学生時代の憧れを手にするということ。1989年式トヨタ ソアラ 2.0GT ツインターボL(GZ20型)

このクルマの取材中、ふとしたときに道行く人の視線を意識してみた。

いわゆる「かつて若者」だった世代の方たちの多くがこのソアラの存在に気づいた瞬間、「おっ!」という表情になるのだ。

憧れの存在、懐かしいクルマ、かつての愛車…。こみ上げる想いはさまざまなのだろう。もしかしたら、ソアラを目にしたことで当時の記憶がフラッシュバックしているのかもしれない。

今回のソアラのオーナーは、以前、1989年式トヨタ・ソアラ 3.0GT エアロキャビンで紹介した方と同一人物だ。つまり、同型のソアラを2台所有していることになる。

以前、エアロキャビンを取材させていただいたとき、オーナーから今回の「2.0GTツインターボL」があったからこそエアロキャビンを手に入れられたと伺っていたのだ。世間で目を惹くのは限定車であるエアロキャビンかもしれないが、オーナーにとって思い入れのある個体は、今回ご紹介するGTツインターボLといえそうだ。そのわけをひもといていきたいと思う。

「このクルマは、1989年式トヨタ・ソアラ 2.0GT ツインターボL(GZ20型/以下、2.0GT ツインターボL)です。私で3オーナー目になります。手に入れたのは6年半前、現在の走行距離は12万3千キロ、これまで6万キロくらい走りました。この型のソアラは若いときに憧れたクルマだったんです。先日、私は50歳になりました。エアロキャビンのときにもお話ししましたが、大学生の4年間はガソリンスタンドでアルバイトをしていました。さまざまなクルマがやってくるなかで、この2代目ソアラ、しかも後期モデルが常に気になっていました。新車はもちろんのこと、中古車であっても学生の身分で買えるようなクルマではありませんでしたね」

ソアラは純白に近い「スーパーホワイト」のボディカラーを定番とするハイソカーブームを代表するモデルであり、同時に最強のデートカーとして君臨したクルマともいえる。現在、40代半ば以上の方の多くが、若いころにソアラというクルマを羨望のまなざしで眺めていたことだろう。しかし、当時の学生が必死にアルバイトをして貯めたお金でおいそれとは買えるような価格ではなかったのだ。

2.0GT ツインターボLのボディサイズは、全長×全幅×全高:4675×1695×1345mm。駆動方式はFR。排気量1998ccの直列6気筒DOHC24バルブICツインターボエンジン「1G-GTEU」は、最高出力210馬力を誇った。このオーナーが所有する「2.0GTツインターボL」は、後期モデルに設定されたグレードになる。ちなみに「ソアラ」とは、英語で「最上級グライダー」の意味を持つ。

若いときに憧れていたクルマを、大人になってから2台所有する(しかも、年式まで同じだ)。クルマ好きなら誰もがうらやむエピソードだ。いうまでもなく、オーナーの努力があってこそ実現できたことはきっとご理解いただけるはずだ。

「この2.0GT ツインターボLは通勤用に、エアロキャビンは休日用として使い分けています。ソアラの前に通勤で使用していたクルマが壊れまして…。エアコンの修理だけで30万円、その他もろもろを含めると50万円は掛かるというんです。かといって、新車を購入すると百万円単位の出費になります。中古車で何か探そう…。そこで、ふとソアラの存在を思い出したんです。もしかしたらそこそこの値段で買えるのではないかと、インターネットを使って調べてみました。そうしたら、割と近いところにソアラの専門店があったんですね」

オーナーの心情としては、今すぐにでもソアラを手に入れたいという想いがあったのかもしれない。しかし、通勤車に旧車の2ドアクーペを使用することや、故障の可能性についても熟考したようだ。

「このチャンスを逃したくないという想いと同時に、2ドアクーペ、しかも古いクルマで通勤していいのかな…という気持ちの葛藤も正直いってありました。定められた時間に会社に到着しなければなりませんし、古いクルマだから故障が多くて遅れそう…というのは許されませんから」

こういった姿勢にも、オーナーの生真面目かつ誠実そうな人柄が伺い知れる。こうして、憧れだったソアラを購入すると決心したオーナー。専門店が近隣にあったことも幸運だったといえるだろう。

