1998年式三菱 パジェロエボリューション(V55W型)と運命の出逢いを果たした26歳オーナーの一心同体のカーライフ
「ヒストリックカー」の定義は、団体や国によって異なり、「製造から数10年以上」あるいは「1990年以前」といった基準が用いられている。さらに、レースで刻まれた実績や技術を注ぎ込んだ、文化財的価値をもつクルマが該当する。
だが、このような定義だけで語りきれるのだろうか?発売から30年経たなくても、すでに時代と物語をまとっているクルマは数多く存在している。「ヒストリックカー」という言葉は、そんなクルマたちにも届きはじめてもいいのではないか。今回の物語は、そんな想いから出発したい。
「このクルマは、1998年式 三菱 パジェロエボリューション(V55W型)です。私は26歳、このクルマは20歳のときに購入しました。現在の走行距離は約16万キロ。そのうち7万キロを私が走っています。ホイールとタイヤがしっかり見えて、リアフェンダーの張り出し具合もよくわかる、斜め後ろから見た姿がとても気に入っています。パジェロエボリューションって、横から見るとエアダムの存在感もあって、全体がバランスよくまとまっているんです」
パジェロエボリューションは、三菱が1983年から参戦していた「ダカール ラリー」のホモロゲーションモデルとして、1997年にデビュー。翌年のダカール・ラリー「市販車改造クラス(T2)」で1~3位を独占し(4位は同社チャレンジャー)、総合優勝も獲得した。
デビューの背景は、1998年からT2クラスでの参戦が義務づけられたことにあった。ベースはシリーズ2代目のパジェロだが、徹底した専用設計が施されている。ボディサイズは全長×全幅×全高:4075mm×1875mm×1915mm。ダクト付きアルミ製ボンネット、迫力あるバンパー形状、大型リアウイングなど、ひと目でわかる機能美が宿る。
搭載される排気量3496ccのV型6気筒DOHCエンジン「6G74型」は、MIVEC(バルブタイミング可変)を搭載し、最高出力280馬力を誇る。
駆動方式は4WD。三菱独自の「スーパーセレクト4WD」により、路面状況に応じてスムーズに駆動を切り替えることが可能だ。そして足回りには4輪独立懸架サスペンション「ARMIE(アーミー)」が採用された。
パジェロエボリューションの生産台数はわずか約2700台といわれる。そんな希少なモデルを所有するオーナー。意外にも、18歳で運転免許を取得するまでクルマへの関心はなかったという。
「学生時代からの付き合いで、サバゲー(サバイバルゲーム)仲間でもある友人から『ジムニーにしなよ、絶対に楽しいから!』と猛プッシュされたんです。私も、乗るならおもしろいクルマがいいと思っていました。そこで、ジムニーの情報を動画で検索していたところ、偶然パリダカで走るパジェロエボリューションの動画を見つけました。轟音とともに疾走する謎の4駆。“なんだかすごいぞ…”と釘付けになったのを覚えています」
そんなオーナーが最初の愛車に選んだのは、2008年式のパジェロミニ(H58A型)だった。
「両親から『まずは軽自動車にしなさい』といわれたので、だったらパジェロミニがいいなと。ターボも痛快で、クルマっておもしろいと思いました。気づけば“このクルマが似合う自分でありたい”と思うようになっていて、キャンプや登山などのアウトドアを楽しむようになっていました」
オーナーの人生観を変えたパジェロミニ。だが、原点を辿れば、サバゲー仲間の友人に勧められた動画を通じて存在を知ったパジェロエボリューションがトリガーとなっていたのは間違いないだろう。そんなパジェロエボリューションとの運命的な出会いを振り返っていただいた。
「しばらくして、パジェロミニを両親に譲ったんです。ちなみに、今も両親のもとで現役です。次はパジェロイオに乗ろうと考えていましたが、その頃(2019年)にパジェロが生産終了になることが決まり、限定モデルのファイナルエディションが出ると聞いてすぐディーラーに行ったんです。ところがひと足遅かったみたいで、完売していたんですよね。だったら憧れのパジェロエボリューションを買おうと」
とはいえ、安易な決断ではなかったはずだ。不安や葛藤はなかったのだろうか?
