マウンテンバイクも飲み込むスバル BRZは、いつも新しい何かと出会わせてくれる『100点満点』
今どき「スポーツカーの運転席から若い女性が降りてきた」からといって、いちいち驚く人はいないだろう。今の時代、クルマに関する趣味嗜好に男も女もない。
だが、現行型スバル BRZの比較的小ぶりなラゲッジスペースから本格的なマウンテンバイクが取り出されるのを目の当たりにしたとき、ほとんどの人は「まさか!」というニュアンスで驚きの表情を浮かべるという。
2021年式スバル BRZに乗る会社員、K・Cさんについての話である。
中学と高校では文芸部に所属し、小説を読みふけった。そして両親もクルマには縁も興味もなく、文芸や芸術を愛するタイプの人であったため、K・Cさん自身もクルマに関する知識と興味はゼロのまま育った。
だが京都府内の大学に進学すると、「まぁ身分証明書代わりに」ということで運転免許を取ることにし、教習所の門を叩いた。
「で、入校する際に係の人から『ATがどうの、MTがこうの』と説明されたのですが、さっぱり意味がわからなかったんですね。唯一わかったのは『ATナントカとMTナントカの費用差は約1万円でしかなく、MTってやつにすれば、ATってやつよりも多くの種類のクルマを運転できるらしい』ということだけでした」
当時大学2年生だったK・Cさんは「1万円しか違わないなら、MTナントカのほうがおトクなんだろうな」程度の考えで、AT限定ではないほうのコースを選んだ。今ではマニュアルトランスミッションのBRZを華麗にドライブしている彼女の、意外なスタート地点である。
そしてよくわからないまま教習はスタートしたが、わかり始めたことは「クルマを動かすのって、もしかしたらすっごく楽しいかも?」ということだった。
そしてそんな時期のある日、自宅のテレビでたまたまF1の生中継を見た。今にして思えばそれは、ベルギーの高速サーキット「スパ・フランコルシャン」で行われたF1ベルギーGPの地上波放送だった。
「テレビでそのレースを見ているときに思ったんですね。『これって、私が今教習所でやってること=クルマを動かすということの、いちおう延長線上にあるんだよな』って。それってなんだか面白いな、不思議だなと思い、なんとなくですが“運転”や“モータースポーツ”というものに興味が湧いてきたんです」
F1ベルギーGPの地上波中継をたまたま見てからのK・Cさんの変節は、早かった。
「京都からでも行ける鈴鹿とかいう場所で、どうやらF1ってやつが開催されるらしいから」ということでF1日本GPを観戦しに行き、その後は国内で行われている各種レースも生観戦。そして大学3年生、4年生へと進級していくなかでさまざまな国へ赴き、F1やル・マン24時間レースなどを観戦した。
そして今から3年前、マニュアルトランスミッションの現行型スバル BRZを購入した。
「社会人になって2年目に12年落ちのプジョー 206CCを買って、それはそれで大いに気に入ってたんです。その当時始めたレーシングカートの練習をしに行くのにも使えましたし。でも私にとっては残念なことに、プジョー206CCは『AT』だったんですよね。ATが悪いとは思いませんが、やっぱり『ガソリンエンジンを搭載したMTの新車』っていうのを、まだ買えるうちに買ってみたかったんです」
「ガソリンエンジンを搭載したMTの新車」として、スバル BRZのほかにマツダ ロードスターやアバルト 595コンペティツィオーネ、そしてBRZの兄弟車であるトヨタ GR86も、選択肢としては存在した。だが、クルマの運転と同時に「マウンテンバイク」や「クルマで行く1人旅」なども愛してやまないK・Cさんとしては、「荷物や道具が積めないから」という理由でロードスターとアバルトは却下。そして「こっちの顔のほうが好きだから」という理由で、GR86ではなくBRZを選んだ。
そして今、この記事の冒頭付近に掲載した写真のようにマウンテンバイクをBRZに詰め込み、あちこちへと出かけている。さらに「1人旅」と「小説家・三浦綾子」もこよなく愛するK・Cさんは、旅の荷物をBRZのラゲッジスペースに詰め込み、三浦綾子ゆかりの地である北海道をくまなく巡る旅にも、しばしば出かけている。
「BRZみたいな乗用車も好きですし、サーキットでジムカーナやドリフトテスト(普段使用している自家用車を使用し、最低限の安全装備でタイヤが滑る感覚を体験するイベント)に――今履いている普通のタイヤでできる範囲で――参加してみるのも大好きですし、そして自分でクルマを運転して行く旅も大好きです。とにかくいろいろなことが好きな私ですが、本質的には『どこかへ行くこと』と、どこかへ行ったうえで『新しい何かと出会うこと』が好きなんだと思います。そういった意味では、子どもの頃から大好きな『小説』もそうですよね。本を読んでも身体は移動しませんが、心は、どこへだって飛んでいくことができます。新しい世界を、知ることができるんです。
しかし小説を読むのではなく、リアルな私の身体をリアルにどこかへ連れて行くうえでは――あくまでも『私にとっては」ですが――BRZこそがベストなんですよね。MTのスポーツカーとして機敏に走らせることもできるし、グランドツアラーとして快適かつ安全に、旅の荷物を載せたうえで長距離を走ることもできる。そしてジムカーナもできればスーパーへのお買い物にも使えるということで(笑)、もう100点満点としか言いようがないですね。
このクルマと元気な身体、そして好奇心さえあれば、私はこれからもずっと『新しい何か』と出会えるはずなんです。だから、あちこちへ行きすぎて、走行距離はすっかり延びちゃってますが(笑)、これからもずっと、完全に壊れてしまうまでは、スバル BRZを人生の傍らに置いておきたいと思っています」
K・Cさんが言うとおり「スバル BRZ=100点満点」というのは「あくまでもK・Cさんにとっては」であり、人それぞれの考え方や生き方によって「100点満点のクルマ」は変わってくる。
だがとにかく大切なのは、たとえそれがどんな車種、どんなボディタイプ、どんなパワーユニットであろうと「自分にとっての100点満点のクルマ」を見つけることであり、そのクルマを使って「幸せに生きる」ということなのだろう。
K・Cさんとスバル BRZの関係を見ていると、そんな「クルマとヒトにとっての基本」を、あらためて思わずにはいられなかった。
(文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也/編集=vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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