26歳のオーナーが、幼少期から貯めたお金を切り崩してでも手に入れたかった愛車。1997年式日産・180SX タイプG(RPS13型)

多くの人にとって「人生における大きな買い物」といえば、真っ先に思い浮かべるのは家やクルマではないだろうか。

特に、若い世代の人にとって「自分のクルマを所有する」という行為が一大決心であることは間違いないだろう。どれほど安く済んでも数万円。数十万円~数百万円の出費を強いられても不思議ではない。これほどの大金を現金一括で購入するのか、はたまた無茶なローンを組んででも手に入れるのかは人それぞれ事情が異なるだろうが、いずれにしても人生史上「かなり大きな買い物」であることは確かだ。

文字どおり「大枚をはたいて購入したクルマ」ともなれば、自然に愛着が湧くのも何ら不思議ではない。あまり感情移入するような対象ではないはずの工業製品(クルマ)が、「愛車」という、オンリーワンの存在に変わる瞬間だ。

今回のオーナーは、何と社会人となってわずか半年後に現在の愛車を手に入れたという。かつての若者であればともかく、最近では希有なケースかもしれない。その決断力の源となったエピソードを引き出してみたいと思う。

「このクルマは、1997年式日産・180SX タイプG(以下、180SX)です。この個体を手に入れたのは約2年前、現在のオドメーターの走行距離は9万2千キロを超えたあたりです。私が手に入れてからは3万2千キロくらい乗りました。つい最近26歳になったばかりですが、社会人になって半年くらいで手に入れた、人生で2台目の愛車なんです」

180SXは、日産・シルビア(S13型)の姉妹車として1989年にデビューを果たした。クルマ好きであれば「ワンエイティ」の響きの方がしっくりくるのではないかと思う。シルビアが2ドアクーペ・固定ライトであるのに対して、180SXは3ドアハッチバック・リトラクタブルヘッドライトが特徴的なデザインだ。実は、通称「シルエイティ」や「ワンビア」など、ユーザーの好みでそれぞれのクルマの外装を交換したり、移植した改造車も存在する。

ボディサイズは全長×全幅×全高:4520x1695x1290mm。発売当初は1809ccだったエンジンは、1991年に行われたシルビアのマイナーチェンジに伴い、1998ccとなった。

「『日産からのプレゼンテーションです。180(One Eighty)SX、エントリーしました。』
ここに、誰も知らなかった純粋さがあります。誰も体験したことのない品質があります。“180SX”。それは、走ること、操ることを、より気軽に、スタイリッシュに追求。独走のポテンシャルと磨きぬいたフォルムを結晶させて登場しました。乗る人が、全身で爽快なスポーツフィールを味わえるクルマ。“180SX”。いま、走りの新しい愉しみが始まります。」

これは、自動車雑誌に掲載された180SXの広告のコピーだ。当時のメーカーや開発者の熱量が感じられるのは気のせいではないように思う。この文章にグッと心をわしづかみにされ、購入を決意した人も少なからずいるのではないか。そんな気がしてならないのだ。

そして、シルビアがS13型からS14型へとフルモデルチェンジを果たしているあいだも、180SXはマイナーチェンジを繰り返し、結果として9年間生産されたロングセラーモデルとなった。オーナーの180SXは、1998年に生産が終了する直前の後期型にあたる貴重な1台といえよう。

いまやネオクラシックカーの領域に入りつつある180SXを選ぶくらいだから、オーナーは幼少期から相当なクルマ好きなのか…と思いきや、意外な答えが返ってきた。

「両親はクルマに興味がありませんし、かつては私自身もそうでした。大学に進学したとき、通学でクルマが必要になり、マツダ・デミオを購入しました。大学時代に知り合った友人にクルマ好きが数人いて、スカイラインやインプレッサ、インテグラタイプRなどに乗っていたことが関係しているかもしれません。それと、頭文字D(アニメ版)にも影響を受けましたね。そんなことがあり、少しずつクルマへの興味が湧いてきたんです」

オーナーによると、180SXの他に悩んだクルマがあるという。

「シルビア(S13型)です。しかし、改造されていたり、痛んでいるクルマが多かったので180SXを探すことにしました。リトラクタブルヘッドライトを持つクルマにも乗ってみたかったですし、人とかぶるクルマには乗りたくなかったんです」

