28年・17万キロ・2ケタナンバー・重ステダコ。1986年式カローラ レビン GT APEX(AE86型)

「一生モノ」と決めて愛車を手に入れるか?

それとも「大切に乗り続けた結果、いつのまにか手放せない存在」となるのか。

そこにいたるゴールは同じであったとしても、プロセスはかなり異なる。

前者の場合、多少予算オーバーであっても可能な限り条件の良い個体を探すケースが多いはずだ。理想が高くなる分、求める条件もシビアになり、なかなか妥協できない。さらに希少車であれば、年単位で根気強く探す人も少なくないだろう。

しかし、後者の場合は状況が異なる。何らかの縁で手に入れたクルマが、年月を重ねていくうちに自分の体に馴染み、気がつくと手放しがたい存在となっているケースだ。

今回、ご紹介するオーナーの愛車はあきらかに後者だ。2ケタナンバーのハチロクのオーナーは50代の女性。このクルマとは28年の付き合いになるという。取材を終え、原稿をまとめているときに気づいたことがある。「いま、一生モノの愛車を探している」「現在の愛車を1日でも長く、大切に乗りたい」。そう考えている方にこそ目を通していただきたいエピソードだということを。結果として、少しでもお役に立てれば、同じクルマ好きとして望外の喜びだ。

「このクルマは1986年式トヨタ カローラ レビン GT APEX(AE86型/以下、ハチロク)です。手に入れたのは約28年前、現在の走行距離は約24万3千キロ、私が所有してから約17万5千キロ乗りました」

通称「ハチロク」こと、カローラ レビン/スプリンター トレノについて、改めて多くを語る必要はないだろう。デビューは1983年と、もう40年近くも前のことなのだ。同世代の多くのクルマが姿を消していったなか、レストア済みのキレイなハチロクはいまだに走っているが、2ケタナンバーを見かけるのは奇跡に近いかもしれない。

カローラ レビン/スプリンター トレノにはデビュー当時から2ドアおよび3ドアのバリエーションが用意された。オーナーが所有するモデルは「トヨタ カローラ レビン 2ドア GT APEX」である。ボディサイズは、全長×全幅×全高:4200x1625x1335mm。駆動方式はFR。「4A-GE型」と呼ばれる、排気量1587cc、直列4気筒DOHCエンジンが搭載され、最高出力は130馬力を誇る。

オーナーが所有する個体は、マイナーチェンジ後の後期モデルであり、ほぼ最終型にあたる(それでも生産されてから35年という年月を経ている)。さらに、オーナーが所有する個体は、いまとなっては貴重な存在となりつつある「2ケタナンバーのハチロク」だ。オーナーの人生と多くの時間をともに過ごしてきたこのハチロクについて、まずは当時の記憶をたどってもらい、興味を持ったきっかけを伺ってみた。

「いまから30年ほど前、私自身もハチロクが欲しいと思っていました。でも、周囲でハチロクに乗っている人が多かったんですね。そこで最初の愛車には“韋駄天ターボ”ことスターレット(EP71型)を選びました。あるとき、このスターレットを後輩から譲って欲しいと頼まれ、自動車関連業を営んでいる友人に“重ステのハチロク”を探してもらったんです。そして、私の手元にやってきたのは“パワステを取り払ったGT APEX”でした(笑)。それが現在の愛車です。これまでの愛車遍歴を振り返ってみたんですが、スターレット、つなぎで購入したスズキ アルト、そしてこのハチロクの3台のみなんですね」

こうして縁あって彼女のもとにやってきたハチロク。その後、30年近い付き合いになろうとは…。“韋駄天スターレット”との違いを体感できたのだろうか?

