25歳のオーナーが恋におちた1992年式のマセラティ

マセラティと聞いて、多くのクルマ好きがイメージするのは力強いフォルムを持ったセダンモデル。ビトゥルボ、ギブリ、クアトロポルテ……。ヨーロッパのプレミアムブランドと一線を画す華のあるデザインは、まるで彫りの深いイタリアの伊達男のよう。同じイタリアのフェラーリやアルファロメオと比べても異質のブランドだ。

今回紹介する堀米大河さんの愛車は1992年式のマセラティ430。2.8リッターのV型6気筒ツインターボエンジンを搭載するビトゥルボシリーズの1台だ。ボディカラーはライフルグレー。一見するとオーソドックスな4ドアセダンと思いがちだが、近づいてよく見ると、デザイン性の高い、凝りに凝ったデザインということがわかる。

堀米さんは1991年生まれの25歳。このマセラティ430とわずか1歳違い(堀米さんの方が1歳若い)という事実にもビックリするが、一体何がきっかけでマセラティ430を選んだのだろうか?

「東京都内の中古車屋にマセラティ430があるから見に来ない? と知人から言われたのがきっかけです」

堀米さんは小さい頃からミニカーで遊んでいるようなクルマ好き。ただ、マセラティの名前は憧れを抱いていた程度で、特別意識していたわけではない。それが変わったのは2005年に発表されたマセラティクワトロポルテを見てから。このモデルは日本人の工業デザイナー、奥山清行さんが手がけたことで知られているが、丸みを帯びた存在感のあるデザインが気に入った。

知人の紹介で足を運んだのは大田区にあるアウトレーヴ。マニアックなイタリア車やフランス車を数多く取り扱う知る人ぞ知る中古車屋だ。

「その時はとりあえず見に行くつもりだったのですが、実車を見たら欲しくなってしまって……。一目惚れですね。買うと思いますという返事をしました(笑)」

クラッチやタイミングベルト、ウォーターポンプなどの整備を経て、今年の4月20日に晴れて納車。現在、夜間や週末のドライブを楽しんでいる。V6ツインターボの「恐怖を感じる加速」も気に入っているが、特に気に入っているのがレザーとウッドをふんだんに使ったインテリアとクラシックなスタイリング。主張しすぎない雰囲気が、ぎらついたクルマが好きではない堀米さんの好みとマッチしている。

「手が触れる部分のほとんどがレザーかウッド。豪華というよりは感性がすごいですよね。マセラティ伝統のアナログ時計も金。これはビトゥルボの時代だけです。また、外観は角張ったフロントマスクが好き。一般の人が見たらカローラだと思う人もいるかもしれませんが、好きな人にはわかるという感じですね」

ただ、それ以上にマセラティ430を気に入っている理由がある。それはマセラティの女性的な“エロさ”だ。

「アナログ時計の形とか、やさしく押さないとスイッチが入らないエアコンとか、エロいんですよね。アウトレーヴからは『このクルマは悪女だから』と教えてもらいました。悪女だけに困らせられるのかと思いきや、トラブルは特にないです。あ、別に壊れてほしいわけではありませんよ(笑)」

驚くべきは堀米さん、すでにこの“悪女”との離別を決めている。しかも期限はあと1年ぐらいで、アウトレーヴに売却することも既定路線だ。納車になってまだ3ヶ月足らずで、時期尚早のような気もするが、そこには悪女を愛する男性の悩みも見え隠れする。

「クルマと一心同体になると離れられなくなるからです。結婚直前に男女が別れるのに近いんじゃないですかね」

堀米さんが強調するのは希少車オーナーの責務。マセラティ430はもちろん気に入っているが、ひとつひとつの希少車には歴史があり、堀米さんはそれを引き継いでいかなければならないと考えている。そこで「預かっている」マセラティ430をアウトレーヴに“返却”。新たなオーナーに悪女の魅力を知ってもらい、堀米さん自身も新たな世界をのぞきに行こうとしているのだ。

希少車オーナーとしての責任から、マセラティ430との離別を決めた堀米さん。英断には頭が下がる思いだが、今もってぞっこんの彼女ときっぱり別れることができるのだろうか? 共同生活はあと約1年。堀米さんの恋の行方に注目である。

フリーライター:ゴリ奥野
86に乗りながら世界中の愛車やモータースポーツを取材するフリーライター


[ガズー編集部]