憧れのS2000を13年ぶりに復活!新車で購入直後から乗らずにいた理由とは?

  • ホンダ・S2000とオーナーのkou1rcさん

一目惚れした愛車を長く乗り続けることを前提に、極力乗る回数を減らしながら大事に保管している方は多い。

スーパー耐久第4戦を観戦されていたkou1rcさん(48歳)は、憧れのS2000(AP2)を10年越しの念願叶って購入。しかしその直後から約13年の間、“とある事実”にショックを受け、ご自身ではまったく乗らずにガレージに保管することになったという。

ただその理由を解決できたことで、2年前についにS2000を復活させ、現在は憧れの愛車でのドライブを楽しんでいる。

kou1rcさんはなぜを長い間乗らなかったのだろうか? そこには足に障害を持つkou1rcさん特有の事情があった。

  • ホンダ・S2000のリヤ

子供のころからミニカーで遊ぶなどクルマが大好きでモータースポーツもずっと観ていたというkou1rcさんは、免許取得後は中古のオートマのミラージュに乗った後、こちらもオートマのMR2を新車で購入。

「僕の幼少期ってホンダがF1で活躍していた時期で、やっぱり乗るならNSXに乗りたいと最初は思っていました。でもNSXは当然買えないので同じミッドシップのMR2を新車で買ったんです。そしてこのクルマでジムカーナを始めたのですが、それには理由がありまして。

実は僕は成長期に足を使うとどんどん悪化していく病気で、小3まで車イス生活だったんです。だから人とかけっこをして争うとかが一切できなかったんですけど、車の免許を取って初めて人と競うことができることが嬉しかったんですよ。だからものすごくハマりました」

  • ホンダ・S2000のエンブレム

「このATのMR2に4年くらい乗り25歳になった1998年にS2000が発売されて、コンセプトカーに一目惚れ! しかもホンダのスポーツカーで『これはもう買うしかない!』って思いました。貯金を全部集めて当時の新車価格の360万円を用意してディーラーに抽選の申し込みに行ったのですが、残念ながらはずれてしまいました。

さらに納車が1年半後になるとわかり、自分としては今にもハンコを押すつもりでディーラーにいったのでかなりショックで……。頭にきて帰りにトヨタのディーラーでMR2のMT車を買っちゃいました(苦笑)」

つまり2台目のMR2は、S2000をすぐに購入できなかったショックからの衝動買いだったというわけだから驚きだ。

ちなみにその当時のkou1rcさんは、右足首があまり動かないという症状だったそう。ただブレーキペダルとアクセルペダルの位置がほぼ同じ高さにあるMR2ならばMT車でもヒールアンドトゥも可能で、ジムカーナ競技用としても十分練習になったという。

  • 草原にたたずむホンダ・S2000

そしてkou1rcさんはこのMT車のMR2をその後も乗り続け、10年後の2008年、ついに念願のS2000(AP2)のタイプSを新車で購入する。このクルマのためにMR2は手放し、ガレージ付きの家も建てたほどの気合いの入れようだった。

しかし、そこで彼にとって想定外の残念な事態が発覚してしまうのだ。

「S2000を購入して初めて運転席に乗り込んだ時に、このクルマでは足首が悪い僕だとヒールアンドトゥができないことに気づいたんです。というのも、2000年代ぐらいのクルマから、踏み間違い防止の目的でアクセルペダルがちょっと奥になっていたんですよね。その事実に気づいた瞬間に『これは乗れない…』とガレージに入れて、その後はまったく乗らなくなってしまいました」

  • ホンダ・S2000と遠くを見つめるオーナー

そう、kou1rcさんはこの購入したS2000でジムカーナに没頭しようと考えていたが、競技の武器になるヒールアンドトゥができないことで意気消沈してしまったのだ。ならばなぜ買う前に試乗しなかったのか不思議に思い尋ねたところ、

「憧れのクルマだったからこそ、自分の手元にくるまでは乗らないでおこうって決めていて。S2000に乗っていた友達に『乗っていいよ』と言われても一切乗らずにいたんです」とのこと。