「スターレットは“どっかんターボ”だったのに対して、ハチロクはNAエンジンならではの気持ちよさがありましたね。あと、ハンドリングもスムーズでした。重ステにはスターレット時代から慣れていましたが、いつの間にか手のひらにタコができていました(苦笑)。どちらかというと普段使いがメインなので、この種のクルマに乗りながら峠道には行かなかったんです。そのため、周囲からは『もっとブン回して乗るクルマなのに』っていわれましたよ」

ふと、彼女の手のひらを見せてもらった。左の手のひらにうっすらと筋が見えるのがお分かりいただけるだろうか?長年にわたり「重ステ(ノンパワステ)」のクルマを運転してきたからなのか、ステアリングを握るあたりに「重ステダコ」があるのだ(失礼を承知で撮影をお願いしたところ、快く応じていただいた。オーナーには改めてお礼を申し上げたい)。

一見するとノーマルに近い佇まいのハチロクだが、さりげなくモディファイされているのが分かる。さらに、この個体はエンジン本体にも手が加えられているという。

「たしか2007年頃だったと思いますが、走行距離が20万キロ手前でエンジンの圧縮が気になっていたこともあり、オーバーホールに踏み切りました。友人の紹介でフレッシュマンレースに参戦していたという、良い主治医に出会えたことも決め手となりました。オーバーホール時にポート研磨を行い、コンロッドをAE101用に、クランク&ピストンは4AG用の140馬力仕様にして、TRD製0.8㎜メタルガスケットを組み込みました。このとき、主治医からの提案で別のエンジンに載せ換える話もあったんですが、そうなると別のクルマになってしまうような気がして…。主治医の手持ちの部品を“おまかせ”で組んでもらいました。でも、それでよかったといまでも思っています。オーバーホールから十数年経ちましたが、そこそこの回転域まで回すことはあっても、レッドゾーンまで“ブン回す”ようなことはせず、なるべく労って乗っています」

エンジンの載せ換えや「箱替え」をしてでも長く乗り続けるか、費用が掛かってもいまの状態を維持するか…そんな苦悩に直面した方であればあるほど、オーナーの気持ちが痛いほど分かるだろう。次に、エンジン以外の部品でモディファイが加えられた箇所も挙げていただいた。

「マフラーはFUJITSUBO製のレガリスR、足まわりはバネがタナベ、ショックはフロントがHTSでリアがTRD。アルミホイール・フライホイール・エキマニなども社外品ですが、メーカーは不明です。アルミホイールはガソリンスタンドで働いていた友人が格安で見つけてくれたものなのですが、いまだにどのメーカーで造られたものか誰も分からないんです(この記事を読んだ方で判別できるとしたら教えて欲しいとのことだ)。タワーバーはSPATS製、プロジェクトµ製のブレーキパッド…などなどです。NARDI製のステアリングとALPINE製のオーディオはスターレットから移植しました。本当はナカミチ製が欲しかったんですけれど、予算オーバーだったので(苦笑)」

かつてはステアリングやオーディオを交換するのが比較的容易だったこともあり、クルマを乗り換えた際に新しいものへと置き換えるのは珍しいことではなかった。事実、関連商品も充実しており、カー用品店でもかなりのスペースが割かれていたように思う。しかし、オーナーは「移植」という方法を選んだ。さらに驚くのは、当時から愛用しているこれらのカー用品を30年以上経った現在も愛用していることだ。

「自分でいうのもナンですが、“物持ち”はいい方だと思います(笑)。気に入ったモノは時代遅れだろうが気にせず使い続けます。ステアリングは何とかなるとして、ALPINE製のオーディオが壊れてもメーカーでは修理対象外なんですが、器用な友人が直してくれるんです。現代のオーディオのデザインはハチロクの雰囲気に合わないような気がするので、取り付けたいとは思わないんです。そういえば、SPARCO製のペダル、WILLANS製の4点ベルトなど、友人からタダでもらったものも多いですね。自分でこだわって選んで装着した…というより“おさがり”として譲り受けたものを取り付けているので、みんなの思いも詰まっている部品を保護する“里親のような感覚”です(笑)」

ここで気づいたことがある。オーナーはこだわって当時モノの部品を愛用しているのではない。「ひとつのモノを、長く、大切に使い続ける」というオーナーなりの流儀(…といっても強く意識しているわけではなく、あくまでも自然体)なのだろう。周囲の友人たちも、ネットオークションで落札されればちょっとした小遣いになるけれど、彼女に譲れば自分が愛用していた部品を大切にしてくれるに違いない…。きっとそう思って愛用の部品を託したに違いない。つまり、オーナーのモノを大切にする精神と、仲間たちから譲り受けた愛用品によってこのハチロクは形作られているのだ。

