他人とカブらないことを最重視!進化し続けることで1台をじっくり楽しむ愛車ライフ【取材地:福岡】

人によって千差万別とも言える愛車との付き合い方において“クルマの改造”はオーナーの考え方や他人との違いが現れる手法のひとつ。メーカーから発売されたノーマルのまま良好なコンディションをキープする乗り方があるいっぽうで、クルマをチューニングやカスタムのベース素材として考え、愛車を自分だけの理想の形へと近づけていくという楽しみ方もある。
「生活費以外のかけられるお金は、愛車とそのチューニングに注ぎ込んできました」という楠本順司さん(39才)の場合は、間違いなくその後者だ。

彼の愛車はトヨタアルテッツァ・ジータ。スポーティなFRセダンとして販売されていたアルテッツァをベースに、後部をハッチバックへ変更することで当時の流行だったステーションワゴンとして発売された派生モデルだ。

「自分はちょっとひねくれているところがあって、昔から車種も中身もなるべく他人とカブらないのが好きなんです。アルテッツァ自体は過去にセダンの購入を考えていたこともあったのですが、結局その時は別のクルマを選択しました。そこから何年も経って、年もとってきたし今後両親を乗せたりすることを考えたら居住性に優れていて荷物も積めるワゴンが便利だなと思っていたところ『完全ノーマルのジータが入ってきたけどどう?』と、いつもお世話になっているお店から声がかかったんです」

アルテッツァといえば2リッターNAの3Sエンジン搭載車というイメージがあるが、ジータは違う。ワゴン化によって増えた車重をカバーして余裕のある走りを実現するため、3Sエンジンよりも排気量が1リッター多く、スープラなどにも搭載されている2JZエンジンを搭載したモデルが存在するのだ。

「購入時からチューニングすることを考えてたんですよね(笑)。ベースはNAの2JZなんですけど、ターボ化するのはありきたりだから、スーパーチャージャーを付けてやろうと思いました。もちろん市販のキット品は無いので、取り付けがワンオフになるぶん費用もかかります。だけどそれ以上に『ジータにスーパーチャージャー』って誰もやろうとしない組み合わせだと思ったので、本当に珍しい仕様にできるぞ!!とノリノリで話が進みました」

そんな楠本さんの愛車遍歴において、二人三脚、ある意味では“共犯”とも言える関係で理想を目指すチューニングを支えてきた存在が、国内アフターパーツメーカー最大手であるHKSの九州拠点、HKS九州サービスだ。

中学生の頃からチューニング雑誌を読んでいたという根っからのクルマ好きである楠本さんと、HKS九州サービスの関係がスタートしたのは、楠本さんが免許を取得して初めての愛車を手に入れた頃のこと。

「本当はJZA70スープラがほしかったんですけど、20才でまだ就職したばかりだったのでスポーツカーを買うことはできず、普段乗り用のbBを選びました。最初はダウンサス、エアロ、ホイールと定番のカスタムを楽しんでいたんですが、やっぱりスープラに憧れていたわけですから、やっぱり走りのほうが物足りなく感じるわけです。そんなときに、チューニング雑誌の中にHKSがbB用のボルトオンターボキットを発売したという記事があって、HKS九州に相談に行きました」

若者からファミリーまで気軽に乗れるコンパクトなワゴンとしておなじみのbBを、過激なターボ仕様へとチューニングしてしまったのだ。
そして、いちど楽しさを知ってしまうと、さらなる変化を目指したくなるのがチューニングの魅力。いや、魔力や中毒と呼ぶべきかもしれない。楠本さんもご多分に漏れず、すっかり毒されてしまったという。

「ターボを追加して最初は満足したんですけど、今度は『どうせならマニュアルがいいな』と思い始めたんです(笑)。そこで兄弟車のVits RSから5速マニュアルミッションを載せ換えて、カタログには存在しない『5速マニュアルターボ仕様のbB』になりました」

bBでチューニングの楽しさを満喫した楠本さんが、いよいよしっかりとしたスポーツカーに乗りたいということで次に乗り換えたのが、ニッサン・シルビアの兄弟車として知られる180SX。
こちらもNAエンジンをベースに後からタービンを追加したNA改ターボ仕様を、これまたHKS九州でコンピュータチューンするなどして楽しんだという。

「次に乗ったのはダイハツのコペンでしたね。これも雑誌でHKS本社がコペンをベースに開発したデモカーでサーキットを走っているという記事を見て『軽自動車なのにここまで速いのか!』と興味が湧いて、そのクルマをそっくりそのまま買わせてもらいました。これも結構気に入って、4年間くらい乗りましたね」

