真っ赤な愛車は世界観を表現するための巨大なキャンパス。走りも見た目も楽しめる通勤快速コペン【取材地:福岡】
アニメや漫画、ゲームなどの作品に登場するキャラクターやタイトルロゴなどのステッカーをクルマのボディに貼って世界観を表現する『痛車』。おそらく世の大半の人たちが痛車と聞いてイメージするのは、オーナーが推しのメインキャラクターステッカーが大きく貼られたクルマだろう。
しかし、その固定観念にとらわれることなく「キャラクターを貼らなくても作品観を出せれば、その作品の痛車だというのがわかるんじゃないだろうか」という想いで“一見ただの派手なクルマだけれど見る人が見ればわかる痛車”として制作されたのがこのコペン。
鮮やかな赤いカラーリングにシンプルなウサギのステッカーが映えるこのデザインは、とあるアニメをリスペクトしたものなのだ。
このクルマのオーナーは福岡県北九州市在住の大谷絋史(26才)さん。小さな頃から父親や友だちの影響でクルマ好きだったという彼は、もともとアニメは好きだったものの痛車にこれといった興味はなかったそうだ。
しかし3年前、痛車イベントに遊びに行ったことでその世界に魅了されてしまう。
「クルマのカスタムってジャンルごとにある程度の方向性が決まっていますよね。でも痛車は中身が本当にバラバラなんです。僕はその時まで痛車というジャンルに理解がなかったけど、こんなにもバラエティ豊かなジャンルがあるんだなってことに心惹かれて。自分もクルマ好きでアニメ好きなので、やってみたいなと思ったんです」
たしかに痛車のベース車は軽トールワゴンやミニバン、スポーツカーに高級セダン、トラックやファミリーセダンなど多種多様だ。そしてその中身もノーマルから本格的なチューニングカー、そしてドレスアップマシンまで多岐に渡る。その点では他には類をみないジャンルのひとつと言えるだろう。
このイベントに参加した当時、大谷さんのマイカーは軽自動車だったが、運転自体が好きでだいぶ慣れてきたこともあり、スポーツカーへの乗り換えを検討していたという。
「ちょうどトヨタ関連の仕事に転職することになっていたんですが、その頃86にブライトブルーという新色が追加されて、その色に惚れ込んで86を新車で買ったんです。さっそく痛車にしようと思ったんですけど、通勤車だったのでキャラクターを貼るのはNGでした。そこでキャラクターを貼らずに作品の世界観を表現する痛車制作を始めたわけです」
大谷さんが一番好きなアニメは大空を舞台に魔力を持った少女たちと人類の敵が戦う航空系作品『ストライクウィッチーズ』。
「86はワイルドスピードが大好きな友人に手伝ってもらって、そこに出てくるクルマのグラフィックデザインを参考にしながら、キャラブライドブルーの純正カラーを大空に見立てて、ストライクウィッチーズの作品感を出すようにしてみました」
そう話す大谷さんから86の画像を見せていただいたのだが「これが痛車なのか!?」と、あまりにも美しい仕上がりに驚かされた。大谷さんの “自由度の高さに面白さを感じた”という言葉の意味を、見事に見せつけられた思いだった。
ではそんな86ベースのキャラなし痛車ライフを楽しんでいた大谷さんがこのコペンをさらに追加するきっかけはなんだったのだろうか。
「86とは別で通勤車が欲しいと思っていました。毎日往復60kmの距離なので時間としては結構な割合を占めます。ならこだわったクルマに乗りたいなと思って。もともとオープンカーにすごく乗りたかったのでMR-Sやロードスターあたりがほしいなと探していたところ、GRガレージ福岡空港店さんに『おもしろいクルマがあるよ』と紹介してもらったのがこのコペンでした。軽自動車で維持しやすいし燃費もいいオープンカーだったので、購入できたのは相当運がよかったなと」
そうして昨年(令和2年)に新たに大谷さんの愛車に加わったコペンは、2012年式の後期型で、グレードは丸目が特徴で「懐かしい雰囲気が気に入りました」という『セロ』。
また、前オーナーがサーキット走行をしていたそうで、コンピューターセッティング、リミッターの解除、強化クラッチ、1wayデフにクスコの車高調やエンドレスブレーキ、GRコペンのスタビ装着など走って楽しい状態に仕上げられていた。
ちなみにエンジンルームを見るとわかるが、ベースカラーはモスグリーンで、ボディの赤色はフルラッピングである。
内装のメインを占めるシートは、もともと運転席のみレカロ製だったものを前オーナーが外して代わりに助手席と同じヘッドレスト付きのコブラ製フルバケットシートをつけてくれたそうで、とてもシックな雰囲気。また、ステアリングは通勤車としてエアバック付きが義務だったため木目調のナルディから純正品に交換。オプションのシフトノブはお気に入りでそのまま使用しているそうだ。