「20型ソアラと70型スープラの専門店がわりと近いところにあり、電話でアポイントを取って実車を観に行きました。そこに置いてあったのが現在の愛車です。“買うぞ”と決心したとはいえ、その日の朝、起きたときにまさか今日ソアラを買うことになるとは夢にも思わなかったです。実車を観て、ショップの方から“他にも検討している方がいますから”といわれてしまったら、誰だって心を動かされますよね(苦笑)」

購入の決め手は、コンディションや予算内で収まったことはもちろん、2オーナー車(現時点で3オーナー目となる)で、程度良好だったことも背中を押しました。幸い、歴代オーナーがていねいに扱ってくれたようで、大きな故障といえばパワステオイル漏れくらいです。古いクルマでも、程度が良ければきちんと走ることを実感しましたし、この経験があったからこそ、エアロキャビンの購入に踏み切ることができたんです。

その他、純正フルエアロ、サンルーフ、サンルーフバイザー、サイドバイザー、サテライトスイッチ、12連奏CDチェンジャー・空気清浄機・LSDをはじめとする豊富なオプション類が魅力的だったことも大きいですね。後から取り付けられないものも多いですから。ファーストオーナーさんはオプション代だけで100万円近く余分に払ったのではないでしょうか。通勤用として使うにはサンルーフバイザーは派手かなと思い、取り外すことも考えました。しかし、剥がしたら跡が残るということで、そのままにしてあります。今でこそソアラの価格が高騰してきていますが、この2.0GTツインターボLを手に入れた6年半ほど前は今より安く買えたことも幸運でしたね」

学生時代に憧れだったソアラを手に入れてみて、初めて味わえたことがあるという。

「1G-GTEU型エンジン特有のフィーリングですね。現代のクルマとは異なりエンジン音が車内にも聴こえてきますし、タービンの“キーン”という作動音も好きですね。ところが、エアコンをONにすると、エンジン音の割にあまり加速していかないんです(笑)。そんなところも気に入っていますね」

近年では国内相場の価格高騰だけでなく、海外へ流出しているケースもあるソアラ。そんなソアラに対してオーナーなりのこだわりがあるという。

「購入後にモディファイしたのは、個人売買のインターネットオークションで入手した純正品のシートカバー・ノンスモーカーボックス・ナンバーフレーム・ホイールのロックナットです。オーナーさんによっていろいろなお考えがあると思いますが、私個人としてはオリジナルの状態を保ちたいですね。結局最後に残るのは、新車当時の雰囲気を色濃く残す個体だと思うんです。この個体が工場で生産されて完成した状態を否定するようなモディファイは避けたいと思っています」

最後に、今後愛車とどう接していきたいかを伺った。

「まさに一期一会。縁あって私のところにやってきた個体です。コンディション維持に努め、このままの状態で乗り続けたいですね。この個体は1989年4月登録なんだそうです。奇しくも、私が大学生になったタイミングと同じ。まさにソアラに憧れていた時期に造られたクルマです。不思議な縁を感じます。私には中学2年生になる息子がいますが、彼が運転免許を取得してソアラに乗りたいといったら、きっちりと名義変更して継がせてあげたいですね。もし、要らないといったら…。この2.0GTツインターボLを手元に残して、エアロキャビンをショップさんにお返しするかもしれません。それくらい、この個体には思い入れがあるんです」

人によっては、2.0GTツインターボLの方を手放して、エアロキャビンを手元に残しておけば…と思うかもしれない。しかし、オーナーの心情はそうではない。若いときに憧れ、ふとしたきっかけでようやく手に入れることができたのが2.0GTツインターボLなのだ。エアロキャビンは1台目のソアラがあったからこそ、縁あってオーナーのところに嫁いできたという経緯がある。オーナー自身、想定外のできごとといってもいいかもしれない。日々、仕事に邁進し、諦めなかったからこそ舞い込んだ縁と幸運なのだろう。

若いころに憧れたソアラが、今は通勤の相棒となっているオーナー。毎朝、決まった時間にいつものルートを走り、定められた場所に駐車する。何気ない日常の繰り返しかもしれないが、オーナーにとっては、憧れの存在だったソアラで通勤できる喜びをかみしめられる瞬間かもしれない。インタビューのあいだ、常ににこやかに、息子さんや家族のことを気遣っていた姿が印象的だったオーナー。ときには弱音を吐きたくなったり、仕事の愚痴をこぼしたくなることもあるはずだ。そんなとき、このソアラと過ごす時間が、オーナーにとってかけがえのないひとときとなっているのは間違いないのだろう。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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