【カーライフメモリーズ ~愛⾞と家族の物語~】きらめきの中で家族を乗せて走りだしたアメリカ帰りの帰国子女、スズキ・サムライ
子供の頃、誰しも憧れたものはあるはずだ。その憧れは時を経て、大人になっても色褪せることなく、キラキラと輝いて見えるのではないだろうか。
今回お話を伺った望月敬太さん(35才)もその1人。取材中、少年のような無邪気な笑顔で愛車について話す姿が印象的だった。
父親は鈑金屋で、昔から趣味性の強いクルマを乗り継ぎ、今でもノートe-POWER NISMOに乗っているほど大のクルマ好き。そんな存在が身近にあったせいか、自分自身も気づけばクルマ好きとなり、幼少期には夢中になってミニカーを集めていたという望月さん。
「小学生の頃はローライダーに憧れて、高校生になるとドリフトに興味を持ち始めました。当時から、クルマのことばかり考えていた気がするし、今でも休みの日にはデコトラの写真を撮りに出かけたりもしますよ」とのこと。
大きな暖炉のあるログハウスがご自宅というライフスタイルにも、その趣味趣向は如実に現れている。
暖炉の火で子供たちがマシュマロを焼いて食べる姿なんて日本ではなかなか見られないだろう。家の前に並べられた薪の山も、どことなくアメリカンな雰囲気を演出している。
愛車にいたっては、正真正銘アメリカ帰りの帰国子女だ。
望月さんのスズキ・サムライは、国内で販売されているジムニーのアメリカ版。日本で1992年に販売されたJB31型シエラとエンジンや駆動系など細部にわたって共通する部分が多く、大きく異なるところといえば内装の色や材質、A/Tの設定の有無、そして幌のモデルはジムニーシエラには存在しないことくらいだ。
そんなサムライならではのポイントと言える幌はというと「撮影ということでトレードマークともいえる幌を新品に張り替えようと思って昨夜から作業していたんですが、寒くて幌が伸びなかったので、朝から日なたで温めておいて、ようやくさっき装着できたところなんです。取材時間に間に合うかドキドキしました(笑)」とのこと。
そんなに都合よく部品を持っていたのかと思って話を伺ってみると、実は当初の予定では左ハンドルのサムライを購入するのではなく、右ハンドルの国産車を北米仕様にカスタムする予定だったのだという。いわゆるUSDMというジャンルのカスタムだ。
そのために、サムライに関する資料を読んだり、専門店に問い合わせたりして、幌やグリルなど必要な部品を集めていたという。しかし、状況は一変することになる。
「カーセンサーを見ていたら、本物のサムライが売っていたんですよ!どうしても本物が欲しくなってしまって!」
いろいろ準備をしていたものの、本物があるならそれに越したことはないと購入を決意。「このタイミングで出会ったのは運命かもしれない!」と胸が高鳴ったという。
そんな紆余曲折を経て、半年ほど前に望月さんの手元にやってきたサムライは、ボディのサビなどもなく、唯一気になったのは、経年劣化くらいだったという。
前オーナーと、色々な道を走ることで付いた汚れや傷は、クルマとしての役割を担ってきた勲章にほかならない。「がんばってきたんだな、という思いを込めながら隅々までキレイに洗ってあげました」と振り返る。
足まわりのブッシュ類やアームなどもすべて新品に交換し、現在はボディがサビないように屋根付きの車庫(わざわざ別の場所に借りている)が定位置となっている。「集めていたパーツを使って各部をレストアしたので、予備パーツも含めてこの先も数十年は乗れると思います」と望月さん。『こんなに環境が変わるとは!』とサムライが一番驚いているはすだ。
望月さんにとって、そんなサムライの一番のお気に入りポイントは、フェンダー横にあるサイドマーカー。
左ハンドルであることはもちろん、注意・警告を促すコーションラベルが英語で書かれていることも本物ならではのポイントだ。
さらに、前走車が跳ね上げた石によるダメージなどを緩和するノーズブラも、整備されていない砂利道が多い海外ならではの装備で『北米らしさ』を印象付けるアイテムと言える。
