ロードスターが牽引。90年代の若者を魅了したオープンモデル・・・1980〜90年代に輝いた車&カルチャー
多くの若者がクルマに憧れた1980〜90年代。クルマは人や荷物を運ぶ道具としての役割だけでなく、若者たちのカルチャーを牽引する存在でした。そして、ドライブがデートの定番であり、クルマを持っていることがステータスでした。だからこそ当時のクルマは、乗っていた人はもちろん、所有していなかった人、まだ運転免許すら持っていなかった人にも実体験として記憶に刻まれているのではないかと感じます。
そんな1980〜90年代の記憶に残るクルマたちを当時のカルチャーを添えながら振り返っていきましょう。
いつの時代もオープンカーは多くの人にとってヒーローだった
いつの時代もオープンカーは特別な存在です。『卒業』でダスティン・ホフマンが乗っていたアルファ・ロメオ スパイダー。サンフランシスコでのカーチェイスが有名な『ブリット』ではジャクリーン・ビセットの愛車であるポルシェ 356カブリオレが印象的でした。『007』で日本車唯一のボンドカーに選ばれたトヨタ 2000GTもオープン仕様でした。
上記の作品に比べるとかなり新しくなりますが、筆者の記憶に残る映画の中のオープンカーは、『ミッション:インポッシブル2』に登場する996型ポルシェ 911カブリオレとアウディ TTロードスター。2台がまるでフラメンコのような情熱的なカーチェイスを繰り広げ、「オープンカーってこんなに色っぽいのか……」とため息が出ました。
スクリーンに登場するオープンカーはストーリーの中で重要な役割を果たし、観る人に強烈な印象を残します。
一方で現実の世界においてオープンカーに対する風当たりは強く、「目立つから恥ずかしい」「髪の毛が乱れるし排ガスで汚れる」「荷物が積めなくて不便」など、散々な言われよう……。
そんなオープンカーですが、1990年代には若者から絶大な支持を集めました。その流れを牽引したのは、言うまでもなくマツダ ロードスターです。
彗星のごとく登場し、多くの若者に走る楽しさを伝えたマツダ ロードスター
かつて隆盛を極めたオープンスポーツモデル。中でもイギリスのメーカーが得意としたライトウェイトオープンは、多くの人にとって憧れの存在でした。しかし2度のオイルショックによりスポーツカーは逆風を受け、ライトウェイトオープンも衰退していきます。
80年代になると日本でオープンカーが盛り上がりましたが、それは国産車だとホンダ シティカブリオレやマツダ ファミリアカブリオレ、輸入車ではフォルクスワーゲン ゴルフカブリオレなど、ハッチバックをオープンにした4座モデル。1987年にはプジョー 205カブリオレが日本に導入されました。
ライトウェイトオープンスポーツにとって冬の時代だった80年代にロードスターの企画を通すのは相当な苦労があったはず。それでも開発陣は「必ず成功する」という信念を持って高い壁に挑み続けました。
そして1989年5月に初代NA型ロードスターがアメリカでデビュー。日本では1989年9月に当時のマツダが展開していた販売チャネル“ユーノス店”からユーノスロードスターとしてデビューしました。
突如目の前に現れたロードスターの姿は衝撃的でした。全長4mに満たない小さなボディにちょこんと載せられた2つのシート。幌を開けても閉じても美しいボディライン。愛らしさを感じさせるリトラクタブルヘッドライト。実車としては初めて見るライトウェイトオープンモデルに多くの人が魅了されました。
パワー的には平凡だったロードスターですが、乗り味は軽やかで、ワインディングはもちろん、街なかでもワクワクする走りを味わえる。「これがライトウェイトか!」と多くの人が衝撃を受けました。“ロードスター”という車名もカッコよくてドキドキしたものです。
1980年代は自動車メーカーが熾烈な馬力競争を繰り広げていましたが、ロードスターの登場でクルマ本来の楽しさを思い出したのだと思います。ロードスターはデビューと同時にオーダーが殺到。半年近いバックオーダーを抱えるヒットモデルとなりました。この現象にはおそらくマツダの人も驚いたことでしょう。
20代でロードスターと過ごした時間は一生忘れられない
実は筆者もNA型ロードスターの魅力にヤラれた当時の若者の一人です。ある日、バイト先の先輩が赤いロードスターでやってきて、バイト終わりで半ば強引に助手席に乗せられて海までドライブ。生まれて初めて体験したオープンカーの開放感と風を受けながら走る気持ちよさは衝撃的で、この時のことは今でも鮮明に覚えています。そして社会人になり、2年落ちのVスペシャルを頭金なし60回払いで購入しました。
手動開閉の幌は開ける前にリアスクリーンのファスナーを開けないといけないし、幌を開けたら外に出てトノカバーを固定しないといけない。筆者の自宅前の道は非常に狭くて駐車場に入れるためには毎回ドアミラーをたたむ必要がある。ロードスターのドアミラーは本体を動かして見え方を調整するタイプだったので、クルマを動かすたびに微調整が必要でした。でもこれらの作業がまったく苦にならない。圧倒的な楽しさと気持ちよさの前には、少々の不便など簡単に吹き飛びました。
ただ、ロードスターに乗っていることは、周囲からは不評でした。“大不評”と言ってもいいかもしれません。理由は明快。冒頭で書いた「目立つから恥ずかしい」「髪の毛が乱れるし排ガスで汚れる」「荷物が積めなくて不便」という言葉を何度言われたことか。
たとえば女友達を誘って大勢で貸別荘を借りて遊ぶとき。ロードスターは1人しか乗せられないので「使えないな……」と言われます。でもそんな言葉は無視すればいい。だってロードスターなら目当ての女の子を隣に誘って2人だけのロマンチックな時間を過ごせるのですから。
90年代に入り、若者をターゲットにしたオープンモデルが続々登場!
