国産旧車オーナーを魅了する趣味兼実用車。2012年式 ヴィッツ1.5 RS G’s(NCP131型)

フォルクスワーゲン ゴルフGTI(初代モデル)が起源とされるジャンル「ホットハッチ」が生まれてから40年以上が経つ。実用性と高い走行性能を兼ね備えたハッチバックスタイルのクルマたちは、国内外を問わず今も強い存在感を放っている。

今回登場するオーナーの愛車も、魅力的なホットハッチだ。2012年式のトヨタヴィッツ1.5 RS G’s (NCP131型/以下、ヴィッツ)。トランスミッションはCVTと5MTが設定されており、この個体は5MTだ。生産から9年が経過し、これまで15万キロも走行しているとは思えないほど新車のような美しさをキープしている。

車名の「G’s(G SPORTS)」はトヨタのスポーツブランドで、同社の社内カンパニーであるGAZOO Racingがチューニングを手がけたコンプリートモデルを意味している。現在は「GRスポーツ」に改称され、高次元の走りを実現するコンプリートモデルを開発し続けている。

このモデルは、ヴィッツのスポーツグレード「RS」をベースにチューニングされている。ボディサイズは全長×全幅×全高:3980×1695×1490mm。RSに搭載される 排気量1496cc、直列4気筒DOHCエンジン「1NZ-FE型」は、109馬力を発揮する。

専用エアロパーツをまとい、G’s専用のチューニングサスペンションを装着。ボディにはスポット溶接増しが施され、ボディ剛性のアップが図られている。トータルバランスのとれた高次元の走りが楽しめる設計がなされたモデルだ。

オーナーは、長年に渡り自動車関連業に従事している56歳の男性。このヴィッツを2020年1月に手に入れて1年が過ぎたところだ。通勤を含め、普段も乗れるMT車を探していたとき、この個体の話が舞い込んできたという。

「職場の後輩が新型スープラに乗り換えるのを機に、7年半乗っていたこのヴィッツを手放したいと言うんです。これまで取り付けたパーツも含めると相応の価格になると覚悟していました。しかし、実際は破格の条件で譲ってもらえることになり、大変驚きました。新車のときから知っている個体ですし、ちょうど私もこの種のクルマを探していたタイミングだった時期であり、早々に話がまとまりました。売り値よりも、知っている人間に大事にされたいという思いが、後輩の中にあったのかもしれないですね」

大切に乗ってもらえるなら“値段ではない”という気持ちが湧くのは、自然なことではないだろうか。特に、オーナー自ら厳選したアフターパーツを取り付けて愛着のある個体ならなおさらだろう。

オーナーは、このヴィッツに出逢う前に候補だったクルマはあったのだろうか?

「韋駄天スターレット(EP71型)やMR-2が候補になっていました。ダイハツのシャレード・デ・トマソも好きですね。スターレットは“ドッカンターボ”ですが、乗ると全体的にトルクがあって乗りやすいので欲しいと思っていました」

冒頭でのインタビューの通り、オーナーは根っからのクルマ好きだ。聞けば「人生を変えた1台」はジャガー Eタイプだという。小学5年生の頃に見たブリティッシュ・グリーンのEタイプが、クルマ好きと自動車関連のデザイナーへの道を志した原点となる存在だという。

また、愛車遍歴も多彩だ。スバル R2、ホンダ バラードスポーツ CR-X、スズキ カプチーノ、メルセデス・ベンツ190E、サーブ 900など、国内外のあらゆるクルマを乗り継いできた。現在は、トヨタ スポーツ800(ヨタハチ)、日産 シルビア(初代/CSP311型)、スズキ ジムニー(初代/LJ20V型) 、マツダ コスモスポーツ(レストア中)といった、魅力的な旧車たちと暮らしている。
ヨタハチは“Fun to Drive”を教えてくれた存在で、オーナーにとっては「人生を変えた1台」といえる。休日になると家族サービスの合間に愛車とのドライブを楽しみ、クルマの整備に時間を充てているという。

そこに今回のヴィッツが普段用のクルマとして仲間入りを果たしたわけだ。運転を楽しめる趣味性と、現代のクルマとしての実用性を兼ね備えたヴィッツは絶妙なチョイスといえそうだ。

