26歳オーナーが「100万枚のフィルムに残したい」と願う、ゼロクラウンとの日々

  • トヨタ・クラウンアスリート(12代目)

2007年式のトヨタ クラウンアスリート 60thスペシャルエディション(以下、ゼロクラウン)を、19歳の頃から乗り続けているという「竜」さん(26歳)。

走行距離は約48万キロ。手に入れてからの実走行は、38万キロを超えています。「このクルマは、壊れるときにいつも安全な場所で止まる」と話す竜さん。今回は、まるで意思を持つかのようなゼロクラウンと竜さんの物語をお届けします。

  • トヨタ・クラウンアスリート(12代目)とオーナーさん

    撮影:A6Avant_222

――クルマに興味をもったのは何歳頃でしたか?

1歳…くらいでしょうか?小さい頃は、クルマのいろんなカタチが好きだったのかもしれません。僕の父が70型のランドクルーザに乗っていたことがあり、将来はこういうクルマに乗るんだろうなって思っていました。

――クルマ好きになった決め手のエピソードがあれば教えてください

父が見せてくれた「頭文字D」のDVDがきっかけかもしれません。当時は本気で「日中はみんな普通に走ってるけど、夜になると街中のクルマが超高速でバトルしてるんだ」って信じてました(笑)。

――“子どもあるある”ですよね(笑)。そんな竜さんがゼロクラウンを知ったのはいつだったのですか?

小学生の頃、通学中にすれ違ったゼロクラウンがはじまりでした。前期型のシルバーで、新車で普通に乗られているような感じでした。でも、当時ってターセルとかボンゴとか、ちょっと丸っこいクルマが多かった時代だったと思うんですけど、ゼロクラウンは“近未来”を感じました。

しかもパトカーに採用されていたわけですが、ゼロクラウンを見かけるたびに、当時は「なんで同じクルマなのに顔が違うんだろう?」ってずっと思っていました。「ロイヤル」と「アスリート」という、グレードの違いすら知らなかったですね(笑)。

  • 陰に潜むトヨタ・クラウンアスリート(12代目)

    撮影:@humyau

――では、今の愛車との出会いを教えてください

学生時代に購入しました。たまたま見つけたこのクルマが、驚くほど安かったので決めましたね。予算的には厳しかったのですが、3.5Lの排気量にはこだわりたくて。もともと高齢の方が乗られていたようです。修復歴もありましたが、これはもう「今買うしかない!」と。

――納車日はどんな感じだったんですか?

正直、納車当日は授業の内容なんて全然入ってこなかったです。頭の中はずっと「今日、実家にクラウンが届く」ばかりでした(笑)。

父が代理で受け取りをしてくれていて、授業が終わった瞬間にダッシュで教室を飛び出して、バス乗り場まで走って……。息を切らしながら家に着くと、ゼロクラウンが停まっていたんです。

うれしくて、しばらくただ眺めていました。フェンダーを撫でたり、運転席に座ってみたり、エンジンをかけて音を聞いてみたり。気づけば3時間くらいそんなことをしていましたね(笑)。

  • トヨタ・クラウンアスリート(12代目)のリヤ

    撮影:A6Avant_222

――最高の瞬間ですね!お友達の反応はいかがでしたか?

「見てくれ、これが俺の龍だ!」ってドヤ顔でお披露目しました(笑)。正直、最初はあんまり響いてなかったですね。自動車系の大学に通っていたんですが、周りはスポーツカー好きばかりで、ATのセダンというだけで「どうせ速くないでしょ?」みたいな空気はありました。

それでもめげずに「今度乗ってみなよ」と、友達を乗せて遠出しました。高速道路に乗って加速した瞬間、後ろから「え、速いじゃん!」って(笑)。あのときはうれしかったですね。

  • トヨタ・クラウンアスリート(12代目)の運転席

――愛車と過ごすようになってからどんな変化がありましたか?

行動範囲が爆発的に広がりました。週末になると、今もほぼ県外にいます。クルマのイベントがあれば夜中でも出発しますし、仲間と会いたくてひたすら走っています。友人の大半は、クラウンがつないでくれた縁です。

あの納車の日から今日までのすべての思い出が詰まっている感じです。もしカメラがあったら「100万枚のフィルムがほしい」と本気で思いますね。

――「記憶に焼きつけておきたい」という気持ちが強く伝わってきます

場所や一緒に行った人まで、本当に全部覚えています。今は他界してしまった祖父母にゼロクラウンを見せに行ったこと。家族旅行も、彼女とのドライブも。トラブルで止まってしまった日もありました。