「自分と同じくらいの車齢のクルマなので、維持は無理だと思っていました。でも、よく考えてみると2008年式のパジェロミニが10年以上問題なく走ってくれているじゃないですか!きちんと整備さえしていれば、古いクルマでも安心して乗れるはずだと考えたんです。それだったら、この際、憧れのクルマに思い切って乗ってみよう。壊れるならそれはそれでいいと腹を括りました。パジェロのファイナルエディションを買い逃した翌日には、中古車検索で気になっていたこの個体を観に行き、即決しました」
オーナーの行動力、そして決断力の速さに驚くばかりだが……。この個体を選ぶに至った決め手は?
「ショップへ現車確認に行ったとき、実は他にも気になるクルマがいくつかあったんです。4代目パジェロや、およそ20台限定だといわれているラリーレプリカとか。でも、パジェロエボリューションのエンジンに火を入れた瞬間、他の選択肢は消えましたね。エンジン始動時に、メーターが1000回転を超えて吹け上がる演出が入るんです。それが『お前が俺を走らせろ』といわれているような気がしてならなくなりました。“よし!このクルマに乗るんだ!”って、その場で決めました」
パジェロエボリューションのエンジンを始動させ、メーターの針が跳ね上がったとき、オーナーの心もシンクロしていた。理屈よりも本能が応えた瞬間だったにちがいない。
「今年27歳になるんですが、パジェロエボリューションも同い年なんです。なので、ナンバーも合わせました。クルマ好きって、自分と同じ年のクルマに乗りたいっていうロマンみたいなものがあるじゃないですか(笑)。もっと驚いたのが、デビューした日を調べたら、私が産まれるちょうど1年前、1997年9月22日だったんです。偶然とはいえこれはもう、運命としか…思えなくて」
発売日とオーナーの誕生日までもが一致。そんな偶然と運命に導かれるようにしてはじまった、パジェロエボリューションとのカーライフ。現在の仕様になるまでは6年を掛けているという。こだわりのモディファイを詳しく伺った。
「6年間でほぼ完成形に到達していますね。購入当初はまだクルマの知識が浅くて、ホイールのインセットも理解できていなかったんです。ひと目惚れしたホイールを装着したところ、フェンダーからはみ出してしまいました。公道を走るためには構造変更しなければならないということで、いつもお世話になっているショップが対応してくれました。公認を取得して、今の仕様に落ち着いた感じです。モディファイするにしても、あくまでも合法的に。三菱ディーラーでも点検整備が受けられるような仕様にしたかったんです」
公認を経て、複数の三菱ディーラーでも整備を受けられる体制が整った。そんな愛車と、オーナーはどんな場所へ出かけているのだろうか。
「基本的に通勤では乗っていません。休日のドライブや、たまに知り合いが主催している群サイ(群馬サイクルスポーツセンター)での走行会に参加させてもらうこともあります。ランエボやインプレッサなどのスポーツカーと一緒に走っているんです。もちろん勝てませんけどね(笑)。でも、クルマ仲間にパジェロエボリューションの助手席に乗ってもらうと好評で、アトラクション感覚で楽しんでもらえていてありがたいですね。おかげさまでクルマ仲間との交流も広がって、スポーツカーのオーナーとパジェロやデリカなどの三菱車オーナー両方の仲間がいるんです」
高性能なスポーツカーと混走しても気後れすることはない走行性能。オーナーが感じるパジェロエボリューションならではの“走りの魅力”とは?