ロードスターのヒットを受けて、世界中の自動車メーカーがライトウェイトオープンに注目したのは有名な話。日本では、ライトウェイトだけでなく、さまざまなオープンカーが登場しました。
1991年にはホンダ ビートとスズキ カプチーノという軽自動車の2シーターオープンモデルがデビュー。ビートは世界発のフルオープンモノコックボディを採用し、エンジンをミッドシップに搭載するスーパーカーのようなパッケージングを採用して世間を驚かせました。
カプチーノは軽でありながらFRレイアウトを採用。1台でクローズドボディ、Tバールーフ、タルガトップ、フルオープンというさまざまなスタイルを楽しめる斬新なモデルでした。
どちらも走る楽しさとオープン時の気持ちよさを重視していたので居住性は二の次。ある雑誌でビートの積載性について「テニスラケットを2枚収納できる」と書いてあったのを読んで吹き出したのを覚えています。
1992年には日産 フェアレディZ(Z32型)の派生車としてフェアレディZコンバーチブルが登場。搭載されるエンジンは3L V6で車両重量は1500kgオーバー。ライトウェイトとは真逆のオープンスポーツはラグジュアリーな佇まいで、“大人のオープンモデル”という雰囲気で特別感が漂っていました。
1992年にはホンダからCR-Xデルソルもデビューしました。これは衝撃的でしたね。1983年にデビューしたバラードスポーツCR-XはFFライトウェイトスポーツとして人気を博します。
特徴はリアをスパンと切り落としたようなコーダトロンカのボディ。空力性能に優れたスポーツカーの王道的なスタイルで、この形状は2代目のサイバースポーツにも継承されました。サイバースポーツは切り落とされたリアエンドをガラスにして後方視界を確保したエクストラウインドウが衝撃的でした。
この時期はホンダのF1参戦第2期で、ホンダファンはこぞってCR-Xやシビックに乗っていました。筆者の友人にはホンダが好き過ぎて、ホンダベルノ店に就職してサイバースポーツをフルローンで購入した強者がいたほどです。
ところが3代目はコンセプトを大きく変え、オープンモデルのCR-Xデルソルとして登場。ルーフはメタルトップで、オープンにする際はトランクが上に上がり、トランクから出てくるアームがメタルトップをキャッチしてトランク内に格納するという『トランストップ』を採用。複雑な機構を搭載するため車両重量が増加しライトウェイトスポーツとは呼びづらくなったものの、斬新なシステムはメカ好きからの注目を集めました。
90年代はレジャー志向の高まりからRV車がブームになります。クロカン4WDに加え、現在のミニバンの走りとなるモデルも多くの人から選ばれていました。休日にRVで自然の中を走ったときに「ここをオープンカーで走ったら気持ちいいだろうな」と考える人もいたはずです。
でも自分のクルマの使い方を考えると2シーターのオープンモデルを選ぶのは無理……。そんな人たちにオープンで走る気持ちよさを味わってもらおうとしたのが、1993年に登場した三菱 RVRオープンギアでした。
コンパクトでハイルーフのボディにスライドドアを搭載。3列シートではなく2列シートにすることで居住性と使い勝手を高めたトールワゴンのRVRに電動オープンルーフを搭載したオープンギアは、利便性とオープンならではの気持ちよさを味わえる稀有なモデルでした。残念ながらヒットモデルにはなりませんでしたが、RVの新たなスタイルの提案は意味があるものだったと思います。
“あの気持ちよさ”の虜になったら、ぜひもう一度オープンカーを!
90年代後半以降はミニバンやSUVがクルマ選びの主流になり、オープンカーはだんだんと下火になっていきます。オープンカーに乗っていた若者も結婚し子どもが生まれると2シーターに乗り続けることはできずにオープンカーから降りていきました。
しかし、一度オープンカーの気持ちよさを知ってしまうとなかなか忘れることができないもの。「子どもが独立したらもう一度オープンカーに乗る!」と心に秘めながら子育てをしていた人も多いはずです。
コロナ禍で人々の生活様式が激変して人と会うことがままならなくなったとき、一人で楽しめる趣味としてオープンカーやスポーツカーを楽しむ人が増えたと言います。実際、この時期にND型ロードスターは販売台数が増加しました。
90年代のオープンカーブームで何物にも代え難い“あの気持ちよさ”を味わった人には、ぜひまたオープンカーに乗ってほしいですね。若かった頃とは違う楽しみが待っているはずです。
(文:高橋 満<BRIDGE MAN> 写真:マツダ、本田技研工業、スズキ、三菱自動車工業)
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