ベンコラ&ステーションワゴンに魅力を感じて。1996年式日産・グロリアワゴン SGL リミテッド(WY30型)
お気に入りの愛車と過ごす日常は、まさに「蜜月の日々」だろう。
それだけに、このクルマを手放したら、今後の人生がどうにかなってしまうのでは…と本気で心配する人も少なくない。
問題は、クルマにトラブルが相次いだときだ。
一般論として、古いクルマであればあるほど故障する確率が高まっていく。
そんなとき、ふと魔が差すことがある。「もう、そろそろ手放そうかな…」と。このタイミングで手放すと、多くの場合、後々後悔することになる。そんな経験をした人も少なからずいるはずだ。
トラブルに見舞われたときこそ、愛車に対する本気度が試されているのかもしれない。
今回は、手に入れてから現在に至るまで、手元にあったときよりも修理工場に預けていた時間の方が長く、それでも変わらず愛車と向き合い続けるオーナーを紹介したい。
「このクルマは、1996年式日産・グロリアワゴン SGL リミテッド(以下、グロリアワゴン)です。手に入れてから約1年半、現在のオドメーターの走行距離は15万5千キロです。私がオーナーになってからの走行距離は2千キロくらい。現在の住まいから近隣の中古車販売店で売られているこの個体を見つけ、即決しました。『ベンコラのステーションワゴン』というだけでなく、ウッド調のパネルがボディサイドからリアのゲートに掛けて貼られていたことも購入の決め手になりましたね」
Y30型セドリック/グロリアは1983年にデビューし、セダンは1987年にY31型へとフルモデルチェンジを果たした。しかし、バンおよびワゴンは1999年まで生産が続けられた超がつくほどのロングセラーモデルだ。グロリアワゴンのボディサイズは全長×全幅×全高:4690×1690×1500mm。オーナーの個体には、「VG20E型」と呼ばれる排気量1998cccc、V型6気筒SOHCエンジンが搭載され、最高出力は115馬力を誇る。
8名乗車が可能な、いわゆる「ベンコラ(ベンチシート&コラムシフト)」仕様なのは最上級グレードのSGLリミテッドのみで、他のグレードの定員は7名となる。ステーションワゴンの定員の多くは5名だ。にも関わらず、7名または8名乗車できることを不思議に思う人もいるだろう。実は、ラゲッジスペースの下にサードシートが格納されており、これを使用すればさらに2名の乗車が可能になるというわけだ。
現代のクルマにはない角張ったデザインと、クラシカルな雰囲気すら感じられるこの年代のセドリック/グロリアワゴンは、生産終了から20年近く経った現在でも根強い人気がある。さらに、オーナーが所有する1996年式のワゴンは最終型に近いモデルであり、稀少価値が高い。
燃費に優れ、メンテナンスフリーな現代のクルマではなく、敢えて生産されてから20年以上が経過したこのモデルを選んだ理由を伺ってみた。
「ひと言で表現するなら『ベンコラのステーションワゴンが欲しかった』ということに尽きます。輸入車であれば選択肢があるのですが、これが日本車となるとぐっと少なくなります。自動車関連の仕事をしているので、あらゆる方法を駆使してクルマを見つけることはできるのですが、実車を見ないまま購入することに一抹の不安がありました。数ヶ月ほどクラウンワゴンか、セドリック/グロリアワゴンを探していたときに出会った個体が現在の愛車なんです」
「ベンコラのステーションワゴンが欲しかった」と語るオーナーだが、何か原体験のようなできごとがあるように思えてならないのだが…。
「確か小学生の頃、テレビでボルボ・240エステートのCMを観たのが、ステーションワゴンに興味を持ったきっかけだったと思います。現在、私は33歳になるのですが、いつか自分も大人になったら、角張ったワゴン車で湘南あたりの海沿いを走ってみたいという憧れを抱くようになりました。とはいえ、当時は“VOLVO”を“ボルボ”とは読めなかったんですけれどね(笑)。少年時代に見たBe-1、Pao、フィガロ、ラシーンが好きで、以来、日産車が好きになりました。そんなことも、このクルマを購入する後押しになったような気がします」
手に入れた愛車はボルボではなかったが、ついに「大人になったら角張ったワゴン車に乗る」という少年時代の夢を実現させたオーナー。ではなぜ、「ベンコラ」にこだわったのだろうか?
「車内が広いということにつきますね。『ベンコラ』のお陰で、一般道はもちろん、高速道路でもゆっくり走ろうという気にさせてくれます。もしGT-Rでも買おうものなら、どうしても飛ばしてみたくなると思うんですよ(笑)。私だけではなく、多くのドライバーさんが実践していらっしゃると思いますが、信号のない横断歩道で渡ろうとしている人を見掛けると、さっと停車して譲るような…。そんな気持ちのゆとりが持てるクルマなんです」
オーナーは自動車関連の仕事をしているということで、古いクルマを所有するリスクも一般ユーザーよりは理解していることだろう。それでも敢えてこのグロリアワゴンを手に入れた理由とは?
「実は、自身の愛車としてはこれが2台目なんです。1台目は日産・キューブでした。キューブは確かに良いクルマでしたが、どこか物足りなさを感じていたことも事実です。現在は、通勤の足としてグロリアワゴンに乗ることはないので、思い切って趣味に走りました。見た目は確かに古さを感じさせますが、座面の厚いシート、角張ったデザイン、内外の造り込みの良さはとても気に入っています」
とはいえ、生産から20年以上経っているクルマだ。純正部品の確保は大変かもしれないし、素人が安易に手を出したら苦労するのではないかと思われがちだが…。
「古いクルマだけに故障はつきものです。当然ながら、純正部品で欠品しているものもあります。実はこの個体、購入後にエンジンの調子が悪くなりまして…。手に入れてから1年半といいましたが、そのうち1年くらいは工場に入院していたんです。そこで嫌気が差す人がいてもおかしくないですよね。今回、結果として1年ほどの入院となりましたが『古いクルマなんだから、それくらいのトラブルは起こりうるだろう』と思い、気長に待っていました。今回のようにトラブルに見舞われることを面倒に感じたり、リスクとして捉えるのであれば、古いクルマを手に入れない方がいいかもしれません」
最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。
「古いクルマのボディにも優しいコーティングを施してやりたいですね。この個体は、購入したときからステアリングやアルミホイールが交換されていました。ここからさらに自分なりにモディファイしていくこともできますが、それよりはこのクルマを労ってあげたいです。実は、エンジンの不具合もまだ完全には解決できていなくて、今後、原因を究明していくつもりです。たとえ壊れても『可愛いヤツめ』と思えるくらいの気持ちのゆとりを持ち合わせておきたいものです。せっかく縁あって手に入れたクルマですし、修理不能になるまで乗り続けます」
近年、古いクルマがちょっとしたブームのようだ。「買えば何とかなる」と軽い気持ちで購入し、数々のトラブルに見舞われる「現実」を突きつけられ、あっさりと手放してしまうケースもあるようだ。このオーナーのように大らかに接することも、古いクルマと長く付き合ううえで大切なポイントといえそうだ。
それと、忘れてはならないことがある。「古いクルマ=絶版車」であるということだ。今後、数が減ることはあっても増えることはほぼありえない。このグロリアワゴンにしても、これまで多くの個体が廃車となり、スクラップとなっていった仲間たちの貴重な生き残りなのだ。
クルマを購入したあとはオーナーの自由であることは充分に承知している。しかし、古いクルマを手に入れたのなら…。大切に扱うことはもちろん、自分自身が次の世代へ引き継いでいく役割を担っていることを気に留めておいて欲しいと心から思う。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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