貴重な個体と運命の出会い。1994年式メルセデス・ベンツE320 クーペ (C124型)を愛でる若きオーナー
次の世代を担う若いクルマ好きは、確実に育っていると思う。今回登場するのは、25歳の若き男性オーナーだ。愛車は1994年式メルセデス・ベンツE320 クーペ (C124型)。所有してからまだ1ヶ月弱で、走行距離は1000キロ程度とのことだ。オドメーターは、14万キロを刻んでいる。個体の年式を考えると、歴代オーナーに大切に乗られてきた雰囲気がクルマ全体から感じられる。
メルセデス・ベンツE320 クーペ (C124型/以下、C124)は、1985年から1995年まで生産。それまでは「ミディアムクラス」と呼ばれていたモデルが「Eクラス」と名称変更された最初のクルマだ。加えて、メルセデス・ベンツの企業理念「最善か無か」が反映された最後のモデルとも呼ばれている。登場から30年以上が過ぎた今も、質実剛健さと重厚感に魅せられた熱心なファンが多いことでも知られている。
搭載される3199ccの水冷直列6気筒DOHCエンジン「M104型」のフィーリングを好むオーナーは多く、最大出力は225馬力を誇る。ちなみに、型式の頭文字は、車体の形状によって異なる。「S」はステーションワゴンを意味し、セダンは「W」、クーペでは「C」、カブリオレなら「A」と表記される。
※オーナーの個体はクーペなので「C124」だが、ここではシリーズ全体を指した場合は「124」、オーナーの個体を「C124」と呼び分けることにする。
オーナーの年齢は25歳とまだ若いが、これまでに培ってきたクルマの知識量と経験値は、ベテランオーナーにひけを取らない。特にメルセデス・ベンツが好きで、とりわけ124に強い憧れがあるという。その理由を伺った。
「124の全体的なフォルムはもちろん、フィーリングやボディ剛性に、近年のクルマにはない魅力を感じます。アクセルの重さがすごく好みですね。フィーリングやスタイルはもちろん、見切りがいいので運転しやすいんです。長時間運転していても疲れないですし。私のなかで124を超えるクルマは、今のところないですね。私にとって究極の1台も、この時代のAMGハンマーワイドバージョンですし(笑)」
「メルセデス・ベンツのオーナー」と表記すると誤解されやすいため、ここであえて補足しておきたい。オーナーは、決して見栄を張るためにメルセデス・ベンツに乗っているわけではないことだ。かつてコツコツと貯めた資金でメルセデス・ベンツE220(W124)を所有していたこともある「大のメルセデス好き」だということを強調しておきたい。事実、それまで所有していたフォルクスワーゲン・ゴルフR32(1K型)を手放し、頭金なしの「漢のフルローン」でこのC124を手に入れたそうだ。
そんな男気あるオーナーに、まずは、購入の経緯を伺った。
「以前から中古車サイトで124を探していたんですが、ある日このC124と出会いました。置いてあるショップがたまたま近所だったので、確認に行ったんですけど、実車を目の前にしたら運命を感じてしまって、翌日には購入の意思を伝えていました。この機会を逃したら、2度とこんな仕様のクルマには出会えないと思いましたね。実は、他にも十数名の購入希望者がいたらしいです。あとで知ったんですけど、私の友人もこの個体を狙っていたようです(笑)」
オーナーの愛車を見て、まず目を引くのはボディカラーだ。124が販売されていた当時、世界的に人気だったボディカラーはブルーブラックだった。街中で見かける124はこの色が非常に多かったのだが、オーナーの個体は、ボルドーにブラウンがかったような深みのあるカラーが珍しいが、純正色なのだろうか?
「この色は『ボーナイト』といって、当時は不人気色だったそうです。しかもドイツ本国でも不人気だったようですよ(笑)。逆に、今は希少色として人気だそうです。私は最初から、買うなら希少色にしようと決めていたんですけど、偶然この個体も希少色でした」
オーナーの個体は「メルセデス・ベンツ」であって「AMGコンプリートカー」ではないようだ。どのようなモディファイが施してあるのだろうか?