「夜ドライブをしていると、サイドマーカーがオレンジ色に光っているんです。それを見るたびに、自分は北米仕様車に乗っているんだなと実感できるんですよ。アメリカの交通ルールに乗っ取って装着されたものとか配置とかは、僕にとってたまらないんですよねぇ〜」と嬉しそうに語ってくれた。
もともと程度が良かったとはいえ、手に入れてからわずか半年でここまでキレイに仕上げられていることに驚かされるばかりだが「自分1人じゃなく、仲間がいたからです」という答えが返ってきた。「部品の手配や専門的なことは、後輩のタカにやってもらったんですよ」とのこと。
今回の取材にも同行していた阿部貴利さん(写真手前)は、望月さんとは中学校が一緒で、鈑金やカスタムを専門としている静岡県静岡市のショップ、ライズカスタムのオーナーだ。
「クルマを修理するというのは大前提だけど、友達とワイワイしながらクルマいじりできるというのも僕にとっては大事なんです。ひたすらストイックに修理するのはツラいから(笑)」と話す望月さんの横で、阿部さんも「ここはコッチの方が格好いいとかクルマの話もしますけど、音楽の話をしたり、遊びの延長線上みたいな感じでサムライを一緒にカスタムしていきました」と笑う。
ちなみに、阿部さんの息子の奏音くん(写真左)にも、悩んだときに「買っちゃおうよ〜、やっちゃえばいいじゃん!」といろいろとアドバイス(心の後押し!?)をしてもらっているのだとか。スナップオンのツナギを着て「へへへっ」と照れくさそうに笑う少年も、すでに立派なクルマ好きだ。
そして何といっても、クルマ好きということを受け入れてくれる家族は、かけがえのない大事な存在だ。
望月さんは、サムライのほかにランドクルーザー79、オフロードコース専用のジムニー、そして写真には写ってないけれどUSDM仕様のベース車にする予定だったジムニーの計4台を所有しているのだが、どれもファミリーカーとは言い難いクルマばかり。自動車雑誌などでよく目にする【奥様を説得するには?】なんていう文言とは無縁に思える。
旦那さんのクルマ趣味を横で見続けて、助手席に乗り続けてきた奥様は、特にクルマ好きというわけではなく「似たようなクルマが沢山あって、困っちゃう(笑)」と苦笑いする一方で「でも好きみたいだからさ~」と優しい顔で見守ってくれていた。
小学校1年生の心美ちゃんは取材中にバンパーの上に乗ったりハンドルを握ったりとサムライに興味深々。「大きくなったら、このクルマもらうの!」と教えてくれた。
小学校3年生の歩夢くんは「左ハンドルっていうの?あれがみんなとちがって好きなんだ」とのこと。
2人が共通して話していたのは、キャンプに行ったり、ダムを見にドライブに出かけたりと、望月さんが色々なところに連れていってくれるからクルマが好きということ。
「運転しているところは、少しカッコいいんだよね。ちょっとだけね。ちょっとだよ。本当にちょっと」と何度も念押しをしていた(笑)。
好きなクルマを運転する望月さんの姿は子供たちの瞳にキラキラと輝いて映っているに違いない。そして、このきらめきの中で子供たちには、クルマ=お父さんというイメージが刷り込まれているだろうし、きっと将来はクルマ好きになるに違いない。
こうして大切な家族や助けてくれる仲間がいるからこそ、サムライは来るべくして望月さんのもとに訪れたように感じる。
芥川龍之介の『運命は偶然よりも必然である』という言葉が、ふと頭に思い浮かんだ。
ローライダー、ドリフト、山遊び、USDM、アメリカンなライフスタイル…サムライには、望月さんの好きなことの集大成といっていいほど、さまざまな要素が詰め込まれている。
だからこそ、自分が好きなクルマで、大切な家族といろいろな所に出掛けるのが夢だという。
走行距離7万3970マイル(約12万km)のサムライは、望月さんとこの先何マイル走ることになるのだろうか?もしかしたら、子供や孫の代まで一緒に走り続けて、その距離はどんどん伸び続けていくのかもしれない。
エンジン音を動画でチェック!
(⽂: 矢田部明子 / 撮影: 平野 陽 / 取材協力: ライズカスタム)
[ガズー編集部]
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