「ジャパン・ブルー」に運命を感じて。27歳の藍染職人を魅了する1997年式 光岡 ガリュー(HK30型改)
そのクルマはダークブルーのボディカラーをまとい、どこかクラシカルなたたずまいを見せる。そしてどこかオーナーの分身のようにも感じられる…。
今回の主人公は27歳の男性オーナー。所有する愛車は一見すると、輸入車に見えるかもしれない。事実、クルマに詳しくない人に「国産車なんです」と伝えると驚かれるという。
「このクルマは、1997年式の 光岡 ガリュー(HK30型改/以下、ガリュー)です。所有して2年経ちました。現在の走行距離は約9万3000キロ。納車後走った距離は、約2万キロです」
初代モデルのガリューは、1996年にデビュー。シリーズ5代にわたり2020年まで生産された。
日産のセドリック・グロリア(ガリューII)や、フーガ(ガリューIII)などのセダンをベースに、クラシカルな英国車テイストのデザインがなされたモデルだ。ちなみに車名である「ガリュー」は、このクルマのコンセプトである「『我流主義』という生き方」に由来する。
まったくの偶然だが、強い意志を持って藍染職人の道を選んだオーナーの生き方と不思議なほどマッチしているように思う。もしかしたら、ガリューとオーナーは「出会うべくして出会う関係」だったのかもしれない。
1996年から2001年まで生産された初代モデルは、タクシー向けに開発されたセダンである「日産 クルー」がベースだ。ボディサイズは全長×全幅×全高:4860×1740×1450mm。駆動方式はFR。トランスミッションは4AT(5MT)。排気量1998ccの「RB20E型」と呼ばれる直列6気筒SOHCエンジンが搭載され、最高出力は130馬力を発揮する。
今回の記事は、オーナーの仕事と、愛車であるガリューのボディカラーがキーポイントとなっている。オーナーは染物職人として藍染(あいぞめ)の工房に勤務し、伝統的な染色技術を用いて洋服や服飾雑貨などを製作しているという。
「学生時代に海外留学していたとき、現地の方がその国の文化や社会情勢をよく知っていて、自分も日本のことをもっと深く学びたいと思うようになりました。そこから、日本のものづくりや伝統技術のレベルの高さに気づき、大学4年生のときに藍染の道に進もうと決めました。日本の伝統文化をもっと世界に発信したいと思っています」
と藍染職人を志したきっかけを語る。そんなオーナーとガリューの出会いとは?
「モデル名は忘れてしまいましたが、職場に来たスタイリストの方が光岡のクルマに乗って来たんです。昔から映画に出てくるような英国車のデザインが好きだったので“あのクルマは何だろう?”と興味をそそられました。調べてみると、光岡自動車という自動車メーカーの“ガリュー”だと知りました。それまではクルマに対してそれほど関心を持つことはなかったのですが、ガリューの存在を知ってからは初めて“このクルマに乗りたい”と強く思いましたね。
それから中古車サイトで探し始めたんです。20台くらいチェックしましたが、実車を見に行ったのはこの個体だけです。直感で決めてお店で即決しました」
現在の愛車はほぼ「一目惚れ」だったようだ。「匠の技」を感じさせるエクステリアがオーナーの心をとらえたのだろうか。続いて惚れ込んだ部分について詳しく伺った。
「まずはボディカラーですね。“ダークブルーパール”という名称で、藍をイメージさせる深いブルーにピンときました。それからリアのフォルム。トランクの部分が少し平たくて突き出た美しい形状です。丸目ライトも大変気に入っています。かっこいい要素とかわいい要素のバランス感がポイントではないでしょうか」
リアは古き良き英国車に見られたデザイン、テールフィンが用いられている。
オーナーは、このガリューが人生初の愛車だという。実際に乗ってみて気づいたことや生活の変化を尋ねてみた。
「ライフスタイルそのものが変わりました。まず住まいを変えたんです。…というのも、以前は駐車スペースがない家に住んでいたうえ、近所にも空いている駐車場がなくて(笑)。職場から少し離れたところに良い物件を見つけて引っ越しました。
それから職場までガリューで通勤するようになり、行動範囲も広がりました。学生時代にしていたサーフィンやスノーボードも再開しましたし、県外に住む友人が遊びに来てくれたときはガリューに乗ってドライブしています」
通勤でも乗っているそうだが、職場の仲間に愛車を披露したときのリアクションも尋ねてみた。
「まずは上司に『良い色だね』といってもらえました。クルマじゃなくて色なんですよね(笑)。仕事柄、ダークブルーに対するこだわりに気づいてもらえたようです。同僚からも『いいじゃん』と良いリアクションでした」
オーナーの個体は「ダークブルーパール」と呼ばれるボディカラーだが、伝統の藍色「ジャパンブルー」にも見える。オーナーの上司も、気品のあるブルーに心惹かれたのかもしれない。では、家族へのお披露目は?