こうして、オーナーが求める理想の180SX探しがスタートした。

「狙うは中期型か後期型のモデル、ボディカラーは白か黒、フルノーマルに近い状態のもので、走行距離は少なめという条件を決めました。インターネットの中古車検索サイトで毎日のように探しましたし、180SXを所有したことがあるというクルマ屋さんの方にも依頼しました。こうして、数ヶ月探してようやく見つかった個体が現在の愛車です」

オーナーが求める条件はほぼクリアしていたのだが、唯一、合致しなかったのはボディカラーだ。ようやく多くの条件をクリアして出会った個体は、白や黒ではなく、シルバーだったのだ。

「希望のボディカラーではなかったことと、実は少し予算オーバーだったんです。結局、ひと晩考えてから購入を決意しました」

そういえば、オーナーは社会人になって半年でこの180SXを手に入れたという。かつての若者のように、いわゆる「男の60回ローン」を組んで手に入れたのかと思いきや…。

「小学校低学年の頃からコツコツ貯金してきたお金で購入しました。私はもともと物欲がない方なんですが『いつか本気で欲しいと思ったモノに出会ったときのために』貯めておいたお金を投じてでも、この180SXを欲しいと思えたんです。おそらく、これまでの人生においてここまで欲しいと思ったのはこの180SXが初めてかもしれないですね」

オーナーが「虎の子」ともいえる貯金をはたいてまで手に入れた180SX。初対面のときのことを今でも鮮明に覚えているという。

「遠方で売りに出ていた個体だったので、実車を見たのは契約してからでした。『実物はボロボロなのかなぁ』と正直いって不安でしたが、実車は驚くほどきれいだったんです。当初は、自分なりにどうモディファイしようかとプランを立てていたのですが、このクルマを見てから一瞬で『できるだけノーマルに近い状態を維持しよう』と決意しました。私で3オーナー目らしいのですが、歴代オーナーさんには感謝しかありません」

こうして、晴れて念願の180SXを手に入れたオーナー。「できるだけノーマルに近い状態を維持」しつつ、あくまでもさりげなく自分のカラーを反映させているようだ。

「マフラーは柿本改製のregu06&Rに、シフトノブをNISMO製に、ヘッドライトをイエローに交換しました(※注)。当時のディーラーオプションだったリアガーニッシュや、Defi製の3連メーター(水温・油温・油圧)を装着しています。個人的にはNISMOのホイールLM GT4が特にお気に入りです。180SX乗りの友人が色違いでこのホイールを装着しているのですが、デザインに一目惚れして、インターネットオークションで網を張りつづけ、見つけたときに即決で落札しました」

※注:平成17年12月31日以前のクルマであれば車検適合

友人の180SXは、以前、取材させていただいたことがあるので併せて紹介したい。

取材時点で購入から1年7ヶ月で3万2千キロ(!)も走破したというから、本当に運転することが好きなのだろう。

「この180SXでドリフトをしたり、ハードに攻めることはありません。久しぶりのMT車ですし、慣れるまで数日かかりましたが、運転していて『楽しい!』のひと言につきますね。これからもクルマに負荷をかけすぎず、コンディション維持に重点を置いていきたいです」

現在は地元から離れて暮らしているとのことだが、帰省したときは地元の同級生たちとの温度差を感じるという。

「私の地元は公共交通機関が発達していることもあり、同級生の男子でもAT限定免許や、ペーパードライバーの人も多いです。180SXを見て『何てクルマ?』と聞かれることもあります。でも、実際に助手席に乗せると楽しんでくれていますよ」

最後に、今後このクルマとどう接していきたいのか?意気込みを伺ってみた。

「これまで、板金塗装された形跡がないんです。純正エアロパーツもいまとなっては貴重です。現在、180SXの他に欲しいと思えるクルマもありませんし、可能な限り、現在のコンディションを維持して所有していきたいです」

クルマを所有し、維持していくには何かとお金がかかる。移動のための道具と割り切り、レンタカーやカーシェアリングのように「必要なときに利用する」方が、効率が良く、出費も抑えられて便利だ。しかし、どこか味気ないと感じてしまうのは、もはや前時代的な思考なのだろうか…。

そういえば、日産・セレナのキャッチコピーは「モノより思い出」だった。事実、そのとおりだと思う。「愛車との思い出」は、後々、何物にも代えがたい記憶となるはずだ。一大決心をして180SXを手に入れたオーナーの人生が、年齢を重ねるごとに豊かなものになることを願ってやまない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

カタログ

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