時を超え、オーナーの中で動き出した“ロマン”。1997年式日産 ステージア RS FOUR V(WGNC34型)とのカーライフ
「理想の1台」とは、選び抜いて手に入れるものなのだろうか。
クルマは高額な買い物だ。だからこそ、多くの人がメディアやSNSに「最適解」を求める。それは確かに合理的だが、どこか満たされない気持ちになった経験があるオーナーがいるかもしれない。それは「理想のクルマ選び」のはずが、いつのまにか「このクルマなら失敗しない」や「乗り替えるときには高値で手放したい」などに置き換わっていたから、ではないだろうか。
いっぽうで、いつのまにか心の中に棲みつき、思い出のなかに溶け込んでいた1台に気づく瞬間がある。それもまた、理想の1台との出会い方だと思うのだが、いかがだろうか。
今回の主人公は、日産ステージアとスカイライン、2台の愛車と暮らす29歳のオーナーだ。偶然のようで、必然のようにめぐり逢ったという、ステージアとのカーライフを紹介しよう。
「このクルマは、1997年式の日産 ステージア RS FOUR V(WGNC34型/以下、ステージア)で、所有して丸4年、現在の走行距離は約23万キロです。ボディカラーはエメラルドグリーンパールで、このクルマのイメージカラーなんです」
ステージアは、1996年から2007年にかけて生産されたステーションワゴンだ。2001年にモデルチェンジが行われ、シリーズは2代にわたる。ローレル(C34型)やスカイライン(R33型)とプラットフォームを共有する兄弟車としても知られている。
1990年代は、メルセデス・ベンツEクラスワゴンやボルボエステートといった、輸入車のワゴンが人気を集めており、国内メーカーも、スバル レガシィツーリングワゴンを皮切りに続々と新型のステーションワゴンを投入していた。そんな「ワゴンブーム」のなかで登場したステージアは、実用性と本格的な走りで独自のポジションを築いた。1997年には、スカイラインGT-Rと同じエンジン「RB26DETT型」を搭載した「オーテックバージョン260RS」も設定された。
当時、中西圭三の名曲「次の夢」を起用した情感あふれるCMも印象的だった。キャッチフレーズ「STAGE UP」には、ワゴンという枠を超えた「次のステージへ」というメッセージが込められていた。
オーナーのステージア「RS FOUR V」は初代モデルデビュー時のトップグレードだ。グレードは、スポーティ仕様「RSシリーズ」の最上級グレードにあたる。ボディサイズは全長×全幅×全高:4800×1755×1495mm。駆動方式は4WD。排気量2498cc、直列6気筒DOHC ICターボエンジン「RB25DET型」の最高出力は235馬力を誇る。
ステージアとは、オーナーが3歳の頃に出会っているという。
「父がステージアのトミカを買ってくれたのを覚えているんです。塗装はイメージカラーだったので、当時は『緑色のクルマ』という認識しかなかったんですが(笑)。なぜステージアだったのかというと、多分父がグロリアワゴン(Y30型)に乗っていたからですね。父はアメ車ライクなワゴンが好きなんです」
ただ、その頃のオーナーが夢中になっていたのは、クルマよりも飛行機だったそうだ。
「物心つく前から空港に連れて行かれて、ベビーカーに乗ったまま旅客機の離発着を眺めることが多かったみたいです。その影響で飛行機が好きになり、乗り物全般が好きになったようです。その頃のクルマは自分にとって、どちらかといえば『男の子なら自然に触れるもの』くらいの存在でした。
クルマが好きになったのは、20代になってからですね。大学に入ってから運転免許を取得して、父からグロリアワゴンを借りて乗っていたんです。やがて就職して“自分のクルマを持ちたい”と思うようになり、スカイライン25GT-X(R34型)を購入しました。そこからクルマが好きになって、自分でも驚くほどのめり込みがすごかったですね(笑)。もともと乗り物は好きですけど、クルマに関してはここ数年で一気にハマった感じです」
実際に乗ることで、クルマそのものの魅力を実感するようになったというオーナー。通勤のためにスカイラインを購入したことから、意外なつながりも見えてきた。
「エンジンのことを調べていたら、同じRB25を積んだワゴンがあるって知ったんですよ。 それが、昔遊んでいた緑色のトミカ、ステージアだったことを知りました」
あらためて愛車との出会いを振り返っていただいた。
「もともと、友人の友人が手放したクルマでした。ある日『友だちがクルマを降りるので買わないか?』といわれて詳しく聞いてみると、ステージアだというではありませんか。しかも前期型で、子どもの頃に買ってもらったトミカと同じ色だったんです。これは買うしかないと思いましたが、当時は就職活動中だったので、家族の了承を得る必要がありました。それもクリアしたうえで購入したわけですが、どうしても手に入れたいと当時は夢中でしたね」
こうしてステージアを迎え入れたのは、オーナーが25歳のときだった。振り返れば、ステージアとは1本の線で結ばれていたようにも思える。現在はスカイラインとの2台体制だが、この2台をどのように使い分けているのかを伺ってみた。
「基本的に交互に乗っていて、他の趣味にも合わせて乗っています。釣りやキャンプといったアウトドアの趣味は、荷物がたくさん載せられるステージアで行くことが多いですね。実家へ帰省するときもステージアに乗って行くことが多いです。そういえば最近知ったのですが、ステージアが発売された当時、父はCMを観てこのクルマの存在を知り、購入しようか悩んだそうです。グロリアワゴンはステージアのルーツでもあるともいえるので、自ずと惹かれたのでしょうね」
父親の話を聞いたとき、オーナーはどこか腑に落ちるものがあったのではないだろうか。自分のカーライフに影響を与えていたことを実感する瞬間だったかもしれない。
そんなオーナーが「人生観を変えた1台」を選ぶとしたら?
