子育てを終えた仲良し夫婦の新たなカーライフ。四季を肌で感じるオープンカーに乗って、君とどこまでも【取材地:福岡】[ポルシェ・ボクスター]

歴代2代目のモデルにあたる987型ポルシェ・ボクスター。ポルシェとしては少し珍しいMRレイアウトを採用した2シーター・オープンモデルの屋根を開け、まだ薄手の上着では肌寒さが残る撮影場所の海岸に颯爽と訪れたのは守田さんご夫婦だ。

「若い頃から、いずれ2シーターのオープンカーに乗りたいと思っていたんだ。なんでそこまでオープンが良かったかはわからないけど、乗っていて目立つことと、ホロを開けているときの開放感が気持ちいいだろうな、と。そういえば18才か19才のころかな、友人が乗るフェアレディのオープンに乗せてもらったことがあって、そのときの気持ちよさが心にずっと残っていたのかもしれない」

だが、守田さんの愛車人生において憧れの2シーター・オープンは、それに乗りたいからといって簡単に選べる選択肢ではなかった。その理由は、自分の趣味以外にも守るべき仕事と家族の存在があったからだ。

50才まで国産自動車メーカーに勤務していた守田さんにとって、車種選びは必然的に勤務先のメーカーに限られていた。なおかつ、結婚して子供が同乗することも考えると2シーターはもってのほか。その時の自分の生活や家族構成に合わせる格好で、最低でも4人乗車ができるモデルが“守田家”の愛車として選ばれてきたのだ。

「それでも、ハコ車のレースとかはたまに見ていたからねぇ。セダンでもしっかり走るクルマが好きだから最初に買ったのはブルーバードの910ターボ。スカイライン・ジャパンも乗ったし、TバールーフのフェアレディZ、スカイラインのGTS はR31とR32で2代続けて乗った。でも結局子供のことを考えると、最後はミニバンのエルグランドになったけどね」
こうした愛車遍歴に加え、ボクスターのボディに貼られたステッカーの数々からも、モータースポーツやスポーツカーへの興味が伺える。

「子供がデカくなって独り立ちしたから、もう自分のクルマは1人か2人で乗るしかなくなったんだ。なのにエルグランドだと、後ろの座席はなんのためにあるんだってことになるでしょう」
一方で、仕事の都合もちょうどよかった。自動車メーカーでの仕事は50才で転職し、まとまった退職金も出た。家族、仕事の都合を一切気にする必要なく、50代にしてようやく守田さんが“自分だけの都合”で愛車を選ぶことができる機会が訪れたのだった。

守田さんが愛車選びを始めた際、このポルシェ・ボクスターのほかに、ベンツ、アウディ、BMWのオープンカーが候補に上がったそうだ。
外車、国産にこだわりはなかったものの、モデルチェンジの周期こそ早いものの、そのたびにスタイルに大きな変更がない外車のほうが好みだった。そのなかでも、ベンツはホロがハードトップ、BMWは4シーターという点で候補から外れ、最後にアウディのTTとボクスターで悩んで、周りであまり見かけなかったという点と、走りの面でMRレイアウトが気に入ったボクスターを選んだという。

守田さんがオープンカーに乗るにあたって、こだわりがひとつある。それが、春夏秋冬季節を問わず、雨さえ降ってなければ常にホロを開けたオープンの状態で走るということだ。

「どんなに暑くても、寒くても、雨さえ降らなければオープンまま。真上に空が見えて、風も感じて本当に体で直に季節を味わえるのがオープンのいいところなんだ。夏にエアコン付けないで汗をかくのも、それはそれで味があるし、冬はヒーターをつければ意外と寒くない。むしろ信号待ちで暑く感じるくらいだね」と、この楽しみ方は外気と直で触れ合うオープンカー以外の車種では決してできないことだ。

そんなカーライフを物語るのが、撮影にあたって愛車のお供として持ってきていただいた品々だ。帽子は日除けに役立つ夏用、防寒のための冬用があり、肌寒い季節には手袋も必需品。オープンでもホロを閉めさえすれば必要ないグッズともいえるが、それでは守田さんにとってせっかくの楽しみがなくなってしまう。

日差しを避けるサングラスも必需品のひとつ。気分によって代えられるように後付けのサングラスホルダーを追加して複数本を並べている。なかでも、ポルシェデザインの青いサングラスが曇天時でも風景が快晴に見えるとのことでお気に入りのようだった。

「せっかくのポルシェにそこまで手を加えるなんてもったいない」と言われることも少なくないそうだが、“クルマはただの移動手段だけの存在ではない”という考えを持つ守田さんにとって、クルマは走りの性能も満足できてこそ。
高速巡航時の車体をより安定化させるため、フロントバンパーやリヤウイングをアフターパーツへ交換。ローダウンやワインディングもしっかり走れるように車高調も導入した。

パワーアップのためにターボを後付けすることまで考えたというのも驚きだ。ただ、ポルシェに一般的なRRではなくボクスターはMRのため、ターボ化した際の冷却性能不足により逆にパワーロスするという意見を受け、それでもやれるならと、NAのままコンピュータチューンによるパワーアップを行ったという。
普段からメンテナンスやカスタムを依頼しているドライバーズカフェ フォレスト(福岡県京都郡)がサーキット走行会の開催も行っているため「そこまでやるな守田さんも参加しないか?」と勧められたりもしたが、オープンカーに必要な安全規定のロールケージを付けると街中で野暮ったく見えるため、きっぱりと断ったそうだ。

日常使いやゴルフ場への移動(実は長いクラブを抜かないとゴルフバッグがトランクには入らないとか)のほか、守田さんがこのポルシェで最も気に入っているのが海岸沿いの道路を走ることだ。

「オープンで走って一番気持ちいいのが海沿いだね。ストレス解消にもなるから、特に理由もなく走ったりもする。写真もそういうところのばかりが残ってるよ」と、購入当時に撮影したホイールなどの変更が加えられる前の写真なども見せてくれた。

去年は夫婦の二人乗りで福岡から山梨まで往復で3泊の長距離ドライブを楽しんだそうで、途中は雨が降らなかったためずっとオープンのままだったという。「たまにスピードを出して怖いこともあるけど、乗ってるときに感じる季節感は気持ちいいですね」と奥さまもオープンカーの助手席を気に入っているようす。

「途中で降ってきたら仕方がないけど、そもそも雨の日はこのクルマに乗らないな。ホロを開けられないから」と守田さん。オープンカーをどんな季節でもオープンの状態で乗るというのは、それだけの覚悟が必要なことなのかもしれない。
しかし、裏を返せばこのクルマでしか体験できない乗り方を、他のどのオーナーよりも多く体験していると言えるだろう。

「これが人生最後の1台のつもりで買ったわけじゃないから、もしいつか別のクルマを買う機会が来れば、また2シーターのオープンを買いたいな」

日本に住んでいれば毎年必ずやってくる春夏秋冬、どの時期でもホロを開けて颯爽と海岸沿いを走る2シーターオープンの姿を見かけたら、それはもしかしたら守田さんご夫婦かもしれない。

(⽂: 長谷川実路 / 撮影: 西野キヨシ)

[ガズー編集部]

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