新車から25年、父の形見を“理想の1台”に。1998年式日産ステージア 25RS/S(WGC34型)
1台に長く乗り続けるオーナーに「あなたにとって愛車はどんな存在ですか?」という質問をすると「家族の一員です」と答える方は少なくない。長い年月をともにすれば愛着が湧くし、それ以上に、家族の歴史が刻まれているからにほかならない。
また、あえて「空気のような存在」という方もいる。それはクルマが自分の一部となっている、あるいは「分身」や「相棒」のような存在になっているということではないだろうか。
今回は、幼い頃から一緒に過ごしてきた「家族のクルマ」を名義変更して愛車にしたオーナーが主人公。愛車の今までとこれからを伺いながら、ステージアがどれほど愛されているのかを詳しく紹介していこう。
「このクルマは1998年式日産ステージア 25RS/S(WGC34型/以下、ステージア)です。私の父が新車から乗っていたクルマを受け継ぐ形で所有しています。総走行距離は約6万6000km。当時の西武日産販売で購入しています。
実際に乗り始めたのは、私が運転免許を取得した2007年からですが、父親が他界してしまったんです。今は私の名義に変更していて、変更したのが2018年12月。このクルマが来てちょうど20年経った年でしたね。あとで詳しくお話ししますが、“25RS/S”というのは私が考えた架空のグレードで、本来は25RSなんです(笑)」
現在34歳のオーナー。職業は自動車関連業に従事している。オーナー自身も語っているように、9歳の頃に父親が新車で購入したステージアと一緒に育ってきた。今は「形見」となったこのステージアを大切に乗り続けている。
「名義変更したのは、父が亡くなる前の年でした。衰弱して運転ができなくなったので、母が乗るクルマとしてコンパクトな日産 ノートと入れ替えるつもりだったんです。そのタイミングで私が引き取ったという経緯があります」
ステージアは、1996年から2007年にかけて生産されたステーションワゴンだ。2001年にモデルチェンジが行われ、シリーズは2代にわたる。ローレル(C34型)やスカイライン(R33型)とプラットフォームを共有する兄弟車としても知られる。
駆動方式にはFRと4WDが設定されたほか、1997年にはスカイラインGT-Rに搭載される「RB26DETT型」エンジンを搭載したオーテックバージョン260RSを発売。スポーツモデルを好む層にも人気を博し、今もなお高い人気を誇る。
オーナーの愛車は、NAエンジンが搭載された「25RS」だ。1998年にマイナーチェンジが行われているため、シリーズ初代の後期型となる。ボディサイズは全長×全幅×全高:4800×1755×1490mm。排気量2498cc、直列6気筒DOHC24バルブエンジン「RB25DE型」の最高出力は、NAながら200馬力を誇る。駆動方式はFR。4速ATを搭載する。
「2007年に運転免許を取得してステージアにも乗っていたので、最初の愛車みたいなものです。ちなみに、自分で購入した初の愛車はR34スカイラインの25GT-Xターボという4ドアセダンです。2012年に手に入れて今もステージアと並行所有しています」
まずは、ステージアに乗ることになった背景を伺っていこう。
「ステージアが来る前の我が家には、日産プレーリーがありました。祖父母が健在だった頃は、家族全員で移動することも多く、7人乗りのミニバンが必要だったんです。ステージアを購入するきっかけは、大型犬を飼い始めたからだと思います。犬を乗せて出かけるためには、荷室の広いステーションワゴンが良いと父は考えたようです。
それから、父は『初期型は不具合が多い』と必ずマイナーチェンジ後のモデルを買う人でした。ですから、犬を飼い始めた1998年とマイナーチェンジが重なったタイミングもあったんだと思います。マニュアルモード付きのATがRSシリーズだけに追加されたことも理由のひとつです。父もクルマが好きなので、走りの機能にはこだわりたかったのでしょう」
当時9歳だったオーナーはどのような心境だったのだろうか。
「当時は後期型のフロントが好きになれず『セフィーロのワゴンにしてほしい』と意見していました。さらに、サンルーフも雨漏りがするからと却下されてしまい、あまり自分の希望も通らなかったので。でも後期型のフロントデザインは、実車を見たら好きになっちゃいましたけど(笑)」
話を伺っていると、オーナー家は「日産党」が色濃い印象だ。