そして話はコペンから乗り換えた現在の愛車、アルテッツァ・ジータに戻る。
冒頭で楠本さんのジータはNAからスーパーチャージャーへ変更済みと書いたが、大きく分けて4つの段階を経て現在に至っている。
まず最初が、購入したばかりの完全に市販車ノーマルの状態だ。「セダンのアルテッツァはパワーが少ない割に重いという評判だったのですが、はじめてジータに乗ったときは『ノーマルの割に想像以上にしっかり走るな』という印象でした」。

NAとはいえ3リッターの2JZのおかげで十分な走りを見せてくれたジータだったが、ここからステップアップしてコンピュータのセッティング変更を行うと、さらに印象が変わったという。
「ノーマルと比べて別物!っていうくらい走りが良くなりました。そして、なおさらスーチャーを付けたときの期待度が高まりましたね」

そして辿りついたのが、アルテッツァ・ジータの2JZスーパーチャージャー仕様だ。
エンジンの回転数に合わせてブースト圧が立ち上がるスーパーチャージャーは、ターボとは異なるフィーリングが魅力のひとつ。
通勤の際のゼロ発進、ワインディングや高速道路でアクセルを踏みこんだときの感動はひとしおだったそうで、LSDなどの駆動系強化や、いずれサーキットでのチャレンジもしたくなったという。
ちなみに、この時点でチューニングにかけた費用が車両購入額を大きく上回っているのは、いわずもがなだ。
そして、ここで満足といかないのが、愛車遍歴からも分かる楠本さんの凝り性。

「スーパーチャージャーを付けたら、あとは残ってるのはココだろうということでマニュアル化したくなったんです」と、かつてのbBとおなじようにJZX100チェイサーから5速マニュアルミッションを移植!
日本だけでなく世界中を見渡してもこの1台だけと言えそうな『スーパーチャージャー×5速マニュアル仕様のアルテッツァ・ジータ』が出来上がったのだった。

そうして完成したエンジンルームを改めて覗くと、取り付けに際しての苦労が伝わるステーを用いたスーパーチャージャー本体や、曲げ加工が施された吸気パイピングなどの絶妙なレイアウトに改めて驚かされる。
いっぽうで、エキマニ上部にはターボチャージャーが装着できそうなスペースが残されていて『スーチャーよりもタービンを付けるほうが簡単だったのでは?』と思えなくもないが、楠本さんに聞くと「そういうふうに無駄に見えるからこそいいんですよ!」と言わんばかりの笑顔で満足そうにニッコリ。

ふとこのとき、撮影当日に着ていたヘヴィメタルバンドのパーカーが気になった。これだけの奇抜なチューニングをしているのだから、音楽の趣向にもこだわりがあるのかと思って伺ってみると「これはたまたまで、ジャンルはJ-POPでもジャズでもなんでもよくて、ラジオとかで気に入った曲を聞くかんじですね」という答えが返ってきた。よく見るとシフトノブにかかっているリストバンドも、オールジャンルの音楽フェスのものだった。

その勢いでクルマ以外の趣味についても聞いてみると、2年ほど前に仕事をキッカケに撮影用ドローンの操縦にハマったそうだが、年々飛行場所のハードルが高くなっていることから半ば休止中とのこと。

やはり、楠本さんが全力で情熱を注ぐことができる対象は愛車とそのチューニングに他ならず、だからこそ「誰とも被らなくて面白そうだから」ということを理由に、車体購入価格以上のお金を後悔なくかけられるほどのめり込むことができるのだろう。

そして、ジータを手に入れたあとに再婚した楠本さんの奥さんもチューニングという趣味に理解があった。家庭ではもう1台のトヨタ・シエンタと2台持ちで、ジータのほうは楠本さんが自分の遊びのために使うクルマという立ち位置というのも家庭の共有認識。それもあって、このジータのチューニングに反対されることもなく、これまで趣味のお金のほとんどを使うことができたという。

たった1台のジータをベースに、ノーマルからスタートして、コンピュータセッティング、後付けスーパーチャージャー、マニュアル化という4種類の仕様を楽しんできた楠本さん。
「実は燃料インジェクターが純正のままなので、まだブースト圧は低めなんです。去年ミッションを載せ換えたばかりで、ようやく慣らしを終えたので、これから余裕ができたらセッティングを取り直して、さらにパワーを上げていきたいと思っています!そして、いずれはターボも追加して『ツインチャージャー仕様』までいっちゃうかも(笑)!?」

チューニングがステップアップするたびに、まるで新たな愛車を手に入れたかのような変化を楽しめる。楠本さんがその中毒性から逃れることは、きっともうできないだろう。
しかし愛車について笑顔で熱く語る楠本さんを見ていると、これも長く愛車を楽しむためのひとつのステキな選択肢といって間違いなさそうだ。

(文: 長谷川実路 / 撮影: 西野キヨシ)

[ガズー編集部]

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