「このクルマ、めちゃくちゃ速いんだなって思いました。高速道路でもショートボディとは思えないほど安定していますし、峠道でも疲れ知らずですし。わざわざオフロードに振る必要はないかもしれません。日本だとダートで走れる場所は限られていますし、舗装路で走るのも十分楽しいですよ」
ラリーマシンの血を引きながらも、日常の道でも走る喜びを教えてくれる懐の深いクルマ。そんな相棒を、オーナーは家庭を守りながら維持している。
オーナーは「好きでやってるだけなんです(苦笑)」と謙遜するが、26歳という若さで一軒家を購入し、最愛の奥さまもいる。さらに、奥さまと出掛けるときの足として三菱 チャレンジャーを含む2台体制生活基盤を築いているという事実は、きちんと伝えておきたい。コツコツと築いてきた生活基盤があるからこそ、パートナーから理解を得られつつ、趣味とも真剣に向き合えるのだ。
「家を建てるとき、カーポートにはこだわりました。どうしてもパジェロエボリューションはカーポートの下に置きたかった。もちろん、妻の理解あって成り立っているカーライフだということはわかっているつもりです」
奥さまは、オーナーのカーライフに対してどんな思いを抱いているのだろうか?
「いつだったか『パジェロエボリューションと私、どっちが大事?なんて聞かないから』といわれたことがあったんです。クルマの維持も妻の理解があってこそ、本当に感謝しています。実は、パジェロミニがもうすぐ戻ってくるので、夫婦で“二人三脚プラス3台”ですね。家族はもちろん、クルマたちとも長く付き合っていけたらと思っています」
奥さまにも支えられながら築かれてきたカーライフだが、オーナーはパジェロエボリューションがないと、心身の調子にまで影響が出てしまうこともあるのだそうだ。
「2か月ほど乗れない期間があったんですが、びっくりするくらいストレスが溜まって…自分でも驚きました。このクルマが手元からいなくなることは想像もできないです。たとえ低走行の同じ車種が出てきたとしても、買い替えはしません。やっぱりこの個体が、確実に自分の生活を良くしてくれている実感があるんですよ。仕事のモチベーションも上がりますし、癒される。“このクルマのために頑張ろう”と自然に思えるんです」
オーナーにとって、パジェロエボリューションは間違いなく「アガリの1台」だといえる。今後もずっと付き合っていくことは疑いようがない。とはいえ、長く乗り続けるうえで避けて通れないのが、部品供給の問題だ。そこをふまえて、今後パジェロエボリューションとどのように接していくつもりなのかをあらためて伺った。
「足回りなどはどうしても消耗していく部分なので、いずれ交換が必要になるでしょう。すでにコイルは純正品が手に入らなくなっていて、選択肢は限られてきています。アーム類も新品はまず出てこないので、今はていねいに磨きながら使っています。ショックアブソーバーはストックしています。できる範囲でできることをやっていくことが、これからの付き合い方ですね」
「クルマにふさわしい自分でありたい」と願うようになり、自分の価値観がクルマの思想に寄り添っていく。愛車もまた、そんな想いに応えるかのように走ってくれる。そんな愛車との「共鳴」が、オーナーの人生を駆動している。
パジェロエボリューションの足まわりのようにがっちりと生活の基盤を整え、最愛の奥さまと過ごす時間を大切にしたうえで、クルマ趣味を存分に楽しんでいる。オーナーの堅実なカーライフは、同じクルマ好きとして見習うべき点が多々あることを痛感させられた。
たとえ年式や定義に当てはまらなくても、パジェロエボリューションは「ヒストリックカー」という言葉が似合う。そして何より、このクルマとともにカーライフを送るオーナーの存在が、それを証明しているのではないだろうか。
今回、パジェロエボリューションという名車が、確実に次の世代へと受け継がれていく過程を取材できたことが望外の喜びだ。
若きオーナーとパジェロエボリューションの物語はまだまだ続く。いちクルマ好きとして、この続きが楽しみでならない。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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