『頭文字D』に憧れて。理想のハチロクにするために刻んだ10年の軌跡

  • GAZOO愛車取材会の会場であるジーライオンミュージアムで取材したトヨタ・スプリンタートレノ(AE86)

    トヨタ・スプリンタートレノ(AE86)



「父親がZ32などに乗っていたこともあってか、僕もクルマが好きになり、気付けば頭文字Dの虜になっていました。その頃は、当然AE86に乗りたいと思っていましたね。中学生の頃には、『湾岸ミッドナイト』の映画を観て、フェアレディZ(S30)も良いなと思うようになりました。けど、やっぱり一番の憧れだったAE86トレノの魅力が勝って、19歳で運転免許を取得してすぐ、AE86を探し始めたんです」

現在29歳の優也さんが免許を取得した2014年頃は、インターネットでAE86の中古車を検索すると、まだフルノーマルのAE86がたくさん掲載されていたという。その中で、頭文字Dリスペクトの優也さんが探していたのは、当然物語のメイン機と同じ白黒の3ドアトレノ。そして『できれば快適な方がいい』と、最上位グレードのGT-APEX後期を求めたのだった。

「でも、白黒トレノのGT-APEXって、イニDの影響で前期型も後期型も高かったんです。それこそ、就職したばかりの初ボーナスを頭金にしても到底買えない価格だったので、条件を変えて探すことにしました。そこでビビッときたのが、赤黒の3ドアトレノだったんです。グレードはパワーステアリングもパワーウインドウもない『GTV』。でも、無事故車のフルノーマルで120万円くらいだったので、当時は高いなと感じつつも、いつかはオールペンをしようと考えながら、購入することにしました。2014年、19歳になってすぐのクリスマスイブにオーナーとなりました!」

優也さんが購入したAE86は、1985年式の後期型となるスプリンタートレノ(AE86型)のGTV。3ドアハッチバックタイプだ。
ちなみに、前のオーナーさんが2人いて、最初の方が大事に長く乗り続け、2人目のオーナーさんは購入してからほどなくして手放したという記録が残っていたそうで、走行距離は23万kmとそれなりの距離数だが、ずっとトヨタディーラーでメンテナンスを受けていたため状態はそれほど悪くなかったのだそうだ。

  • (写真提供:ご本人さま)

憧れのAE86を購入後は、週末にイベントやドライブに行くなどしてカーライフを楽しんでという優也さん。しかし、やはり走行23万kmを超えていたエンジンは、相当ヤレていたようで、購入から1年しないうちにエンジンの載せ換えを決意。
そしてその作業をお願いしたショップが、埼玉県にある『テックアート』だったという。何故、わざわざ兵庫県から埼玉県まで? と思うところだが、この選択こそが彼のAE86ライフをプラスの方向へと導いていくことに繋がったという。

「テックアートさんにお願いしようと思ったのは、高校生の時に『ホットバージョン』というビデオの『N2レース』企画を見た時に、テックアートのマシンがめちゃくちゃ速かったので、それで好きになっていたからです。その後、気になってテックアートを調べていたら、大好きなレーシングドライバー土屋圭市さんのAE86もメンテナンスしていると知って、埼玉まで行こうと決めたんです。当時は20歳と若かったので、社長もびっくりしていましたね(苦笑)」

「でも、若くてフトコロ具合が寂しいことが分かっていたのか、例えば“マフラーをテックアートさんと土屋圭市さんのコラボモデルにしたい”と相談したら『展示品で良ければ』と提案してくれるなど、本当に気を使って頂きました。そんな感じで1回目のエンジンの載せ換え以来、車検やカスタマイズはずっとテックアートさんのお世話になっています。お陰様で、買ってから10年間一度もトラブルなく乗り続けることができました」

憧れや好きなものに対し、妥協なくアグレッシブさを発揮する優也さんの情熱が、テックアートさんの心を動かしたことは確かだろう。そしてそんな優也さんの情熱に応えながら10年かけてコツコツと手を入れ続けてきた結果、ボディ色は理想の白黒に、足まわりは街乗りでも乗り心地が抜群な仕様となり、エンジンはテックアート製の20バルブ4A-G(MoTeC製M130で制御)へとアップデート。優也さんが思い描いていた理想のAE86にかなり近づくことができたそうだ。

