24時間・365日戦うオーナーを魅了する愛車。2014年式日産GT-Rブラックエディション(R35型)

「24時間戦えますか。」

いまから30年ほど前、「Regain(リゲイン)」という名のドリンク剤のキャッチコピーとして使われていた言葉だ。同製品のCMソング「勇気のしるし」の歌詞としてテレビなどでもオンエアされ、幅広い世代に知られることとなった。

時はバブル景気。当時を知る者・謳歌した者にとって、実にエネルギッシュでギラギラしていた時代だったと懐かしむこともあるだろう。もう、あの時代には戻れないのだろうか…。

それから30年、当時とは比較にならないくらい、会社員に24時間戦うことを強要する行為自体がナンセンスとなった。もはや「モーレツ社員」といった言葉を聞く機会は皆無だ。ひょっとしたら、近い将来「徹夜」という単語も死語になるのだろうか。しかし、それはあくまでも会社員という立場での話だ。自分で会社を興せば必然的に24時間戦うことになる。その現実に闘志が湧いてくるか、げんなりするかで、自分自身が起業家向きか会社員向きなのかを見極めることができるだろう。

今回のオーナーの年齢は47歳。20年ほど前に起業し、現在にいたるまで「24時間戦っている人」だ。しかも、それが365日続く。超がつくほど多忙な仕事のあいまに、高度にチューニングされた日産GT-Rでサーキットを駆け抜けているという。そんなオーナーのカーライフを紐解いていきたい。

「このクルマは、2014年式日産GT-R ブラックエディション(R35型)です。新車で手に入れてから6年目。これで3万5千キロ走りました。そのうち2万キロはサーキット走行で刻んだものです」

GT-Rについて、もはや多くを語る必要はないかもしれない。2007年にデビューしたGT-Rは、「日産スカイラインGT-R」ではなく、「日産GT-R」と名を変えて発売した最初のモデルである。そして、このGT-Rが世界へ輸出されていることも、多くのクルマ好きが知るところであろう。また、現在に至るまでさまざまな仕様変更を重ねつつ、2020年現在も新車で購入することができる「現行モデル」だ。そのなかでもオーナーが所有するモデルは、黒を基調とした内装に差し色として鮮やかな赤を採用した「ブラックエディション」だ。

GT-Rのボディサイズは全長×全幅×全高:4670×1900×1370mm。オーナーの個体には「VR38DETT型」と呼ばれる排気量3799cc、V型6気筒DOHCツインターボエンジンが搭載され、当時の仕様で最高出力は550馬力(最新のブラックエディションは570馬力)を誇る。

実は、オーナーにとってこのクルマを手に入れたことが、自身のカーライフにおけるターニングポイントとなったようだ。

「若いときはトヨタ ソアラやスープラに乗っていた時期もありましたが、ハードにチューニングしたことはなかったんです。その後の愛車遍歴も、BMW5シリーズやメルセデス・ベンツSクラス、トヨタ セルシオなど、どちらかというと快適さを追求したクルマが好みでした。しかし、40歳を過ぎて、そろそろスポーツカーに乗ってみたいと思うようになったんです。手に入れるなら壊れない国産車がいいと思い、GT-Rを選びました。このとき、他に比較検討した車種はなかったですね」

こうして、これまでの愛車遍歴とは方向性が異なり、スポーツモデルのGT-Rを手に入れたオーナー。ご覧のとおり、愛車はあきらかにノーマルではない雰囲気を漂わせている。チューニングカーというより、コンプリートカーのようにトータルでモディファイされた完成度の高さを感じるのは、決して気のせいではない。

「GT-Rに乗るようになってからサーキット走行もはじめました。主なステージは富士スピードウェイです。走り込んでいくうちにノーマルのままではどこか物足りなさを感じるようになり、とあるショップでタービン・足まわり・ブレーキを交換したんです。GT-Rは社外品の部品に交換すると保証適用外になることは分かっていましたが、購入した時点でホイールを交換しましたし、気にならなかったですね」

GT-Rにはさまざまな保証に関する条件が定められている。サーキット走行によって発生した不具合はもちろん、メーカーが指定する部品やメンテナンスを実施しなかった段階で保証対象外となることもある。つまり「ノーマルのまま、街乗りで乗って欲しい」ことをメーカー自身が望んでいることを意味する。

しかし、GT-Rを好むユーザーのなかには「リスクを背負ってでも、GT-Rの秘められた性能を思う存分引き出してみたい」と考える人たちが確実に存在することも事実だ(オーナーもその1人だろう)。現に、保証期間を満了したGT-Rの中古車は、チューニングカーの素材として格好のベース車となっている。さらに、高価ではあるが、アフターパーツも充実している。チューニング次第で、世界の並み居るスーパーカーとも互角か、それ以上の性能を発揮することも夢物語ではない。

「最初にチューニングを依頼したショップの仕様でサーキット走行をするとトラブルに見舞われることがありまして…。そこで、HKSテクニカルファクトリー(埼玉県戸田市)に相談したところ『サーキット走行をしても熱だれすることなく、パワーを維持しつつ、壊れないGT-R』のチューニングプランを提案してくださったのです。エンジンは、純正部品を活かしつつ、ピストンやコンロッドをHKS製に交換して強化しています。その他、吸・排気系、コンピューター、足まわりなどもHKS製の部品を中心に構成されています。ブレーキはENDLESS製、ホイールはADVAN製、エアロはTOPSECRET製のものを選びました。シートは、運転席のみRECARO製のフルバケットシートを装着しています。現在の仕様になったのは2年ほど前ですが、サーキットでの全開走行から街乗りまで、現在までトラブルフリーです。仕事用のクルマはトヨタ アクアなんですが、それと比較しても、このGT-Rがチューニングカーだということを忘れてしまうほど普通に乗れます。HKSテクニカルファクトリーで仕上げたクルマの完成度の高さは本当に素晴らしいです。“HKSさんの信頼・信用を買って良かった”と思っています」

