人生をカラフルに彩り、いろんな出逢いを生んでくれるトヨタ86。幸運のナンバー24を貼り、夫婦でサーキットを楽しむ【取材地:福岡】

サーキット走行は敷居が高くて縁がないと思っている人も多いだろう。それが女性だったら尚更だ。しかしサーキット走行を身近に感じられるクルマに出会い、自らの意志でそれを体験してみた結果、人生が大きく変わることもある。福岡県在住の境さつきさんがまさにその一人だ。

「子供のころから父親と一緒にレースやラリーを見るのは好きでした。なので早くクルマに乗りたくて、高校卒業してすぐにオートマ免許を取ったんです。本当はマニュアルで取りたかったんですけど、教習所の先生から『オートマでとって限定解除のほうが楽だから』と言われまして。夏に限定解除した後は、運転が上手くなりたいというのがあってマニュアルのヴィッツRSを買って通勤していました」

それから11年ヴィッツに乗り続けた境さんだったが、クルマで走ることが大好きな彼女は「一度はスポーツカーに乗ってみたい」という思いが強くなる。そんな時、境さんの運命を変えていくことになるトヨタ86が発売されたのだ。

「自分でいろいろ調べたり、知人が86の試乗会に誘ってくれたり、点検の時に話を聞いたりすればするほど、86をいいなと思うようになりました。それで8年前の11月に購入したんです。その頃は青が好きでヴィッツも青だったので、このクルマも近い紺色(アズライトブルー)にしました」
境さんが手に入れたのは2013年式のトヨタ86のGTグレード。ちなみに、このグレードにした理由は「アルミスポーツペダルだったから」とのこと。

というのも「ヴィッツはゴムで雨の日に滑るのが気になっていたんです。その他の部分はグレードによる差はわからなかったので、とりあえず真ん中のGTを選んでおけばどうにでもなるかなって(笑)」
あくまでも運転しやすさを基準にチョイスしていたところに、彼女の運転に向き合う姿勢の真剣さが垣間見える。

「走るのが楽しい、運転が上手になりたい!」そんな情熱を秘めていた境さんだが、ヴィッツに乗っている頃は『一般の人でもサーキット走行ができる』ということはまったく知らなかったという。

「86を買うって決めてから雑誌やインターネットで調べてみたりして、素人でもサーキットで走れるということを知って、行ってみたくなりました。でも周りにだれもサーキット走行している人なんていなかったので、ヴィッツで最後の思い出作りに…と一人で参加してみたんです。オートポリスの広いコースを走るのは怖かったけど、楽しかったですね。それに年配のおじさん達が声をかけてくれたので、それも良かったです」
そう、境さんは誰かに誘われたわけでもなく、たった一人で一歩を踏み出し、自らその世界に踏み込んだのだ。それが彼女のカーライフの大きな転換期となっていく。

「86だとヴィッツとサーキットを走った感覚も違うのかな? と思って、オートポリス独自のレディース走行会に初めて86で参加してみました。86は乗りやすくて楽しくて。そしてその時一緒に走った方に『サーキットで走りたいならフォレストに行くといいよ』と教えてもらい、すぐにフォレストの小笠社長に会っていろいろとアドバイスをいただいたんです」

福岡県にあるドライバーズカフェ フォレストは“無理のない予算で必要最小限のチューンを施し、壊れにくく、より長くサーキット走行を楽しめる事ができるクルマ作り”をモットーとするチューニングショップ。まさにサーキット初心者の境さんにはぴったりのショップだった。

そこから、86を相棒に境さんの本格的なサーキット活動がスタート。そしてそれは彼女にかけがえのない出逢いとサーキットライフ環境がプラスになる大きな変化が訪れる。
「フォレストは部活みたいな感じでいろいろと教えてくれました。私はずっとサッカーをやっていたので、それとリンクする感じで性に合っていたみたいで。オフィシャルなんかもやらせてもらったんですが、その時のクラブ員の中に今の旦那さんがいて結婚することになったんです。それで結婚を機に5年前に熊本から福岡に引っ越してきて仕事を探しながら毎日のようにフォレストでお店を手伝っているうちに、そのままフォレストで働くことになりました(笑)」

