激務の病棟看護師が、小さなMAZDA 2でソロキャンプに行く理由
病棟看護師の森本千晴さんは、忙しい仕事の合間を縫って月に一度は必ず、MAZDA 2でソロキャンプへと繰り出す。理由は、もしも簡単に言うなら「リフレッシュのため」ということになるだろうが、もう少し解像度を上げて言うなら「自分の心と体を守るため」ということになる。
そしていわゆるソロキャンへ行くなら、MAZDA 2よりもう少し大きな車のほうが何かと便利なことは、自分でもよくわかっている。しかし、だからといって「じゃ、買い替えるか」とは考えていない。
MAZDA 2を購入した後に始めることになった“キャンプ趣味”に向いた車に、興味と関心がないわけではない。だがそれ以上に「自分のすぐそばに、信頼と愛情を寄せるに足る何らかの車が常にあること」のほうが、より重要だと考えているからだ。
まだMAZDA 2を持っていなかった頃、森本さんは自律神経をおかしくしてしまった。
幼少期から「看護師さん」という職業に憧れをいだき、高校を中退して若干遠回りはしたものの、いわゆる大検(高等学校卒業程度認定試験)に合格し、看護師専門学校を経て病棟看護師となった。いわば夢を実現させた。
だが数年のうちに、心と体に変調をきたしてしまった。
「自分では大丈夫なつもりだったのですが……毎日、人の命にかかわる仕事をするだけでなく『私が行う何らかの処置が、もしかしたらこの患者さんを殺める結果になってしまうかもしれない』という緊張感にさらされ続け、そして実際、ガンなどで亡くなる患者さんの姿を見ながら三交代制の勤務を続けているうちに――全身が蕁麻疹だらけになり、夜もまったく眠れなくなってしまったんです」
自律神経がおかしくなっていた。
回り道をしながらもたどり着いた「夢の職業」を遺憾ながら辞することにして、カンボジアやオーストラリアなどをひとりで旅した。そして旅の途中、オーストラリアのエアーズロックでたまたま簡易的なキャンプをすることになり、その夜、満点の星空を見つめることで「少し楽になれた」と森本さんは言う。
病院を退職してから半年後にはアルバイトを始めることができ、いわゆるクリニックでのアルバイトを経て今から約3年前、新卒で入った病院とは別の病院に、再び病棟看護師として就職した。
「そしてその頃に買ったのがこのMAZDA 2で、当時は自分がソロキャンをするようになるなんて夢にも思っていなかったため(笑)、自分の身の丈に合ったコンパクトカーのなかでは一番『いいな』と思えたコレを、ローンで買ったんです」
通勤で車を使うことはないが、日々の買い物や、深夜のちょっとしたドライブの相棒として、MAZDA 2は再び病棟でプレッシャーにさらされることになった森本さんの「ちょうどいい息抜き役」的な存在になった。その頃は、まだその程度だった。
だがこの後、森本さんは「MAZDA 2で行くソロキャンプ」に目覚めることになる。
「オーストラリアのエアーズロックでキャンプをしたのは本当に“たまたま”だったため、その後はキャンプなんてぜんぜんやってなかったんですよ。エアーズロックで使ったギア(道具類)は、いちおう持ち続けていましたが。でもそんなとき、親戚のひとりがなぜかソロキャンにハマって『千晴ちゃんも一緒にやってみようよ』と言ってきたため、とりあえずやってみたのですが……これがもう本当に楽しくて」
特に何かをするわけではない。湖畔の、あまり人が来ない穴場的なキャンプ場までMAZDA 2で行き、テントなどを設営したうえで簡単な煮炊きをし、できあがったそれを食べながら大好きなお酒を少々飲み、沈んでいく太陽や瞬きはじめる星々を眺め、寝る。そして起きる。ただそれだけだ。
しかし「ただそれだけ」のことが、森本千晴看護師の心と体を守ることになった。
「新卒で看護師になって、そして結果として体を壊してしまった頃は、こういったスイッチングというか解放行為の重要さを知らなかったんですよね。休みの日は本当に疲れ切って家で寝てるだけか、もしくは、当時乗っていた激安中古軽自動車で近所をちょっと走るぐらいで。そして結果として、3年ぐらいで病んでしまったわけです」
だが、今は違う。
「今の病棟でも『あ、今の私、ちょっとヤバいかも?』という瞬間はたくさんあるんですよ。でも過去に一度盛大に転んだことで、そういった“ヤバい瞬間”を自覚できるようになった――というのが、まずはあります。そして、今の私にはMAZDA 2があります。ヤバいときは、本当にしっかり走ってくれて、インテリアも素敵なこの車で少し遠出をすれば、ある程度はメンタルを修正できるんです」
そして「毎月恒例のソロキャンプ」によって、自分をさらに回復させることができる。
「何をするわけでもないんですけどね。こうして夕日を見ながらお酒を飲んでるぐらいのもので(笑)。でも――いつでも、どこへでも連れて行ってくれるこの車があるおかげで、私は看護師という仕事を続けることができていますし、この先40年ぐらいは、資格と経験を活かしながら、大好きなこの仕事を続けたいと思っています。でもそのためには、MAZDA 2がないとダメなんですよ。いや、正確に言うなら別にMAZDA 2じゃなくてもいいのでしょうが、『いつでも、どこへでも私を連れて行ってくれる、愛着を持てる車』が手元にないと、ダメなんです」
例えば同じマツダ車でいえば、CX-5あたりのほうがキャンプのギアは載せやすく、MAZDA 2では「ちょっと無理」だという車中泊も可能になるだろう。またCX-5以外にも、キャンプのお供としてはMAZDA 2以上に向いていそうな車はたくさんあるはずだ。でも――。
「でも、MAZDA 2だって私ひとりか、せいぜい2人分ぐらいの道具なら楽勝で積めますし、長距離を走っても疲れないし、それより何より愛着と思い出が詰まってますから、『次の車検時には買い替えたい』みたいなことはさらさら思わないんですよね。ディーゼルエンジンのカラカラという音も、私としてはなんだかカワイイ音に聴こえますし。だから、本当に壊れて乗れなくなっちゃうまではこのMAZDA 2でいこうかな……って思ってます」
森本さんが勤務する病院で医師が患者に処方している医薬品も、当然ながら人の健康回復には大いに寄与している。しかし「薬だけ」では、人はおそらく健康にはなれないのだろう。
それが絶対に車である必要はないし、「車のなかでもとりわけMAZDA 2でなければならない」ということもない。
だが人生には「森本さんにとってのMAZDA 2的な何か」が必要なのだ。絶対に。
(文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也/編集=vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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