ホンダと縁のあるオーナーの愛情を一身に受け甦った1987年式ホンダ CR-X Si(EF7型)
どんなクルマにも、熱烈なファンが存在しているが、年式の古いクルマほどオーナー同士の結びつきが強い印象だ。入手困難な部品の情報交換もしやすくなる。オーナー同士の絆の強さと、愛の深さに比例しているのかもしれない。
ホンダ CR-Xもそんな車種のひとつではないだろうか。今回は、CR-Xに10年間大切に乗り続けるオーナーのカーライフを紐解いていこう。
オーナーの愛車は、1987年式のホンダ CR-X Si(EF7型/以下、CR-X)。オドメーターは現在17万キロ。購入時は4万7000キロだったそうで、10年間で約12万キロを走破していることになる。
CR-Xのボディサイズは、全長×全幅×全高:3755x1675x1270mm。排気量1590ccの直列4気筒DOHCエンジン「ZC型」は最大出力130馬力を誇る。
ホンダ S800以来の搭載となったDOHCエンジン「ZC型」は、F1で培った技術をフィードバック。世界初の異形中空カムシャフトを採用したことで、軽量化を実現している。ヘッドカバーはF1エンジンのヘッドカバーをイメージさせるデザインで、当時のF1で躍進するホンダをアピールしていた。
オーナーの愛車遍歴はCR-Xひとすじ。現在の愛車は2台目のCR-Xだという。結婚してからは奥様のホンダ フィットハイブリッド1.5RSとの2台体制だ。現在30歳で、職業は整備士というオーナー。幼い頃から両親や祖父がクルマやモータースポーツが好きで、クルマに囲まれた環境で育った。
「両親はホンダのディーラーに勤務していて、職場結婚でした。父親は整備士で母親は経理担当だったんです。ふたりともホンダ車が好きだったようで、母は20代前半の頃にプレリュードに乗っていたそうです。CR-Xと迷ったすえにプレリュードを選んだそうですが、結婚を機に手放したと聞いています。そんな母にとって、プレリュードは特別な存在だったみたいですよ。そして購入を検討していたということもあり、CR-Xというクルマにも思い入れがあるみたいです。
私も保育園の持ち物にまでホンダマークをつけてもらうほどホンダにどっぷりでした(笑)。私が産まれた1992年といえば、ホンダF1第2期最後の年でもあります。私が物心ついたときにはすでにセナは他界していたんですが、子守歌代わりにセナが現役時代のF1のビデオを観て育ったんです。そんなこともあり、私にとってセナはずっと心の中のヒーローなんです」
オーナーは4人きょうだいの長男だという。2歳下の妹、9歳下の弟、12歳下の妹がいるそうだが、オーナーと同じく全員クルマ好きなのだろうか?
「きょうだいでクルマ好きなのは、私だけですね。それでも、2歳下の妹と9歳下の弟はMT車の免許を取得しています。ちなみに、2歳下の妹は『限定される免許を取る意味が分からない』といってMT免許を取得していましたね」
「父は、ビートなどホンダのスポーツカーを何台か乗り継いでおり、そのなかにはCR-Xも何台か含まれていました。また私が幼い頃ですが、祖父もバラードスポーツCR-Xに乗っていたこともあります。
運転免許を取得した頃には父がEF7型のCR-Xをどこからか手に入れてきていたので、実質的に初の愛車がこの個体となりました。ジムカーナで使われていた個体のようで、けっこう速かったですね。ちなみに、MT車の基本テクニックもそのCR-Xで覚えました」
これまでCR-Xひとすじだが、クルマ好きとして気になっている1台は?
