出逢いは「一期一会」。希少な2003年式BMW・M3 CSL改(E46型)と暮らす男性オーナーのカーライフ

愛車広場の取材を続けていると、普段お目にかかれないような希少な1台に出会うこともしばしばだ。そして、話を伺うたびに「クルマがオーナーを選んでいること」を確信する。

今回もそんな1台と暮らすオーナーにスポットを当てたい。そのクルマはBMW・M3 CSL(以下、M3 CSL)。2003年に限定販売され、日本にも正規輸入された(正確な台数は不明だが、当時の正規ディーラーによると150台という説もあり)。3シリーズクーペの「E46型」をベースとしたハイパフォーマンスモデルだ。オフィシャルデータによると、車名の「CSL」は「C(クーペ)」・「S(スポーツ)」・「L(軽量構造=ライトウェイト)」の頭文字に由来する。

M3 CSLのボディサイズは全長×全幅×全高:4490x1780x1365mm。搭載される3.2リッターの直列6気筒DOHCエンジン「32 6S4型」は、NAで360馬力を誇る。

ボディは強化プラスチックで大幅な軽量化が図られ、カーボンファイバー製のルーフが採用された。さらに、センターコンソール、ドアトリムも同様にカーボンファイバー製となっている。その結果、総重量は1430㎏と、M3の標準モデルよりも約110kgもの軽量化に成功した。さらに、この軽量素材を車両のフロントおよびリアに使用することにより、俊敏な高速コーナリングを可能にしているという。M3 CSLは、ノーマルのM3とは「別モノ」のスペシャルモデルなのだ。

この個体のオーナーは、古物商を営む57歳の男性オーナーだ。人から人へと伝わってきたモノを、次の持ち主へと繋ぐ「縁の橋渡し」に長年従事してきた。現在の愛車は3台。20代の頃から33年間乗り続けているというトヨタ・ランドクルーザー(HJ60型)、オーナー自ら「シートベルトのついたバイク」と呼ぶ真紅のマシン(車種は秘密とのことだ)、そしてこのM3 CSLだ。このランドクルーザーは、以前取材させていただいた個体そのものだ。

インタビューは、オーナーのガレージで行われた。ガレージの一角には、真紅のマシンが鎮座していた。天井吊りのバイクラックには、自転車ファン垂涎のロードバイクがそろう。いずれも貴重なモデルばかりだが、飾るわけではなく実際に走らせている。

「クルマも自転車も手入れをして磨きますが、しっかり走らせていますよ。置きっ放しだと死んでしまいますから」

そう言いながらオーナーは、チェストの引き出しから歴代の愛車の写真を取り出し、テーブルに並べてくれた。生気を帯びたクルマとは、例え写真であってもその息遣いが感じられるものだと思わずにはいられなかった。写真を眺めながらオーナーの愛車遍歴を伺った。

「免許を取得してから、いすゞ・ジェミニZZ(初代)でダートトライアルをしていました。その後、トヨタ・セリカクーペ ターボ(A60型)を乗り継ぎ、日産・フェアレディ(Z130型)では、エンジンをフルチューンして乗りました。その後はメルセデス・ベンツ AMG E55T(S210型)、500E(W124型)、300GE(W460型)を乗り継ぎました。特に300GEはお気に入りで、17年間乗りましたね。思えば、子どもの頃からドイツ車に憧れがありました。ボディがグラマラスなクルマが多く、特にリアビューが魅力的なクルマが多かったんです。今でも愛車を眺めるのは、リアビューからが多いですね」

幼い頃からドイツ車に憧れがあったオーナー。ポルシェは今までに3台乗り継いでいるそうだ。

「いつかはポルシェに乗りたいと思っていました。そして、念願叶って最初に乗ったのが911ターボ(993型)でした。店頭でひと目惚れして手に入れたんです。その後、911ターボS 3.6 フラットノーズ(964型)、911カレラ4ライトウェイト(964型)を乗り継いでいます。意外にも、993型ターボはじゃじゃ馬でしたね。今までチューニングカーにも乗ってきたので問題ないと思っていましたが、甘かったです(笑)」

クルマ好きであれば、1台持っているだけでも羨ましい限りの愛車遍歴を持つオーナーだが、中でも印象に残っている愛車を尋ねてみた。

「500Eにもう一度乗りたいですが、BMW ・2002アルピナもお気に入りでした。もし、人生最後の1台を選ぶなら、BMWアルピナに乗ってみたいと思っています。過去のモデルではなく、その時代に販売されている現行のモデルです。ボディタイプはこだわらないので、グリーンのボディカラーであれば、なお良いですね」