実は、これまでヨタハチ、初代シルビア、初代ジムニーといった3台の愛車を愛車広場で取材させていただいたことがある。今回、このヴィッツを手に入れた経緯を伺う機会があり、取材をお願いしたところ快く応じていただいた。多忙ななか、今回を含めて実に4台もの愛車を取材させていただいたことに重ねてお礼を申し上げたい(ちなみに、1人のオーナーが所有する愛車を4台も取材させていただいたのは、このコーナーにおいてオーナー初となる)。

さて、話題をこのクルマに戻そう。オーナーがヴィッツを所有して感じていること、気に入っている点を伺ってみた。

「乗っていてとても楽しいです。サイズ的にも良い感じですし、メーカーオプションのヘリカルLSDが効いているのかよく曲がりますね。トヨタの社員も褒めていましたが、エンジンの出来もすごく良いんです。3速と4速のトルクもありますね。片道約20kmの通勤が単なる移動ではなく、ドライブの時間となり、毎日が楽しいです。特に、仕事を終えてヴィッツで帰宅できると思えることが幸せです」
「と同時に、かつてのスターレットやマーチのように、運転免許を取得したばかりの人でも手が届いて、しかも運転が楽しい“ホットハッチ”と呼ばれるようなクルマがもっと増えてくれたらいいのに…と改めて感じましたね」

この個体は5MTだが、普段乗りをするにあたって使い勝手の良さからCVTという選択もあったはずだが、こだわりは?

「むしろMTでないとダメですね(笑)。自動車免許を取得してからずっと何かしらのMT車が手元にあったので、苦痛だと思ったことはないです。運転は両手両足を使って操作を楽しむ“MT派”です。CVT車では運転本来の楽しさは味わえないと思っています。それに、クラッチペダルを踏むことで、左足にも緊張感が生まれます。その結果、運転に集中できますし、事故を防ぐ効果もあると考えています」

続いて、モディファイを加えた箇所を伺った。オーナーが加えたモディファイは、リアバンパーにWEC(FIA 世界耐久選手権)に参戦するトヨタのマシンTS050用デカールを貼り付け、好みのタイヤに交換した程度だという。それ以外は、前オーナーによって手が加えられている。

「メーカーオプションのLSD、スポーツマフラー、BBSのアルミホイール(17インチ)、RECAROシート。ドアミラー、ルーフエンドスポイラー、インパネやドアの内張りをレッドに変更してあるようです。前オーナーがデザイン関係の仕事をしていることもあり、色使いやモディファイする部品のチョイスなど、トータルバランスを考えながら仕上げているので、今後手を入れる予定はありません。思いがけず手に入れたリアバンパーの“ TOYOTA”のデカールがかなり目立つようで、友人・知人から『○○○あたりを走っていたよね?』といわれることもしばしばです(笑)」

この愛車と、今後どのように接していきたいか伺ってみた。

「あと数年間は私が乗り、息子が18歳になって自動車免許を取得したら、このヴィッツを譲りたいと考えています。ただ、現在の彼の興味は路線バスや電車に向いているので、もし自分からヴィッツに乗りたいと言えば譲ろうと思います。本当は、自分でギアを選択して走らせる楽しさを息子に知ってほしいのですが……」

と複雑な表情を見せるオーナーだった。

最後に、“いちクルマ好き”として、日本のクルマの未来を語ってもらった。

「あと10年もすれば、あっというまに自動運転の時代が訪れそうです。クルマは所有するものではなく“共有する箱”になる気がします。例えば、“スキーへ行きたい”とスマホに入力すると、スタッドレスタイヤを履いたクルマが迎えに来て現地へ連れて行ってくれるんです。そして20年後には、クルマは空を飛んでいるかもしれませんね。私たちがかつて大阪万博(1970年開催)で見た携帯電話やテレビ電話が、いまやあたりまえになったように……」

思えば、我々は自分の手足で操るクルマを所有する、最後の世代かもしれない。2021年に入ってからはEV化のムーブメントが加速。MT車が消滅する(かもしれない)未来の輪郭が、思ったよりも早く見えてきた。そんな時代の流れの中で「MT派」が存在し続けているかぎり、自動車文化として継承されてほしいと、願わずにはいられないのが、いちクルマ好きとしての本音だ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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