このGT-Rがタダモノではない雰囲気を醸し出していることが周囲の人たちにも伝わるのだろう。取材中、日本人だけでなく、外国の人までもがスマートフォンでGT-Rの撮影をしていた(ちなみに、この取材は年明け後、早い段階で実施した)。なにしろ人目を惹くクルマだけに、一般道を走っているとそれなりに苦労もあるようだ。

「首都高などを走っていると、背後から挑発されることもありますよ。でも、先に行かせてしまいます。このGT-Rの性能を楽しむステージはあくまでもサーキットです。分別ある大人として、公道では飛ばしません。クルマの挙動をつかむため、別の愛車(トヨタ チェイサー ツアラーV)でドリフト走行もしますが、これもサーキットを借りて行っています。仲間が集まって借りれば1人あたりの金額も抑えられますし、何より安全です。若い世代のクルマ好きの人たちにも、常々“他人を巻き込んではいけない”と教えています」

HKSテクニカルファクトリーで高度なチューニングを施し、サーキットを走るたびに予防整備を含めたメンテナンスも欠かさず行っているという。ベース車両がGT-Rだけに、部品代や維持費もそれなりに掛かる。この種のクルマを紹介すると「お金持ちの道楽だ」などと揶揄する声が聞こえてきそうだが、よく考えてみてほしい。オーナーの仕事は24時間・365日、休みなしだ。オーナーにとって本当の意味での「オフ」はない。「オン」か「スリープ」だ。しかも、緊急時に備えて、トイレやお風呂、そして枕元など、どこへ行くにも携帯電話を手の届くところに置いてあるという。もちろん今回の取材中も携帯電話を肌身離さず持っていた。この生活を20年間続けてきたからこそ、手に入れることができた愛車なのだ。そして、それ相応のリスクを負ってきたからこそ、これほどのGT-Rを所有し、維持できていることにも気を留めて欲しい。人と同じことをやっていても、スペシャルなクルマを手に入れられるはずがない、ということも。

「独立して数年間は“休みなし・お金なし・寝る時間なし”の『ないないづくし』でしたね。それこそ、24時間・365日、血尿が出るくらい働きましたよ。当時の愛車は、個人タクシー車両として50万キロ走ったトヨタ クラウンアスリートでした。独立から6年後、トヨタ セルシオの新車が買えたときは嬉しかったですね。その後も大変な時期がありましたが、セルシオに5年ほど乗ってレクサス LSに乗り替えた頃からようやく経営が安定してきまして、社員も少しずつ増えていったんです。いまでは社員数が25人になりました。何しろ休めない仕事なので、社員のみんなには交代で働いてもらっています。もちろん、この年末年始も仕事でした。社員のみんなが一生懸命に働いてくれているのに、代表の私が休むわけにはいきません。先日の年越しのとき出社した際は、感謝の気持ちを込めて、おせち料理やお寿司を振る舞いました」

年末年始に出社した社員を労った粋な計らい。その気になれば、オーナーも年末年始くらいは休めたのかもしれない。しかし、代表自らが行動で示し、背中を見せることで、社員たちが奮起してくれることを熟知しているのだろう。とはいえ、なかなか実践できることではない。最後に、このクルマと今後どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。

「今後は、電気自動車が普及していくにつれて、クルマの楽しみ方自体が変わっていくのでしょうね。これからも、このGT-Rでサーキット走行を楽しみたいです。私としては、若い世代のクルマ好きにこのGT-Rに触れてもらうことで、もっとクルマの楽しさを伝えていけたらと思っています」

25人もの社員を抱え、さらに若い世代のクルマ好きの面倒も見ているオーナー。これほどチューニングされたGT-Rのドライバーズシートを、クルマ好きの若者に託すこともしばしばだという。憧れのGT-R、しかもチューニングされた個体ともなればめったに運転できるものではない。若者たちにとっても、このGT-Rを運転した体験は、一生涯記憶に残る鮮烈な体験であろう。しかも万一のときのために、可能な限りカバーできるような自動車保険に加入するなどの配慮も欠かさないというから脱帽するしかない。

おそらく、他人にはいえない苦労や厳しい時期を乗り越えてきたからこそ、オーナーは人に対して優しく、そして寛大になれるのかもしれない(取材中、いかに自分が苦労してきたかを語ろうとはしなかった点も補足しておきたい)。オーナーの懐の深さ、器の大きさは、まさに「人の上に立つべき存在」であり「良き兄貴分」だと感じた。筆者が20代のとき、オーナーのような人物と知り合っていたら、その後のカーライフも違ったものになっていたはずだ。

多忙な日々のあいまに、富士スピードウェイのホームストレートを全開で駆け抜ける漆黒のGT-Rを見掛けたら、それはオーナーの個体かもしれない。話し掛けたら気さくに応えてくれるだろう。それはきっと、人生が変わる出会いとなるに違いない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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