そんな数々のテックアートカスタマイズの中で、優也さんが特に気に入っている所を教えていただいた。

「一番はBRIDEのキングシート(土屋圭市モデル)ですね。最終生産ロットのものなんですが、テックアートの社長がわざわざ土屋さんに直筆サインを入れてもらったものをサプライズで用意してくれたんです!! 他はシフトブーツパネルで、父親のカプチーノで使われていたカーボン製のものをテックアートの社長に見せて、同じようものをワンオフで作って頂きました。他にもボロボロになったトランクのカーペットを綺麗にしたいと相談したところ、こちらもワンオフで新しく作ってくれたんです。ちなみにその後は商品化したみたいで、今では誰でも買えるようになりました(笑)。テックアートさんって、本当にどんな要望にも柔軟に対応してくれるんです」

また、テックアート関係以外にも優也さん自慢のカスタマイズもある様子で「ハチロクを買う前に初任給で買ったTRDのレース用タコメーターに、イベントで会った土屋さんのサインを入れてもらったんです。それと、レーシングドライバーの谷口信輝さんも大好きで、トランクにはHKS社とのコラボの工具箱を置いています。で、その下のタイヤハウス内にも、谷口さんがTONE社とコラボして作った、受注生産の車載ツールセットを追加しました。それなりの金額は掛かってしまいましたが、トルクレンチも持っていなかったのでとても重宝しています」

「タイヤはYOKOHAMAタイヤが好きなのでHF TYPE-Dの復刻版を買って『ADVAN』の部分をホワイトレタリングにしてみました。それと、スターロード製のGLOW STERホイールも自慢ですね。S30Zにハマっていた中学生の時、クルマ雑誌にスターロードが出ていて、その頃からずっとファンだったんです。2年前にショップを訪問して、このホイールを買うことができて嬉しかったです!」

そして優也さんのフットワークはとても軽く「関東方面に行くのはまったく抵抗がないです。テックアートやスターロードに行く時も、アニメ好きなので聖地巡礼をするなど旅行気分で毎回楽しんでいます」とのこと。
昨年もAE86だけの個人ミーティングに参加し、頭文字D聖地巡りを泊まりがけで楽しんだそうだ。その反面、地元の関西エリアでは、リアルでなAE86仲間やクルマ友達はほとんどできなかったのだとか。

「関西方面は、一期一会の出会いはあってもそれくらいで。遊び仲間はすべて関東方面なんですよね。SNS上では同い年で乗っている方の知り合いはいるんですけど…」と苦笑い。しかし、最近ではスターロードの社長からサーキット走行会のお誘いがあって、それに参加したことで新たな繋がりが増え「愛車との楽しみ方が広がった」と嬉しそうに話してくれた。

  • (写真提供:ご本人さま)

ちなみに、優也さんはこれまでもドリフトやサーキット走行には興味があったという。しかし、購入後すぐにAE86の相場が値上がり始め、当時はノーマルで綺麗な状態だったということもあって、サーキットを走る勇気が出なかったそうだ。そんな優也さんにとって、サーキットデビューは念願だったとも言える大きな出来事となり、さぞ嬉しかったことだろう。

最後に優也さんに、今後やってみたいことを伺った。

「AE86のカスタマイズはやり切った感があるので、次はまだ一度も交換していないミッションのオーバーホールをしたいです。ミッションに気を遣わずにサーキット走行をしてみたいですから。そして、できれば富士スピードウェイの本コースにもチャレンジしたいです。さらに欲を言えば、ずっと憧れているS30Zや、現行型のフェアレディZであるRZ34にも乗ってみたかったり…。AE86につぎ込んだ金額を考えれば、RZ34だって買える気が…(笑)」

「これまで、カスタマイズ代やガソリン代など、毎月の給料のほとんどをクルマに費やしてきました。そしてこれからも、どこに行くとしてもこのハチロクと一緒に行きたいなと思っています」

現在、愛車の走行距離は31万5203kmとなっているが、優也さんにとってはまだまだ通過点に過ぎない。長い時間が掛かったとしても、憧れや好きなものに対しては妥協せず、一歩ずつ着実に実現していくのが彼のスタイル。きっとこれからも憧れを求め、楽しく努力を重ねていくことだろう。

(文: 西本尚恵 / 撮影: 平野 陽)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:ジーライオンミュージアム&赤レンガ倉庫横広場 (大阪府大阪市港区海岸通2-6)

[GAZOO編集部]

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