日もマクラーレンやメルセデス・ベンツ、BMWなどの高級車が入庫していた。
入庫していたクルマの磨きを終えて、ようやく仕事が一段落したようだ。多忙ななか、快く取材に応じていただいたオーナーに改めて感謝の気持ちを伝えたい。
「このクルマは、1992年式のマツダ センティア エクスクルーシブ(HDES型/以下、センティア)です。所有2年目に入ったところで、現在の走行距離は約9万2000キロ。私が実際に走行した距離は3000キロくらいです」
センティアは、長年マツダのフラッグシップセダンだったルーチェの後継モデルとして初代モデルが1991年にデビュー。1995年に2 代目へとフルモデルチェンジを行い、2000年まで生産された。また、マツダが展開していたブランド「アンフィニ」の販売店では姉妹車「MS-9」として販売された。
走りにもこだわっており、搭載されるテクノロジーのひとつ「車速感応型4WSシステム」は、車速に応じて小回りを利かせたり、旋回時や高速走行時の安定性を高めたりを可能にしている。
マツダらしいスポーツ志向の強さも感じられる。例えば「可変バルブ付きマフラー」。低回転時は1本で排気し、高回転にするとバルブが開いて2本出しになり、排気効率を向上させる。
そして多くのクルマ好きを虜にする個性的なデザイン。手掛けたのは、初代ロードスターのデザインで知られる田中俊治氏だ。
センティアを「和製ジャガー」と呼ぶ声は多いが、同社のRX-7(FD3S型)を思わせる官能的な曲線で構成されたフォルムは、色褪せることのない美しさを誇る、サッシュレス式ドアを採用したピラードハードトップ仕様だ。当時、ここにいたるまでいくつものクレイモデルが制作されるなど、難産のすえに誕生したフォルムなのだ。
オーナーが所有するセンティアのボディサイズは、全長×全幅×全高:4925×1795×1380mm。駆動方式はFR。トランスミッションは4ATのみ。「JE-ZE型」と呼ばれる、排気量2954ccの水冷V型6気筒DOHCエンジンが搭載され、最高出力は200馬力を発揮する。そして、センティアのエンジンにはV型6気筒の2.5Lと3Lの2種類が用意されていた。
センティアの世界感を見事に表現した美しいCMも印象的だった。「人生とやらを、愉しむクルマです」のキャッチコピー、そしてCMソングに起用されたエルトン・ジョンの「Goodbye Yellow Brick Road」のメロディも、このクルマのイメージにとてもマッチしていたように思う。
また、車速感応型の4WSシステムや、サンルーフ部分にソーラーパネルが組み込まれ太陽光をエネルギー源として車内を換気する、世界初の「ソーラーサンルーフ」が採用されるなど、新しい技術にも挑戦したマツダの意欲作といえる。
余談だが、オーナーが所有する最上級グレード「エクスクルーシブ」ならではの装備として、本革シートが標準装備となる(他のグレードはオプションまたは選択不可)。
現在26歳のオーナー。これまでどんなカーライフを歩んできたのだろうか。愛車遍歴とともにセンティアに出会った経緯を詳しく伺った。
「実は最初、クルマに興味がなかったんです。いまでこそクルマ関係の仕事をしていますが、アルバイト先だったガソリンスタンドが洗車サービスに力を入れていたので、そのつながりでいまの仕事と出会いました」
冒頭でも紹介したが、オーナーはコーティングや洗車などを施すショップに勤務している。ここで、カーケア業界の現状を尋ねてみた。
「洗車技術はここ数年で劇的に進化しています。クルマに例えると、80年代から一気に現代のクルマになったような感じですね。プロ仕様に近い液剤や道具を一般の方が入手しやすくもなっているんです。それだけに、お客様の目が肥えたことでよりクオリティの高い仕事を要求されるようにもなりました。生き残るには、価格よりも品質を上げることが強みになると考えています」
ユーザーの目が肥えてきているなか、プロに必要なものとは?
