人生初の愛車はワゴン版GT-R!1999年式日産ステージア オーテックバージョン 260RS(WGNC34型)

「人生初の愛車は何でしたか?」と問われたとき、すぐに答えられる人とそうでない人がいるだろう。

前者であれば、おそらくさまざまな思い出が脳裏に刻まれているに違いない。その一方で、後者の場合、あまりに昔のことで忘れてしまったか、愛車遍歴の台数が多すぎて思い出せない…といったところだろうか。

もし、欲しいと思っていたクルマを手に入れたなら、壊れるまで所有したいと思うかもしれない。
一方で、さまざまな制約のなかで手に入れたクルマであれば、その反動で2台目以降の愛車選びには妥協したくなかった…などなど。
いずれにしても「人生初の愛車」が、その後のオーナーのカーライフにも少なからず影響を与えている気がしてならない。

今回、取材に応じていただいたオーナーは前者に該当する人物だ。年齢は24歳。愛車は1999年式日産ステージア オーテックバージョン 260RS。オーナーとほぼ同世代のクルマだ。

察しの良い方であれば「260RS」という響きにピンときたかもしれない。お気づきのとおり、260RSは歴代ステージアのなかでもひときわスペシャルなモデルだ。
若きオーナーがなぜこのクルマを人生初の愛車に選んだのか?今回はそのあたりをじっくりと掘り下げてみたいと思う。

「私の愛車は、1999年式日産ステージア オーテックバージョン 260RS(WGNC34型/以下、260RS)です。手に入れたのは半年ほど前、現在の走行距離は約15万8千キロ、私が所有してから約8千キロ乗りました」

いまから20数年前、平成1ケタのころの日本は空前のステーションワゴンブームだった。メルセデス・ベンツEクラスワゴンや、ボルボ エステートなど、これまでの「バン」のイメージを覆すような、お洒落でスタイリッシュな輸入車のステーションワゴンが人気を博し、同時に憧れの対象となった。
やがてこの勢いは日本車にも飛び火し、国産メーカーから相次いでステーションワゴンがデビューしたことは知ってのとおりだ。

そして、1996年に日産がデビューさせたのが初代ステージアである。R33型スカイラインおよびC34型ローレルのプラットフォームをベースに、専用の3ナンバーボディを与えられたステージアにはRB系エンジンが採用された。
オーナーが所有する「オーテックバージョン 260RS」は、オーテックジャパンより1997年にデビューした特別仕様車である。
ボディサイズは、全長×全幅×全高:4880x1755x1510mm。駆動方式は4WD。スカイラインGT-Rに搭載された排気量2568cc、「RB26DETT型」直列6気筒DOHCツインターボエンジンが搭載され、最高出力は280馬力を誇る。
設定されたトランスミッションは5速MTのみという、硬派な仕様であった。260RSは、名実ともに「スカイラインGT-Rワゴン」と位置付けてもよいモデルだったといえよう。

しかし、オーナーが人生初の愛車にこのマニアックなクルマを選ぶまでにはちょっとした紆余曲折があったようだ。その原点は幼少期まで遡る。

「両親はクルマ好きというわけではなかったのですが、幼少期は新聞の折り込みチラシに中古車のカタログがあり、それを集めるのが好きでしたね。その後、ゲーム“グランツーリスモ”でR34型GT-Rに興味を持つようになりました。当時はひたすらクルマに関する情報を集めていましたね」

24歳のオーナーが幼少期の頃というと…西暦2000年前後。多くの国産スポーツカーが販売終了となった時期だ。当時の子どもたちはどんなことに熱中していたのだろうか?

「小学生の頃、クルマの話ができる友人は1人だけでした。クルマよりもポケモンや遊戯王、モーニング娘。に夢中だった子もいましたね」
「その後、運転免許を取得して自分のクルマを…と思ったとき、最新のモデルはハイテクすぎて面白味が感じられなかったんです。かといって、かつてグランツーリスモで夢中になったR34型GT-Rは、中古車といえども高値安定。いまのような価格帯ではなかったにせよ、それでも手が届かない存在でした」

R32~R34型のスカイラインGT-Rを「第2世代GT-R」と称することがある。ご存知のとおり、近年、この年代のGT-Rの値上がりはすさまじいものがある。もはや異常ともいえるくらいだ。その結果、多くの人にとって手の届かない存在となってしまった。無論、今回のオーナーも例外ではない。

「自分の愛車はなるべく人と被りたくないし、できればモデルのなかでもトップグレードに乗ってみたい。悩んだ末、中古車検索サイトを観ていたときに見つけたのがこのステージアでした。RB26エンジンを搭載、トランスミッションは5速MTのみ。さらに260RSはステージアのなかでもトップモデルです。これだ!と思いましたね。自宅から割合近いとことろに出物があり、“観に行ったら最後、買っちゃうよな…”と分かっていたんですが、実際にそのとおりになりました(笑)」

かくして、オーナーの初の愛車はステージア オーテックバージョン 260RSとなった。幼少期に魅せられたスカイラインGT-Rそのものではないとはいえ、結果的にオーナーのあらゆる希望を満たしたチョイスとなったようだ。
何しろ、当時のカタログの表紙には“TOP OF THE TOURING WAGON”のコピーとともに”RB26DETTエンジン搭載”と記載されている(驚くべきことに、表紙の写真もこのエンジンなのだ)。
車名こそ違えど、GT-Rと同じ心臓を持つクルマであることは事実だ。