「純ガソリン車として最後になるといわれている現行のシビックタイプRが気になっていますね。義理の父親が我が家に来たときにこのクルマのカタログを見ながら妻と話しをしたみたいなんです。そのとき、私は不在だったのですが、帰ってきてから『CR-XとシビックタイプR、選ぶとしたらどっち?』と聞かれてCR-Xと即答しました。仮に手が届いたとしても、増車になると妻もわかっているんでしょうね(笑)」
「妻の理解あってこそのCR-X」と話すオーナー。奥様はCR-Xに対してどんな思いを抱いているのだろうか。
「こまごまとした修理が発生するので、おそらく『お金が掛かるクルマ』という印象はあると思います。それなのに、私が二十歳のときから大事にしているものを尊重してくれていて、大事に思ってくれることに、とても感謝しています。妻からは『この記事が公開されたら見せて』とも言われていますよ(笑)」
そんな最愛の奥様とのマイホームがまもなく完成するという。しかも念願のビルトインガレージだ。もちろんここは愛車のCR-Xの住み処となる。
「これでようやく屋内保管ができます。ガレージハウスが夢だったので、完成が待ち遠しいです。寝室の窓とガラス張りにしたシューズクロークからCR-Xが見えるようになっています」
あらためて、10年間苦楽を共にしてきたCR-Xとの出会いを振り返ってもらった。
「専門学校生の頃、知り合いの営む整備工場に入ってきた個体だったんです。当時、アルバイト代を何回か持って行けば購入できた価格で譲ってもらえました。学生だったので父親の名義にしていましたが、就職して初任給で実印を作って印鑑登録して、ようやく自分の名義にしました。正式な『初の愛車』となって現在に至ります」
愛車を維持することは、社会人としての自覚や自信にもつながるだろう。オーナーがCR-Xをあらためて手に入れたことで、気持ちの変化や気づきはあったのだろうか?
「自分の名義にしたことで、一人前になれたという喜びは大きかったと思います。整備士としても、一人前になれるようにというモチベーションも上がりました」
人生に自信を与えてくれるのも「愛車のチカラ」ではないだろうか。「自分のものだ」という所有感を満たしつつ、愛車をうっとりと眺める時間もあるのかもしれない。
ではオーナーがこの個体で最も気に入っている点とは?
「ボンネットの形状ですね。エンジンが主張する純正のパワーバルジ。これを知らない人が見ると『社外ボンネット?』と言われることがありますね。これは前期型のSiの特徴でもあるんです。それからZC型エンジン。ヘッドカバーの形状がF1エンジンと同じ形をしていて、すごくかっこ良くて好きです。最初はエンジンにこだわりなくCR-Xに乗ったんですけど、高回転で気持ちいいし、なんだかんだで速い。ZCエンジンは名機だと実感しています」
他のCR-Xでは見かけないグリーンのボディカラーの正体はホンダ N-BOXの『ブリティッシュグリーンパール』に全塗装されている。主なモディファイのポイントとしてこだわりを伺ってみた。
「仕事中、新車を納車整備で洗車していたときの個体がこの色で、一目惚れしたんです。昔のロータスを思わせる色で、今後クルマを購入することがあればこの色にしたいとも思っていました。後期型のワインレッドや最近のホンダ車のクリスタルブラックパールも候補に入っていたんですが、作業に入る直前に決めました。鈑金してくれた友人も同じCR-Xオーナーなので、この選択に驚いていました。仲間からは『サーキットを走るのにこんなピカピカにしていいの?』とか『緑が決まってますね!』と声をかけてもらっています」
鈑金を担当した同じCR-Xオーナーの友人は同世代?