「忍耐力だと思います。手先の器用さよりも作業の丁寧さや、技術向上のための鍛錬が継続できるかどうか。作業を終えてチェックしてみて納得がいく仕上がりになっていない場合、“これでいいや”と妥協するのは簡単です。しかし、仕上がりを楽しみにしているお客様のことを思うとそれは許されません。品質を追求するための忍耐力が必要です」
そう話すオーナーが本格的にクルマ好きになった時期はどのあたりなのだろうか。
「クルマ熱が上がったのはここ5年間でしょうか。特に惹かれるのは『ネオクラ(ネオクラシック)』と呼ばれている80年代のセダンやステーションワゴンです。なかでも人生観を変えた1台は、最初に乗った日産シーマ(Y31型)なんです。自分の中にある『かっこいいセダンとは』みたいな価値観の基礎を作った1台ですね」
Y31型の日産 シーマといえば、1987年から1990年にかけて生産された高級車だ。俳優である伊藤かずえ氏の愛車としても知られ、大規模なレストアで話題となったことは記憶に新しい。
「Y31型シーマからマツダ ファミリアバン(BF3V型)に乗り替えて、つい最近まで所有していたんです。Y30型のセドリックバンも一時期所有していました。クルマの好みとしては、フラッグシップモデルでありながら、スポーティさを併せ持ったセダンが好きなのだと思います。例え現行モデルであっても、クルマ好きが楽しめる性能を備えつつ、高級車としての威厳を示すセダンに惹かれます。このまま頑張って仕事を続けて、もし可能であればベントレー フライングスパーにも乗ってみたいです」
そんなオーナーがセンティアに惹かれた経緯を伺った。
「センティアは、シーマに乗っている頃から気になる存在でした。いよいよ欲しいという気持ちが高まり、知人にクルマ探しを依頼。するとその翌日に出てきたんです。しかも最上級グレードのエクスクルーシブ。もともと中古車のタマ数が少ない車種なので、もっと時間が掛かると思っていました」
センティアは個体数が少ないうえ、おそらくネットでしか情報がない状況だったはずだ。実際に乗ってみた感想を尋ねてみた。
「走りの良さに驚きましたね。この走りで3LのNAなのがすごい。ネットでドライビングインプレッションに関する詳細な情報がほとんどなかったので新鮮でした。なめらかな乗り心地だけどパワフルで、しっかり“高級車”していると思います」
センティアを購入してまもなく、大規模な全塗装を決行したというオーナー。そのこだわりも、洗車やコーティングを仕事とするオーナーならではのものだ。
「全塗装を行う際、前後ガラスのモールとエンジン以外はすべて分解しました。ボディカラーはインフィニットブルーからマツダ純正色のボルドーマイカに塗り直しています。ツートンカラーの下の部分はカラーコードがわからないので、もっとも似た色のスバルの純正色チタングレーメタリックを代用しています。こだわった部分は、前後ガラスのモールとエンジン以外はすべて分解してから塗装していることです。クリアを4回塗り、800番から3000番までのサンドペーパーで研いでからの磨きを入れて、かなり鏡面に近い塗装面に仕上げています」
塗装するために車体を分解した際、驚いたことがあったそうだ。
「前オーナーさんは屋内保管をしていたらしく、大変美しいコンディションでした。屋内保管は湿気によって錆が出やすいデメリットがありますが、塗装の際に分解したとき、錆がほとんど出ていなくて驚きました。洗車後に走って水分を飛ばすなどを徹底していたと思われます。私も洗車後は必ず走って錆を防ぐので、前オーナーさんのこだわりが理解できます。もう一点、ハイレフコート塗装の耐久性が発揮されていました。30年以上経過している車体とは思えないほど綺麗でしたね」
センティアにすっかり惚れ込んでいるオーナーだが、聞けばいちばん美しく見えるアングルがあるという。
「真横からのアングルがもっとも美しいと思っています。トランクとボンネットの割合が黄金比!美しいクルマは統一感があるのだなと、あらためて感じさせてくれますね」
最後に、このセンティアと今後どう接していくつもりかを伺った。
「実は…気持ちが揺れ動いています。センティアをきれいに仕上げたけれど、仕事が忙しくてきちんと面倒を見てあげられていない気がするんです。一応、屋根付きの車庫は確保したんですが…。とにかくいまは、自分が乗るかぎりは大事にしていきたいです」
大切な愛車だからこそ、距離感がつかめないときがある。乗りたくても乗れない。そんなもどかしい時間が長く続けば続くほど悩んでしまうこともあるはずだ。オーナーにとって、まさにいまが「頑張りどき」なのかもしれない。
こうしてオーナーとセンティアのことが記事になり、改めてご本人に目を通していただくことでどんな心境の変化があるのか、改めて伺ってみたいと思う。結果はどうあれ、何らかの形でオーナーにとってエールとなることを願うばかりだ。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき / 取材協力: Un cuore)
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