このように、1台のクルマ、そして部品と長く付き合ってきたからこそ(…と同時に鋭敏なセンサーの持ち主だからこそ)語れるエピソードを伺うことができた。

「これまで15年以上お世話になっている主治医ですら気がつかないような“今日はなんかエンジンの調子がいつもと違うな”とか“乗ったときに違和感があるな”といったわずかな変調を感じ取ることができるようになりました。事実、違和感があって主治医に診てもらったところ、ロアアームがちょっとへこんでいたということがありましたね。とはいえ、ハチロクで何か気になることがあればすぐに電話して診てもらっています。相性の良さもあると思いますが、まさに"かかりつけ医"のような心強い存在です」

もはやこのハチロクは体の一部といってもいいほど、距離の近い存在なのだろう。ふと、ハチロクが掲げているナンバープレートに目をやると、オーナーとこのクルマがともに過ごしてきた時間の長さを改めて実感することができる。オーナーにとっては、このナンバープレートも代えがたい存在のようだ。

「リアのナンバープレートはもはや地金が出ているほど剥げてしまっていますが、再発行する気はありません。長く乗っているうちに自然にヤレた“味”なので、そのままにしておきます。それと、リアのナンバープレートの封印を覆う白いカバーは、現時点ではおそらく入手不可能だと思いますので、こちらも併せて大切にしていきたいです」

最後に、このハチロクと今後どのように接するのか‥。聞くまでもないのだが、改めて伺ってみた。

「常に細かい変化に注意して、なんらかの不具合を察知したらすぐ直します。外装はともかく、何よりもエンジンのコンディションを維持させてあげたいですね。このまま乗り続けていくことができれば、他には望むものなんてないんです」

いまの愛車を「一生モノ」として乗りたい。「一生モノの愛車を手に入れたい」。そのスタンスや出会いかたはオーナーによってさまざまだろう。ただ、長きにわたりモチベーションや環境を維持するのは思いのほかとても難しい。他に気になるクルマが現れたり、突然、気持ちが冷めたり、疲れてしまったり、家庭の事情などで泣く泣く手放すことになったり…。未来のことは誰にも分からないのだ。

今回、オーナーから話を伺ってみて気づいたことがある。それは愛車と長く付き合うための秘訣だ。愛車を大切にするあまり、汚れたり、傷がついたり、トラブルに見舞われるたびに一喜一憂していてはオーナーも疲弊してしまう。具体的には「入れ込みすぎない」「常に愛車の声を聴く」「完璧を目指さない」「機械として長く使うためのポイントを押さえる」。整理するとこのあたりだろうか。

そしてもうひとつ。周囲の人たちが彼女に対して手を差し伸べてくれたからこそ、オーナーも現在まで維持できていると感じたのも事実だ。さまざまな取材を通じて、この種のクルマを維持していくうえで必要不可欠な存在であることは間違いないと断言できる。主治医の手厚い保護はもちろんのこと、部品を提供してくれたり、メーカーですら依頼を断る当時モノのカーオーディオを修理してくれる友人たちの存在…。「彼女が困っていたら助けずにはいられない」。周囲の人たちにそう思わせるのも、オーナーの人徳であり、誠実な人柄を感じさせてくれるエピソードだ。

オーナーのハチロクは、いわゆるコンクールコンディションと呼べる状態ではない。しかし、ていねいに使い込まれてきたからこその「品のある適度なヤレ感」がある。オーナー自身の、そして周囲の仲間たちの想いがひとつの形となり、このハチロクは現役マシンとして存在しているのだ!

オーナーはクルマを選ぶことができる。しかし、クルマの方はオーナーを選べない。数十年前、工場をラインオフしていった多くのハチロクのなかでも、この個体が極めて幸せな生涯を歩んでいることは間違いない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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