いずれ娘のものになるその日まで。憧れだった32GT-Rを価値ある一台に進化させる父の想い

発売当初からそのスタイリングと優れた走行性能で大人気となり、現在では価格が高騰しているスカイラインGT-R(BNR32)。
そんなR32に若い頃から憧れを抱き、20年越しでマシンを手に入れ、今も美しい状態で進化させ続けるオーナーさんが「W-Option JAMBOREE:オプジャン富士」で出会った兵庫県神戸市在住の和田昭彦さん(60歳)だ。

和田さんは、自身が乗って楽しい1台になるようにというだけでなく、価値が上がり続けるR32をずっと良好な状態で維持していくためのメンテナンスチューンを心がけているそうだ。
そしてそこには、父親と同じくらいこのR32が大好きな娘に向けた愛情が隠されていた。

「僕らが若いころはケンメリが発売され、ジャパンが出て……と、スカイラインが流行っている時代でした。僕も20歳ではじめて乗ったのが5代目のスカイライン“ジャパン”で、5~6年とけっこう長く乗っていましたね。その当時は、これが一番かっこいいクルマだと思っていましたから」

「でもR32が発売されたあと、あるとき信号待ちで僕のクルマの横にR32が“ドドドド”と並んだ姿を見て『カッコいい! 絶対に買うぞ!』と思ったんです。でも当時は新車価格が500~600万円だったので、さすがに買えなかったんですわ。それから20年経った2011年、僕が50歳になるちょっと前にこのR32が100万円という、やっと買える金額で出てきたので手に入れたんですよ」

そんなR32は、ボディ状態が良い個体を和田さんが5年間探し続けて見つけてきた1台だけあって、現在13万キロ走っていながらとても綺麗な状態を維持している。
しかし、エンジンは一度ブローさせてしまい、それを機に修理とともに“小回りがきいて曲がりやすく、街中で速い”ライトチューンに着手していく。

「エンジンブローしたあとは2~3年近く眠っていたんですけど、たまたま返品されてきた限定200台のニスモファインスペックエンジンの新品を100万円で購入することができたんです。かなりラッキーだったなと」

「そのあとに下から回るタービンに交換したんですけど、一緒にサージタンクやカーボンパイピングなどできる限りニスモパーツでまとめてみました。それにインジェクションや点火プラグまで変えたので、今は絶好調です! 金額的にはこれまでトータルで7~800万はかかっていると思いますが……」と、購入後も愛車維持のために惜しげもなく投資している。

しかし、ご家族からすると購入後の維持費は想定外だったそうで、「父がこのクルマを買うときに『一生乗るから買って』と言っていたので、私と母は100万円で一生済むのかと思っていたんです。それがまさかこんなに維持費がかかるとは……。でもここまでくると私も母もしょうがないかな、と思ってます(笑)」と、この日一緒に取材を受けてくださった娘の涼子さんは言う。

「買ったときから僕的には、このくらいやるつもりだったんですけど、彼女らは知らなかったですね。『一生これに乗る』としか言ってなかったですから(笑)」。

つまり、和田さん的には確信犯だったというワケだ。

ただ、和田さんが修理やチューニング時に社外品でなく純正ニスモパーツを多用したことが、このクルマの価値を上げているのは間違いない。なにせ今はニスモの純正パーツも値上がりしているし、これからさらに上がることが予想できるからだ。

こうして絶好調となった現在のR32には、外装だけでも見た目と性能、そして長持ちさせたいという和田さんの想いが至るところに反映されている。

「この純正エアロは、クルマの購入時に値上がりしはじめていたので、納車前にネットオークションで買い集めて、娘の部屋に並べて飾っていたんです。そしたら娘は『もう本体いらんやん』って(笑)。それからマフラーも音が気に入ったニスモ製に変更しています」

「それとリアテールは、追突されにくいようにとLEDを3600発入れてかなり明るくしてみました。まあ、結局2回追突されましたけど(笑)。あとホイールですけど、購入時から絶対入れると決めていたボルクレーシングのTE37を履いていますが、近いうちに自分好みの仕様に変える予定ですね。キャリパーは、フロントにR34用、リヤにR33用を移植しているんですよ」

また、内装もニスモパーツをはじめ見どころが多い。
「ステアリングとホワイトメーターをニスモにしているんですけど、これも今ネットオークションで買ったら絶対高いです。シートは当時の流行にならってなんとなくR34を流用してみたんですけど、正直に言うとR32純正のほうが座り心地が良いですね。それからエアコンの操作パネルがコンソールの一番下に収まっているんですけど、これは削ってぴったりに収めています」

