馴れ初めは幼稚園!30歳のオーナーが一途に恋する1989年式ホンダ CR-X SiR(EF8型)
この取材を続けていると、1台のクルマに長く乗り続けているオーナーに出会う。それぞれにオーナーのカラーがあり、愛車とのストーリーに刺激をいただく。
今回も、そんなこだわりの1台に乗り続ける30歳のオーナーが主人公だ。
愛車のホンダ CR-X(EF8型)は1989年式で、現在の走行距離は30万8千キロ。30万キロを超えながらサーキットも走っているというから驚きだ。
所有時の12万5千キロから乗り始めて、約18万キロを走破している。職業は整備士というオーナー。整備やちょっとした鈑金も自分でこなしてしまうという。CR-Xは所有後、11年目を迎えたそうだ。
真紅のボディカラーは「ニュートリノレッドパール」と呼ばれる純正色だ。「グラストップ」と呼ばれるガラス屋根を備えた仕様で、中古車市場でも人気が高いという。
ホンダ CR-X(EF8型/以下、CR-X)は、ホンダが1987年から1992年まで生産していたFFライトウェイトスポーツだ。シビックの派生車種・バラードスポーツCR-Xの後継車としてデビュー。キャッチコピーでもあった「サイバー・スポーツ」の愛称で、今も国内外のファンから熱烈に愛されている。
オーナーの愛車は、トップグレードにしてもっとも過激な「SiR」だ。トランスミッションは5速MTのみの設定となっている。VTECを搭載した排気量1595ccのエンジン「B16A型」は最高出力160馬力を誇り、当時はリッター100馬力を超えるパワーに魅了されたクルマ好きも多かった。
ボディサイズは全長×全幅×全高:3800×1675×1270mm。エクステリアは、バラードスポーツCR-Xのフォルムを継承しつつフラッシュサーフェイス化。空力性能にも優れる。足回りは前後ダブルウィッシュボーンを採用したことで車高も低くなり、スポーティーなボディ形状が強調されている。
「このデザインが大好きなんです。特に斜め後ろから、ルーフラインがちょうど流れるような部分がお気に入りです。車内に80年代や90年代をイメージさせる『匂い』があるのもポイントです。その匂いを嗅ぎながらエンジンの鼓動を感じるひとときがたまりません。一度味わうと忘れられない魅力がありますね!」
そう熱く語るオーナーは、現愛車を含めて2台のCR-Xを乗り継いでいる。初めての愛車でもあった1台目は、もらい事故で廃車となってしまったという。現在は最愛の奥様と共有する軽自動車も所有しているが、愛車遍歴は基本的にこの2台のCR-Xのみ。このクルマに魅了された原体験を伺ってみた。
「幼い頃からF1やGT、WRCなどのモータースポーツを好んで観るようなクルマ好きの子どもでした。CR-Xとの出逢いは幼稚園の年長だったと思います。市内のショップに展示されていた、無限PROII仕様になっている1台に心を奪われました。
ボディに『CR-X』と大きなデカールが貼られていたので、そのとき初めて車名を覚えました。グレーのボディカラーも珍しかったですね。そのショップには一度も入ったことがなかったのですが、店頭に飾られたCR-Xを眺めるのが好きでした」
1992年生まれのオーナー。1990年代と2000年前半に一世風靡した現在の「ネオクラシック」と呼ばれるクルマたちが現役だった頃は小学生だったはずだが、周囲に同世代のクルマ好きはどのくらいいたのだろうか。
「同世代のクルマ好きは結構いました。小学生の頃は『頭文D』が流行り始めた時期で、ゲームセンターにアーケードゲームも登場しました。そのゲームをプレイするために、皆でゲームセンターに足繁く通いました。