「学生時代の同級生なんです。同い年で当時からCR-Xに乗っていて、仲良くならないわけがないですよね(笑)。卒業してからはお互いの住まいは離れたものの、パーツの譲り合いも兼ねてよく会っています。今回の全塗装もかなり無理を言ってしまいましたが、快く引き受けてくれてありがたいですね。作業中の進捗をやりとりするLINEに『CR-Xオールペン』というタイトルでアルバムも作ってくれました。『作業中こんなに撮影したのは初めて』と言っていました。CR-Xの維持は、友情がつないでいる部分も大きいです」
全塗装はほぼレストアでもあったようだ。経年劣化によって傷んだ部分の補修も丁寧に行われている。
「ほぼ骨組みに近い状態にして作業してもらいました。ルーフモールを外したところにあったクラックも丁寧に埋めてくれていました。ボンネットのヒンジ部分にもサビでクラックが入っていましたが、ボンネットをはずして埋めてくれています。このほか、ボンネットのエンブレムやリアワイパーを取り外し、穴の部分をスムージングしています。フロントガラスもクールベールプレミアムという断熱ガラスに交換していますね。丁寧な下地処理を行なってもらったので全塗装完了まで2ヶ月半かかりましたが、あまりの仕上がりの良さに感動したのを覚えています」
全塗装以外にもオーナーこだわりのモディファイが施されている。
「納車当時はいくつかの純正部品が取り付けられていました。多少モディファイはされていましたが、メンテナンスは行われてきたようでした。そこへ、父がどこからか拾ってきたCR-Xに取り付けられていた無限マフラーやホイールは無限RNR、補強パーツ類を現愛車に引き継いだ形になります。それと、ホンダのマークをあしらったmomo製の珍しいステアリングが取り付けてありましたが、友人の納車祝いとしてプレゼントしました」
「RACING GEAR製の車高調は初めてのボーナスで購入したので、思い入れがあります。それからRECARO製のシートを新調。ホイールは、祖父のCR-Xが履いていた無限製のRNRを移植しました。このホイールは友人がブロンズに塗装してくれた唯一無二のホイールなんです。リア以外は無限製のエアロです。マフラーは現在はSACLAM製のものに交換していて、ZCエンジンと組み合わせたサウンドは最高です。まさに楽器のような快音でドライブを楽しくしてくれます。あとはリアバンパーが見つかればひとまず完成です。
あと、車内外の“差し色”にグリーンをあしらっています。シートベルトやセンターコンソールおよびサイドブレーキカバーのステッチ、トランクのトレイ、タイヤのバルブキャップなどですね。内外装色の色記号ステッカーは友人が、そしてドアパネルの「無限PRO.2」ステッカーも知人に作成してもらいました。このようにCR-Xオーナー間の情報共有だけでなく、多くの方たちの協力があってこそ、このCR-Xのコンディションが維持されて、仕上がっていっていることに感謝しています」
CR-Xの部品の供給状況はどうなのだろうか?
「ZCエンジン周りの部品は厳しい供給状況ですが、ピストンリングはまだ純正の供給があります。また、メタルなどの購入も純正以外のルートで入手可能です。周囲からはB型エンジンに載せ換えればと言われますが、やはりZC型エンジンにはこだわっていきたい。パッキンやホース類などは他車種から流用することはあります。フロントガラスとドアの水切りモール・クオーターガラスの三角の形のモールは手に入りますよ」
やはり部品の流通状況は厳しいようだが、モール類は比較的出ているようだ。続いて、これまでにどんな故障を経験しているかも尋ねてみた。
「10年間でひととおり経験したような気がします。例えばエアコンのコンプレッサーは2回壊れて交換しています。エアコンのパネルはこれまで3回ほど壊れて砕け散っているので、裏側から接着剤などで補強し、カーボン調のプレートで強度をもたせた補修をしています。あとは雨漏りをはじめ、エンジンオイルや冷却水、ガソリンまで液体漏れ関係のトラブルを経験しています。電気系統はそれほどないので、エンジン内部の状態とともに今後も注意していきたいですね」
これまでの話を聞いていると野暮な質問になるかもしれないが、今後愛車とどう接していきたいかをあらためて伺った。
「ナンバーを切るつもりはなく、おそらくアガリの1台になるでしょう。20代のさまざまな思い出が詰まった個体なので手放せません。どんなに維持費が掛かっても、走らせるコンディションにしておきたいですね。CR-Xはスポーツカーなので、本来の性能を発揮できるレベルが理想です。古いからといって、ただ養生することで足回りの固着やエンジンが回らなくなってしまうのは避けたいと思っています。
年式的に致命的な故障の可能性も高いのですが、オーナーさんのなかにはもっと古い年式の個体に乗っている方もいるので、それを励みにしながら頑張って乗り続けたいです」
部品をどうにか手に入れながら、長年1台を愛し続けるということは「信念」に近いのかもしれない。今回のオーナーも含めて、1台を長く乗り続ける方たちは意外なほど多いのだ。ここまで愛されている理由がメーカーに届き、受け継がれるべき文化として、ヘリテージ事業活性化の起爆剤となってほしいと願わずにはいられない。
(編集:vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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