  • トヨタ・クラウンアスリート(12代目)のエンジンルーム

――愛車を通じて、仲間との出会いもたくさんあったとおっしゃっていましたね

本当にたくさんの人と出会えました。「Yokohama Car Session(YCS)」という、同世代のオーナーが参加するイベントがありまして、縁あって展示車両として参加させてもらいました。

戦前のクラシックカーや、ホットロッドみたいなクルマのオーナーさんにもお会いしました。僕が個人的に大好きな、W124のEクラスに乗っている方もいて、テンション上がりました。

みんな、それぞれの方向性の“クルマ愛”を持っています。「本物のクルマ好き」という雰囲気があったんですよね。刺激を受けましたし、すごく視野が広がりました。

――竜さんのゼロクラウン、本当に端正なスタイルです。モディファイのこだわりをお聞かせください

たくさんあります(笑)。パッと見はほとんど純正ですが、内装、ECU、ブレーキなど、知っている人が見ないとわからない部分も多々ありますね。また、クルマを壊さないようにすることも意識していて、干渉や歪みには注意しています。

クルマ全体の方向性としては「くどくない」を意識しています。純正の良さは残しつつ、ポイントはきっちり押さえる。街中で埋もれるくらいがちょうどいいですね。

  • トヨタ・クラウンアスリート(12代目)のメーター

――メンテナンスに関して注意している点は?

異音や違和感がないかを気にしながら乗っています。洗車や整備をするときは、深夜早朝に関係なく、すぐ行動に移すようにはしています。

――時間をつくることって大切ですね。50万キロ目前ですが、整備のスタンスに変化は?

特にブレーキのケアは、グリスアップしたりとつねに気を遣っていますが、今は予防整備の2周目に入ったと思っています。

走行距離がここまで来ると、1回目に壊れた部品がまた寿命を迎える時期なんです。最初に壊れたのはオルタネーターとウォーターポンプで、その順番どおりに、ひとつずつ手を入れていっている感じです。

――部品は手に入りますか?

ありがたいことに、今でも純正パーツが注文できます。今のところは必要な部品が揃うので、安心感はありますね。

ですが、これから先はどうしても直せない部分が出てくるでしょう。そのときがこのクルマの終わりなんだろうなという覚悟も持っています。

それでも、自分にとっては「直したい」と思ったときに迷わず動けることが大事です。大学時代の恩師に「趣味に金の糸目をつけたら、それは趣味じゃなくなる」と言われたことがあるんです。今でもその言葉がカーライフの支えになっています。

  • トヨタ・クラウンアスリート(12代目)の左リヤ

――故障をしても、出先では止まったことがないと伺いました

天気もいいし、洗車もしてるのに、。出かけようと思っも、なぜか気分が乗らない……。そういうときは、たいてい何かが壊れます。

あるときは、帰宅の3キロ手前でエアコンが急に効かなくなってしまいました。これは冷却系が怪しいなと思って、身構えながら帰宅していたところ、到着直前に、うっすら湯気が出ているのに気づきました。確認するとラジエーターから水が噴き出していて…。帰宅してから対処できて良かったです。

――無事に家までたどり着けて良かったですね

セルモーターが壊れたときは、まずエンジンをかけた際に、ジャリジャリという異音がしました。すぐに部品を発注。ディーラーに到着してリフトに載せようかというタイミングで、エンジンがかからなくなりました。

オルタネーターのときは、ディーラーの前まで来た瞬間、チェックランプが点灯してエンジンが止まりました。そのまま惰性で、スーッと中に入っていきました。まさに「0秒入庫」でした(笑)。ちょっと盛ってるように思われるかもしれないですけど、どれも事実なんですよ。

――「0秒入庫」…すごすぎです。そんな愛車との今後についてお聞かせください

よく「いつまで乗るんですか?」とか「ヘリテージパーツが出たらうれしいですよね」といったことを聞かれますが、正直期待はしていません。スープラやAE86みたいなクルマではないですから。でもそんなクルマに、20年経っても純正部品を出してくれるトヨタさんには感謝しかありません。

遅かれ早かれ、別れがくるという覚悟はいつもありますね。いつか別のクルマに乗り換えたとき、ゼロクラウンと同じ熱量で向き合えるんだろうかという不安もあります。

これからも「今日が愛車と最後の1日かもしれない」と思いつつ乗っていくんだと思います。

  • トヨタ・クラウンアスリート(12代目)を見つめるオーナーさん

    撮影:A6Avant_222

竜さんのお話にあった「100万枚のフィルムがほしい」という言葉が印象的でした。二度と戻らない時間を一瞬でも忘れたくないという気持ちが「フィルム」と表現されているのだと。

走行距離では語りきれない、ふたりの時間。その1日が、これからも大切に刻まれていくことを願ってやみません。

(文:野鶴美和 写真:竜さん提供)

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