当時からの付き合いで今もクルマ好きな友人もいますが、FFのライトウェイトスポーツでサーキットを走っているのは多分私だけでしょう。『頭文字D』ではFRスポーツが人気でしたが、私は幼稚園の頃から『俺はブレずにCR-Xを買うぞ!』と決めていたので(笑)」
幼少から一途なオーナー。ここでオーナーの持つクルマの価値観も知りたく、CR-X以外で気になっているクルマを尋ねてみた。
「自動車販売店に勤務しているので“新車否定派”ではありません。最近ネットで見かける『ボディサイズがデカすぎる』という批判も、自分の中ではいいんじゃないって思いますし、海外の市場を見越してのメーカーの考えも理解できます。EVのアレルギーもそんなになくて、日産 サクラに興味がありますし。
それに、最近のクルマはサーキットでも速いです。走行会でトップタイムを叩き出してくるのがノーマルのGRヤリスだったりしますから。否定はいくらでもできますし、否定したらそこで自分が凝り固まってしまうので、柔軟でありたいとは思っています」
旧車およびネオクラシックカーを所有する人のなかには最新モデルや電気自動車に対して「アレルギー反応」を示すケースもあるようだ。しかしオーナーはそれぞれの魅力や美点を理解しようとしている印象を受けた。
そんなオーナーにとって人生初の愛車でもあった1台目のCR-Xとの思い出を振り返ってもらった。どんな個体だったのだろうか。
「有名なホンダツインカムでメンテナンスされていたらしく、整備記録も全部残っていました。すこぶる調子が良くて、エンジンの音も良いしギアもスコスコ入ります。運転がうまくなったような錯覚をおぼえるくらいでした。当時は専門学校の学生だったので、お金がないながらも懸命に維持していました」
冒頭でも紹介したが、オーナーの職業は整備士だ。30年以上前のクルマを維持できるのも整備技術があるからこそだろう。そこで、逆にCR-Xが影響を与えている部分があるかどうかを尋ねてみた。
「CR-Xを維持したいという思いが、仕事のモチベーションにつながっているとは思います。困難な修理もあきらめず、地道に直す習慣もついたような気がしますね。サーキットを走っているぶんトラブルも増えますが、メンテナンスの経験値は上がりました」
幼い頃から憧れたクルマが愛車となり、オーナー自身の成長に関わる...まさに、人生が楽しくなるカーライフ!クルマとの理想的な付き合い方ができている方だと推察した。続いて、現愛車との出逢いを振り返ってもらった。
「1台目と同じショップで見つけてもらった個体です。ホイールが変わっているくらいで純正をキープした個体でした。いつもどこか調子の悪い個体で、常に修理しながら乗っていた思い出があります。
エンジンもオイル漏れしてばかり。デスビやプラグコードもダメ、雨の日に乗ると失火症状が酷かったです。オーディオも故障していて音楽もラジオも聞けませんでしたが、エンジンの音を聞いていると心が満たされました」
愛車であるこのCR-Xとサーキット走行も楽しむというオーナー。走っていて感じる楽しさとは?
「2013年の4月、職場の先輩に誘われたのがきっかけでサーキットにはまりました。良い成績やタイムが出るとうれしいです。先々月は日光サーキットでレースに参加したんですが、成績が良かったので、仲間やお世話になっているショップの方が褒めてくれました。その日のタイヤ幅は前後195通し(同サイズ)で走ったんですが、40秒台に入ったラップもあったのでうれしかったですね」
普段乗っている愛車でモータースポーツも楽しみ、好成績まで収められるのはまさに「理想のカーライフ」といえる。しかし、サーキット走行の負荷によって車体の傷むスピードは上がってしまう。思いきって競技専用車を別に所有する選択肢もあるが、オーナーの考えとは?