つまるところ、乗った瞬間の喜びを倍増させる計画が裏目に出てしまったのだ。

ちなみにペダルカバーを使うことも考えたが、当時のジムカーナのレギュレーションでは禁止されていたため泣く泣く諦めたのだという。

  • ホンダ・S2000の左サイド

その後、このS2000は『オートメカニック』が愛読書というクルマ好きな奥様しか乗らない状態が続いていたが、奥様が別に自分のクルマを購入したあとは10年以上ガレージに入りっぱなしの状態に……。しかもそのうち5年間は車検も切れた状態。

そしてこの一件から6年ほどモータースポーツからも離れていたkou1rcさんだが、2014年にホンダの軽自動車N-ONEのAT限定レースを知り、その魅力に惹かれレースに参戦し始める。そしてそれこそが、後のS2000復活への布石と繋がっていく。

「CVT車限定のこのレースならば、普通に左足ブレーキで走れるし右足首はそこまで使わないでいいだろうと思っていました。ところが、実はあのクルマを速く走らせるためにはアクセルを全開じゃなくてちょっと戻したりと、とにかく右足を動かせるようにする必要があったんです。

しかも左足ブレーキを使うと踏み間違い防止の安全装置が働いてまったく加速もしなくなってしまって…。それで2014年から40歳手前にして、リハビリを開始しました」

これまでリハビリ類は一切やってこなかったというkou1rcさんだが、このリハビリの甲斐あって右足首がある程度は自由に動くように。
そして一昨年の2021年6月、『今ならS2000でも楽しく乗れるはず』とついに車検を取得し復活させたのである。

  • ホンダ・S2000の運転席に座る笑顔のオーナー

「実際乗ってみたら思っていたより乗れましたし、やっぱり楽しかったですね!」
とkou1rcさんは当時を振り返り、笑顔で話してくれた。

それにしても、復活するまでの15年の間に売りに出そうと思わなかったのだろうか。

「たしかに去年や一昨年は特に金額が高騰していたため、正直距離数が少ない極上なこのクルマを売りに出すことも考えました。でもやっぱり憧れのクルマでしたし、このクルマを気に入っているカミさんが反対したこともあって、僕のところで命を全うさせてやろうと思い直しました」

そんなkou1rcさんのS2000はスポーティーなイエローボディで、ほぼノーマルの状態。走行距離数も少ない上ガレージ保管ということもあり、新車購入から15年経った今でも見ての通りその美しさは健在だ。

  • ホンダ・S2000のフロント
  • ホンダ・S2000のリヤウイング

「交換しているのは外装面ではエンブレムぐらいですね。元々は黒のエンブレムなんですけど、ワックスが詰まるので、納車のときからAP1の黄色のエンブレムに変えていました。今思えば変えなきゃよかったと思いますけどね。

それと車内はハンドルがカミさんの趣味で変わっています。なにせカミさんの方が足が長いんで、ハンドル位置がノーマルだと合わないのだそうです(苦笑)。あとアクセルペダルにはペダルカバーをつけていますよ!」

  • ホンダ・S2000のHマーク
  • ホンダ・S2000の運転席
  • ホンダ・S2000のペダル

ちなみに、タイヤも交換しているそうだが、その理由がずっと停めっぱなしだったためにタイヤにフラットスポットができてしまったからなのだと聞いて納得。

「錆だらけだったエンジンルームは、カミさんがひたすら磨いてピカピカにしてくれました。あ、あとはクラッチも戻らなくなっていたのですが、それもクラッチオイルの交換をカミさんがやってくれました(笑)」

  • ホンダ・S2000のエンジンルーム

kou1rcさんの奥様も、オーナーさん同様にこのS2000を大事にしていることがよくわかる。

現在は、ジムカーナではなくドライブやこのスーパー耐久観戦などのイベント時にS2000を乗って楽しんでいるというkou1rcさん。

「きっとこの車体ほど程度の良いS2000はもうほとんどないと思いますし、これからも長く大事に乗り続けようと思います」

と嬉しそうに話す。

  • 広い空と草原とホンダ・S2000

kou1rcさんが27年前に一目惚れしてから10年後に新車購入したものの、さらに10年以上乗らなかったその理由。それは、右足の障害の影響で自由に操ることができないショックがあまりにも大きかったからだった。

しかしリハビリに励みその障害を克服したことを機に復活させた今では、S2000は一生乗り続けたい大切な愛車へと変化した。

これからは今までの空白の15年間を埋めるように、きっとkou1rcさんと愛車S2000の素敵な思い出が積み重ねられていくことだろう。

(文:西本尚恵 写真:西野キヨシ)

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