ユルさとサイズが今の自分にピッタリ。元プロスキーヤーが人生の第3章で出合ったハイラックスサーフ185

  • ルーフトップテントを載せたトヨタ・ハイラックスサーフ

新潟県湯沢町。多くのスキー場と温泉があるスノーリゾートで、冬になると関東からたくさんのスキーヤー&スノーボーダーが訪れることで知られる場所だ。逆に冬以外の観光のイメージはあまりないが、実は山から流れる川の源流域にイワナやヤマメなどを狙う渓流釣りのメッカでもある。

湯沢町で居酒屋を営む池田雄貴さんも、仕入れに向かうまでの時間や休日は山に入り、ルアーを投げているアングラーだ。愛車は1995年から2002年まで製造された3代目トヨタ ハイラックスサーフ。ファンからは “185”と呼ばれているモデルだ。

「サーフはクロカンタイプでゴツゴツしているから大きく見えますが、実はワイドボディでも全幅が1800mmしかありません。僕のクルマはナローボディにカスタムして全幅がもっと狭くなっているので、山の中の細い道でも躊躇なく入っていけます。さすがに本気の林道だとジムニーには敵いませんが(笑)」

  • 林道を走るトヨタ・ハイラックスサーフ

湯沢で生まれ育った池田さんだが、渓流釣りの歴はまだ浅いという。池田さんが中学生の頃から湯沢にもキッカーやレールが設置されたスノーボードパークがあるゲレンデが増えてきて、多くのスノーボーダーがパークで遊ぶようになった。
当時、池田さんはモーグルをやっていた先輩の影響でスキーに夢中になっていたため、パークにもスキーで入っていった。フリースタイルスキーの走りと言えるだろう。

そして高校卒業後、池田さんはプロとして本格的にフリースタイルスキーの競技に明け暮れるようになる。オフシーズンに稼いだお金をすべてスキーにつぎ込む生活だ。乗っていたクルマはマツダ ファミリアS-ワゴン。

「当時は本当にお金がなかったので、父親のクルマを借りていました。父親は生粋のマツダ党……というかファミリア党で、僕が子どもの頃からずっとファミリアを乗り継いでいました」

  • トヨタ・ハイラックスサーフ
  • トヨタ・ハイラックスサーフのリヤ

この時期は国内での活動だけでなく、毎年カナダやニュージランドに遠征に出かけていたという。そこでトップライダーたちの最前線の技を見せつけられ、あまりのレベルの違いに、同じ土俵で勝負するのは無理だと感じたという。

池田さんは18歳から22歳までプロスキーヤーとして活動したが、競技活動を引退。ちょうどその頃、長野県の野沢温泉で選手をしていた人がスキーショップを開くので手伝ってくれないかと誘われ、野沢に移住することになった。

「引退する少し前に知人から初代ステップワゴンをタダ同然で譲ってもらったので、それを野沢に持っていって廃車になるまで乗っていました。廃車になってから2年くらいクルマを持っていなかったのですが、知り合いがフォルクスワーゲン ゴルフを譲ってくれて。FFですが雪の山道も問題なく走れるのですごく気に入っていました」

  • トヨタ・ハイラックスサーフオーナーの池田雄貴

野沢温泉では店長としてスキーショップを運営していた。しかし、28歳で地元の湯沢に戻ってきた。きっかけは事故だった。

「バックカントリーで雪崩に遭遇してしまったのです。競技をやっているときから僕はずっとゲレンデスキーヤーだったので、バックカントリーの知識がなかったのですね。もともと野沢温泉に永住するつもりはなくいつか地元に帰ろうとは思っていたのですが、雪崩に巻き込まれたときに気持ちがぷつっと切れて、今が潮時かなと感じました」

湯沢に戻ってきてから、しばらくスキーを履く気にはならなかったという。代わりに夢中になったのが釣りだった。
野沢にいる頃、友人に連れられてバス釣りをするようになっていたが、湯沢にはバス釣りができる湖がない代わりに、イワナやヤマメが狙える美しい渓流がたくさんある。地元で生まれ育ったのにこれまでまったく目に入っていなかった風景に驚かされた。

  • 釣りの準備をする池田雄貴さん

そして釣りを楽しむようになってから、クルマが欲しいと思うようになったという。

「これまでクルマはとりあえず走れてスキーが積めればなんでもいいと思っていたのですが、初めて自分が気に入ったものに乗りたいと思って。不思議な感覚でした」

これは筆者の想像だが、フリースタイルスキーにがむしゃらだった20歳前後、見知らぬ土地で過ごした20代を経て地元に戻り、ようやく地に足をつけたのかもしれない。湯沢に戻った後、昼は地元の農家さんを手伝い、夜は居酒屋で働くようになった。

「働いたのは地元に戻って友達と初めて飲みに行ったお店です。オーナーは知らない方だったのですが、働いている人がたまたま知り合いで『人手が足りなくて困っている』というので、だったら手伝いますよって」

