たくさんの自転車と“いたずら心”を載せて疾走するトヨタ FJクルーザー
寺田光孝さんのご商売は「自転車屋さん」。といっても、買い物用の電動アシスト自転車を販売しながら、パンク修理なども請け負う――といったニュアンスの「いわゆる普通の自転車屋さん」とはずいぶん趣きが異なっているのだが。
東京の下町にある「寺田商会」が扱っているのは、MINIのラバーコーンサスペンションを開発したことでも知られるアレックス・モールトン博士が開発した、その名も「アレックス・モールトン」の希少なオリジナルモデルや、イタリアの名門ロードバイクメーカー「デローザ」の各モデルなど。
そして寺田さんのお店では、メーカーから到着したそれらの自転車が、そのままの状態で販売されることは絶対にない。メーカーの工場で組み上げられた自転車を一度バラし、前後リム調整や、ハブをはじめとする各部のグリスアップ、トルクレンチを使っての均等な締め付け等々を経て、初めて「寺田商会の商品」になるのだ。
「そのような調整を経ることで、同じ自転車でも“走る・曲がる・止まる”は劇的に変わるものなんです。自動車の場合はどの販売店で買った新車であっても、同じ車種であれば、まったく同じ性能を享受できます。しかし自転車はそうでもないんですよね」
どこで買っても品質はまったく同じとなる自動車の新車と違い、自転車は販売店の技術や考え方によって、結果としての乗り味はずいぶん変わってくるのだという。
「で、私の場合はそういった“調整”をしっかり行うことでお客様に心からご満足いただき、そして1台の自転車と末長く付き合っていただく――という部分に、プライドというか誇りのようなものを感じているわけですが、もっと言ってしまうと、単純に好きなんですよね。そういった細かい作業自体と、“ちゃんとしている何かをつくり上げる”という行為が」
そういった作業が好きになったのと、そもそも乗り物全般が大好きになったのは、父上の影響あるいは家業の影響が大きいという。高祖父が戦前に創業した寺田商会は、自転車の整備と販売のほか、古くから四輪自動車とオートバイの整備および販売も行っていた。
「だから物心ついた頃から、僕にとっては車やオートバイの排気音や、それらを修理するための金属音などが鳴り響いているのが当たり前でした。そして、今の車と違って調整の余地が大きいキャブレター式のエンジンを、ウチの親父が技術力と経験値でもって万全な状態に仕上げる様を見て『カッコいい……』と思っていましたからね。それゆえ、私が大の乗り物好きになって、そして家業である寺田商会に入社したのは必然だったと言っていいでしょう」
そして主に自動車の整備を担当していた父が引退することになった1998年。4代目の社長となった光孝さんは、寺田商会を自転車専門の業態へと変更した。
「もちろん父と同様に私も四輪自動車が大好きですし、それを整備することも大好きなのですが――近年の車というのはコンピュータ化などが高度に進んだ結果、我々メカニックの“腕の見せ所”みたいな部分は少なくなっています。
しかし自転車は先ほど申し上げたとおり、今でもまだ『買う店や直す人によってぜんぜん違ってくるプロダクト』なんです。だからこそ、きちんとやれば本当にお客様のためになりますし、やっている私自身が楽しいし、やりがいも感じられる――ということで、思い切って私の代で自転車専門店に変えちゃったんですよね」
それ以降、4代目である光孝さんが営む寺田商会は、自転車好きの各位にとっては「超有名な店!」「あそこに任せとけば間違いない!」的なショップになっていったわけだが、ここでようやく、今回の主役である寺田さんの四輪自動車「トヨタ FJクルーザー」が登場する。
寺田さんが2015年に購入したFJクルーザーは、主には「お客さんたちと、その自転車たちを載せて、どこか遠くへ行くための道具」としての役割を担っている。
「都内などを自転車で走るのももちろん楽しいのですが、やっぱり景色と空気がいいところまで行き、そこで存分に走ったり、その土地の美味しいものを食べたりするほうが、当然ですがより楽しいんですよね。そしてそういった場所まで車で走って行く道中も、いろいろな意味で最高に楽しいですし。
だから私は、お客様とその自転車をこのFJクルーザーに載せて『どこか遠くまで行き、そこで自転車を走らせる。あるいはレースに参加する』というようなイベントを定期的にやっているんです。そしてそういう使い方をする際のFJクルーザーというのは、本当に便利で素晴らしい一台だと思っています」