「競技専用車を別に所有したり、タイムをストイックに追求したりするのも良いと思うのですが、自分に限っては普段乗っている愛車でサーキットも走れる感覚が好きなんです。内装をすべて取り外し、ロールバーを取り付けて、シートも単座の『ドンガラ仕様』も好きですが、エアコンが効いて音楽が聴けて、買い物にも行けるのに速いマシンというシチュエーションに憧れているので、外も中身も『CR-Xのまま』という点にできるだけこだわっていきたいです」
CR-Xと走っていて感じた特性や気づきなどを尋ねてみた。
「ブレイクする予兆がないクルマですよね。リアの挙動がわかりにくく、突然スパーンと行っちゃうので難しいです。いっぽうで、ドライバーとして成長させてくれるクルマでもあるなと感じています。
ドライビング面では速くなりたいですが、それ以上に『うまくなりたい』と思うんです。走り方にこだわって、それをイメージ通りに実践できて、タイムにつながるという走り方をCR-Xと一緒に目指したい。今、ある走行会でチャンピオンシップ争いにからんでいるので、そこで良い結果を出したいです」
そんなオーナーのCR-Xには、サーキット走行を重視した数々のモディファイが施されているが、車検はクリアしている。詳しく伺った。
「消耗品のリフレッシュを中心に、前の愛車から部品を移植したり、シビック(EG6型)やインテグラ(DC2型)の部品を流用することでモディファイを行っています。エンジンのカムやバルブスプリングはインテグラ用を、ミッションとクラッチはショップにお願いしてシビック用に交換してもらっています。油圧クラッチなので、油圧化にあたってレバー比を変えなくてはなりません。そこでクラッチペダルを加工して、クラッチワイヤーが通る穴を1回切り取り、そこにマスターバックのような当て板で補強しています。
ミッション自体はシビック用のものを流用し、デフはCUSCO製のLSDを組み込んであります。ミッションマウントも運転席とバルクヘッド側の手前はウレタンマウントなんですが、右側はショップの提案で他メーカーのモデルのものを溶接加工して取り付けてあります」
今後のモディファイの予定は?
「リアの足回りのブッシュですね。中の大きいブッシュ以外の打ち替えを予定しています。それから、クラッチ交換を早めにやってあげたいですね。レストアも進めたいです。アンダーコートを剥がしたら、クラックが多いと予想はしていますが…」
消耗品の交換において、部品の供給状況は死活問題といえるかもしれない。CR-Xの現状は?
「部品は出ないですね…。でも、わずかながら出る部品もあります。ドアの窓ガラスの水切りモールは新品が出るんです。ネットオークションでも『この部品は通常出ない』というニュアンスで出品されていますが、そう謳っているメーカーは大抵出ている傾向があります(笑)。フロントガラスは日本製と中国製の両方出ていますが、外装は全滅です。ダッシュボードもダメですね」
11年目を迎えて、これからもオーナーとともに走り続けるであろうCR-X。この先はどのように接していくつもりなのだろうか?
「もし再起が難しい壊れ方をしても、直しつつゆっくり付き合っていくつもりです。この個体は部品も他車種の流用が多くて複雑なので、もし自分が手放したらこのCR-Xは終わってしまうのではないかと。
『長く乗るのがエライ』とは思いませんが、やはり自分は、好きで乗っているなら直そう・長く付き合っていこうっていう気持ちを大事にしたい。クルマと一緒にゆっくり成長できるのが自分らしいのかもしれません。
CR-Xは人と繋がれるクルマだと思うんです。このクルマを通じてさまざまなオーナーさんとの交流も楽しんでいきたいです」
そしてなにより、奥様の理解に感謝していると話すオーナー。
「結婚して1年と少しですが、サーキット通いやタイヤ・部品の保管まで許してもらっていて、妻には心から感謝しています。走行会の優勝トロフィーを持ち帰ったら褒めてくれますし、車載映像も一緒に見たいと言ってくれます。妻の理解あってこそのカーライフです」
幼少から憧れだったCR-Xの性能や魅力を享受し、人生のプラスとなる存在ともなっている愛車は、まさに相棒と呼べる存在だと感じる。
そして「自分らしさへのこだわり」が魅力的なオーナーのカーライフ。結婚という新たなライフステージに、CR-Xも馴染んでいくのだろう。
(編集:vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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