池田さんは飲食業の面白さにのめり込み、夢中で仕事をするようになった。そして修行に励みながらどんどん自信をつけていったのだろう。最初はアルバイトだったが、なんとオーナーからその店を受け継ぎ、現在は池田さんがオーナーとして店を切り盛りしている。
前オーナーが「こいつなら店を譲ってもいい」と感じるほどに成長したのだ。

  • 渓流釣りを楽しむ池田雄貴さん
  • 魚をうれしそうに見せる池田雄貴さん

これまで知人からクルマを譲り受けていた池田さんが、初めて自分の意志でクルマを買う。地元に根ざし、安定した収入が得られるようになったからこそ、分割払いでクルマを手に入れることに怖さもなくなった。そんな池田さんはどのような理由で今のクルマを選んだのだろう。

「釣りやキャンプにクルマを使いたいし、雪の中でも安心して走れるように、SUVを選ぶことはすぐに決まりました。さすがに新車を買う勇気はなかったので、予算を200万円前後に設定して探すことにしました」

現在のSUVはラグジュアリー性を重視し、オンロード性能を高めたクロスオーバータイプが主流。だが、池田さんはもっと無骨な雰囲気のものがいいと考えていた。

実は池田さんはトヨタ ランドクルーザーへの憧れがあり、実際に販売店にクルマを見に行ったという。ただ、実車を見て「今の自分にはまだ早い。もっと歳を重ねてからのほうがいい」と感じたそうだ。

  • 山道もお手の物なトヨタ・ハイラックスサーフ

じゃあ何を選ぶ? そんな時、たまたまハイラックスサーフのカスタム専門店がInstagramで流れてきた。

「見た瞬間、これだと思いました。そこはカスタムされた中古車を店頭に並べるのではなく、好みをヒアリングしてベース車両探しから行ってくれるショップでした。そして何度も連絡があってカスタムの方向性などを相談できる。その分納車までに時間はかかりますが、自分だけの一台を作りあげるという感覚がすごく気に入りました」

ベース車両を探してもらったら、走行距離8万3000kmで程度がいいものが見つかった。そこから納車まで9ヵ月。池田さん好みの世界に一台だけのハイラックスサーフが手元にやってきたのが7年前だ。

ワイドボディからナローボディに変更し、前後バンパーはメッキタイプに。そしてボディカラーがサンドベージュになったハイラックスサーフは、まさに池田さんにとって理想の一台になった。

「このクルマで自然の中に出かけて、のんびりとルアーを投げ、キャンプを楽しんでいる時間はものすごく心地良いです。ユルく時間が流れているのが今の自分にちょうどいいなと感じますね。

プロスキーヤーとして競技に打ち込んでいたときは、一歩間違えれば命を落としかねない危険な技にもチャレンジしていました。その後、野沢温泉という慣れない土地で過ごした6年間も自分にとっては大切な時間だったと思います。それらがあったからこそ、今の自分のスタイルを楽しめているのですから」

  • ルーフトップテントを開こうとする池田雄貴さん
  • トヨタ・ハイラックスサーフと全開のルーフトップテント

そんな池田さんのハイラックスサーフには、流行のルーフトップテントが装着されている。目的地に着いたらすぐに基地を作れるルーフトップテントはアウトドアを楽しむ人にとって憧れのギアである一方、新品だと軽く50万円以上する高価なものなので、気軽に買えるものではない。

池田さんも欲しいと思いつつ手を出せずにいたところ、たまたま先輩が「手放そうと思っているけれど、サーフに似合うだろうから」と、オプションのシェルターやタープなどを含めて格安で譲ってくれたのだという。

居酒屋の仕事を終えてからクルマで出発し、ポイント近くにあるキャンプスポットでテントをさっと広げて軽く一眠り。そして早朝からルアーを投げ、数時間釣りを楽しんだら帰宅する。ルーフトップテントがなかった頃は、こんなに楽な形での釣りは楽しめなかったそうだ。

「ハイラックスサーフはランクルに比べると小さくて車内も狭いですが、今の自分にはちょうどいいサイズですね。店の仕入れもサーフで行きますが、荷物が積めなくて困ったことはありません」

  • トヨタ・ハイラックスサーフがちょうどいいというオーナーの池田雄貴

雪崩に巻き込まれてスキーから離れていた池田さんだが、4年ほど前から再びスキーをやるようになったそうだ。ただ、10〜20代の頃のように本気で向き合うのではなく、滑ることを楽しむ“エンジョイ勢”になったという。

なんならゲレンデにいるよりレストハウスで過ごす時間のほうが長いくらいだが、これでいいと思えるようになったのが大きな変化だ。一度きりの人生、これからはユルくたっていい。ハイラックスサーフは池田さんに新たな価値観を教えてくれたようだ。

(取材・文/高橋 満<BRIDGE MAN> 撮影/柳田由人 編集/vehiclenaviMAGAZINE編集部)

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