M3 CSLは、乗り始めて今年で10年目を迎えたという。走行距離は、手に入れてから約5万6000キロを走行。オドメーターは現在11万キロを超えたばかりだ。このクルマとの出逢いを振り返ってもらった。

「M3 CSLの存在自体は2003年の発売当時から知っていました。凄いクルマが出たと思いましたね。いつかは乗りたいと思っていながら、そのまま日々の忙しさで存在を忘れてしまいました。それまでは500Eを仕事用として乗っていたのですが、ところどころに不具合が出始めたので、買い替えを検討することになったんです。ある日、中古車サイトでM3の程度のいい個体を探していたとき、M3 CSLを見つけました。“あのとき欲しかったクルマだ”という感覚を思い出したんです」

希少モデルだけにライバルも多かったと思うが、購入時の状況は?

「即決しました。モノとの出逢いは『一期一会』だと思いますしね。当時は今ほど価格も高騰していなかったですし、一週間も考えているうちに必ず売れてしまうでしょうから(笑)」

M3 CSLの車内は、高級感ではなくレーシングカーの緊張感が漂っている。アルカンターラとカーボンファイバーの設えが、走りのマインドをかきたてる。

「今の国産車にはこういうスパルタンなモデルはほぼ見られなくなりましたよね。輸入車だと、最近ではポルシェ911R(991型)くらいでしょうか・・・。傾向として、どんなスポーツカーも高級路線ですよね」

実際に乗って、感じた魅力は?

「今まで乗ったクルマもすばらしかったのですが、その中でもっとも洗練されている1台だと感じています。ホイールのサイズ、スポーツと実用性のバランス、グラマラスなスタイル、優れたデザイン、すべてが好きですね。しかもエンジンの排気量は3.2リッターなのに、6リッタークラスと同等の性能を持っているんですよ。しかもNAです。吹け上がりもサウンドも良いですし、キャブレターっぽいところも好きです。インジェクションとは違って、レーシングカーのような挙動をするんですよ。且つ燃費もいい。高速道路を走ってリッター約16km/Lは、この部類のクルマでは良いほうじゃないでしょうか」

ふと、車内を覗いていて気づいたことがあった。日本に導入された仕様は、左ハンドルのSMG(シーケンシャルMT)のみだったはずだが、オーナーの個体はMTなのだ。この仕様は一体?

「MTに載せ換えをしました。勝手にシフトダウンして、ローに戻らなくなる症状が出たからです。いろいろと診てもらった結果、ショップから思いきってMTに載せ換える提案があり、決断しました。操作もスムーズに行えるようになりましたし、何より楽しいです。MTに載せ換えたことで、M3 CSLの本当の魅力が引き出せたのではないかと思っていますね」

MT載せ換えのほかに、モディファイを加えている部分はあるのだろうか?

「前のオーナーがワンオフと思われるチタン製タワーバー・AC Schnitzer製のサイドブレーキ・本国仕様の純正ホイールを取り付けていました。自分で取り付けたのは、盗難防止とバッテリー上がり防止を兼ねたキルスイッチくらいでしょうか」

乗るうえで気を遣っている点は?

「オイル下がり防止として、長距離を走らなくてもエンジンに火を入れるように心がけていますね」

最後に、このM3 CSLと今後どう接していきたいかを伺ってみた。

「モノは人から人へ伝えられていくことで価値が与えられていきます。クルマも然りだと思うんです。このM3 CSLもすばらしいクルマですが、受け継いだオーナーが守ることで、本当の意味で後世に伝えられる1台になり得ると思うんです。とにかく飽きるまで乗りたいですね(笑)。いや、飽きないでしょう」

多様な価値観があるという前提だが、あえて言いたい。嫁ぎ先しだいで、モノの運命は決まってしまうのではないかと感じる瞬間がある。例え、嫁ぎ先に潤沢な資産があったとしても、本当の価値がわからない人の手に渡ってしまうのは、モノにとって不幸なことだってあり得るように思えてならない。

「モノを大切にすると長持ちする」とは「魂が宿る」ことなのかもしれない。オーナーはそれを理解しながら、愛車たちを慈しんでいるのだろう。オーナーのもとで暮らす愛車たちは、間違いなく幸せ、なのではないだろうか。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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