「“RB26エンジンを体感しないまま人生を終えたくないな”という気持ちが強かったので、その点は大満足です。一見するとステージアに見えて、実は…GT-Rの血統でもあるという“羊の皮を被った狼”的な成り立ちも気に入っています。260RSは新車時の価格やその成り立ちから稀少性が高いので、人と被ることもめったにありません。あらゆる点において、自分が求める要素を集約したクルマだということに気づいたんですね」

こうして、人生初の愛車として申し分ないクルマを手にしたオーナー。しかし、憧れを現実にした瞬間…今度はコンディションを維持していくという、現実が待ち構えている。
車体のコンディションを維持したいなら屋根付きガレージは必須だろう。雨の日は乗らないに限るが、洗車の際にじゃぶじゃぶと水をかければ本末転倒だ。
さらに高速道路を走れば飛び石がヒットする確率があがるから、プロテクションフィルムを貼るか、それとも大人しく巡航するか…などなど、挙げればキリがない。

「そうなんです。仮にR34型GT-Rを買えたとしても、保管場所はもちろんのこと、通勤に使ったり、雨の日には乗らないなど、さまざまな制約を自分に課してしまったと思います。かといってもう1台“足車”を買うのは経済的にも厳しい。そんなジレンマを抱えているうちに疲れてしまい、結果として手放していたかもしれません」

あらゆることを気にしていたら、自分の愛車でありながら、所有しているだけで疲弊してしまう。これでは悲しい結末になることは誰の目にもあきらかだ。
260RSはステーションワゴンとしての高い実用性を備えつつ、スカイラインGT-Rの息吹も感じさせてくれるクルマだ。今後、オーナーのライフスタイルが変化したとしても長く付き合える1台といえる。
そして、オーナーの260RSは、一見するとノーマルだが、さりげなくモディファイが加えられている点にも注目したい。

「過去のオーナーさんが取り付けた部品もありますが、私がオーナーになってからモディファイしたのは、フジツボ製のマフラー・NISMO製フットレスト&フロアマット・R34用の3点ペダル・HKS製のエアクリーナーなどです。なかでもフットレストは絶版となった当時モノを装着しているのが自慢です。モディファイよりもコンディションを維持することに費用を充てていますね。実はメカニックの仕事をしているので、メンテナンスには特に力を入れています」

撮影用に、普段使っているという塩化ビニール製のフロアマットを外していただいた。オリジナルのフロアマットが汚れて劣化しないための配慮だろう。経験上、オーナーがいかにこのクルマを大切に思っているかが伺えるポイントのひとつだ。現役メカニックだというオーナーが、コンディションを維持するうえで実践していることを教えていただいた。

「まず、エンジンオイルですが、Mobilの5w-40を3〜4千キロごとに交換しています。極力劣化したオイルが残らないような特殊な機械を使い、エレメントは(オイル交換時)2回に1度替えています。ミッションオイルは距離ではなく、シフトチェンジに違和感があったときに交換。フロント&リアデフ・トランスファーのオイルは、5万キロごと・同時に交換しています」
「ホース類などのゴム類も劣化していると感じたらすぐに交換です。一応、ベルト類は常備しているので、こまめにエンジンルームをチェックしてオイルなど漏れている箇所はないかチェックしていますよ!」
「ガソリンの銘柄もエネオスとシェルの2択にこだわっています。余談ですが、仕事でもRBエンジンに触れるので、いつの間にかクラッチを繋いだ瞬間に残量が分かるようになりました(笑)」

多くのオーナーは愛車の油脂類の交換をはじめ、プロのメカニックに任せるしかないが、オーナーの場合は自ら作業できる点は大きなアドバンテージといえそうだ。仕事で得た知見が愛車のコンディション維持にも大いに役立っているようだ。

最後に、このステージアと今後どのように接していきたいのか?心境を伺った。

「壊れたら直すではなく、乗り換える風潮がありますよね。メカニックとしては複雑な思いがあります。NISMOから発売されているパーツを駆使すれば自分で直せますし、260RSは可能な限り乗り続けたいです。いつか"ランボルギーニ アヴェンタドールを所有してみたい!"という密かな願望もありますが、これも実現させたいです」

自身の愛車はもちろんのこと、ユーザーのクルマにもプロのメカニックとして接しているオーナーだからこそ、言葉に重みと説得力がある。謙虚なオーナーは多くを語らなかったが、ユーザーからのご指名で大切なクルマのメンテナンスを託されているケースもあるようだ。

今後、自動車は所有ではなくシェアするモノになるという予測を耳にしたことがあるかもしれない。近い将来、オーナーとその主治医が手塩に掛けてコンディションを維持することで成り立っている「愛車」という概念自体がなくなってしまうのだろうか。
便利で快適な世の中になることを否定するつもりは毛頭ないが、1台のクルマを長く、大切に使う文化までもが潰えてしまうとしたら、それはあまりにも悲しいことだと思えてならないのだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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