不遇だった「マイナス21秒ロマン」R33型 日産スカイラインGT-R・・・懐かしの名車をプレイバック
伝説となったR32の後を継いで登場した、R33型「日産スカイラインGT-R」。ベース車のサイズアップによって巨大化したこのクルマを、当時のファンはどう受け止めていたのか? 今日の評価はどのようなものなのか? 不遇の世代のGT-Rを振り返る。
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R32より確実に進化したというのに……
「何かこう……デブったな」というのが、R33型スカイラインGT-Rが1995年1月に発売された際の、筆者の偽らざる印象だった。
といっても、当時はまだ自動車メディアに奉職しておらず、しかもそのころは「ルノー5バカラ」というフランス製の小型車に熱を上げていた筆者であったため、R33型スカイラインGT-Rのことを詳しく知っていたわけではない。そんな、GT-Rについてはほぼ門外漢な筆者ですら「……デブったな」と感じたぐらいであるからして、ファナティックなスカイラインGT-R党だった各位が、R32の後を受けて登場したR33に落胆したであろうことは、明確にイメージできる。
もちろん、実際のR33型スカイラインGT-Rは「動きがのろい巨デブ」になったわけでは決してない。
R32型スカイライン(GT-Rではない通常モデルだ)で不評だった「後席の狭さ」を改善するべく、ご承知のとおりR33型スカイラインのホイールベースは105mm延長された。それに伴い、R33型GT-Rの車両重量は前身のR32型と比べて100kg重くなってしまったわけだが、さまざまな補強と、それと相反する軽量化を行い、また「RB26DETT」型2.6リッター直6ツインターボエンジンをリファインし、改良された「ATTESA(アテーサ)E-TS」も搭載した。それらの結果として、独ニュルブルクリンクの北コースでは、R32 GT-Rのラップタイムを21秒も短縮する「マイナス21秒ロマン」を達成したことは、各位がよくご存じのとおりだ。
映画の描写に見る“十余年前のイメージ”
しかし「R32と比べちゃうとやっぱり巨デブ」とのイメージは覆せなかったのか(後継のR34 GT-Rより、むしろ若干軽いというのに……!)、発売初年度はまずまずの数が売れたものの、以降は低迷。最終モデルイヤーとなった1998年には1175台しか登録されなかった。ちなみに、R32 GT-Rはラストイヤーに7645台が登録されている。
1998年12月に新車の販売を終えたR33 GT-Rは、その後中古車になって火がついた!……ということも特になく、「GT-Rとしては比較的激安なモデル」としての中古車ライフを歩むことになった。
そのことを象徴的に表しているのが、2010年に公開された映画『悪人』だろう。2007年に出版された吉田修一による同名の長編小説を原作とするこの映画は、長崎県の海からほど近い田舎町に住む解体作業員「清水祐一」が主人公。祐一を演じたのは妻夫木聡だ。
そして、客観的に見て裕福そうにはまるで見えない祐一が、主要な登場人物である石橋佳乃(満島ひかり)から「話が面白くなくて、一緒にいてもあまり楽しくない。でもクルマの運転とセックスだけはうまい」と評される祐一が、劇中で愛車としているのが「白いR33型日産スカイラインGT-R」なのだ。
「確かに祐一は運転がうまい」とわかるかたちで描写されている劇中にあって、R33 GT-Rはほぼ常にものすごいスピードで走行している。そうしたシーンにおけるR33 GT-Rは、主人公・祐一の内面にある「ほの暗さと情動」のメタファーであると思われるわけだが、もっと直接的に「決して裕福ではない祐一でも買うことができた高性能なクルマ」ということも意味しているのだろう。
今となっては1500万円オーバーの個体も
『悪人』は非常に面白い映画なので、これ以上のことはぜひ各自でご覧になっていただきたいが、とにかく、今から十数年前のR33 GT-Rとは「そういう中古車」だったのだ。
つまり“祐一”が買っていたとしても何ら不自然ではない、モノによっては車両100万円台でも購入できるぐらいの中古車だったのである(ただし劇中で祐一が乗るR33型GT-Rは程度のよさそうな後期型で、走り屋特有の入念なカスタマイズも施されていた。これは、李相日監督が詳細に指定したものであるらしい)。
そして映画『悪人』の公開から約13年が経過した今も、R33 GT-Rの中古車相場は、後継モデルであるR34型ほどには高騰していない。……いやR33型もずいぶん高くなってはいるのだ。具体的には、2020年ごろの中古車平均価格は約440万円だったが、2022年には約680万円まで上昇。直近の2023年3月では720万円ほどになっている。
モノによっては1500万円以上にもなる現在のR33 GT-Rを、“祐一”が買えるのかどうか、筆者にはわからない。一方で、R33 GT-Rというクルマが、新車時に酷評されたような「巨デブのダメなGT-R」などでは決してないことは、今となっては明白である。それでも、このクルマのどこかにつきまとう「ほの暗さ」がどう解釈されるかで、今後の市場における扱いや命運は変わってくるのだろう。
ちなみに筆者個人のお気持ちだけで言うのであれば、R33 GT-Rのような「過小評価されてきた悲運の名車」は、比較的大好物である。
(文=玉川ニコ)
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