トヨタの歴史と技術伝承の象徴 「トヨタ・クラシック」と「トヨタ・オリジン」・・・語り継がれる希少車
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トヨタ・オリジン
古今東西、規模の大小を問わず、どの自動車メーカーにも必ず歴史がある。過去があるから今があるのだ。
そして時には、その歴史にきちんと敬意を払うことも重要だろう。過去を振り返ることで今の状況を再確認し、それが未来を作ることになるからである。
トヨタが1996年から翌年にかけて限定受注生産発売した「クラシック」は、まさにトヨタの歴史への敬意と言っていい。
トヨダAA型乗用車をモチーフとする「トヨタ・クラシック」
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トヨタ・クラシック
この「クラシック」はトヨタが市販車の生産を始めて60周年となったことを記念したモデルで、そのクラシカルなスタイルのモチーフとなっているのは「トヨダAA型乗用車」。1936年にトヨタ自動車(1937年に設立)の前身となる豊田自動織機製作所 自動車部が発表した、トヨタ自動車初の生産型乗用車だ
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トヨタ・トヨダAA型乗用車
そんな本格的な自動車生産への進出となった最初のモデルの現代流復刻版となるクラシックのベースとなっているのはピックアップトラック「ハイラックス」の5代目。
そのダブルキャブ仕様をベースに特装車を手掛けるトヨタの関連企業トヨタテクノクラフト(現:トヨタカスタマイジング&デベロップメント)が架装を担当し、多くの行程を手作業で作り上げた。
どう見てもベースがピックアップトラックとは思えないのは、あまりにも手が込んでいるからだ。限定台数はわずか100台。価格も800万円と非常に高価だった。
ベース車両があるとはいえ、見た目にその面影はない。ハイラックスの面影を感じるのはドアパネル程度で、フロントガラス(当然ながらAピラー)も別物である。Aピラーまでベース車両から変更するのはこの手のカスタマイズモデルでも異例中の異例だが、ハイラックスがモノコック構造ではなく、シャシーだけで車体剛性を稼ぐラダーフレーム構造だったから可能だったといえるだろう。
パワートレーンはベースとなったハイラックスに搭載していた排気量2.0Lの直列4気筒ガソリンエンジン「3Y-E」型。トランスミッションは4速オートマチックだ。最高出力は97㎰で1996年時点でも約1.5トンの車両重量に対してパワー的には十分とは言えないが、トヨダAA型乗用車の65HPに比べればパワフルになっている。
初代トヨペット・クラウンをモチーフとする「トヨタ・オリジン」
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トヨタ・オリジン
そしてトヨタは、少し後の2000年にもクラシックなスタイルの特別なモデルを販売している。それが「オリジン」だ。
こちらはトヨタ自動車生産累計1億台を達成したことの記念に企画されたもので、モチーフとなっているのは初代トヨペットクラウン。1955年に発売され、戦後初の純国産乗用車としても知られるモデルだ。
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トヨタ・初代トヨペットクラウン
オリジンのベースは小型上級セダンの「プログレ」だが、その姿を見て設計のベースとなった車両を言い当てられる人は多くはないだろう。
こちらはクラシックと異なりベース車両をカスタマイズするのではなく車両組み立て時からオリジンとして製造され、外板パネルもすべてオリジン専用だ。
フェンダーをはじめとする三次元曲面が複雑すぎてプレスできず、細かく分割(たとえばリヤクォーターパネルは5分割でプレス)して作成し、それをつなげて組み上げる方法としている。
またフロントフェンダーはフロント(ヘッドライトやグリル周囲)も含めて左右の継ぎ目がない繋がった造形となっているが、これも分割してプレスされたものを職人が溶接して一体化したもの。
オリジンの製造には手作業工程が多く、一般的な量産車の組み立てとは異なるレベルの卓越した匠の技が生きている。異例中の異例といっていい特別な製造手法としているのだ。
当時のカタログによると「こうした技術を人から人へ絶やさず伝えて、次の母なる技術にする。この継承が、よりよいクルマづくりの生命線でもあるのです。」と説明されている。オリジンの市販は、単に過去を振り返るだけでなく匠の技を後世につなぐ役割も果たしていたのである。
こだわりは塗装にもおよび、深みと輝きによって周囲をくっきり映り込ませる鏡のような塗装面を実現。これはいちど塗装した表面をキメの細かい耐水ペーパーで磨く「完全水研」を施したうえで、さらにもういちど塗装して磨き上げるという手間をかけて完成されるもの。あの「センチュリー」と同様の手順を経て仕上げられるのだ。
そんな職人技で実現したスタイルはとても21世紀のクルマとは思えないほどクラシカルでこだわりを感じるものだが、ドアの開き方にも驚く。観音開きになっているのだ。
その理由はもちろんモチーフとなっている初代トヨペットクラウンが観音開きだから。リアドアが後ろに向かって開く観音開きは、後席の人が乗り降りするのに邪魔にならず足の出し入れがしやすいというメリットがある。
トヨペットクラウンはショーファー需要(運転はプロに任せて主は後席へ座る使われ方)が多かったので、後席の乗り降りのしやすさも重要。オリジンもそれを継承したというわけだが、前側にヒンジのあるドアを前提に設計された車体を観音開きにしたのだからなんとも大胆だ。
エンジンは排気量3.0Lの直列6気筒「2JZ-GE」型で、最高出力は215㎰。スタイルはクラシカルだけど、中身は最新の上級セダンだけに駿足だった。
価格は、当時トヨタの最上級セダンだった「セルシオ」の最上級仕様「C仕様Fパッケージ」を上回る700万円。販売台数は「1000台ほど」と発売時にアナウンスされたが、瞬く間に完売した。
熟練の職人の手作業が生んだ「クラシック」と「オリジン」
クラシックとオリジンの両車に共通するのは、過去のモデルをモチーフにし自動車メーカーが本気で作った記念車だということである。
しかし、それだけではない。
少量生産だけにエクステリアの製造には手作業の行程が多く、熟練の職人技があってはじめて成立しているのだ。それはある意味、トヨダAA型乗用車や初代トヨペットクラウン時代の、現在の大量生産とは異なる製造方法といってもいいだろう。それも含めての、特別なクルマなのだ。
この2台に作り手が込めたのは、現在の一般的な大量生産車とは異なる特別な想いだ。しかしそんな送り手側だけでなく、受け取る側のユーザーもしっかりその思いを理解していたに違いない。
過去から未来へつなぐバトン。クラシックやオリジンはそんな存在ではないだろうか。
(文:工藤貴宏 写真:トヨタ自動車)
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