そしてコペンも痛車にするべく制作を開始する。
「今度はこのクルマが通勤車になるので、86でのノウハウをもとにキャラなしで『ストライクウィッチーズ』の世界を表現したいと思い、好きなキャラが乗っている赤いバイクのデザインを全面に取り入れてみました。ベースの赤いラッピングフィルムはアニメのバイクの元ネタになったハーレーの赤を意識して、すこし明るめの色にしています。そして、その上に貼ったサイドのホワイトストライプとウサギのようなステッカーは作中に登場する赤いバイクと同じデザインにしているため、好きな人が見ればすぐにこのアニメの痛車だとわかるはずです」
ちなみにラッピングやステッカーを貼る作業は専門ショップに依頼するひとも多いが、彼は友人と一緒に自分たちで作業することでカスタム費用も節約しているという。
「特に気に入っているのは、トランクの上にキャラクターのマークをエンボス加工で表現しているところです。リアガラスにも関連の切り文字ステッカーを貼っています」
こうして大谷さんの手により、アニメを知らない人からすればスポーティーでインパクトのあるマシンに見える一方、ファンの人には一目瞭然でストライクウィッチーズの痛車だとわかる、中身もライトチューンが施された自慢のカスタムコペンが誕生した。
この痛車コペンを通勤以外にも街乗りでも楽しんでいるという大谷さん。
「走りの面ではコンパクトな上にとても軽いので、街乗りでも楽しいクルマだなと感じます。それに初めてのターボ車なんですけど、一般道でも加速感を感じられておもしろいし快適です。あと、街乗りするときは冬でも大体オープンカーにしています。ヒーターをつければ意外と寒くないんですよ(笑)。ちなみにカーボン調ルーフは純正オプションなんです」と走行性能面もスタイルも相当気に入っているそうだ。
ところで、このコペンを通勤車にしたことで、もう1台の愛車である86に大きな変化が起きた。ついにボンネットにキャラクターが入ったのだ。美しいサイドのデザインはそのままで、ボンネットもキャラクターの可愛さよりもカッコよさが引き立っていて全体の硬派な雰囲気をそのまま継いでいるところに、大谷さんのセンスの良さが発揮されている。
そして、この86の写真は大谷さん自身の撮影によるもの。実は大谷さん、絵を描いたり写真を撮ったりするのも好きなのだそうだ。
「今後は86の方は通勤車でなくなってキャラクターを貼れたので、外見はもうこのままで次は内装を作り込んでさらに作品感のあるものにしていきたいです。コペンの方はホイールをイメージに合うものがあれば変えたいですね。あとサーキットを走ったことはないんですが、モータースポーツが好きなので、機会があればコペンと86どちらでも走ってみたいですね」と愛車ライフは広がり続ける。
クルマとアニメが好きで、絵や写真で表現するのが好き…そんな大谷さんにとって、愛車となった痛車たちは乗って楽しむ相棒なのはもちろん、彼の好きな世界観を表現する巨大なキャンパスといえるのかもしれない。
(文: 西本尚恵 / 撮影: 平野 陽)
[ガズー編集部]
愛車のデータ
ダイハツ コペン セロ (ベース車)
ボディタイプ :オープンカー
ドア数:2ドア
乗車定員:2人
型式:3BA-LA400K
ボディーサイズ:全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1280mm
ホイールベース:2230mm
トレッド前/後
車重:850kg
サスペンション:Fストラット式/Rトーションビーム式
エンジン形式:直列3気筒DOHC12バルブICターボ
エンジン型式:KF
排気量:658cc
ボア×ストローク:63.0mm×70.4mm
圧縮比:9.5
最高出力:64ps(47kW)/6400rpm
最大トルク:9.4kg・m(92N・m)/3200rpmm
過給機:ターボチャージャー
燃料供給:EFI(電子制御式燃料噴射装置)
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:30ℓ
トランスミッション:5速MT
駆動方式:FF
燃費:22.2km/L
カラー:ブリティッシュグリーンマイカ(フルラッピングのため赤)
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