和田さんは週に1~2回、ドライブに出かける。
「一番の目的はストレス発散です。普段は軽自動車に乗っているんですけど、このクルマに乗って2~3時間流すだけでも楽しいんですわ。ただ、エアコンが壊れているので仕事が休みの日の朝一番と夜中がメインですけどね(笑)」

それに対しては涼子さんにも思うところがあるようで、「私も晴れた日はこのクルマで送ってもらったり、買い物に連れて行ってもらったりするんですけど、エアコンは直してくれないんですよ。このクルマを仕上げるのに何百万もかけているのに、エアコンはお金が足らんなるから後回しって、絶対おかしいですよね? でも
父は、自分さえ我慢すればいいと思っているので、きっとこれからも直さないと思います(苦笑)」

ちなみにメンテナンスやチューニングはディーラーにお願いしていて、洗車はご自身でコーティング段階から6時間くらいかけて念入りに行っているというから恐れ入る。

また、クルマ系のイベントに行くときはできる限り涼子さんが同行しているそうだ。
「僕ひとりでスーパーGTに行ってブースに回ったとき、携帯アプリでお友達登録しないともらえないグッズがあったんですよ。別に欲しいワケじゃないけど、悔しいじゃないですか。だから今日のように娘についてきてもらうことが多いんですね」

そんな涼子さんは、父親のR32ライフに付き合ううちに、父のこのクルマへの付き合い方や想いなどを共有するようになっていて、今回の取材時でも父親の和田さんの代わりに質問に答えてくださることも多かったのが印象的だ。

彼女は、「父の付き合いでいろいろ見てきたことで、このR32についてだけでなく、クルマ自体に興味がでてきた気がします。ただ、私はまだ免許を持っていないんです。でも免許を取れれば、このクルマに乗りたいって気持ちがあって、いずれはマニュアルで取るつもりです。それにサーキットも走ってみたいですね。このクルマでどこまで踏んだら滑るのかとか、どこまでの性能があるのか試してみたいですよね!」

このクルマに対する愛情をしっかり受け継ぎ、いずれ乗るときのための心構えも万全だ。

R32は、涼子さんが免許を取得すれば、ふたりの共有車になるだろう。和田さんは、そんな未来のこともしっかりと考えているそうだ。
「娘が嫁に行くときには、R32を売れと言ってます。しょうもないものがいっぱい付いているんですけど、娘が売るときに困らないよう基本の形は変えないようにしているんです。だからリアシートもそのまま。それに嫁さんと3人でも乗ることもあるので。まあ、僕の本音は2シーターにしたいんですけどね(笑)」

和田さんはこれまでこのR32を、外観や性能的面で妥協せず大金をつぎ込み自身にとって乗って楽しくカッコいいクルマに仕上げてきた。しかし、それだけではない。極上ボディに希少なエンジンやニスモ純正パーツを追加し、資産価値を確実にアップさせているこのR32は、いずれ娘の財産に変わっていく。

つまりその先に見据えているのは、娘さんの将来へのプレゼントとしての価値をあげること。そしてそれは和田さんのこの言葉が証明してくれる。

「僕にとってはこのクルマはめちゃめちゃ大事です。でも嫁さんと娘さんの次です(笑)」

和田さんにとって唯一無二の掛け替えのない愛車ではあるけれど、それでも一番大事なのは家族。だからこそ自分好みの仕様にしながらも、いずれは家族が幸せになるために最高の価値がでるようなチューニングやメンテナンスを施してして大事に所有しているのだ。

「最近いろんなクルマを見ていて、ちょっと目立たないなと思いはじめたんです。やっぱり自分の憧れの形に近づきたいですよね。だからホイールもツライチに合わせて、インチアップして太くする予定です。ほかには維持対策として、クルマのボディを補強するリフレッシュバーを追加するのと、ニスモのミッションも生産中止で値上がりする前に入れ替える予定です。今のうちならまだ15万円ですから」

「ほんまにこの時代のクルマを維持しようと思うとお金がかかります。だから『買っといてよかった』って思えるように早め早めで動いているし、これからもそうしていくつもりです」

このR32は、きっとこれからも和田さんのだけでなくご家族にとっても、かけがえのない財産としてその価値を高めていくことだろう。

[ガズー編集部]

愛車広場トップ

MORIZO on the Road