若き情熱が紡ぐ「伝説の1台」との物語!1996年式トヨタ セリカ GT-FOUR(ST205型)
ここ数年、1990年代から2000年代初頭に生産された日本車が、若い世代の間で人気となっているようだ。当時を知る人たちではなく、クルマと同じ時代に生まれ育った世代を魅了しているという点が興味深い。後付け論かもしれないが、熱狂的なファンを生む名車を数多く生んだ特別な時代だったことは確かだろう。
その原体験も「イマドキ」だ。ゲームやアニメ、過去のレース映像などでその存在に触れ、心を奪われてきたという。なかには、親が昔乗っていたクルマだったというケースもあり、家族の思い出が愛着へとつながることも少なくない。これらの経験は、クルマとの出会いを超越し、その時代の空気や情熱までも追体験する「特別な経験」といえる。
今回の主人公は、トヨタ セリカ GT-FOURを所有する27歳のオーナーだ。「GT-FOUR」といえば、WRC(世界ラリー選手権)で疾走する、カストロールカラーをまとったワークスマシンの勇姿を思い浮かべるクルマ好きも多いだろう。
「このクルマは、1996年式のトヨタ セリカ GT-FOUR(ST205型)です。所有して4年を迎えました。当時の走行距離は約22万キロでしたが、3万キロほど走って現在は約25万キロです。ボディカラーは、トヨタの純正ブラック(カラーコード202)です」
1970年に「日本で初めてのスペシャリティカー」としてデビューし、2006年まで7世代にわたり歴史を刻んだトヨタ セリカ。
車名はスペイン語で「天空の」「神の」を意味する「Celica」に由来している。初代モデルから続く斬新なデザインや、モータースポーツでの活躍。今もなおファンを惹きつけてやまない、復活が待ち望まれるモデルだ。
セリカは、派生モデルを多く有する車種でもある。1981年、北米市場で人気だったフェアレディZに対抗すべく開発されたセリカの上級モデル「セリカXX」は、北米では「スープラ」として販売された。スープラは、のちに独立したモデルとなったが、トヨタのフラッグシップスポーツカーは、セリカの系譜がもたらしたといえる。また、同社の副社長・中嶋裕樹氏が「ラリージャパン2024」のトークショーでセリカの復活を示唆し、話題となったことも記憶に新しい。
セリカGT-FOUR(以下、GT-FOUR)は、4WDのスポーツグレードとしてシリーズ4代目から設定された。1990年のWRCでは、カルロス・サインツが日本車では初となるドライバーズタイトルを獲得している。
オーナーの愛車は、歴代のセリカとしては6代目にあたる。1993年から1999年にかけて生産された。外観では、5代目のリトラクタブル・ヘッドライトから変更された丸目4灯ヘッドライトが特徴的だ。
GT-FOUR(ST205型)がデビューしたのは1994年2月のこと。ボディサイズは全長×全幅×全高:4420×1750×1305mm。駆動方式はフルタイム4WD。搭載される排気量1998ccの直列4気筒DOHCターボエンジン「3S-GTE型」は、最高出力255馬力を誇る。新開発のスーパーストラットサスペンションが採用されるなど、ハイパフォーマンスモデルならではのこだわりが詰まっていた。なお、オーナーの個体はGT-FOURの中期モデルにあたる。
愛車へのこだわりを紹介する前に、まずはオーナーがクルマを好きになった原体験と、これまでのカーライフを振り返っていただいた。
「私は3人兄弟の次男で、2歳年上の兄と8歳年下の弟がいます。クルマ好きな兄の影響を多大に受けています。たとえば、幼い頃から一緒に近所のカー用品店に出入りするクルマを眺めるのが日常でした。RX-7や80スープラ、セリカの存在も知るようになりました。トミカもたくさん集めていましたね」
オーナーの兄は、以前の愛車紹介にも登場いただいている。オーナーにとって、兄はクルマ愛の原点であり、深くリスペクトする存在のようだ。
「GT-FOURが納車されたときも、まず兄に見せに行ったんですよ。兄の自宅近辺は坂道が多くて、久々のMT(クラッチワーク)に苦戦しましたけど(笑)」
そんな兄の影響で、マツダ ロードスターも同時所有していたことがあるという。
「NAロードスターに乗っている兄の影響で、短期間ですがNBロードスターをセリカと同時所有していました。転職のタイミングで手放すことになってしまいましたが、兄とオフ会に参加できたのは良い思い出です。セリカとは異なる“操る楽しさ”がありました」
幼少時代から兄弟で共有してきたカーライフは、オーナーにとってかけがえのない時間だったに違いない。ちなみに取材当日も、わざわざご兄弟で集合場所に駆けつけてくださった(ありがとうございました!)。
オーナーは、GT-FOURの前に SS-II(ST202型)と2台のセリカを乗り継いでいる。セリカに惚れ込んだ経緯とは一体?