「兄からは『マジでそれ買ったん?かっこいいじゃん!』と驚かれました。家族のグループLINEで画像は送ってありますが、両親にはまだ実車を見せていないんです。でも近いうちにガリューで帰省して、両親に見せてあげたいですね」
手に入れてからモディファイなどは行われているのだろうか。
「ステアリングをナルディ 製に交換したくらいです。モディファイよりも、経年劣化で修理が必要なところを直しているところです。いざ車検に出そうと購入したショップで見積もりを出してもらったところ、予算よりも高額で困っていたとき、いつも飲みに行っている地元のカフェバーのマスターに相談したところ、修理をお願いすることができました」
ガリューの主治医であるマスターの店舗は、飲食店でありながら、カーショップと整備工場を併設している。マスターは整備士でもあり、メンテナンスからチューニング、ドラテクの相談まで面倒を見てくれるクルマのエキスパートだ。
今回、主治医であるマスターにも同席していただき、当時のガリューの状態と修理について話を伺った。
「彼がもし、このクルマに思い入れがないようなら買い替えをすすめたかもしれません。しかし、このガリューを心から愛していらっしゃるし、とてもお似合いなんですよね。話をお聞きして、何とかしたいという気持ちになりました。
見積もり内容を見て思ったのは、そこまでする必要もないだろうということ。実際に確認してみると、消耗品の劣化をはじめ、ステアリングボックスやタイロッドエンドの故障が気になりましたね。正直、2年前の車検がこれでよく通ったなというレベルです。まずは車検を通し、走行に支障が出る部分の修理を優先して少しずつリフレッシュするという計画を立てました」
見積もりが高額だった理由とは?
「ミッションですね。新品へのアッセンブリ交換が前提だったようです。確かにできるに越したことはありませんが、そこまでしなくても良いと判断しました。
ただ、それよりも危険な部分があったんですよ。ハンドルが取られる症状や異音もあり、しかも症状が出るときと出ないときがあって、最初のお店には『分からない』といわれたそうです。しかし確認してみると、ストラットアッパーマウントが砕けていました。急ブレーキで車体が真横に向いてしまう可能性もあるので、これは早急に直さなければならないと思いましたね」
主治医であるカフェのマスターに、今後のリフレッシュプランを伺った。
「今後の課題は冷却ファンの交換です。製造廃止のパーツで、見つかったとしてもかなり高額なんです。それなら電動ファンに交換して、電気系統を強化するほうが適切ではないでしょうか。交換作業までにできることとして、オーナーさんには季節に応じた乗り方をお伝えしました。冬場に乗る場合は必ず入念な暖機をお願いして、夏場は水温に注意した乗り方でカバーしてもらいます。
このような古いクルマは、ちょっとしたひらめきや、部品をうまくやりくりするノウハウさえあれば解決できることも多いんです。オーナーさんもクルマに詳しくなってきているので、今後は愛車の異変にもいち早く気づけることでしょう。
今後は『ガリューのこの部分をこうしたい』といったリクエストもたくさんいただきたいですね。そうすることで私もやるべきことがはっきりするので、無駄な費用を使わないで済むことにもつながります。実際に手間も掛かるし苦労することもあるけれど(笑)。『これからも一緒にカーライフを楽しんで行きましょう!』という気持ちです」
人生初の愛車(しかも間もなく30年選手のクルマだ!)だけに、頼れる主治医が近くにいてオーナーも心強いだろう。最後に、このクルマと今後どう接していきたいかをオーナーに伺った。
「ガリューと走る時間にこだわっていきたいですね。船旅を一緒にしてみることにも憧れます。古いクルマだけにトラブルとも付き合っていかなければならないでしょうし、わずかな異変にも気づけるようになりたいです。物理的に乗れなくなるまで一緒に走っていたいですね」
ある程度、年数が経過したクルマを維持するには、オーナーの愛情や熱意だけでは限界がある。「オーナー兼主治医」であれば自分で解決できるが、その道のプロフェッショナルでなければ対処できないこともある。そこで欠かせないのが「主治医」という強力なパートナーの存在だ。オーナー以上にクルマのコンディションを把握し、時には損得勘定を抜きにしてでも的確なアドバイスをしてくれる。
オーナーと主治医が深い信頼関係でつながり、二人三脚で愛車を慈しむことで、年代モノのクルマとのカーライフが成立するのだと思わずにはいられなかった。
ガリューとの時間の中で、人生の宝物を見つけ出したオーナー。そして、藍染職人としても「我流主義」を貫き、世界へと大きく羽ばたいていくに違いない。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき / 取材協力: Garage, Café and BAR monocoque)
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