店のお客さんと一緒に車で遠くへ行く――ということ自体は、ずいぶん前から行っていた。最初に使っていた「それ用の車」は、ダットサンD21というダブルキャブのトラック。これは5人が乗ったうえで5台の自転車を積載できるため、非常に便利だったという。
しかしトラックゆえに、雨の日には荷台に積んだ自転車が傷んでしまうということもあって、ミニバンであるマツダ MPVに乗り替えたのが約20年前。そしてMPVにも12年間ほど頑張ってもらったが、さすがに各所の傷みが目立ってきたということで、MPVに代わる一台として選んだのが2015年式トヨタ FJクルーザーだった。
「それまではディーゼルのトラックや、比較的小排気量な車に乗っていましたので、FJクルーザーの4L V6エンジンは単純に『味わってみたい!』と思いましたし(笑)、それと同時に、やはりこのデザインとたたずまいにグッときましたよね。そしてそのうえで、自転車屋としての私の絶対条件である『大人3人が座れて、そしてシートをたたむことなく3台の自転車が積める』というのも見事に満たしていたため、ほぼ迷うことなくFJクルーザーを買いました。以来約9年、この車も頑張ってくれています」
そしてこのトヨタ FJクルーザーには、寺田さんによるいくつかの“いたずら”が行われている。
「まぁいたずらというか、要するに『自分好みのカスタマイズ』なんですが、僕の場合はどうしても他の人とはちょっと違う感じにしたいという思いがあって。でも、だからといって高額なアフターパーツをたくさん買って、それでもって周囲と差をつける……というのも、僕個人としてはちょっと違うんですよね。ということでこのFJクルーザーには、あまりお金がかからない“いたずら”を、いろいろとしているんです」
さまざまあるのだが、代表的な“いたずら”はこれだろうか。
背面タイヤの中央部分にあるバックカメラを覆っている円柱状の部品は、「こんな純正アクセサリーがあったような、なかったような……」という感じだが、実際にはこれ、イタリア産パスタの缶だ。径が合うモノを探して購入し、レンズの下部をカットしたうえでしっかりと固定。そしてオイルで有名な「76 LUBRICANTS」などのステッカーを丁寧に配置した。
またフロントドア側面に貼られたこのステッカーも“いたずら”のひとつだ。
オレンジ地の部分に「WARNING」と書かれ、その下の白地部分には何やら注意書きらしきものが英語で書かれているため、この部分だけを見ると「……北米仕様のFJクルーザー用のモノかな?」と思ってしまう。しかし実際はこれ、FJクルーザーとは何の関係もない、そもそも自動車ともいっさい関係ない、寺田さんが扱っている自転車の何らかの部品に付いていた、何らかの注意喚起ステッカーだ。
「いわゆる“やった感”はあまりないんだけど、でもカッコよくキマってる――みたいなカスタマイズが大好きなんですよ。そして……考えてみれば、本業である自転車のほうで私がやっている『完成品を一度バラし、細かな調整を行ったうえで再度組み上げる』というのも、こういった“いたずら”と少し似ているのかもしれません。調整をしようがしまいが、見た目的な違いはほとんどありません。でも乗ってみると明らかに違いがわかる――というのは、もしかしたら“素敵ないたずら”とも言えるのかもしれませんね」
ここでは紹介しきれないほどの細かな“いたずら”が施されたトヨタ FJクルーザーには、さしあたって何の不満もなく「満足ばかり」であるとのこと。そしていたずら=カスタマイズについても、ある程度満足できる仕上がりにまで到達したと、寺田さんは言う。
しかしまたそのうち、気持ちよくアレックス・モールトンを下町の川辺で走らせているうちに持ち前のいたずら心が再び頭をもたげ、寺田さんの2015年式トヨタ FJクルーザーはさらなる独自進化(?)を遂げるのではないかという予感も、正直ある。
(文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也/編集=vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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