「ライトウェイトスポーツ党」のオーナーを虜にした、究極の内燃機関を持つ2015年式日産 GT-R NISMO(R35型)
愛車と過ごす時間に、時間の長さは関係ないような気がする。
一生乗るかどうかよりも、どれだけ愛車と濃い時間を過ごせるか。それが持続すれば「一生モノ」にもなり得るのかもしれない……。
今回の主人公は、55歳のオーナーだ。金属加工の会社を経営する傍ら、モータースポーツにも取り組んでいる。10代の頃から二輪レースに参戦。プロのレーサーを目指した時期もあったという。現在は四輪でタイムアタックに挑んでいるそうだ。
いっぽうプライベートでは、二人の息子さんの父親でもあるという。奥様も息子さんもクルマ好きなのだそうだ。
「このクルマは2015年式日産 GT-R NISMOです。購入時は7000キロで、現在1万8000キロ。これまでの走行距離は約1万キロです。納車から4カ月を過ぎたところですが、意外と距離が伸びていましたね」
2007年にデビューしたGT-Rは、「日産スカイラインGT-R」から独立し、完全な別のモデル「日産GT-R」となった。装備や機能が毎年アップデートされる「イヤーモデル制」を採用する、現行の国産ピュアスポーツカーである。
オーナーの愛車、GT-R NISMO(R35型/以下、R35 GT-R)は、2014年に発売されたNISMOによるワークスチューニングが施されたモデルだ。標準モデルと異なる点は、専用バンパーやリヤスポイラー、専用アルミ鍛造ホイールなどが与えられている他、足回りにはビルシュタイン製の電子制御ダンパー「ダンプトロニック」の特注モデルも装備している。
R35 GT-Rのボディサイズは全長×全幅×全高:4670×1895×1370mm。搭載される排気量3799ccのV型6気筒DOHCツインターボエンジン「VR38DETT型」には、GT-R NISMO GT3(グループGT3に対応可能なモデル)に使用される大容量の専用タービンを採用し、最高出力は600馬力を誇る。
いわゆる「第2世代GT-R」の頃の最高出力が280馬力だったことを思うと、カタログモデルでこれだけのパワーを標榜できるようになった事実に驚いた人もいるだろう。
このR35 GT-Rの他にも数台のスポーツカーを所有しているというオーナー。ロータス エキシージとマツダ RX-8、ホンダ S2000、マクラーレン 600LTなどクルマ好きなら憧れる車種ばかりだ。これまでどんなカーライフを送ってきたのかを、まずはオーナーの愛車遍歴とともに伺ってみた。
「10代の頃からオートバイのレースをしていたので、最初の愛車はマシンを積むトランスポーターとしてトヨタ ハイエースに乗っていました。オートバイを降りてからは、マツダ RX-7(FC3S型)を13年所有したあと、ロータス エリーゼに乗り替えたのが2003年のことでした。新車で購入して、ローンを組んだ初めてのクルマでしたね。
約10年乗って、次はBMW M3(E92型)に。40歳になったこともあり、落ち着いたオトナのクルマに乗らなきゃなと思ったんですよね(笑)。続いて同社のM2コンペティション。3年半くらい乗っていたんですが、またロータスに戻りたくなり、シリーズ1のエキシージに乗り替えたんです。サーキットも走りたかったのでかなりチューニングしていたんですが、当時通っていたショップから『もったいないから弄るな』というプレッシャーを掛けられて気持ちが萎えてしまって、シリーズ2のエキシージに乗り替えて現在に至ります」
ライトウェイトスポーツを中心としたカーライフを送っているオーナー。「人生観を変えた」のはロータスのクルマということになるのだろうか。
「ロータスが私のスポーツカーの好みや基準となっていますね。車体が軽く、乗っていて楽しい。どこでも一緒に行ける相棒みたいな使い方ができるクルマが好きですね」
ライトウェイトスポーツを好んできたオーナーが、どちらかといえばスーパースポーツに分類されるであろうR35 GT-Rに乗るきっかけは何だったのだろうか。
「クルマ仲間にすすめられたのがきっかけですね。年齢にふさわしく落ち着いた……でも走りの良さは抜群のマシンとして候補に挙がりました。さらに、R35 GT-Rの開発に関わった鈴木利男さんが経営しているショップ「NordRing」に行く機会があり、そこでいろいろとお話を伺ううちに『世界に誇れる国産のスーパーカーはR35 GT-Rしかない』と確信したんです。
世界のメーカーには真似できない価格とスペックを併せ持つだけでなく、2度とこのようなスポーツカーが日本車で生まれることはないかもしれないと思ったんです。アメリカの衝突安全基準に対応するためルーフ部分が約20kg重くなる以前、2014年~2016年製造の中期型であること、2016年4月から施行されたマフラー新規制(2016年10月1日以降の生産車に適用)前のモデルであることを条件に探しましたね」
実際に乗ってみて気づいた魅力や変化したことを伺ってみた。
「最初はブレーキの感覚に慣れなくて、制動を感じるまでのタイムラグが気になっていました。ブレーキはきちんと効きますが、ライトウェイトスポーツばかり乗っていたせいか“重いクルマを止めている”という意識が働き、一体感がいまひとつ得られなかったんです。
しかし、次第にクルマの感覚にも慣れ、その違和感が解消されてから、ハンドリングの良さや軽快な走りを楽しめるようになりましたね。コーナリングはフロントタイヤからリアにトラクションを移していくようで、動きも素直です。ボディ剛性の高さはさすがですね」
「それと、DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション/2枚のクラッチ板が交互に繋がり動力の遮断が起きないトランスミッション)のもっさりしたフィーリングが気になっていたんですが、メリハリをつけてクルマに合わせてあげるような運転をすると、意図した通りにギアがチェンジしてくれます。
