世界最小・最強オフローダー! 初代「スズキ・ジムニー」を振り返る…懐かしの名車をプレイバック

  • 初代 スズキ ジムニー

軽自動車のコンパクトなボディーに、本気も本気のオフロード技術を詰め込んだ「スズキジムニー」。ニッポンが世界に誇る小さな巨人は、どのような経緯で誕生したのか? どんな風に走ったのか? ユニークなオフローダーの誕生物語をひも解いてみよう。

2人の男が飲み屋で意気投合!

スズキ・ジムニーが売れに売れている。林道やオフロードを走るのに特化したクルマが、都会でも人気なのだ。

ジムニーというクルマはスズキがつくっている軽自動車規格の4WDなのはおなじみだが、初代ジムニーのルーツが別のメーカーのクルマだったというのは、あまり知られていない。それだけに、この究極のオフロード軽自動車、ジムニーがこの世に生まれてくるまでには、紆余(うよ)曲折があったのだ。

1966年、小さな四輪駆動車が富士山を登っていた。ザクザクの火山灰の斜面をトコトコと進んで、8合目まで到達した。

これが神奈川のホープ自動車株式会社が開発した「ホープスターON型」で、のちのジムニーの原型である。この4WDには三菱製の360ccエンジンが積まれていて、社長でありエンジニアであった小野定良氏が設計した四輪駆動システムが組み合わされていた。しかし、ホープ自動車はその後に苦境に陥り、ON型を継続して生産する余力がなかった。

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ちょうどその頃、スズキの鈴木 修氏(現・スズキ株式会社相談役)は東京駐在だった。

「アメリカでのビジネスで赤字出して、しばらく東京でおとなしくしてろって、言われてね。その頃に飲み屋で小野さんと知り合った。それで『このクルマは面白い!』と思って、小野さんを説得して図面を譲ってもらったんだ」

売れると思った理由は、ある時、溝に落ちた大きなクルマを、ロープでつないだON型が軽々と引き出すシーンを見たからだそうだ。それを目の当たりにして、生産が中断してしまうぐらいなら、スズキでつくったほうがいいと考えたらしい。

「売れない。というのを説得してつくってもらったよ。そしたらものすごく売れた。それで俺も浜松に帰れた(笑)。小野さんには感謝しかない」

そんな小野氏と鈴木氏の人間関係からこの世に出てきたのが、スズキ・ジムニーだったのである。

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厳しい環境に特化した“世界一の4WD”

2サイクルの空冷360㏄エンジンを搭載した初代ジムニーは、メカニカルノイズが大きく、あまりスピードが出ないクルマである。そして、トランスファーギアを2WDから4WDに切り替え、ステアリングを大きく切るとブレーキング現象の抵抗でエンストしてしまう! ……という、直結4WD機構が生み出す強烈なクセがあるクルマである。

これだけだとまるでいいことナシだが、副変速機付きの4WDが本領を発揮する場所では、最強のクルマに変身する。車重の軽さと4WD+ローギアの組み合わせが引き出す駆動トルク、車格と比べるとアンバランスなほどに大きなタイヤが、雪道に急坂路、そして人が歩くのが困難なような岩場までも走破できる性能を、ジムニーに与えたのである。

スターターを回すと、ほとんど無音でエンジンが始動する。これはスターターとダイナモ(発電機)が一体となったセルダイナモという機構のためだ。駆動と発電の両方をまかなうという点では、最近はやりのマイルドハイブリッド機構とほぼ同じ原理である。ジムニーの場合は走行時のモーターアシストはしないが、50年先の技術をある意味先取りして装備していたのには驚きだ。

  • 初代 スズキ ジムニー

走りだすと、にぎやかなエンジン音はオープンボディーの風切り音やバタつくホロに相殺され、あまり気にならなくなる。乗り心地は前後リーフスプリングなので、ちょっと跳ね気味の、ワイルドさが伝わってくるような味である。

ステアリングはギア比がすごくワイドなので、交差点を曲がるのでもグルグルとたくさん回さないといけない。不整地走行を得意とするクルマのステアリングは、おおむね急ハンドルで転倒しないようゆるいギア比だから、理にかなっている。

このように、街よりも山に特化した性能を盛り込んだのが、初代ジムニーである。

ホープスターON型がスズキ・ジムニーとなって大量に生産された意義は大きく、山中の設備保守点検から、雪深い山村などで医者の往診を可能にしたクルマとして、地域に愛されてきたのだ。

世界一と言っても過言ではない走破性を持つ小さな4WDは、希代のアイデアマンと、先見の明を持って図面を引き継ぎ、本社へと返り咲いた男の、偶然と奇跡が生み出した一台なのだ。

(文=三好秀昌)

初代スズキ・ジムニー(1970年~1981年)解説

身近な存在でありながら、世界屈指のオフロード性能を有するクロスカントリーモデル「スズキ・ジムニー」。今やグローバルに活躍する小さな名車だが、その特徴は半世紀以上も前に誕生した初代の段階で、すでに確立されていた。

車体は、強じんなはしご型のフレームにボディーを載せたもので、足もとの障害をものともしない巨大なタイヤを履き、前後リジッドアクスル式のサスペンションが、どんなでこぼこ道でもそのタイヤを地面に押し付ける。駆動方式は確実で信頼性の高いパートタイム4WDで、副変速機でローレンジを選べば、どんな登坂路も、どんな岩場も登ってみせる。これらの構造・機能・装備はすべて、今日に至るまで受け継がれるジムニーの伝統なのだ。

その端緒として1970年に登場した初代ジムニーは、発売されるや土木・林業の現場や奥深い山間地などで大活躍。プロの道具として高い評価を得るとともに、手軽にアウトドアレジャーを楽しめる小さな4WD車として、一般ユーザーの間でも好評を博したのだった。

初代スズキ・ジムニー 諸元

全長×全幅×全高:2,995mm×1,295mm×1,670mm
ホイールスペース:1,930mm
トレッド(前/後):1,100mm/1,100mm
車両重量:600kg
エンジン:FB型空冷2サイクル直列2気筒
総排気量:359cc
最高出力:25PS/6,000rpm
最大トルク:3.4kg・m/5,000rpm
ボア×ストローク:61.0mm×61.5mm
サスペンション:リジッドアクスル式半楕円リーフスプリング
最低地上高:235mm
乗車定員:3人
最小回転半径:4.4m

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