「祖父が西武グループに勤めていたこともあって、当時の販売チャネル『西武日産自動車販売』で買っていたからです。父はブルーバード(312型)~セドリック(P130型) ~セドリック(H130型) ~ローレル(C31型)を経たあと、プレーリー、ステージアに乗ってきました。お世話になっていたお店はとても親切で、私が一人で遊びに行ったときはカタログをもらったことをよく覚えています。当時の課長さんにいろいろと質問すると『クルマの物知り博士』と褒めてくれた思い出もあります」
幼少の体験がオーナーのクルマ好きを形づくったことは間違いないようだ。そしてもうひとつ、オーナーをクルマ好きにした原体験があるという。
「ベストモータリングやホットバージョンのビデオはかなり影響を受けていますね。たまたま父と古本屋さんへ行ったとき、バックナンバーをたくさん見つけたんです。あのときは、スカイラインGT-R特集の号、R32スカイラインがデビューした号、R33GT-Rがマイナーチェンジした号の3本を買ってもらいました。ミニバンも含めた市販のノーマルカーがサーキットを走っていて、グランツーリスモがリアルになったような感覚に夢中になりました。
2000年前後といえば『国産最速軍団』と題したサーキットバトルが行われている時期でもありました。『ランエボ対インプレッサ』が何度も特集されたり、GT-R・NSX、RX-7・ フェラーリF355なども登場していたことで、MT車やスポーツ走行にも興味が湧いて、スポーツカーも好きになったんですよね」
かくして、ステージアはやって来た。入れ替わりにプレーリーがファミリーカーの役目を終えたわけだが、当時の心境は?
「プレーリーが大好きだったので、納車される喜びよりも悲しみの方が強かったかもしれないですね。プレーリーは写真もたくさん撮りましたし、当時のVHS-Cという小さなテープのビデオカメラで動画も撮ってました。幼い頃の自分も映っていて、なんともいえない気持ちになります。プレーリーも家族の一員だったんですよね」
ステージアで出かけた家族の思い出を尋ねてみた。
「日光へ旅行して、犬が泊まれるコテージに宿泊した記憶があります。犬と一緒の泊まりの旅行はそれが唯一だったかもしれないです。それから2000年、11歳の頃にGT-Rマガジンの読者プレゼントでスカイラインミュージアムの入場チケットが当たったんですよね。そこに行くために父と2人で旅行した記憶があります」
冒頭でもふれたとおり、オーナーの父親はすでに他界している。このステージアを乗り継ごうという気持ちはいつ頃からあったのだろうか。
「正直なところ、運転免許を取ったばかりの頃はステージアに一生乗ろうという気持ちもなかったですし、せっかくクルマに乗るなら自分専用にターボでMTの260RSが欲しいと思った時期もあります。乗り継ごうと思い始めたのは、自分で整備ができるようになってきてからです。クルマを自分色にする楽しさに気づき始めたとき、あのステージアに一生乗りたいなと思いました。それから、2桁のナンバーが貴重になっていたこともあります」
そんなステージアのもっとも気に入っているポイントを伺ってみた。
「ポイントというか、クルマ全体ですね。気に入っている部分を答えるのは難しいですよね。いわゆる“腐れ縁”みたいな存在なので(笑)。ただ、今のクルマにはないFRで直6のエンジンが載っている点は好きです。国産のFRワゴンってそうないですから。しかもサッシュレスドアで要はハードトップ。日産の作ったワゴンということで、やはりローレルやスカイラインの血筋を感じる部分とかもあって、そういう部分が気に入ってますね」
そんなステージアに施されたモディファイを紹介していこう。オーナーは自動車業界にいることもあり、整備やエアロの脱着、サスペンションの交換作業など、可能な範囲で作業は自分で行っているという。気の合う友人と一緒に自宅でわいわいと作業することもあるそうだ。事実、オーナーのステージアはかなり手が入っているそうだが、「いかにも手を加えた」という雰囲気が感じられない。これも、オーナーなりの美学やコンセプトに沿って仕上げられているという。
「コンセプトは『理想のカタログモデル』です。『25RS/S』という架空のモデルを設定して、あたかも最初からカタログにあったような仕様を目指しています。お手本にしたのはスカイラインの4ドア(R33型)のGTS25 TypeS/S、同じく4ドアの25GT-Vあたりでしょうか。グレード名に関していえば、GTS25 TypeS/Sを意識しています。
