24歳のオーナーが名車を所有する喜びと葛藤。1991年式日産 スカイラインGT-R

最近、ネット上で90年代に生産された国産スポーツカーを所有する20代のオーナーの投稿をよく目にするようになった。RX-7・スープラ・そしてGT-Rなど、自分の年齢よりも年上のスポーツカーを愛する若者は増えているように感じる。

また、90年代に生産された国産スポーツカーの中古車市場の高騰も、ほぼ毎日のように話題となっている印象を受ける。驚くべきことに、コンディションや走行距離などの条件によっては新車価格を上回る個体も存在している。こうした状況に「数百万円する中古車よりも、新車のスポーツカーを購入したほうが幸せなのではないか・・・」と、SNS上では夢と現実に揺れるクルマファンの心情も伺える。

今回の主人公は、そんな90年代の名車を所有する男性オーナー。24歳という若さで所有するクルマは、日産 スカイラインGT-R(BNR32型/以下、スカイラインGT-R)だ。

R32型スカイラインGT-Rは、1989年にデビュー。スカイラインとしてはシリーズ8代目、GT-Rとしては第二世代として16年ぶりの復活となった。

当時の日産で推進されていた、1990年代までに技術世界一をめざす取り組み「901運動」の集大成として誕生。16年ぶりとなるGT-R復活と全日本ツーリングカー選手権(グループA)の参戦にファンは歓呼した。

スカイラインGT-Rのボディサイズは、全長×全幅×全高:4545x1755x1340mm。排気量2568cc、最大出力280馬力を誇る直列6気筒DOHCツインターボエンジン「RB26DETT型」は、グループAカテゴリーで勝つためにレギュレーションをクリアしつつ耐久性とパワーを両立し、高いパフォーマンスを発揮した。

さらに、駆動方式は4WDながら「アテーサE-TS」と呼ばれる電子制御トルクスプリット4WDを採用。基本はFRの走行状態とし、リアが滑ると前輪に駆動力を伝えることができた。そのため、シビアな路面状況でも安定したコーナリングを実現。スカイラインGT-Rは、1990年からグループAのカテゴリーが終了する1993年まで負け知らずという偉業を成し遂げたのだ。

オーナーの個体は1991年式。2019年末に手に入れ、現在の走行距離はまもなく12万キロに達しようとしている。30年前のクルマとは思えない美しい外観の個体だ。

「このクルマと、景色の良いワインディングをドライブするのが好きですね。仕事終わりにも乗って、近場をぐるりと走ることもあります」

そう語るオーナーの愛車歴は、このスカイラインGT-Rが初めてだという。決して幼い頃からクルマ好き・・・というわけではなく、両親の影響でもないというオーナーがクルマ好きになっていった過程を伺ってみた。

「幼心に『クルマは男の子が好きになるもの』という認識しかありませんでした。大人に近づくにつれてクルマのアニメや漫画、ゲームを通じて詳しくなり、運転免許を取得してからのめり込んだ気がします。人生観を変えたクルマは、学生時代に友人に連れられてサーキットへ行き、助手席に乗せてもらったレクサス GSでしたね。クルマってこんなに速く走れて、先進技術を発揮できるのかと感動しました。そしてこのクルマをきっかけに『4名乗車が可能で、走りと先進技術が両立しているクルマ』が理想になりました」

スカイラインGT-Rもオーナーの価値観にマッチする。そんなオーナーに、初の愛車との馴れ初めを伺ってみた。

「私の職場の先輩が、この個体を手放すということで名乗り出たんです。以前から手放す話は伺っており、購入について興味を持っていることは伝えていたので、私にいち早く声がかかったみたいですね。このクルマの歴代オーナーさんは、クルマや整備に精通した方たちだと伺っています」

どうりでコンディションが良いわけだ。整備に精通した歴代オーナーたちによって、乗り継がれてきたというよりも“守られてきた”という表現がふさわしいかもしれない。続いて、オーナーの中でスカイラインGT-Rはどんな存在かを尋ねてみた。

「私はR32型、R33型を知らずに育った世代ではありますが、901運動によって『技術の日産』が個性を発揮して造りあげた伝説のクルマという認識はあったんです。しかし、手に入れる前は正直、このクルマに乗りたいというよりも『先輩の愛車を受け継ぐ』という責任感が上回っていたかもしれません。今は人生初のクルマがスカイラインGT-Rであることがうれしいんです。実際に所有することでそのすごさを体感でき、造り手の思いも伝わってくる気がしています」

実際に乗ってみて魅力を感じた点は?