ちなみに、境さんの旦那様は付き合った当時はスイフトでレース活動をしていて、境さんはそのサポートをすることが多かったそうだが、今現在は境さんのサーキット走行やレース活動を旦那様がピットクルーとしてサポートする体制に逆転。
休みの日は大抵一緒にクルマに関わる何かをしているそうだ。そんな逆転現象について、旦那様はこう話す。

「僕も走っていたから彼女へのサポートも痒いところに手が届くし、こうしてあげたら喜ぶんじゃないかって思って行動できる。それにこの前レーシングカートで負けてしまって、もういいかなと(笑)。もう勝てん。それに彼女のほうが思い切りがいい。自分は自分自身で勝手に壁をつくってしまうけれど、彼女は言われた通りに実行するから強いんですよ。だから意地はって競うよりも、サポートしたいと思ったんですよ。夫婦で同じ趣味ってなかなかないですからね」
境さんのサーキット走行に対する真剣さは、旦那様の心をも動かしたというわけだ。

そんな境さんに相棒の86へのコンセプトやこだわりを聞いてみた。
「ゼッケンが貼ってある以外は一見ノーマルに見えながらも、中身はしっかりサーキットでタイムが出せる機能性重視の仕様になっているところですね。最初は走るたびにゼッケンを貼って剥がしてを1年間繰り返していたんですが、ボディが傷んできたので貼りっぱなしになりました」

確かに外装はゼッケン以外エアロやステッカーでのドレスアップは一切なくとてもシンプル。ホイールも普段は街乗り用を使用していて、今回は取材用にサーキット用のタイヤに履き替えてきてくれていた。

「純正サイズは17インチなんですが、レースのレギュレーションが16インチなのでサーキットではこのSSRホイールに205/55-16サイズを履いて4輪をローテーションしています。16インチホイールはブレーキローターが綺麗におさまるし、乗り心地もよい上にタイヤも17インチに比べれば1本5000円くらい安いので良いことしかありません」
とコストパフォーマンスと機能性を両立させている。

その一方、内装はフルバケットシートに6点式のシートベルト、そして6点式ロールバーとサーキット走行に必要な機能パーツを採用。ただサーキット走行車両にはほぼ搭載される4連メーターは「同じクルマの社長があれだけ回転あげても問題ないのだから、そこまで回せない自分のクルマがダメになるはずはない」と未装着のままだ。
その他にも車高調などの足回りに強化クラッチなどの駆動系など、参戦しているナンバー付きの86レースで戦える機能はしっかり備えられている。

その中でも境さんが気に入っているのがブリッド製のフルバケットシート・ビオスⅢ。「すごく体にフィットして、駐車場で座ったら寝てしまうんです!」というほど、女性向けのシートが少ない中で見つけた自分にぴったり合うシートだ。

ところでこのサーキット仕様の86だが、サーキット以外でも普段の買い物やお出かけなど境さんの街乗り用としても活躍中。そのため所持する上での苦労もある。
「アパートなので雨ざらしですぐに汚れてしまうことはネックです。あとはゼッケン付きのスポーツカーで威圧感があると思うので、煽り運転と思われないように安全運転を心がけていますね。目立つので悪いことはできないです(笑)」という気苦労も!?
ちなみにゼッケンナンバーの“24”は、いろいろ調べて『運のいい数字』だからとチョイスしたそうだ。

「サーキットに行くと気持ちがちょっと上がってアドレナリン全開になります(笑)。私にとってパワースポットなのかなと。クルマ自体はとても速くてポテンシャルもあるのですが、去年はタイムが伸び悩んでスランプになりました。でも気持ちの問題なので練習するしかないなって。本当に自分との戦いです。今年もシリーズに参戦してタイムアップを目指して練習をしていきたいです」と上達にむけて気力も充実している様子だ。

「86に乗るようになって生活がだいぶ変わりました。まさに自分の人生の分岐点になった存在です。環境がかわって主人にも今のお店にも出会えたし、仲間もできました。本当にいろんな出逢いを私に与えてくれる、幸運のクルマですね。現在の走行距離は6万9000kmですが、まだまだ乗り続けてたくさん活躍させるつもりです」

境さんと二人三脚で共に進化し続ける86は、サーキットでは限界にチャレンジし続けるための頼もしい相方となり、彼女の日常では足として役に立ち、そして幸運の出逢いを運び続ける存在としてこれからも境さんの横で活躍を続けていくに違いない。

(⽂: ⻄本尚恵 / 撮影: 平野 陽)

[ガズー編集部]

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