「前のオーナーが結構手を入れていましたね。足回りはC55 AMG(W204型)の足回りを移植してあります。しかも、ブレーキパッドとローター・ホイールに当たらないようにキャリパーまで移植してありました。ほかにもホイール、エアロ、トランクスポイラー、マフラー、シフトノブがAMGのもので、いわゆる『AMG仕様』ですね。AMG製マフラーらしくジェントルなサウンドが気に入っています。ステアリングは、初代SLKかSLのものかは不明なのですが、過去のオーナーにより交換されたものだと思います。サイドマーカーはUS仕様でホワイトになっています」
今後、自身で手を加えたい部分は?
「まずは、AMG製の2ピースホイールの装着ですね。もしブレーキ関連の部品が干渉してしまったら、オリジナルに戻します。サイドマーカーは、ホワイトからオレンジへ。テールレンズは少しスモークがかかっているので、これも純正品に交換したいですね。それから、オーディオも純正品に戻すつもりです。灰皿はAMGのステッカーを貼っただけなんですが、いずれは本物のAMGコンプリート用のものに交換したいです」
一つひとつのパーツにかなりこだわりがあるようだが、手を入れていくにあたり、テーマがあるのだろうか?
「当時のメルセデス・ベンツオーナーたちがモディファイしていたような『AMG仕様』を敢えてめざしています。オリジナルの雰囲気を極力維持しながらも、AMGコンプリートカーのように仕上げていきたいですね。このトランクスポイラーも、当時のAMGによく装着されていました。AMG製トランクスポイラーの似合うリアビューは、特にローアングルで眺めるのが好きなんですよ」
オーナーは、自身が生まれる前のAMGに魅力を感じているようだが、現代のAMGに対しては、どのような思いを抱いているのだろうか?
「今のAMGは、私が好きな時代のモデルと比べて高性能だし、快適であることは間違いないはずです。しかし、どこか大人しくなってしまったような、ある種の野蛮さや獰猛さのようなものが薄れてしまった印象があります。電子制御のおかげで誰でも乗れるようになったことは、技術の進歩だと理解しているつもりですが、どこか寂しい気がしますね」
確かに、バブル絶頂期に日本国内を走っていたメルセデス・ベンツのボディカラーの多くが「ブルーブラック」だった。AMG専用のホイールをボディと同色にすると、さらに凄味が増す。しかし、SL(R129型)あたりからシルバーやホワイトのボディカラーを纏ったAMGが増えていった。もちろん、洗練され、より上質感を高めたメルセデス・ベンツに惹かれるファンもいるのは承知の上だが、以前の尖った部分を愛するファンが存在することも確かなのだ。オーナーが生まれた前後のことでありながら、豊富な経験値を持つベテランと遜色ない知識と見識を持ちあわせていることが理解いただけたと思う。
最後に、このクルマと今度どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。
「もう手放す気がないので、おそらく『一生モノ』です。世界中探してもこの仕様は出てこないと思いますし、もし莫大な修理費用がかかったとしても手元に残したいですね。もし、他に乗るとすれば、1992年式の500Eを増車という形で手に入れたいです。前期型が見つかれば、C124と同じボディカラーのボーナイトで揃えたいです。内装は定番の本革シートではなく、敢えてファブリックがいいですね。『あの時代のメルセデス』と、カーライフを楽しんでいきたいです」
冒頭でも触れたが、自分の生まれた年よりも古いクルマの歴史を愛し、実際に乗っている若いオーナーは確実に増えている。クルマは年々洗練され、高性能になっていくが、ぜひメーカーには「なぜ、愛されているのか?」という視点からもう一度、自社のクルマを見つめ直してほしいと思わずにはいられないインタビューとなった。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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