R35 GT-RのDCTは、Gを感じることで次のギアを選んでいて、例えば3速で加速気味の状態だとすでに4速へのギア選択は終わっているようです。加速Gと減速Gをジャイロセンサーで見て次のギア選択を終わらせるため、素早いシフトチェンジが可能になるのかもしれません。攻め込む走りをすればより力を発揮することでしょう。いまからサーキットで走らせるのが楽しみです」
公道では味わえない速度や挙動を経験してきたオーナーだからこその鋭い観察眼だ。R35 GT-Rでサーキットを走る前提として施されたモディファイにも、こだわりが感じられる。
「仲間から『早くサーキットを走ろう』とプッシュされているので、ひとまずステアリングとシート、ホイールを交換したんです。ホイールはADVANの“Racing GT”というモデルを選びました(純正ホイールは大切に保管してあります)。このとき、タイヤも新調してPOTENZAのRE-71RSに交換しています。
ステアリングも、KMP Drivetrain Solutions製のステアリングに交換。シートは運転席のみRECARO製のフルバケットシートにするなど、スポーツ走行を意識しつつ、見た目のマッチングも意識しています。マフラーは“Armytrix”という、海外メーカーのマフラーに交換しています。可変バルブが付いていて、リモコンでバルブが開閉できるものです。音量を調節できて便利です」
自身の愛車でサーキットを攻めるとき、多くのドライバーがタイムアタックに挑むだろう。自身の腕やマシンのセッティングを煮詰めれば煮詰めるほど「コンマ何秒のタイム差」が重要になってくる。外気温やマシンのセッティング、タイヤの熱の入れ具合など、本気の度合いが高まるほど、シビアなチェックと状況の把握が求められる。日常生活ではほとんど意識することのない「コンマ何秒」を削るため、おおげさではなく、人生を掛けるほどの情熱を注いでいる人たちが存在する。オーナーも、サーキット走行時にその光景をまのあたりにしてきた。
そんなドライバーの力になれたらと、サーキットでタイムアタックするためのタイヤの再利用と有効活用するべく、自身の技術と経験を活かして電動カンナでサーキット走行後のタイヤを削り(ドライバーが手作業で作業するのが一般的だ)、フレッシュな状態を保つ機械「削丸 Kezmaru」を自身で開発してしまうほどの、深いモータースポーツ愛に感銘を受けた。
来るべきサーキット走行に備えて、愛車であるR35 GT-Rを着々とオーナーの色に染めているようだ。では、愛車で「もっとも気に入っているポイント」はどんなところだろうか。
「普段使いできるところですね。R35 GT-Rで出かけることが増えました。特にゴルフの行き帰りは曲がりくねった山道が多いので、運転しがいがあります。トランクにはキャディバッグが2本入りますし。燃費はきちんと計ったことはないですが、このタイプのクルマにしては良いほうで、普通に乗って約6キロ台後半です」
続いて、実際に手に入れて感じたR35 GT-Rならではの魅力も尋ねてみた。
「国内最大の出力で世界に誇れるエンジンだと思います。素人考えですが、スロットルは2つですが、パワーは6連スロットルと遜色ありません。オートバイでレースをしていた頃から高回転エンジンのほうが好きなのに、このVR38DETTに惹かれるのは自分でも不思議ではありますね。内燃機関では最後になるであろう『究極のエンジン』だと思いますね」
最後に、愛車と今後どう接していきたいかを伺ってみた。
「このR35 GT-Rとは長い付き合いになりそうです。もし、何かの拍子で手放したとしても後悔するんじゃないかと思います。マクラーレンの場合、夢のクルマに乗れたという満足感でゆくゆくは手放しても良いかと思えてしまうんですが、R35 GT-Rには不満な点を許せるほどのあり余る魅力が溢れています。この先手元に残すとすれば、このR35 GT-Rとエキシージかもしれませんね」
息子さんにご自身のR35 GT-Rを乗り継いでほしいという気持ちは?
「息子たちには、それぞれ好きなクルマがあると思うので無理強いはしません。しかし、子どもは親の影響を受けますね。私の父もクルマが好きでしたから。父はいすゞが好きで、記憶はおぼろげですが、117クーペやピアッツァ、ベレットGTRに乗っていました。そういえば車種は違えど“GT-R”繋がりですね(笑)。子どもたちは国産スポーツを好むので、もしかするとR35 GT-Rには乗りたいというかもしれません。そうなったら事故だけは気をつけてもらいたいですね。もちろん普段から事故だけは気をつけるようにと話しています」
R35 GT-Rとの蜜月の日々。クルマの豊富な知識と経験のもと、濃密な時間を過ごしているオーナー。
ついこの間まで少し先のことだと思っていた「いつまで内燃機関を搭載したクルマで存分に楽しめるのだろうか」という、漠然としたタイムリミット。もしかしたら杞憂に終わるかもしれないし、ある日突然、その不安が現実となってしまうかもしれない。根っからのクルマ好きであるオーナーも、本能的にそのことを感じ取ったからこそ、「国産スポーツカーのなかでも究極の内燃機関」を搭載したR35 GT-Rを愛車に迎えたのかもしれない。
そして、究極のマシンを手に入れたからには、ガレージにしまいこんだりせず、サーキットであろうと街乗りであろうと「全力かつ真剣に楽しもう」というクルマ愛をひしひしと感じた取材となった。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき / 取材協力: Garage, Café and BAR monocoque)
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