クルマを楽しんでいるジジイがいることを知って欲しかった。定年退職日に乗ったカローラ
今回の取材対象者である「力さん」は、約17年の歳月をカローラと共に過ごしてきたそうです。
そして、自分で行ったエンジンのオーバーホールがなんとか間に合った定年退職日に、そのクルマに乗ってこれから会社を支えていくであろう若い力に見送ってもらいながら家路についたと話してくれました。
最後の出社日に、なぜあえてカローラで出社したのか? そこには力さんの並々ならぬ想いが詰まっていました。
その理由について迫ります。
今回は、力さん×カローラ のお話をお届けします。
――最後の出社日にカローラを選ぶということは、よほど思い入れのあるクルマだったんですね。愛車に迎えるきっかけは何だったのですか?
職場の後輩が乗っていたんですよ。で、もう乗らないと言うから譲って欲しいというと、いいですよ〜って快諾してもらったんです。
お金はいらないと言われたんですけど、それじゃあまりにも気が引けるから、財布に入っていた全お札を渡しました。だから、数万円で入手したのがこのカローラの始まりです。
――あれ?なんか思ったのと違いました。例えば、新車から乗っている思い出の〜…的な、そういうのかと思ってました。
あぁ、違う違う! そういうのじゃないですよ(笑)。
ただ、この4代目カローラとスプリンター自体には縁のようなものを感じています。18歳の免許取りたてで乗ったクルマもカローラでしたしね。常に生活の隣にあって、あると落ち着くという存在です。
あとは、メンテナンスをしながら古いクルマに乗ってみたいというのもあったんです。
――なるほど。それはなぜですか?
単純に、クルマをいじるのが好きなんです。というか、機械ものをいじるのが好きなんです。小学校の頃は、自転車を5段変速から10段変速にしたり、ハンドルをドロップハンドルに交換したりしていました(笑)。
――えっ!? 10段変速!?
そうそう。でもこれ、友達の間でも流行っていた改造だったんですよ。
――なるほど。でも、それならカローラをいじるのは楽しかったでしょうね
はい、かなり。私の手元にきて17年くらい経ちますが、全塗装以外は、全部自分でレストアとメンテナンスをしています。壊れる前に部品交換していたので、路上でストップするということは1度もありませんでした。
――1番心に残っているレストアは何ですか?
エンジンをオーバーホールしたことです。これって、メカいじりをする男子にとっては最終的な目標なんじゃないかな?なんて勝手に思っていて(笑)。
僕の場合は、難易度も高いし、死ぬ前に自分で組んだエンジンで走りたい!というのが長年の夢だったんですよ。
――やってみてどうでしたか?
エンジンって、クルマの機能の中でもすごく精度の高いものなんです。だから、精度が高すぎるが故に、当然少しのミスも許されないじゃないですか。
こう言うのもあれなんですけど、あの当時のクルマの整備って、自分の感覚に頼らないといけない所があって、変な緊張感がありました。
――例えばどんな所ですか?
叩いて入るものならそのまま入れちゃって良いのか?
それともこれはピッタリハマらないといけないのか?
ということとか。
あとは、ちょっとした部品が溝のところにハマっているだけ、というのもあったんですよ。ネジで締めていないから、落ちちゃうんじゃないかとか心配になりましたね(笑)。
ただ、整備書を見るとそれでいいって書いてあるしなぁ〜。でも、それなら良いのかなぁ〜?という、何だろう……職人技が要求されるというか。
――それは、違う意味で怖いですね
でしょ(笑)?
そんな感じで試行錯誤しながら、昨年1年かけてエンジンオーバーホールが完了しました。エンジンルームは新車のように綺麗な状態で、ボンネットを開けて眺めるのが今の楽しみです。
――部品を調達するのも大変だったのでは?
小学校の同級生が、カローラと兄弟車であるTE71スプリンターに乗っていてそれを譲り受けていたんです。
それだと部品が流用できるから、今では部品取りのクルマとなったTE71から下ろしたエンジンをベースに全部バラして、消耗部品を交換して再組み付けして載せ換えたという感じです。
もしかしたら友人は部品取り車になっていると思わなかったかもしれないけど、友達関係は続いているから……怒ってないんだと思い……いや、信じます(笑)。
――あはは(笑)!でも、形はどうあれ乗れるようになったのですから!
はい。なんといっても、定年退職最後の日に間に合いましたから。僕は、新入社員の時に奈良から愛知に引っ越して、カローラに乗って出社したんです。
そして、その時に乗ってきた同じモデルのクルマで、最終出勤日に仲間達に見送ってもらいながら退社したんです。なんか、いい感じで締めくくれたなと思っています。
そう深い意味合いはないけど、いつまでも原点は忘れたくないという気持ちと、これから日本の自動車を支えるであろう若者に、クルマで楽しんでるジジイがいるんだよーっていうのを分かって欲しかったんです。
今でもハンドルを握る度に初心を思い起こしてくれるカローラのことを特別な存在だと話してくれた力さん。
力さんのメッセージはきっと若者たちにも届いたことでしょう!
(文:矢田部明子)
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