このクルマはボディや足回りはターボのものが移植されています。NAならではの気持ち良さと、走る楽しさが味わえるバランスの良さを出しつつ、いかにも『変えてます!』と主張しすぎないたたずまいを持つクルマになればと思います」
2.5リッターNAエンジンの特別仕様車をイメージしているというこの個体。さらに詳しい仕様を伺う。
「ブレーキキャリパーとローターが、R33スカイラインのアルミ対向キャリパーの流用です。あとはLSDを純正のオープンデフからS15やR34のターボモデルに装着しているヘリカルLSDを流用したり、フジツボ製の社外品ですが、R33スカイラインのNAモデル用のエキマニを加工流用したりしています。駆動系はスカイラインの流用が多いですね。あとは加速の向上を狙ってファイナルを少し落としています。
内装では、このグレードには設定されていなかったパワーシートを他のステージアから移植・加工して装着したり、ローレル(C35型)のサンバイザーを加工してバニティーミラー付きにしたり。このサンバイザーはステージアとは形状が異なるため、DIYで分解・不要部分をカットしてカバーをミシンで縫い合わせた力作です(笑)。ここまでやると、同型のステージアのオーナーさんでも気づかないですね(苦笑)」
モディファイしていることを声高に主張せず、さりげなく自然にまとめあげる。なんとも粋なモディファイだと感激してしまった。余談だが、「25RS/S」のカタログも、オーナー自らカタログそっくりにデザインしたというからかなり本格的だ。ところで、ステージアとスカイラインで部品を共有できる点は、維持の面でもメリットになっているようだ。
「兄弟車だけあって共通の部品が豊富ですね。もう1台スカイラインも持っているので、うまく部品を共用しつつ使い回せています。状態が良好な部品は、ステージアに優先させることが多いです」
入手困難な部品や廃盤になった部品などはどのくらいあるのだろうか。
「部品も結構減ってきているので、ストックは必須です。なかでも細かい外装部品が減っています。足回りも、NISMO製の純正形状のS-TUNEサスペンションが見つからなかったんです。減衰特性にもこだわり、上質かつスポーティな乗り心地になるよう、富士市にあるショップ『AZUR』にお願いをして、純正形状の特注品を製作してもらっています」
現段階での愛車の完成度は?
「90%くらいです。意のままに操れる楽しさがありつつ、乗り心地も両立しているような乗り味になってきたと思っています。残りの10%は明確ではないですが、乗り味にもう少ししっとり感を持たせたいですね」
架空のグレードでも「確かにありそう」と言わせる説得力があった。子どもの頃からクルマが好きで、その延長が実際に仕事になる。オーナーの人生にステージアは寄り添っている。そんなオーナーは今後、愛車にどのように接していくつもりなのだろうか。
「すでに、良い意味で空気みたいな存在なんです。壊さないことと事故をしないこと。あとは長い付き合いなので、モチベーションにも波があるんです。例えば、期待した乗り心地や見た目にならなかったりすると結構凹んでどうでもよくなっちゃう。でも、数日後には復活して…みたいな感じです。そんな気持ちに折り合いをつけつつ、気楽に付き合っていけたらなと思います。いてあたりまえだけど、失ったらきっと後悔することはわかっていますから。本当に目指すものを追求して、良い状態にしようというモチベーションを維持したいです」
最後に、お父様への想いを伺った。
「あのとき、ステージアを選んでくれてありがとうと言いたいです。ステージアにしなかったら今はなかったと思います。他の車種だったら早くに乗り替えていた気がします」
子どもの頃から一緒に過ごした形見の愛車を世界で1台だけの「特別なモデル」に仕上げてカーライフを楽しむオーナー。そこにあるのがあたりまえだが、失ったときの重大さにもすでに気づいている。
愛車を勢いで手放す方は少なくない。また、クルマへの熱量や距離感がわからなくなって手放す…という選択をする方もいる。
「一生モノ」と固く心に誓っていたとしても、さまざまな要因でモチベーションに波があるのも当然だ。オーナーのように、良い意味でフラットに、愛車と心地よい距離感を維持するのが1台のクルマと長く付き合うコツかもしれない。
そんな方にとって、今回の話が少しでも参考になったり、悩みを軽くするものになったりすれば幸いだ。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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