「1台というよりも、まずは大人になってからの『クルマ』との出会いですよね。まるでスイッチが入ったような感覚というか、視界が一気に広がった感じです。クルマの楽しさを知り、子どもの頃から出会っていたステージアに乗ってから、何かが動き出したような気がします。ステージアのキャッチコピーが『STAGE UP』なんですけど、自分にとってもまさにそうでした」
「スイッチが入ったような感覚」こそ、オーナーの人生観を変えたそのものを象徴しているようだ。では、このステージアでもっとも気に入っているポイントは?
「やはり『エメラルドグリーンパール』のボディカラーですね。イメージカラーであり、専用色なんです。当時のCMにもこの色が使われていましたよね。磨けば磨くほど応えてくれる色というか、鮮やかに映える感じがするんですよ。シルバーや黒も好きですけど、この色は維持する楽しさや“磨きがい”があります」
そうした愛車へのこだわりは、細部に宿っている。そのなかで「もっともこだわっている点」とは?
「純正を維持することですね。社外部品は豊富にそろっていて、性能が良かったり価格が良心的だったりと、メリットは多いです。でも、それが習慣になってしまったら・・・自分の中で何かが崩れてしまうような気がします。とはいえ、すでに社外のショックが入っているので『何をいってるんだ』って話なんですけど(笑)。今後手を加えるなら、当時の純正オプションパーツを使っていきたいですね」
オーナーにとっての「純正維持」はシビアではないが、当時の雰囲気やバランスを崩さない範囲で選択する「塩梅」こそがこだわりであり、美学なのだろう。今後のモディファイの予定は?
「オーディオは純正なのですが、当時の純正オプションだったKENWOOD製のスペアナオーディオに変えようかなと思っているところです。それから、消耗品はこの先の交換に備えて早めに入手しておきたいです。ゴムの部品…ウェザーストリップやサンルーフまわり、ラジエーターまわりの部品は入手が厳しくなってきたので、なんとかしたいですね」
その想いは、モディファイだけにとどまらない。ステージアにまつわるあらゆるグッズを収集しているオーナーのこだわりは半端ではない。今回、わざわざ持参していただいたトミカやカタログ、中西圭三が歌うCMソングのシングルCD、ノベルティグッズなど、コレクションの数々を拝見した。
「ステージアのトミカだけでも10台ほど持っています。保存用が3個。あとは飾り用です。保存用と飾り用は何が違うのかというと、未開封で保存する用と鑑賞用の2種類を持っているということです(余談だが、たまたま筆者もステージアのトミカを所有していたので、オーナーに差し上げ、飾り用のコレクションに加えていただいた)」
“ステージアフリーク”だからこそ成し得るコレクションであり、クルマの歴史を丸ごと愛している証だ(上の画像に注目していただきたい。何しろ、当時のカタログに掲載されていた写真を実車で再現してしまうほどだ!!)。ここでオーナーに、ステージアの開発陣へのメッセージを送るとしたら、どんな言葉を伝えたいかを伺ってみた。
「ステージアには根強いファンが大勢います。発売から30年近く経った今でも、若い世代にまで支持されているクルマです。ステージアがいかにすばらしいクルマだったかを伝えたいです。当時の開発陣の方々には本当に感謝しています。ステージアというクルマが、いまもこうして語り継がれていることは誇らしいです」
と、オーナーは迷いなく感謝の気持ちを口にする。続いて、現在の日産への想いもお聞きした。
「90年代の日産には、CMにも遊び心があったように思います。例えば、グロリアやセドリックのCMには『大人のためのクルマ』を感じさせる演出が大好きなんです。今の時代に求められるクルマ作りがあることは理解しているつもりです。それでも、かつてのようにクルマの個性を前面に打ち出し『このクルマに乗ることが誇りだ』と思わせるような存在感を再び見たいと思っています」
時代が変わり、求められるクルマのあり方も変化している現代だが、オーナーからは「心に響くクルマ」への想いが感じられた。
ステージアはオーナーにとって、いつか乗ることが運命づけられていたかのような存在だったといっても過言ではない。そんな愛車と今後、どう接していくつもりだろうか。
「変わらず普段使いしていくと思いますが、今後は家族のように付き合っていきたいです。このままのコンディションで維持していきますが、愛車から家族のような存在に“ステージアップ”させたいんです」
淡い初恋のように出会ったトミカが、年月を経て現実の愛車となった瞬間、オーナーの中で何かが動き出した。初恋が愛へと変わるように、所有する喜びから、人生をともに歩むという“次の夢”へ。
この先、オーナーとステージアがどんな道を走ることになるのかはわからない。ただ確かなのは、そばにいつも「大切な存在がいる」ということだ。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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