「RB26のエンジンサウンドにしびれますね。名機といわれているこのエンジンの鼓動を肌で感じられて幸せです。それから、アテーサE-TSの効き方が独特ですよね。後輪は滑っているのに、踏んでも前進している不思議な感覚がおもしろいです」

乗りはじめて声を掛けられることは?

「出先で駐車していると、R32型の現役時代を知っているであろう年上の方が興味を示されることが多いです。先日も年配の男性二人組が、クルマの前で立ち止まって眺めていたんですよ。それから、ガソリンスタンドでも『いいですね!』とよく声を掛けられます。以前、大阪のガソリンスタンドで給油をした際には、スタッフの方に『初めて見ましたよ!』と言われたこともありました。大阪ではR32型のスカイラインGT-Rは少ないのでしょうか」

オーナー自身は手を加えていないが、歴代オーナーが施したモディファイで大変気に入っている点があるという。

「ナンバーがオフセットされている外観がすごく気に入っています。バンパーの開口部がしっかりと見えてカッコいいですよね」

今後、手を加える予定は?

「モディファイの前に、経年劣化した部分をリフレッシュしたいです。普段から内装の劣化防止のため、オイルを塗り込んで手入れもしています。現在までに、タイミングベルトおよびテンショナーの交換、燃料フィルターの交換、さらにECUをリフレッシュしました。今後は足回りのアーム類を新調したり、ジャッキアップによるボディの凹みも直したいです。資金が貯まればボディまでレストアしてからモディファイを施したいですね。このクルマをできるだけ新車に近づけていきたい思いがあります」

スカイラインGT-Rといえば、NISMOヘリテージパーツとして部品の再販売が開始されている。また、金型を使わず部品生産が可能となる新技術も発表となり、品数の拡大も期待されている。今後愛車をリフレッシュするオーナーの強い味方となってくれそうだ。

さらに、スカイラインGT-Rのオーナーとしてこだわっている点を伺った。

「暖機運転を丁寧にしている点ですね。最初は3000回転以上回さないようにして、ゴム類に熱が伝わるまでゆっくり乗っています。幸い、通勤には会社の送迎バスを利用しているので、慌ただしくなりがちな出勤時には乗らずに済んでいます」

この先もスカイラインGT-Rとのカーライフを楽しんでいくと思いきや、オーナーの心は今、揺れているという。

「このクルマを乗り続けようか、それとも・・・と心が揺れることがあるんです。スカイラインGT-Rで外出する際、コンディションや暖機運転に気を使うので、それがもどかしく感じるときがあります。そんな気持ちを抱いてしまっていることにも葛藤がありますね。一度しかない20代ですし、フットワークを軽くしてさまざまな場所へ出かけたいと思っています。そうなると、スカイラインGT-Rでは気を遣わざるを得ない場面にたびたび遭遇することになるんですね。

もしも2台体制にできるものなら乗り続けていたいですが、経済的な問題やライフスタイルとの兼ね合いになりますよね。ですが、スカイラインGT-Rも20代という時間も、手放せば二度と帰ってはこないものです。そのジレンマに陥っていますね」

最後に、このスカイラインGT-Rと今後どのように接していきたいのかを伺ってみた。

「ものづくりに関わる仕事をしている私にとって、当時の最新技術で頂点に立つということを体現したスカイラインGT-Rは、仕事のモチベーションアップにもつながっている大切な存在なんです。ライフスタイルとの兼ね合いは難しいですが、長く乗り続けていきたいと思います」

オーナーはこのクルマとともに、充実の20代を駆け抜けていくことだろう。例えこの先、このクルマを手放す日が訪れたとしても、スカイラインGT-Rという名車と過ごした時間は輝き続けるにちがいない。そして、スカイラインGT-Rをはじめ、90年代の国産スポーツカーを愛する人々には多かれ少なかれ「このクルマを守って後世に伝えたい」という想いがあるのかもしれない。

そうした想いにふれるたびに“クルマ”という存在が人々の心を豊かにし、「人に愛されている」クルマが存在し続けるようにと願わずにはいられない。

(編集:GAZOO編集部 / 撮影: 古宮こうき)

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