「セリカ自体に興味を持ったきっかけは、全日本GT選手権(SUPER GTの前身)のマシン『カストロール トムス スープラ』です。子どもの頃から大好きなマシンで、今もミニカーを大切に持っています。あの赤と緑のカラーリングが幼い頃から大好きだったんです。同じカラーリングのセリカがラリーにも参戦していると知り、意識するようになりました」
トヨタワークスのカストロールカラーは、歌舞伎役者の隈取りを思わせるような「和の力強さ」を感じさせるデザインだ。このカラーをまとい、大舞台で活躍する当時のスープラやセリカの姿が、オーナーの目にはヒーローのように映っていたのかもしれない。
運転免許を取得したオーナーは、最初の愛車となる1999年式のセリカ SS-II(ST202型)のATモデルを手に入れた。当時をこう振り返る。
「当時のラリーマシンにはあまり見られない、流線形のフォルムや4灯ヘッドライトが気に入っていたポイントです。同じ頃に人気だったランエボやインプレッサよりも強く惹かれました。GT-FOURと迷いましたが、社会人になって間もなかったので、手の届く範囲のSS-IIを選びました。気が向いたらMTに換装すればいいやと。トヨタの可変バルブタイミング機構『VVT-i』ならではの軽快な吹け上がりを楽しむことができました。2台所有は結果的に困難でしたが、大切な相棒でしたね」
「2台所有」というように、憧れのGT-FOURを迎え入れたのは増車という形だったそうだが、その出会いを伺った。
「中古車サイトで見つけました。2桁ナンバーのワンオーナー車で、店頭で現車を見た瞬間に『これしかない!』と即決しました。整備記録もしっかり残されていて、状態の良さはもちろん、このクルマがどれだけ大切にされていたのかが伝わってきました」
2桁ナンバーを維持するクルマを手放すということは、やむを得ない事情があったのかもしれない。こうしてGT-FOURと走り出したオーナーだが、実際に乗ってみた感想を尋ねてみた。
「SS-IIは軽快な走りが魅力でしたが、GT-FOURはまさに“GTそのもの”ですね。剛性感があり、低速トルクも豊かで高速道路をゆったり巡航できるのが心地いいです。長時間運転しても疲れないので、つい遠出してしまいます。箱根ターンパイクや伊豆スカイラインのような景色のいい道を走るのが好きですね」
GT-FOURに乗るようになり、周囲の反応にも変化があったという。
「街中でよく振り返られるんです。子どもとすれ違うと『かっこいい!』といわれることもあるんですよ。外国人に声をかけられる機会も多くなりましたね。カー用品店の駐車場で、数人から質問攻めにされたとき、セリカの人気ぶりを実感しました。ST205型は販売当初、北米への輸出がされていなかったため、2019年の25年ルール解禁以降に人気が上昇。セリカの中古車の流通量はもともと多くないんですけど、以前よりも減ったような印象があります。国外への流出が進んでいるからでしょうか」
オーナーは、自らの愛車に対して完成形を明確に描いているようだ。その理想に近づけるべく、純正の良さを大切にしながらもさりげなく手を加えることを心がけているという。クルマを若々しく見せるモディファイが、随所に見られた。
「純正スタイルの維持を基本にしていますが、1996年式の中期型GT-FOURなので、古くなった部分はできるだけリフレッシュを心がけています。たとえば、ヘッドライトはより年式の新しいSS-II用のプロジェクタータイプに交換して見た目と機能を一新しました。スポイラーは、存在感のある後期型の大型タイプに。テールライトはスパルタンな印象のある前期型にしています。ウインカーレンズは社外品のクリアタイプを選びましたが、いつでも戻せるようにノーマルのレンズも保管しています。また、前オーナーが装着したOZ Racing製のホイールをそのまま使わせてもらっています。新品では手に入らない貴重なモデルでもあり、黒いボディとのコントラストもお気に入りです」
こだわった愛車だからこそ「ここが好きだ」と思える角度があるのではと思い、愛車の魅力が最も引き立つ構図も尋ねてみた。
「お気に入りの角度は、中腰のローアングル。前からの構図ですね。フェンダーの力強い盛り上がりやスポイラーまで見えて、GT-FOUR全体の美しさを楽しむことができます」
もちろん、細やかなメンテナンスも欠かさない。
「盗難を防ぐために地下駐車場を契約しています。そのため、夏場は防湿とカビ対策が欠かせません。オイル交換は、距離よりも3ヶ月に1度ペースの定期的な交換を心がけ、知り合いのメカニックさんがおすすめのターボ専用オイルを使用しています。その方も、35万キロを超えるソアラを所有しているんですが、オイル交換が長寿を保つ秘訣だと伺っています」
オーナーのカーライフにおいて、GT-FOURは「アガリの1台」となるのではと、確信めいたものが感じられる。あらためて愛車への想いをお聞きした。
「私よりも若い次世代の方にも、セリカの良さを知ってほしいです。長く乗れるようにメンテナンスに力を入れたいですね。実は、足回りから少し異音がしているんです。原因はスーパーストラットサスペンションかもしれません。ここの部品が供給されないと、維持を諦めてしまう人も多いと思います。共通部品は存在するにしても、トヨタさんにはぜひセリカのパーツを『GRヘリテージパーツ』として展開してほしいです」
新型セリカの復活が期待される今、さらに機運を高めるためにも部品のリリースは市場を盛り上げる一助となり得る。より多くのユーザーに希望を与えることは間違いないだろう。
そして「このクルマを守りたい」という願いこそ、新たなクルマを生み出す土台となり、未来への希望となるのではないだろうか。なかなか一筋縄ではいかないだろうが、メーカーには部品供給を通じてオーナーたちの努力を支えていただきたい。
セリカ GT-FOURと真摯に向き合う、若きオーナー。取材中ふいに呟いた「この先結婚できるなら、愛車を理解してくれるパートナーでないと難しい」という言葉に覚悟を感じた。お互いの大切なものを尊重し合うことは大切であるが、同時に「アガリの1台」を貫く覚悟への何よりの表れだろう。
クルマ好きにとって、部品供給問題や環境の変化などまさに“激動の時代”だが、オーナーにはセリカ GT-FOURとともに物語を紡いでほしい。その熱い想いが、カーライフにさらなる喜びと充実をもたらすはずだ。そして、オーナーのセリカに対する想いを理解してくれるパートナーに巡り会えることを願ってやまない。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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